最新医学60巻11号 
特集 最新の高脂血症治療とエビデンス   

要  旨


アプローチ
高脂血症治療のターゲットと今後の展望


山田信博*

* 筑波大学臨床医学系内科 教授

要  旨
 生活習慣の欧米化とともに日本人のコレステロール値は上昇し,米国人のコレステロール値に近づいている現状である.我が国では,米国ほどに虚血性心疾患が深刻となる以前に革命的なコレステロール低下薬であるスタチンが登場し,スタチンの心血管事故抑制効果というありがたみが十分に実感される以前に,高コレステロール血症にスタチンが汎用されているといっても過言ではない.適切に高リスク患者を選別し,基本的な生活習慣指導の徹底と適正な薬物療法に心掛けるべきである.

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高脂血症治療と冠動脈疾患

大村寛敏*   代田浩之**
* 順天堂大学医学部循環器内科 ** 同教授

要  旨
 スタチン系薬剤を用いた多数の臨床脂質介入試験の結果から,LDLコレステロール低下治療による冠動脈疾患の1次・2次予防効果は確立した.メタアナリシスの結果,冠動脈イベントおよび動脈硬化の進展抑制効果はともに,治療前の血清LDLコレステロールレベルにかかわらず治療後の到達LDLコレステロールレベルと有意な相関を示す.LDLコレステロールに対する治療と臨床効果が確立された現在,メタボリックシンドロームにも代表される高トリグリセリド血症および低HDLコレステロール血症を対象とした治療戦術が,今後のさらなる冠動脈イベントの抑制には重要である.

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高脂血症治療と大動脈・末梢動脈硬化

竹原有史*   長谷部直幸**  菊池健次郎***
* 旭川医科大学第一内科 ** 同助教授 *** 同教授

要  旨
 高脂血症と末梢動脈硬化には密接な関連があり,特に頸動脈硬化,閉塞性動脈硬化症,大動脈硬化は脳血管障害,下肢血流障害,大動脈瘤や末梢動脈塞栓といった関連臓器の障害のみならず,心・脳血管障害の発症予測因子としても重要な位置を占めている.その中で,高中性脂肪血症,低 HDLコレステロール血症ならびにLp(a)の高値を中心としたメタボリックシンドロームの病態がその発症と進展に重要な危険因子であり,さらには心事故発症の予防にはガイドラインに従った総コレステロール,LDLコレステロールをターゲットとした厳格な脂質低下療法が望まれる.

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高脂血症治療と脳梗塞予防

松本昌泰*
* 広島大学大学院病態探究医科学脳神経内科 教授

要  旨
 生活習慣の欧米化により糖尿病,高脂血症などの代謝性危険因子の有病者が増加し,これに伴ってアテローム性動脈硬化を基盤とした脳梗塞が増加しつつある.一方で,スタチンの登場に代表される高脂血症治療薬の進歩は著しく,脳梗塞の1次予防におけるスタチンの有効性が各種の臨床試験により実証されてきた.さらに,その2次予防における有効性についても臨床試験が進行しつつあり,これらの現状について概説した.

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高血圧を伴う症例における高脂血症治療

安東克之*1  藤田敏郎*2
*1 東京大学保健センター 講師 *2 東京大学大学院医学系研究科腎臓・内分泌内科 教授

要  旨
 高脂血症治療は冠動脈疾患をはじめとする動脈硬化性疾患の予防を目的に行われ,高血圧などの危険因子を伴う症例ではその程度に基づきより厳格なLDLコレステロール値が治療目標とされている.さらにASCOTなど最近の大規模臨床試験の成績では,高リスクの患者においては非常に低いLDLコレステロールレベルを達成する必要性が示唆され,欧米の NCEP-ATPVのガイドラインではこの点が加味されている.

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高脂血症治療による糖尿病の発症ならびに動脈硬化合併症への効果

曽根博仁*
* 筑波大学大学院臨床医学系内分泌代謝糖尿病内科健康スポーツ医学 講師

要  旨
 糖尿病患者を対象にスタチン系やフィブラート系薬剤を用いた多くの欧米の大規模臨床介入研究において,心血管疾患の1次・2次予防効果や心血管死亡抑制効果が認められている.これらの臨床エビデンスに基づき,糖尿病患者は,心血管疾患の高リスク群として極めて厳重な血清脂質管理が求められるようになった.さらにこれらの高脂血症薬の一部が,弱いながら糖尿病発症抑制作用も有することが明らかになり注目を集めている.

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老年者の高脂血症治療のエビデンスと評価

神崎恒一*
* 杏林大学医学部高齢医学 助教授

要  旨
 加齢に伴って相対的に高脂血症の危険因子としての寄与度は低下すると考えられる.青壮年者において冠動脈疾患の予防効果が確立しているスタチンは,老年者においてもリスク低減効果が認められる.他方,後期高齢者ではコレステロールが下がりすぎる例は死亡率の上昇につながる危険があることに留意すべきである.治療上,食事療法,運動療法が重要である点は老年者も同じである.薬物はスタチンを用いて効果,有害事象を観察する.

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女性における高脂血症治療のエビデンスと評価

天野恵子*
* 千葉県衛生研究所 所長

要  旨
 欧米のデータでは,脂質低下療法の冠動脈心疾患予防効果には性差が見られ,脂質低下効果は女性のほうが大きいにもかかわらず,CHDイベントの1次予防効果はなく,すでに虚血性心疾患を有する患者における2次予防効果は認められるものの,総死亡は減少させていない.日本における無作為プラセボ対照治療介入試験に基づいた男女差を考慮したガイドラインが必要である.

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家族性高コレステロール血症における高脂血症治療手段と現在の評価

野原 淳*   馬渕 宏**
* 金沢大学大学院医学系研究科脂質研究講座 ** 同教授

要  旨
 家族性高コレステロール血症は,治療中の高LDLコレステロール血症の8.5%を占める高頻度の遺伝子異常である.ヘテロ接合体では強力なスタチン製剤をレジンと併用することでLDLコレステロール50%低下が可能となっており,またエゼチミブとスタチン製剤併用はヘテロ接合体のみならずホモ接合体でも一定の効果が期待されている.ただし,薬物療法で効果不十分な冠2次予防ヘテロ接合体およびホモ接合体では,今もLDLアフェレーシスが最も確実に効果の期待できる治療法である.

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高脂血症治療の評価法として考えるときの動脈硬化の診断法 1.血管造影

安藤献児*1  延吉正清*2
*1 小倉記念病院循環器科 *2 同院長

要  旨
 虚血性心疾患患者の中では,高脂血症合併患者は糖尿病合併患者と比較して病変長は短く,対象血管径は大きい.また,冠動脈病変冠動脈インターベンションの遠隔期成績も比較的良好である.高脂血症治療(スタチン系薬剤)により,冠動脈病変進展抑制,プラーク安定化がなされる.

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高脂血症治療の評価法として考えるときの動脈硬化の診断法 2.IMT

片上直人*   山崎義光**
* 大阪大学大学院医学系研究科内科(糖尿病) ** 同助教授

要  
 頸動脈エコー検査は非侵襲的,簡便,低コストで行えるうえ,頸動脈における動脈硬化性病変は脳血管障害や冠動脈疾患との関係が深く,全身の動脈硬化進展度の評価や心血管イベントの予測指標になる.特に,Bモード法で測定した頸動脈の内膜中膜複合体肥厚度(IMT)は定量性および再現性に優れることから,高脂血症をはじめとする種々の冠危険因子に対する治療法を評価するための指標として活用できる.

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高脂血症治療の評価法として考えるときの動脈硬化の診断法 3.CRP

安 隆則*1  川上正舒*2

*1 自治医科大学大宮医療センター総合医学1循環器科 *2 同総合診療科 教授

要  旨
 動脈硬化症は,その初期から病態の進展やプラークの破綻まで炎症が深く関与する.高脂血症など中等度以上のリスクを持つ患者では,心血管疾患イベントの予測とその予防のため,従来の危険因子とともに血中の高感度CRP測定は診療上有効と考えられる.本邦での保険適応はいまだないが,今後欧米の指針に基づき保険適応が見込まれる.

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高脂血症治療の手段とその評価

竹中英樹*   寺本民生**
* 帝京大学医学部内科 ** 同教授

要  旨
 高脂血症は,動脈硬化性疾患,特に冠動脈疾患と脳血管障害の重要な危険因子となる.このため,予防医学の見地より高脂血症以外の危険因子を勘案しながらの高脂血症治療が重要である.また,画一的な薬物療法に頼ることなく,患者個々のライフスタイル改善や,それと併行したおのおのの薬剤特性に留意した治療が望まれる.

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総     説
抗カルボニックアンヒドラーゼ抗体 -その病的意義-

稲垣安紀*1 小野雅史*2 渡邉圭介*3 植木宏明*4
*1 稲垣医院皮膚科 *2 小野皮膚科医院 *3 渡辺クリニック
*4 川崎医科大学 学長

要  旨
 抗カルボニックアンヒドラーゼ(CA)抗体は,全身性エリテマトーデスおよびシェーグレン症候群の患者血清中に存在することを,1991年に我々が初めて報告した自己抗体である.  発見から15年を経て,多くの分野から報告が集積されている.それらの報告を整理して総括した.その結果,抗CA抗体は膠原病やその類縁疾患のみならず,子宮内膜症,自己免疫性胆管炎,自己免疫性膵炎,1型糖尿病,色素性網膜炎,自己免疫性肝炎,習慣性流産および不妊症などでも報告されるようになった.抗原であるCAの性質もさらに明らかとなってきており,今後中枢神経系などの疾患においても抗CA抗体が検出される可能性を推測した.

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対談
生活習慣病の現状と未来(第8回)
日本人の肥満


ゲスト  中尾 一和  先生(京都大学)
聞き手  香川 靖雄 先生(女子栄養大学 副学長)

 中尾先生は肥満研究において世界の第一人者であるだけでなく様々な研究会でも責任のある立場でご活躍されています。特に今年関連8学会より発表され注目された「メタボリックシンドロームの診断基準」策定の中心的メンバーのお一人でもあり、具体的にメタボリックシンドロームと肥満の関係について詳しくお話しして頂きました。  お話の中で中尾先生はメタボリックシンドロームの基準を満たす患者さんのかなりの部分の人たちが2方糖尿病であることを正しく捕らえるべきと警告されています。更に、メタボリックシンドロームにおいては内臓脂肪の代謝機能が重要で注目されていますが、「メタボリックシンドロームは肥満を克服することで治療できる」事を実際の症例を挙げてご紹介頂いています。また理想的なBMI値や“anorexia of aging”の概念と高齢者のBMIの関係など教科書にはまだ記載されていない興味深いお話についてもお話頂きました。是非、お読み下さい。


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