最新医学61巻1号 
特集 糖尿病腎症-進展阻止・寛解と発症予防を目指して-   

要  旨


アプローチ


片山茂裕 *1

* 埼玉医科大学内科学内分泌・糖尿病内科部門 教授

要  旨
 従来,糖尿病腎症を含めた腎疾患は,いったん腎機能が低下すると非可逆的,すなわち“point of no return”があると言われてきた.従来の治療は,低下した腎機能をそのレベルで食い止めるのが目的であった.しかしながら,アンジオテンンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシンU受容体拮抗薬を用いて血圧を厳格にコントロールすることにより,低下した腎機能を多少なりとも回復させうることが明らかになってきた.このことは寛解あるいは退縮とも呼ばれる.また最近では,正常アルブミン尿で正常血圧の時期からレニン・アンジオテンシン系阻害薬を投与することにより腎症の発症を予防する試みも始まっている.腎症の発症機序の分子遺伝学的な解明と相まって,新しい時代に入りつつあると言える.

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疫学・分類
糖尿病腎症は増え続けているのか ?

横山宏樹*
* 自由が丘横山内科クリニック 院長

要  旨
 血糖コントロールのみでなく厳格な血圧,脂質の管理は,腎症の発症,進展を抑制することが,近年の臨床研究から明らかになってきている.しかし,@2型糖尿病の絶対数の著しい増加,A2型糖尿病が放置になりやすい,B血糖コントロールのみならず血圧や脂質,インスリン抵抗性などあらゆる面が腎症進展へ関与する,C糖尿病患者の長寿化,D腎症の診断と治療が一般医において十分に普及しているとは言えない,などの要因の影響は大きい.これらは治療の進歩による効果を凌駕して腎症を増加させる可能性が高い.

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疫学・分類
糖尿病腎症の新しい早期診断基準と病期分類

猪股茂樹*
* 秋田県成人病医療センター研究室 室長

要  旨
 今回,糖尿病性腎症合同委員会は腎症早期診断基準を改訂し,タンパク尿陰性あるいは軽度陽性(+1程度)糖尿病患者の随時尿を用いて微量アルブミン尿を判定することにした.随時尿アルブミン値を3回測定中2回以上 30〜299mg/gCrであれば微量アルブミン尿とし(必須項目),尿中W型コラーゲン値上昇(7〜8mg/gCr以上)や腎肥大は糖尿病性腎病変の存在を示唆する指標として取り上げた(参考項目).糖尿病性腎症病期分類は米国腎臓財団の慢性腎臓病(CKD)病期分類と類似しており,今後両者の融合も可能である.

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病理
糖尿病腎症の病理
-早期の腎組織病変を認識することの重要性-

守屋達美*
* 北里大学医学部内分泌代謝内科 助教授

要  旨
 糖尿病腎症の典型的な組織所見は,糸球体基底膜の肥厚,メサンギウムの拡大,尿細管基底膜の肥厚,間質の拡大,小血管浸出性病変である.また,糸球体上皮細胞の変化,傍糸球体装置の変化,血管極の血管増生などが新しい組織変化として注目されている.以上の組織変化は,正常アルブミン尿期にすでに認められるものも多く,腎組織所見と機能変化との関連をserial biopsyを含めたlongitudinal studyにて検討していくことが,腎症の成因および臨床経過の解明のためにも必要である.

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成因
腎血行動態


阿部倫明*   伊藤貞嘉**
* 東北大学院医学系研究科内科学講座腎・高血圧・内分泌科分野 **同教授

要  旨
 糖尿病腎症の発症・進展には,糸球体血行動態の異常(糸球体高血圧と糸球体過剰濾過)が要因となっている.糖尿病状態において,筋原反応や尿細管糸球体フィードバックの減弱,腎内レニン・アンジオテンシン系の活性化,平滑筋細胞内Ca動態異常,ANP増加,インスリン作用の減弱,緻密斑のNO産生増加などの状態が認められる.本稿では,これらが糸球体血行動態の異常にどのように寄与しているかを説明したい.

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成因
主要関連因子からの知見


鈴木大輔**  豊田雅夫*
* 東海大学医学部腎内分泌代謝内科 ** 同助教授

要  旨
 近年の糖尿病動物モデルや実験細胞を用いた研究により,高血糖が糖尿病腎症の発症・進展に直接的もしくは間接的に関与し,腎組織におけるポリオール代謝異常,プロテインキナーゼC活性化など,さまざまな要因の関与が解明されつつある.しかしながら,それらがどの程度糖尿病腎症の発症に関連するかは明らかでない.本稿では,最近の知見および我々の研究結果を含めて概説する.

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成因
糖尿病腎症の候補遺伝子はどこまで解明されたか ?


合田朋仁*   富野康日己**
* 順天堂大学医学部腎臓内科学 ** 同教授

要  旨
 血糖・血圧の厳格なコントロールにもかかわらず糖尿病腎症の進展が認められることや家族内集積が見られることなどの疫学的研究より,腎症の発症・進展に何らかの遺伝因子の関与が示唆されている.近年,1塩基多型(SNP)を用いた大規模関連解析により,腎症の感受性遺伝子が少しずつ同定されてきている.将来的には,患者に対して個別化した医療(オーダーメード医療)が実現されることが期待される.

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治療
進展阻止と寛解を目指した厳格な血糖コントロール

岸川秀樹*1  荒木栄一**2   和氣仲庸*2  七里元亮*3
*1 熊本大学保健センター センター長 *2 同大学院医学薬学研究科代謝内科
**2 同教授 *3 生長会生活習慣病研究所 所長

要  旨
 糖尿病腎症の成因に,腎臓内血行動態異常,PKC活性化,ポリオール経路亢進,非酵素的糖化などが指摘されているが,いずれも高血糖によりもたらされる.近年,膵移植による長期間の血糖正常化により腎糸球体の糖尿病性病変が軽減されることを示す組織学的検討が報告され,さらに1型糖尿病,2型糖尿病を対象とした疫学研究により,厳格な血糖コントロールにより糖尿病腎症の発症・進展を抑制しうることが明らかにされた.

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治療
糖尿病腎症の発症・進展抑制に有効な血圧コントロールについて


横田千津子*
* 埼玉医科大学内科学内分泌・糖尿病内科部門 講師

要  旨
 近年の糖尿病患者数の飛躍的な増加に伴い,糖尿病腎症から慢性血液透析に移行する患者数も増加の一途をたどっている.糖尿病腎症から慢性血液透析に移行した患者の予後は不良であり,今後は,糖尿病患者において糖尿病腎症を発症・進展させないことが治療の目標となる.糖尿病患者の糖尿病腎症の発症・進展予防には,血圧を可能な限り低値にコントロールすること(<130/80mmHg,可能であれば<120/80mmHg),脳虚血や起立性低血圧などの合併により,十分な血圧コントロールを期待できないときには,ACE阻害薬,ARBを中心に降圧薬を選択することが重要である.

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治療
アンジオテンシン変換酵素阻害薬/アンジオテンシンU受容体拮抗薬


長谷美智代*   馬場園哲也**
* 東京女子医科大学糖尿病センター ** 同講師

要  旨
 さまざまな大規模臨床試験の結果,アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬およびアンジオテンシンU受容体拮抗薬(ARB)の糖尿病腎症の腎保護作用が明らかにされ,これらは現在,糖尿病および糖尿病腎症に合併した高血圧治療における第1選択薬である.いずれを選択するにせよ,可能な限り最大量を使用し,尿タンパクを減少させることが腎症の進展を抑制するうえで必要である.尿中アルブミンを糖尿病発見時から定期的に測定し,レニン・アンジオテンシン系降圧薬の開始時期を逸しないことが重要である.

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治療
糖尿病腎症治療におけるスタチン系薬剤の意義


宇都宮一典*
* 東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科 助教授

要  
 現在糖尿病腎症(以下腎症)が持つ大きな問題は,その生命予後が不良なことである.これは腎症が強い心血管疾患のリスクになることが原因であって,腎症の管理には全身の血管を保護する包括的な視点を要求される.スタチンは糖尿病において心血管疾患のリスク低下をもたらすことから,腎症は積極的な治療対象となる.加えて,スタチンには腎保護効果が期待でき,その機序としてRho/Rhoキナーゼ系シグナルの抑制が注目される.

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治療
低タンパク食は有効か ?

安孫子亜津子*   羽田勝計**

* 旭川医科大学第二内科 ** 同教授

要  旨
 糖尿病腎症の低タンパク食が有効であるかどうかは,1型糖尿病では幾つかの臨床試験から腎機能の低下抑制や末期腎不全,死亡に至るのを抑制したとされている.しかしその試験規模は小さなものがほとんどであり,さらに2型糖尿病患者でのエビデンスはいまだない.そのため,現在糖尿病腎症に低タンパク食が有効であるかどうかは結論づけることはできない.しかしアルブミン尿の減少のため,また腎不全時の高リン血症や尿毒症性毒素産生などの予防のためにも低タンパク食は必要であり,各病期に応じたタンパク質制限をすべきである.

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治療
厳格な血糖・血圧・脂質コントロールによる集約的治療と DNETT-Japan

槇野博史**  四方賢一*
* 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科腎・免疫・内分泌代謝内科学 講師 ** 同教授

要  旨
 糖尿病患者の生命予後改善のためには,糖尿病性腎症の発症予防が重要である.BENEDICT試験によると,高血圧を伴う2型糖尿病に対してアンジオテンシン変換酵素阻害薬はアルブミン尿の発現を抑制し,レニン・アンジオテンシン系抑制薬の腎症発症による予防効果が期待される.早期腎症を伴う2型糖尿病患者を対象にしたSteno-2試験によると,生活習慣の改善と集約的治療により,腎症の進展のみならず心血管系のイベントも抑制された.現在のところ顕性腎症に対する集約的治療のエビデンスがないが,最近「糖尿病性腎症の寛解を目指したチーム医療による集約的治療(DNETT-Japan)」が開始されており,その成果が期待される.

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治療
糖尿病腎症の発症機構と新たな展開

古家大祐*
* 金沢医科大学内分泌代謝制御学 教授

要  旨
 糖尿病腎症の成因が高血糖の持続であることは,多くの臨床研究から明らかである.糖尿病での過剰なブドウ糖は細胞に取り込まれ,主に解糖系・クエン酸回路で代謝されるが,解糖系の側副路でも代謝され,その結果 @ポリオール経路の亢進,Aジアシルグリセロール(DG)産生増加とプロテインキナーゼC(PKC)活性化,Bヘキソサミン経路の亢進,C酸化ストレス,D終末糖化産物(AGEs)の蓄積などの生化学的異常が生じる.これらがそれぞれ単独あるいは相互に作用し,機能的および組織学的異常を惹起すると考えられている.この中で,PKC活性化とAGEsをターゲットとした治療法が開発され,実験糖尿病動物とヒト臨床試験にてその有効性が確認され,新たな糖尿病腎症治療薬として期待されている.

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対談
生活習慣病の現状と未来(第10回)
食育と生活習慣病

ゲスト  村田 光範  先生(和洋女子大学 教授)
聞き手  香川 靖雄 先生(女子栄養大学 副学長)

この夏、国会で「食育基本法」が法案化されました。その附則には「食育はあらゆる世代の国民に必要なものであるが、子どもたちに対する食育は、心身の成長及び人格の形成に大きな影響を及ぼし、生涯にわたって健全な心と身体を培い豊かな人間性をはぐくんでいく基礎となるものである」と記されています。これは今までの教育の基本である「知育」・「体育」・「徳育」に新に「食育」を加え、子供の心身の健康を守ることで将来的な生活習慣病対策にまで発展させる意図があると考えられます。
 5年前から村田先生は「学校教育が生活習慣病対策に適している」と提唱されています。それは学校ほど総体的な施設・人材が揃っており保護者とも接触可能な施設はない為とのお考えからです。但し、日本の教育制度が硬直的なため学校栄養職員など有用な人材の活用が出来ておらず、その活用が今後の課題であるとも指摘されています。
 現在、子供の運動不足は深刻で、どんどん子供たちの体力は落ちています。その原因は携帯電話・ゲーム機・パソコンなど体を動かさない遊びが子供から運動の機会を奪っている為と危惧され、小児科医として子供たちには日常的に体を動かす機会、設備が必要であり情操教育にとっても重要とお考えです。但し、社会全体が肥満を生み出す環境にあり、その基本的な部分を解決しない限り本質的な解決にはならないともお話しされています。 
 一方で、ゲーム機などの心臓部であるコンピューターは「イエスマン」であり感情のぶつかり合いは決してありません。従って、このような環境で育った子供たちの感受性が豊かになるとは決して思われないと非常に心配されています。
 このほか過度のダイエットと子供たちの肥満への影響など大変興味深いお話も伺いました。是非、お読み下さい。

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