最新医学61巻2号 
特集 呼吸器感染症の脅威   

要  旨


アプローチ
呼吸器感染症に伴う致死的病態

橋本章司*   朝野和典**

* 大阪大学医学部附属病院感染制御部  ** 同病院教授
要  旨
 肺炎の重症度と治療の場は,患者の予後を規定する背景因子,合併症,身体所見,検査所見の総合判断で決定する.致死的な市中肺炎では,まず肺炎球菌性肺炎とレジオネラ肺炎を尿中抗原迅速検査で鑑別し,次に重症肺炎となる非定型肺炎群を早期に診断して適切な抗菌薬を開始することが重要である.致死的な日和見あるいは院内肺炎では,感染および発症の危険因子の理解と,早期診断および治療開始が重要である.

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ウイルス性疾患
今の鳥インフルエンザの流行は新型インフルエンザ・パンデミックの前兆か?

藤井 毅*
* 東京大学医科学研究所先端医療研究センター感染症分野

要  旨
 現在,アジア諸国の家禽類の間で流行している高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5N1型)は,鳥からヒトに直接感染する能力を持ち,少数例ではあるがヒト−ヒト間における感染も成立することが示されている.本ウイルスが何らかの突然変異などによってヒトに対して高い感染力を獲得した場合には,新型インフルエンザとして登場してパンデミックを引き起こし,多くの人類が犠牲となる可能性が世界中で危惧されている.

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ウイルス性疾患
SARSの再燃はあるのか

川名明彦*
* 国立国際医療センター国際疾病センター

要  旨
 SARSの世界的流行が2003年7月に終息してから2年半が経過した.SARSに関するこれまでの知見と他の感染症との比較から,本疾患が再燃する可能性について検証した.特に人獣共通感染症としての側面について,最近の知見を加えて考察した.SARSが再燃するか否かは誰にも分からないが,再燃に備えることはその他の感染症の出現やバイオテロへの対策,バイオセーフティ,バイオセキュリティの向上に直結すると考えられる.

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ウイルス性疾患
成人のRSウイルス感染症

松瀬厚人*   河野 茂**
* 長崎大学医学部第二内科 ** 同教授

要  旨
 従来よりRSウイルスは新生児および小児期の下気道疾患の重要な原因ウイルスであり,成人における感染はまれであると考えられてきた.しかしPCR法など診断法の進歩に伴い,特に高齢者,慢性心肺疾患患者,骨髄移植後の免疫不全患者などにおいては,成人においてもしばしば重篤な肺炎の原因となることが明らかとなってきた.今後は症例の集積と,成人においても利用可能な迅速診断法とウイルス特異的な治療法や予防法の開発が待たれる.

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細菌性疾患
肺炎球菌の耐性化はどこまで進むのか?


健山正男*   藤田次郎**
* 琉球大学大学院医学研究科感染病態制御学講座分子病態感染分野 助教授 ** 同教授

要  旨
 ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)は1996年頃より急激に世界中に伝播したが,1999〜2003年におけるサーベイランスでは世界全体で40%前後で推移し,この4年間ではほとんど変化は認めていない.しかしながら,国,地域別の耐性頻度はかなりの相違がある.一方,耐性肺炎球菌の分離頻度は頭打ちとなったが,各種薬剤に対する感受性はますます低下する傾向にあり,多剤耐性化が顕著である.耐性遺伝子を持ったクローンは国境を越えて伝播するので,グローバルな監視と対策が急がれる.

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細菌性疾患
緑膿菌の耐性化に対する対処法はあるのか?


平潟洋一*
* 長崎大学医学部・歯学部附属病院検査部 講師

要  旨
 緑膿菌は元来耐性傾向の強い細菌であるが,メタロ-β-ラクタマーゼ産生や,薬剤排出システムによる多剤耐性化が問題となっている.カルバペネム,フルオロキノロン,アミノグリコシドの3系統の抗菌薬に耐性を示す多剤耐性緑膿菌に対しては単剤で有効なものはないが,古い薬剤であるコリスチンの再利用が米国などで行われ,実験的には耐性メカニズム阻害薬や病原因子阻害薬が耐性緑膿菌に対する対処法として注目されている./P>

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非定型病原体
マイコプラズマの病原因子と炎症


田中裕士*1  成田光生*2  高橋弘毅**1
*1 札幌医科大学医学部第三内科学第三講座 助教授 **1 同教授 
*2 札幌 JR 病院小児科医長

要  旨
 マイコプラズマ肺炎の病変には,菌による直接障害よりも,宿主細胞性免疫反応による間接障害のほうが強く関与している.小葉中心性粒状陰影を呈する重症例ではTh1細胞の過剰反応が関与している.胸部X線像による他の肺炎との鑑別は難しいが,CT像での気管支壁の肥厚像,縦隔リンパ節の腫脹が特徴的である.2000年以降,マクロライド系抗生物質耐性菌が臨床分離株の約2割を占めるが,臨床的には問題となっていない.

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非定型病原体
Q熱コクシエラは市中感染するのか?

高橋 洋*1*2  渡辺 彰*3
*1 坂総合病院呼吸器科長 *2 同感染症科長
*3 東北大学加齢医学研究所呼吸器腫瘍研究分野 教授

要  旨
 コクシエラ肺炎は大部分が市中肺炎として発症するが,国内発症例の頻度や臨床像に関しては未解明の点も多く残されている.宮城県内の多施設調査では呼吸器感染症400例のうち2.5%が急性Q熱と診断され,また当院では3年間にQ熱肺炎症例を7例経験した.これらの症例はいずれも日常診療の中から市中発症例として見いだされており,国内においても潜在的には相当数の症例が存在している可能性が高いものと考えられた.

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非定型病原体
レジオネラはどうやってヒトの細胞の中で生き延びるのか?


宮本比呂志*
* 佐賀大学医学部病因病態科学講座生体防御学分野 教授

要  旨
 レジオネラは,エアロゾル感染によりヒトに急性肺炎(在郷軍人病)やインフルエンザ様の熱性疾患(ポンティアック熱)を惹起する病原性を持っている.本菌が病原性を発揮するうえで最も重要な性質は,生体防御の第一線で働くマクロファージの殺菌に抵抗し,増殖することである.本菌がどのようにマクロファージの殺菌機構からエスケープして増殖するのかについて,菌側の遺伝子(Icm/Dot)と宿主側の遺伝子Lgn1の両側から解説した.

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抗酸菌
結核化学療法の今後は明るいか ?


冨岡治明**  清水利朗*
* 島根大学医学部微生物・免疫学 ** 同教授

要  旨
 多剤耐性結核とHIV感染者での難治性結核の増加が結核治療をますます困難なものにしており,治療期間の短縮と多剤耐性結核への対応に欠かせない新規抗結核薬,特に休眠型の結核菌に有効な薬剤の開発が希求されている.本稿では,現在までの新規抗結核薬の開発状況と,バイオインフォーマティクスをベースにしての新しいタイプの薬剤ターゲットの探索とそれを応用しての新規抗結核薬の開発の現状について概説した.

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抗酸菌
肺非結核性抗酸菌症は増加している-臨床からみた病原性と宿主要因の考察-


鈴木克洋*
国立病院機構近畿中央胸部疾患センター臨床研究センター感染症研究部 部長

要  
 肺非結核性抗酸菌症は年々増加しており,ありふれた疾患となった.中でも基礎疾患のない中年以降の女性に発症した肺MAC症は急増している.その理由の探求が重要な課題となっているが,現在のところ不明である.非結核性抗酸菌の病原性には幅があり,Mycobacterium kansasiiやMACは比較的強く,M. gordonaeやM. chelonaeは比較的弱い.肺 MAC 症は特に難治であり,有効な抗菌薬の開発とともに宿主因子や環境因子の探求が大切である.

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真菌
肺アスペルギルス症の病態と病原因子

網谷良一*

* 大阪赤十字病院 呼吸器内科部長

要  旨
 代表的な難治性呼吸器感染症である肺アスペルギルス症は,背景にある基礎疾患や全身抵抗減弱状態の程度を反映して甚だ多彩な病態や臨床像を呈する.その病態・病型に関する最近のとらえ方ならびに菌側から産生される病原因子に関する現在までの知見を概説するとともに,多彩な病態を生じる機序について,気管支・肺組織における菌体側病原因子とヒトの感染防御機構の間の拮抗した関係に注目して,私見を交えて論じた.

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真菌
ニューモシスチス肺炎はなぜ起こるのか

安岡 彰*
* 富山大学医学部感染予防医学 助教授

要  旨
 ニューモシスチス肺炎(PCP)は真菌であるPneumocystis jiroveciによる肺感染症で,細胞性免疫不全で発症する.P.jiroveciはヒト−ヒト感染で病原体が維持されていると推定され,飛沫感染によって伝播する.治療による菌体崩壊が生じると高度の免疫応答を惹起し,肺胞の破壊と線維化が進行するため予後不良となる.副腎皮質ステロイドホルモンによる過剰な炎症のコントロールが治療の要点である.

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対談
生活習慣病の現状と未来(第11回)
健康日本21の成果

ゲスト  長谷川敏彦 先生 (国立保健医療科学院教授)
聞き手  香川  靖雄 先生 (女子栄養大学 副学長)

 日本は世界に類を見ないほど急速に高齢化が進んでおり、高齢化先進国として世界中が日本の行く末に大変関心を持って見つめています。特に、国際会議では日本との比較での報告が目立ち、もはや日本は高齢化問題の国際的reference pointになっているそうです。
 「健康日本21」の策定に直接かかわった長谷川先生は「健康日本21」は人類未踏の超高齢化社会に向けての根本のものとお考えです。特に、各個人が自分自身で健康観を発見し、自分で健康を実現していく「健康実現(health actualization)」という考え方でないと人口の1/4が高齢者となる社会を保つことは出来ないと心配され「健康日本21」こそがその基本構想であるとお話しされています。
 この他にもhealth riskやタバコの規制など大変興味深いお話も伺いました。是非、お読み下さい。


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