最新医学61巻3号 
特集 難治性貧血 -分子病態と治療戦略-   

要  旨


アプローチ
難治性貧血の病態と治療 -最近の進歩-

小澤敬也*

* 自治医科大学医学部内科学講座血液学部門,
   輸血・細胞移植部,分子病態治療研究センター 遺伝子治療研究部 教授

要  旨
 本特集への導入部分として,骨髄不全症候群の病態と治療に関する最近の話題を紹介した.特に,再生不良性貧血と不応性貧血(MDS-RA)の境界領域の病態,発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)におけるクローン性造血の拡大機序,特発性骨髄線維症での JAK2 の V617F 変異について述べた.新規治療薬としては,骨髄異形成症候群(MDS)に対する lenalidomide やメチル化阻害薬,PNH に対する抗体医薬(eculizumab),輸血後鉄過剰症に対する経口鉄キレート剤などを取り上げた.

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再生不良性貧血の診断と治療

中尾眞二*
* 金沢大学大学院医学系研究科細胞移植学 教授

要  旨
 再生不良性貧血は,汎血球減少と骨髄低形成を特徴とする曖昧な症候群である.このため病態は単一ではないが,実際には抗胸腺細胞免疫グロブリンやシクロスポリンが約7割の患者に奏効することから,HLA 適合同胞がいない患者に対してはやみくもに免疫抑制療法が行われてきた.最近では,免疫病態を反映する幾つかのマーカーが明らかにされたため,病態に応じた治療選択が可能になりつつある.

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慢性赤芽球癆

廣川 誠*   澤田賢一**
* 秋田大学医学部内科学講座 血液内科学・腎臓内科学分野(第三内科) ** 同教授

要  旨
 赤芽球癆(PRCA)は骨髄赤芽球の著減を特徴とする症候群である.その発症機序は遺伝子異常,感染,自己免疫,薬剤,幹細胞自体の異常など多岐にわたるが,これらの中でクローン性T細胞による自己免疫機序に関する知見が集積されてきている.クローン性T細胞による赤芽球系前駆細胞障害の選択性に,killer cell inhibitory receptor(KIR)が関与していることが明らかとなった.PRCA はシクロスポリンをはじめとする免疫抑制薬が有効であり,自己免疫疾患のモデルとして有益な情報を与えている.

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骨髄異形成症候群診療ガイド

内山 卓**  石川隆之*
* 京都大学大学院医学研究科血液・腫瘍内科学 講師 ** 同教授

要  旨
 骨髄異形成症候群(MDS)は,遺伝子異常を持つ造血幹細胞のクローン性増殖に基づいた疾患群のうち,血液系細胞の形態的異形成と骨髄での無効造血所見を認め,骨髄もしくは末梢血の芽球比率が急性骨髄性白血病(AML)より高くない疾患群である.本稿では,厚生労働科学研究費補助金「特発性造血障害に関する調査研究班」(平成 11〜16 年,班長小峰光博)で作製された診療ガイドラインの主要な部分を紹介した.

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骨髄異形成症候群の分子病態


三谷絹子*
* 獨協医科大学内科学(血液) 教授

要  旨
 骨髄異形成症候群(MDS)の分子病態は極めて複雑である.loss of heterozygosity,遺伝子変異,染色体転座,プロモーターのメチル化などにより,造血細胞の分化・増殖の制御に関与するチロシンキナーゼ遺伝子,転写因子遺伝子,細胞周期制御因子遺伝子,アポトーシス制御因子遺伝子などの変異が蓄積することにより MDS は発症・進展する.今後ゲノム研究の進歩により,5q−あるいは 7q−の標的癌抑制遺伝子が同定されることが期待される.

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骨髄異形成症候群のゲノム解析


小川誠司*
* 東京大学大学院医学系研究科造血再生医療寄付講座 客員助教授

要  旨
 骨髄異形成症候群(MDS)ではしばしば多彩な染色体異常が観察され,このようなゲノムの変化はその発症に深くかかわっていると推定される.近年,BAC アレイに代表されるマイクロアレイ技術を用いたゲノムコピー数の網羅的な解析技術が注目を集めているが,本稿では Affymetrix 社の高密度オリゴヌクレオチドアレイを用いたゲノムコピー数の網羅的解析技術と,これを用いた MDS ゲノムの網羅的解析について紹介する.

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骨髄異形成症候群に対する新規治療法


宮崎泰司*   朝長万左男**
* 長崎大学医歯薬学総合研究科附属原爆後障害医療研究施設
   分子医療部門 分子治療研究分野(原研内科)講師 ** 同教授

要  旨
 骨髄異形成症候群(MDS)に対する治療は,これまで支持療法以外には免疫抑制療法,サイトカイン療法を中心として行われてきており,一定の効果が出ていたが,標準治療となるには至っていない.化学療法もその位置づけは定まっていなかった.しかし最近,分子標的薬剤を用いた臨床試験が欧米を中心に急速に進み,確実な効果が見られてきている.

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発作性夜間ヘモグロビン尿症

西村純一*1  金倉 譲*2
*1 デューク大学医療センター内科細胞療法部門
*2 大阪大学大学院医学研究科分子病態内科学講座教授

要  旨
 ヒト化抗 C5 モノクローナル抗体エクリズマブ(eculizumab)が臨床応用され,著しい溶血阻止効果を発揮し,本邦への導入が期待される.国際 PNH 専門家会議(I-PIG)による診断基準と診療ガイドラインが公表されるとともに,国際患者登録体制の構築が合意され,我が国も厚生労働省「特発性造血障害に関する研究班」を中心に,J-PIG を組織し参画している.このような国際的な潮流と同調するかたちで,本邦診断基準の改定と PNH 診療の参照ガイドが公表された.これらの流れを踏まえ,最新の知見についてまとめた.

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自己免疫性溶血性貧血


亀崎豊実*   梶井英治**
* 自治医科大学地域医療学センター 講師 ** 同教授

要  旨
 自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の研究は 170 年にも及ぶ.病態や分子機序の理解は著しく深まったが,新しい治療法の開発には直結せず,依然として副腎皮質ステロイド薬を中心とした状況から脱却していない.近年ようやく自己抗原が同定され,分子生物学的手法を用いた病因へのアプローチが進行中である.最近の研究の動向も踏まえ,AIHA の病因・溶血機序などの分子病態,診断,治療・予後について解説した.

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原発性(特発性)骨髄線維症


下田和哉*   原田実根**
* 九州大学大学院医学研究院病態修復内科学  ** 同教授

要  旨
 骨髄の線維化,骨硬化,血管新生などの骨髄間質細胞の反応を特徴とする原発性 骨髄線維症の約半数の症例では,サイトカインの細胞内シグナル伝達をつかさどる JAK2 に遺伝子変異が生じている.その結果,本来ならエリスロポエチンなどのサイトカイン刺激により活性化されるシグナル伝達経路が,サイトカインがない状態でも恒常的に活性化され,細胞が自律増殖能を獲得している.治療に関して薬物療法では,ダナゾールが貧血に,少量サリドマイド療法が貧血,血小板減少に有効である.造血幹細胞移植は現時点における唯一の治癒的治療法であるが,移植関連死亡率の高い点が問題である.特に原発性慢性骨髄線維症が比較的高齢に発症することを考えると,移植関連合併症がより少ないミニ移植が今後の移植治療法として増加する可能性が高い.将来的には JAK2 の遺伝子変異,恒常的活性化を標的とした新規治療法の開発が期待される.

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二次性貧血


村手 隆*
* 名古屋大学医学部保健学科 教授

要  
 二次性貧血は血液疾患以外のさまざまな基礎疾患に伴う貧血の総称で,中でも慢性疾患(慢性感染症,炎症,悪性腫瘍など)に伴う貧血が臨床上問題となる.慢性疾患に伴う貧血の特徴としては,慢性感染症,慢性炎症,悪性腫瘍に続発する正ないし小球性貧血であり,赤沈や CRP などと同じく非特異的な全身反応の一部と解釈できる.貧血の原因は複雑であるが,血清鉄の低下とフェリチンの上昇が特徴的である.基礎疾患のコントロールが最善の治療法である.

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小児の難治性貧血

中畑龍俊*

* 京都大学大学院医学研究科発生発達医学講座 発達小児科学 教授

要  旨
 小児期には数々の難治性貧血が見られる.その中には先天的なものも見られるが,臨床的に最も患者数が多く治療上問題となるのは再生不良性貧血と骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome:MDS)である.日本小児血液学会に設置された再生不良性貧血委員会と MDS 委員会において毎年後方視的な全国実態調査が行われ,我が国における症例の実態が明らかにされた.一方治療に関しても,両疾患に対する治療研究会において前方視的プロトコール研究が進んでいる.

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輸血後鉄過剰症と経口鉄キレート剤

高徳正昭*
* 自治医科大学内科学講座血液学部門 講師

要  旨
 再生不良性貧血や不応性貧血などの難治性貧血の対症療法として,輸血治療がある.原疾患の改善がなく輸血が繰り返されると,次第に鉄過剰症を来すことになる.本邦において鉄過剰症の治療薬はデスフェラールメ が唯一であるが,注射剤であり,除鉄の治療効果が出るほど持続的に使用することは極めて困難である.最近,経口鉄キレート剤 ICL670 が開発され,欧米の臨床試験で高い有効性が示され,我が国での使用が待たれている.

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難治性貧血に対する造血幹細胞移植

岡本真一郎*
* 慶應義塾大学医学部内科学(血液内科) 助教授

要  旨
 同種造血幹細胞移植は,重症再生不良性貧血,骨髄異形成症候群,骨髄線維症,発作性夜間ヘモグロビン尿症などの stem cell disorders の根治療法である.移植による治癒率は年齢,移植時期,造血幹細胞ソースによって異なり,50〜85% と報告されている.また最近では,支持療法の進歩,骨髄・臍帯血バンクの整備に加えて骨髄非破壊的前処置などの移植法自体の進歩に伴い,その適応は着実に拡大している.しかし,移植関連合併症による早期死亡,後期合併症に伴う QOL の低下,移植後の再発は完全に克服できていないのが現状であり,より安全かつ有効な移植法の開発が望まれる.

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対談
生活習慣病の現状と未来(第12回)
遺伝子解析と倫理

ゲスト  木村  利人 先生 (早稲田大学 名誉教授)
聞き手  香川  靖雄 先生 (女子栄養大学 副学長)

 木村先生は倫理、特に医学に関連した倫理の数々の事例にかかわって来られたました。今回はバイオエシックスの重要性やその問題点などについて欧米と日本の違いを含めて詳しく語って頂きました。
 この他にも木村先生が「インフォームド・コンセント」という言葉を日本で始めて臨床の現場で使うよう提言したころの医学会の反応など大変興味深いお話も伺いました。是非、お読み下さい。
 聞き手は女子栄養大学副学長 香川靖雄先生です。


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