最新医学・メタボリックシンドローム(前篇) 
特集 メタボリックシンドローム(前篇)   

要  旨



座談会
21世紀医療におけるメタボリックシンドロームの意義と臨床疫学


本研究の基本的解説から展望までを話し合ってもらい本論のアプローチとしています。

松澤 佑次
 (財団法人 住友病院)
吉池 信男 (国立健康・栄養研究所)
中尾 一和 (京都大学:司会)

         
  松澤 先生      中尾 先生      吉池 先生


総説
定義と概念の歴史的背景

松澤 佑次

財団法人 住友病院 院長

要  旨
 高血糖,高トリグリセリド血症,高血圧が集積するいわゆるマルチプルリスクファクター症候群が動脈硬化性疾患の背景として国内外で注目されている.この症候群ではこれらのリスクが偶然集積しているわけではなく,内臓脂肪の蓄積がキープレイヤーの役割を果たしていることが認識され,「メタボリックシンドローム」という名称で昨年国際的なコンセンサスミーティングによって,また我が国でも動脈硬化学会,糖尿病学会など8学会の合同委員会から診断基準が発表された.本症候群の意義および個々に至る背景を解説する.

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総説
診断と病態

平田 雅一*1  中尾 一和**1  宮脇 尚志*2
*1京都大学大学院医学研究科臨床病態医科学・内分泌代謝内科学  **1同教授
*2NTT 西日本京都病院健診センター

要  旨
 日本におけるメタボリックシンドロームの診断基準が日本動脈硬化学会などの8つの学会の合同委員会により2005年に発表され,同年に国際糖尿病連合も国際診断基準を発表した.国際的な比較のためにも,これらの診断基準の共通点と相違点の理解が必要である.腹部肥満とその本態である内臓脂肪蓄積が耐糖能障害,脂質代謝障害,高血圧などを惹起するメカニズムの理解がさまざまなアディポサイトカインの研究により進んでいる.内臓脂肪蓄積の評価がメタボリックシンドロームの正確な診断には重要である.

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総説
我が国の疫学

吉池 信男**  野末 みほ*
*独立行政法人国立健康・栄養研究所健康・栄養調査研究部  **同研究企画評価主幹

要  旨
 8学会によるメタボリックシンドローム診断基準(2005年)に基づく発表データは限られているが,端野・壮瞥町の調査成績ではその頻度は男性26.4%,女性8.8%とされている.また,同じ集団に対して,NCEP基準を用いると男性32%,女性11%となり,米国よりも頻度が低いのではないかと考えられている.国際間あるいは国内における集団間での疫学データを比較するためには,ウエスト周囲径の測定部位やカットオフ値などについての検討が課題である.

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総説
日本人と日系米人の比較疫学 -メタボリックシンドロームとその関連要因-


上島 弘嗣
滋賀医科大学社会医学講座(福祉保健医学)教授

要  旨
 日本人は肥満により,白人よりも糖尿病を来しやすいと言われている.ハワイ在住日系米人は日本人よりも,Body Mass Indexが高く,耐糖能異常率,脂質代謝異常率が高かった.最近のINTERMAP研究では,高血圧の頻度は日本人に高かったが,降圧薬服薬率が日系米人で高く,食生活では,飽和脂肪エネルギー比率,多価不飽和脂肪酸,ω-3系多価不飽和脂肪酸などは,日系米人は本土のアメリカ人と日本人の中間の値を示した.

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総説
CT・MRIによる内臓脂肪測定

中村 正**  善積 透*
*大阪大学大学院内分泌・代謝内科学 **同講師

要  旨
 本稿では,メタボリックシンドロームの病態基盤である内臓脂肪量評価のうち,最も代表的なCTスキャン法およびMRI画像法について解説を行った.CTスキャン法では,施設間,検者間の誤差をなくし,被検者での再現性を良くするために,脂肪分布評価法の標準化を行った.特に,被検者要因である呼吸位相と撮影スライスの統一が重要である.MRI画像法では,従来問題であった計測精度が改善されたが,将来は,MRIを用いた脂肪計測の標準化も必要と考えられた.

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総説
インピーダンス法による新規の内臓脂肪測定法

志賀 利一
オムロンヘルスケア株式会社新規事業開発センター技術開発部

要  旨
 メタボリックシンドロームの診断,治療において内臓脂肪蓄積を簡便かつ正確に計測することは重要である.CTによる計測は煩雑,高価,被曝の問題から日常的に利用することはできない.また,ウエスト径は簡便に計測できるが,皮下脂肪を含んでいるという問題点がある.VF-BIA法はこれらの問題を解決した計測法であり,簡便かつ皮下脂肪の影響なく正確に内臓脂肪蓄積を計測できる.今後の診断,治療に有力な方法となることが期待される.

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総説
脂肪細胞の病理−脂肪細胞はどう変わるのか−

杉原 甫*1  青木 茂久*2  江口 有一郎*3
*1国際医療福祉大学・病理学教授 *2佐賀大学医学部・病因病態科学
*3佐賀大学医学部・内科

要  旨
 脂肪組織は脂肪細胞から成り立っている.肥満は体格指数(BMI)やCTなどでとらえられるとともに,細胞生物学的には脂肪細胞の肥大と増殖として把握できる.ここでは,脂肪細胞のこの所見を我々独自の走査電顕像により提示する.また,メタボリックシンドロームの場合,脂肪組織内に軽度の炎症反応が起り,これがインスリン抵抗性を引き起して,発症に関与しているのではないかと考えられている.

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総説
治療指針 −着実な内臓脂肪削減の視点から−


正木 孝幸*1  坂田 利家*2
*1大分大学医学部生体分子構造機能制御講座第一内科  
*2中村学園大学栄養科学部教授

要  旨
 治療の主標的は過剰な内臓脂肪蓄積の削減にある.糖質・脂質代謝異常や高血圧を個別に治療することにはない.したがって,生活習慣の是正が最重要課題になる.その意味では,内臓脂肪削減に効果的な体動・運動を活用し,これらを習慣化して持続させ,同時に食習慣をいかに改善するかが治療の骨子になる.生活習慣の改善や是正,その長期維持には行動療法的な技法が必要になる.薬物療法の特質は一定の効果が期待できることにある.リバウンドに留意し,適応症例であれば積極的に使用する.

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総説
薬物療法

横手 幸太郎*   齋藤 康**

*千葉大学医学部附属病院糖尿病・代謝・内分泌内科(細胞治療学)  **同教授

要  旨
 メタボリックシンドロームの治療で最も大切なのはライフスタイルの改善だが,現代人の暮らしの中でそれを実践するのは容易でない.また,メタボリックシンドロームは動脈硬化リスクの高い病態であるがゆえに,心血管イベントの発症抑制を目的とした迅速かつ有効な対応が必要となる.本疾患における薬物療法の意義はまさにそこにある.メタボリックシンドロームの病態を考慮した薬物療法について考える.

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総説
運動療法

田中 早津紀*  豊田 太郎**  林 達也***

*京都大学大学院医学研究科内分泌・代謝内科 **京都大学大学院農学研究科
***京都大学大学院人間・環境学研究科 助教授

要  旨
 運動はメタボリックシンドロームに対する基本治療の意義を有する.肥満を解消し,内臓脂肪を減少させ,心血管リスクを軽減する目的から,有酸素運動を基本に置き,筋力トレーニングと柔軟性トレーニングを組み合わせた運動プログラムが推奨される.また,日常生活中の身体活動量を増やすことも重要である.メディカルチェックは運動制限をかけるためではなく,行って良い運動を見つけるための手段として位置づけられるべきである.

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総説
食事療法

宮崎 滋

東京逓信病院内科 部長

要  旨
 メタボリックシンドロームの治療の第一歩は,生活習慣を改善し,体重を減少させ,特に内臓脂肪を減らすことにある.体重の減少により内臓脂肪は,皮下脂肪より速やかに減少することが知られている.体重減少の目標は,現体重の5%を3〜6ヵ月で減少させる程度であり,メタボリックシンドロームの改善が得られる.体重を減らすためには摂取エネルギーを消費エネルギーより少なくすることが重要である.その意味でも食事療法は大変重要である.

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総説
メタボリックシンドローム治療における行動療法


吉松 博信

大分大学医学部生体分子構造機能制御講座第一内科 教授

要  旨
 メタボリックシンドロームにおける肥満症治療にあたっては,運動療法や食事療法の方法論を知識として患者に提供するだけでは治療に結びつかない.重要なことは知識の量ではなく,知識を行動に移し,継続させる方法論である.そのため,個々の患者が有する固有の問題点をそのライフスタイルの中からピックアップし,治療に応用するアプローチが必要となってくる.

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総説
外科療法 −内視鏡および内視鏡外科治療−


北野 正剛***  白水 章夫** 遠藤 裕一*  太田 正之**

*大分大学医学部第一外科 **同講師 ***同教授

要  旨
 従来より米国では肥満症に対して胃バイパス術がよく行われているものの,胃癌の発生が高率な我が国ではその適応は限られている.そこで我々は,内視鏡的胃内バルーン留置術および腹腔鏡下調節性胃バンディング術を我が国に導入した.両治療法共に3ヵ月で8kg以上の体重減少が得られ,過剰体重減少率も20%以上と効果良好である.今後両治療法が我が国の外科療法の中心的役割を担うものと考えられる.

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トピックス
メタボリックシンドロームとアディポネクチン,ビスファチン


福原 淳範*  下村 伊一郎**

*大阪大学大学院医学研究科内分泌代謝内科学 **同教授

要  旨
 メタボリックシンドロームの病態に脂肪細胞由来生理活性物質(アディポサイトカイン)の発現,分泌異常が重要な役割を果たしている.アディポネクチンは抗糖尿病作用,抗動脈硬化作用を有し,低アディポネクチン血症はメタボリックシンドロームの指標となる.ビスファチンは病態学的意義は未解明であるが,血中濃度が内臓脂肪面積と高度に相関することからメタボリックシンドロームの病態に深く関与すると予想される.

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トピックス
メタボリックシンドロームと脂肪細胞内グルココルチコイド活性化


益崎 裕章*  田中 智洋* 中尾 一和**

*京都大学大学院医学研究科内科学講座内分泌代謝内科 **同教授

要  旨
 メタボリックシンドロームでは代謝病重積の共通基盤としての内臓脂肪蓄積を病態の上流に位置づけ,未病の段階から心血管病高リスク群として積極的介入を行うことが望まれる.細胞内グルココルチコイド活性化酵素11β-HSD1は“内臓脂肪肥満の感受性”の分子機構を解く鍵分子の1つであり,チアゾリジン誘導体による内臓脂肪減少効果の担い手と考えられる.その発現レベルは肥満者脂肪組織において上昇し,ウエスト周囲長や内臓脂肪面積と強い正相関を示す.11β-HSD1を脂肪細胞で過剰発現するトランスジェニックマウスはメタボリックシンドロームを発症し,ノックアウトマウスは発症に明らかな抵抗性を示す.メタボリックシンドロームの創薬標的として注目されるゆえんである.

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トピックス
メタボリックシンドロームと脂肪毒性


海老原  健

京都大学大学院医学研究科内分泌代謝内科

要  旨
 脂肪酸は膵β細胞のみならず肝臓や骨格筋,脂肪組織などのインスリン標的臓器を含む広範な組織の糖脂質代謝に悪影響を及ぼすことが知られるようになり,今日では過剰な遊離脂肪酸により耐糖能が悪化することを広義に「脂肪毒性」ととらえるようになっている.脂肪毒性は多様な臓器に普遍的な分子基盤を有していると考えられ,そのメカニズムの解明はメタボリックシンドロームの発症や進展メカニズムの解明につながるものと考えられる.

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トピックス
グレリンとニューロメジンU,S−新規生理活性ペプチドと摂食調節−


細田 洋司*  森 健二**  児島 将康***  寒川 賢治**

*国立循環器病センター研究所生化学部  **同部長  
***久留米大学分子生命科学研究所遺伝情報研究部門教授

要  旨
 グレリンとニューロメジンUおよびSは,オーファン受容体の内因性リガンドとして同定され,脳および消化管に分布する生理活性ペプチドである.グレリンは成長ホルモン分泌促進因子(GHS)受容体の内因性リガンドとして胃から発見され,成長ホルモン分泌促進活性以外に末梢性の摂食促進作用を持つ.ニューロメジンUとSは共に摂食抑制ペプチドであり,サーカディアンリズムの調節因子であることが明らかになってきた.

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トピックス
メタボリックシンドロームの動物モデル


山内 敏正*1*2  門脇 孝**1

*1東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科 **1同教授
*2同大学大学院医学系研究科統合的分子代謝疾患科学講座客員助教授

要  旨
 肥満がインスリン抵抗性を基盤として心血管疾患の危険因子を1個人に重積させるというメタボリックシンドロームの概念は,日本人の診断基準が発表され,よく知られている.肥満に伴う肥大脂肪細胞においては,脂肪酸燃焼を促進するアディポネクチンなどが低下するなどして,インスリン抵抗性が惹起される.アディポカインやインスリン作用にかかわる分子の遺伝子改変マウスの解析はメタボリックシンドローム研究にとって重要である.

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