最新医学61巻5 号 
特集 高血圧 ‐新しい診断基準と治療-   

要  旨


アプローチ
高血圧の診断・治療に関する最近の動向

松岡博昭*

* 獨協医科大学循環器内科 教授

要  旨
 自動血圧計の普及により仮面高血圧や早朝高血圧の診断が可能となり,これらは心血管イベントのリスクであると報告されている.一部の降圧薬が心血管イベントの抑制に効果的であるとの報告があるが,イベント抑制に最も重要なのは厳格な降圧であることが多くの介入試験で明らかにされてきた.厳格な降圧には併用療法が重要であり,JSH2004で推奨しているCa拮抗薬とレニン・アンジオテンシン系抑制薬が好ましい組み合わせであるとのエビデンスも示されている.

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血圧分類の変遷 -日本と欧米における分類の比較-

北 俊弘*1  江藤胤尚*2
*1 宮崎大学医学部第一内科   *2 宮崎大学医学部附属病院長

要  旨
 血圧値は連続分布を示すものであり,高血圧の定義は人為的なものである.1959年に最初のWHO高血圧分類が発表されてから時代とともに血圧分類は変化してきたが,高血圧の基準は最終的には140/90mmHgへ収束した.現在,本邦を含む多くの国で1999年のWHO/ISHガイドラインの血圧分類を採用している.しかし,2003年の米国JNC7は前高血圧という新しい概念を導入した血圧分類を提唱し,波紋を呼んでいる.

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随時血圧,24 時間血圧および家庭血圧の有用性

浅山 敬*1*2   今井 潤**1 **2
*1 東北大学大学院薬学・医学系研究科臨床薬学  **1 同教授
*2 東北大学 21 世紀 COE プログラム ‘CRESCENDO’  **2 同教授

要  旨
 非観血的な血圧の測定方法として,外来随時血圧,24時間自由行動下血圧,家庭自己測定血圧の3種類が日常診療に汎用されている.測定の精度,簡便性,血圧値の評価基準などはそれぞれ異なるが,いずれも有用な高血圧診断・治療のツールである.これら3種の血圧測定方法を上手に使い分け,患者の重篤な合併症の発症・進展を防ぐことが肝要である.

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仮面(逆白衣)高血圧と白衣高血圧の管理方針

桑島 巌*
* 東京都老人医療センター 副院長

要  旨
 従来の診察室で測定する血圧値は必ずしも本来の血圧値を反映するものではなかった.職場や家庭といった普段の生活の場での血圧値を知り,24時間血圧を厳格に管理することこそ心血管合併症予防のために重要なことであり,これからの降圧薬治療に求められている.家庭血圧計や24時間血圧計の普及が望まれる.

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早朝高血圧および夜間高血圧 -診断と治療-


石川譲治*   苅尾七臣**
* 自治医科大学循環器内科 ** 同COE教授

要  旨
 診察室血圧に比べて,家庭血圧や24時間血圧が優れた臓器障害や予後の指標であることが明らかになっているが,夜間血圧や早朝血圧がそのリスク増加と関連している可能性がある.家庭血圧における早朝高血圧は,夜間高血圧が持続するタイプと早朝に血圧が上昇するサージタイプが含まれており,双方のリスクを反映しているものと考えられる.夜間高血圧や早朝高血圧を改善することで臓器障害や予後が改善することを示したエビデンスは少ないが,より長時間作用型の降圧薬を使用したり,就寝前に降圧薬を内服することで,これらの夜間血圧や早朝血圧をコントロールすることが試みられている.

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高齢者高血圧の診断と治療 -超高齢者を含めて-


楽木宏実*  荻原俊男**
* 大阪大学大学院医学系研究科老年・腎臓内科学助教授 ** 同教授

要  旨
 高血圧治療ガイドラインにおける高齢者高血圧の降圧目標は,最終的には140/90mmHg未満であるが,75歳以上の場合には150/90mmHg未満を目指す暫定目標が示されている.また,超高齢者高血圧の治療対象や降圧目標については十分なエビデンスがない.一般に,高齢者は同じ歴年齢であっても循環動態に関する予備能力に大きな違いがあることを認識し,患者個々の病態に応じた注意深い降圧治療が求められる.

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高血圧患者の初診時からの治療計画


島田和幸*
* 自治医科大学循環器内科 教授

要  旨
 高血圧患者の初診時,医療面接によって大体の高血圧の原因・重症度の診断をつける.さらに各種臨床検査によって高血圧の臓器障害を評価し,心血管疾患リスクを明らかにする.リスクの層別化によって,初期治療のプランが立てられる.生活習慣の改善はすべての高血圧患者に重要であるが,適切なタイミングで降圧療法に踏み切るべきである.高血圧管理においては,医師は常に熱意をもって患者を励まし,良好な医師−患者関係を築くことが重要である.

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高血圧治療における生活習慣の修正

安東克之*1  藤田敏郎*2
*1 東京大学大学院医学系研究科分子循環代謝病学 助教授  *2 同腎臓・内分泌内科 教授

要  旨
 高血圧の成因として環境因子は重要であり,したがって生活習慣の修正は原因を除く治療法であると言えよう.多くのガイドラインで@食塩制限,A野菜・果物の積極的摂取と脂肪制限,B適正体重の維持,C運動,Dアルコール制限,E禁煙が挙げられている.また,これらの項目は幾つかを併せて行えばそれだけ効果が上がるので,可能な限り複合して行うことが望まれる.

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降圧薬の選択


齊藤郁夫*
* 慶應義塾大学保健管理センター 所長

要  旨
 大規模臨床試験により降圧薬治療の心血管病予防効果が証明されている.心血管病予防には降圧が最も重要であるが,降圧薬の選択に関しては新規の糖尿病発症など潜在的なデメリットの解釈,評価によりさまざまな見解が生じ,世界のガイドラインでも意見は一致していない.本邦では,利尿薬より Ca 拮抗薬あるいはアンジオテンシンU受容体拮抗薬(ARB)が選択されることが多い.生涯治療における降圧薬別の費用・効果分析が必要である.

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降圧目標とその達成に向けた上手な併用療法


築山久一郎*
* 国際医療福祉大学附属熱海病院内科 教授

要  旨
 降圧薬治療の目標は生活習慣の改善を前提に140/90mmHg未満(糖尿病・慢性腎疾患患者130/80mmHg未満)とされている.降圧薬単剤による降圧目標の達成は困難で,多くの高血圧患者において併用療法を行う.初期治療薬はCa拮抗薬,アンジオテンシンU受容体拮抗薬(ARB),アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬,利尿薬,β遮断薬とされるが,我が国では服薬継続率の高いCa拮抗薬,ARBが初期治療薬に用いられることが多く,Ca拮抗薬とレニン・アンジオテンシン系抑制薬併用の頻度が高い.しかし,実際には高血圧治療患者のうち血圧コントロール症例の頻度が低く,利尿薬の適切な使用が望まれる.

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高血圧緊急症への対応


瀧下修一*
* 琉球大学医学部循環系総合内科学 教授

要  
 高血圧緊急症は単に血圧が異常に高いだけの状態ではなく,脳,心,腎などの標的臓器に急速に障害が生じるか,切迫した病態であり,緊急に降圧を図る必要がある.降圧処置の前に病態や基礎疾患の迅速な把握と,これに応じた降圧薬,降圧のレベルと速度を決定しなければならない.

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合併症を伴った高血圧の治療
1.脳梗塞を伴う高血圧の治療

大槻俊輔*   松本昌泰**

* 広島大学病院脳神経内科 講師 ** 同教授

要  旨
 人生の晩期に頻発し,片麻痺や寝たきりに至る脳卒中を予防するには,24 時間にわたる確実な降圧療法が最優先される.降圧自体が脳卒中発症率を低減させるが,あるクラスの降圧薬には降圧を超えた効果を有する可能性がある.各症例に適切な降圧薬を吟味し,厳重に降圧し脳卒中を予防する.ここぞ担当医師の裁量・腕の振るいどころになろう.

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合併症を伴った高血圧の治療
2.虚血性心疾患・心不全合併高血圧の治療

竹内利治*1  石井良直*2  長谷部直幸**1  菊池健次郎***1
*1 旭川医科大学第一内科 **1 同助教授 ***1 同教授 *2 市立旭川病院

要  旨
 高血圧は圧負荷により左室肥大・左室リモデリングから心不全を,また他の危険因子との相乗効果により冠動脈硬化を発症させ,心血管イベントのリスクを高める.長時間作用型 Ca 拮抗薬は降圧効果が的確で,冠拡張作用,抗酸化作用,抗動脈硬化作用を有する.一方,アンジオテンシンU受容体拮抗薬(ARB)はアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬とともに心肥大退縮,心室リモデリング抑制,新規糖尿病・心房細動発症抑制効果に優れている.最近のエビデンスから,心疾患合併高血圧に対してはまず病態に応じた降圧薬の併用による確実な降圧を優先し,次いでさらなる心血管保護を考慮することが勧められる.

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合併症を伴った高血圧の治療
3.腎障害を伴った高血圧の治療

伊藤貞嘉*
* 東北大学大学院医学系研究科内科病態学講座腎高血圧内分泌分野 教授

要  旨
 尿タンパクや潜血の存在は腎障害の早期の指標である.腎機能の明らかな低下があれば,腎組織は高度に荒廃していると考えて良い.血清クレアチニン値のみで判断すると腎機能に気づかないことがあり,計算により糸球体濾過率(GFR)を推定することが勧められている.腎障害患者は透析になる危険も高いが,心血管事故発症の危険がさらに高い.腎障害を早期に発見して治療するのが,末期腎不全や心血管事故の発症を抑制するのに重要である.

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合併症を伴った高血圧の治療
4.代謝疾患(糖尿病,メタボリックシンドロームなど)を伴った高血圧の治療

島本和明**  三浦哲嗣*
* 札幌医科大学第二内科 助教授 ** 同教授

要  旨
 糖尿病合併高血圧の治療方針として,降圧目標は130/80mmHg未満,第1選択薬としてはアンジオテンシンU受容体拮抗薬(ARB),アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬,Ca拮抗薬が推奨される.メタボリックシンドローム合併高血圧では,運動療法,食事療法を中心とする生活習慣改善が主体となる.降圧目標130/85 mmHg未満,降圧薬としてはインスリン抵抗性を改善するARB,ACE阻害薬,Ca拮抗薬を中心にα遮断薬も用いられる.

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合併症を伴った高血圧の治療
5.周産期前後の高血圧の治療

鈴木洋通*
* 埼玉医科大学腎臓内科 教授

要  旨
 妊娠に関連して循環動態にはさまざまな変化が生じる.とりわけ,血圧の上昇は胎児と母体に重大な影響を与えることが知られている.妊娠中毒症という言葉の定義が曖昧であったことより,2004年から本邦では妊娠高血圧症候群という言葉になった.すなわち高血圧が主体であり,それにタンパク尿が付随すると preeclampsia(妊娠高血圧腎症)とした.したがって,いかに高血圧を治療するかが重要となる.ここでは上記の分類に従い降圧治療について述べた.

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対談
生活習慣病の現状と未来(第13回)
百寿者に学ぶ

ゲスト  広瀬 信義 先生(慶應義塾大学 教授)
聞き手  香川 靖雄 先生(女子栄養大学 副学長)

 国内の百寿者は30年前の200倍で約25500人もいらっしゃいます。長年にわたり百寿者の研究を行ってきた広瀬先生は「人間は血管と共に老化する」とお考えで、実際、動脈硬化の指標である頚動脈のプラークは90歳代にピークを迎えます。
 しかし、驚くことにその値は100歳以上では80歳代と同じ程度に下がるそうです。また、それに関連して百寿者ではCRPやセレクチンなどの内皮障害マーカーの値も低いそうです。更に、広瀬先生は抗老化因子としてアディポネクチンの抗炎症作用に注目されています。
 その一方で、広瀬先生の印象では百寿者には幸福感の高い人が非常に多いそうです。やはり心身ともに健康である事が何よりも重要なようです。
 その他にも長寿と血液型の関係など非常に興味深いお話も伺いました。是非、お読み下さい。
 聞き手は女子栄養大学副学長 香川靖雄先生です。

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