最新医学61巻6号 
特集 がん領域におけるドラッグデリバリーシステム(DDS)   

要  旨


アプローチ
がんの治療現場におけるDDS
小松弘和*   上田龍三**

* 名古屋市立大学大学院医学研究科臨床分子内科学教室 ** 同教授

要  旨
 DDSにおける,局所と全身療法,EPR効果,active targetingとpassive targetingの概念を念頭に,徐放剤や抗体医薬,リポソーム,高分子ミセル,RNAi,ウイルスベクターといった分類から,がんの領域において治療現場に登場した,あるいは臨床応用化が期待されるDDS治療を,本邦での開発,取り組みに視点を置きながら概説した.がんの分子標的療法において,DDSは分子標的創薬とともに,分子標的「創剤」として,重要な位置を占める.

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DDSにおける基盤技術開発
DNA配列を標的としたDDS

杉山 弘*
* 京都大学大学院理学研究科化学専攻生物化学 教授

要  旨
 N−メチルピロール(Py)とN−メチルイミダゾール(Im)をペプチド結合でつないだPy-Imポリアミドは,PyとImの並べ方によって2本鎖DNAの特定配列に結合する.Py-Im は分子量も小さく優れた核移行性を持っている.DNAアルキル化剤をPy-Imポリアミドに結合させ,特定の遺伝子の配列を標的化できれば,さまざまながんに対して効果を示すテーラーメード抗がん剤となる可能性がある.ここではアルキル化Py-Imポリアミドの配列特異性と,それを用いたジーンサイレンシング,抗がん性について紹介したい.

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DDSにおける基盤技術開発
ナノテクノロジーによる新規がん治療法

清水宣明**1  荻野千秋*2  高木圭子*1  山岸紗弥花*2  野瀬律子*2
*1 金沢大学自然計測応用研究センター人間計測制御研究部門   **1 同教授
*2 金沢大学大学院自然科学研究科物質科学専攻

要  旨
 光触媒として知られている二酸化チタン(TiO2)に超音波を照射すると非常に酸化力の強いヒドロキシルラジカルが生成することから,この性質を利用した新しいがん治療法を提案した.表面にカルボキシル基を配向した単分散性のTiO2ナノ粒子あるいはTiO2ナノ粒子を内包した膜融合リポソームを作製した.マウスリンパ腫由来細胞L1210を用いて細胞内取り込みを検討した結果,TiO2ナノ粒子を効率良く細胞内に導入でき,また超音波照射によって有意に細胞死を誘導することができた.

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DDSにおける基盤技術開発
リポソーム応用の新展開

浅井知浩*   奥 直人**
* 静岡県立大学薬学部医薬生命化学教室 講師   ** 同教授

要  旨
 本稿では,がん化学療法および遺伝子治療法におけるリポソーム研究の現状を述べ,そして我々の最近の研究成果についても紹介したい.ここでは「標的化リポソームによる腫瘍新生血管傷害療法」および「ポリカチオンリポソームを用いたsiRNAデリバリー」に関する研究を中心に述べる.リポソーム研究は,近年脚光を浴びているナノメディシン研究領域においても注目を集めており,がんの革新的治療法につながることが期待されている.

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DDSにおける基盤技術開発
インテリジェント高分子ミセルからのDDS


「 潤秀*1  片岡一則**1*2
*1 東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センター臨床医工学部門   **1 同教授
*2 東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻 教授

要  旨
 体内の標的部位へ薬物を効率的かつ選択的に送達するDDSは,抗がん剤を用いたがん化学療法に近年大きな進歩をもたらしつつある.本稿では,我々が開発してきたインテリジェント高分子ミセルを中心として,高機能性薬物キャリヤーの設計とその臨床治療効果への影響との関係について述べてみたい.

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DDSにおける基盤技術開発
siRNAのデリバリーシステム


芦原英司*   木村晋也**  前川 平***
* 京都大学医学部附属病院輸血細胞治療部   ** 同講師   *** 同教授

要  旨
 RNAiとは,短い2本鎖RNAによって配列特異的に標的RNAが分解され,その結果遺伝子の発現が抑制される現象である.化学合成されたsiRNAを細胞内に導入するためのDDSとして,リポソームやアテロコラーゲンなどの非ウイルス性キャリヤーが開発されているが,投与経路や組織特異的に運搬するDDSを考案することにより,siRNAは基礎研究に用いるツールとしてだけでなく,種々の疾患に対する新規治療法としての応用も期待されている.

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DDSにおける基盤技術開発
アテロコラーゲンDDSによる転移性がんのRNAi Therapy


落谷孝広*
* 国立がんセンター研究所がん転移研究室室長

要  旨
 RNA干渉をベースにしたsiRNAの疾患治療への応用が始まろうとしている.がん治療分野でもsiRNAによる新しい治療法を開発しようとする試みが世界中で行われつつある.我々は導入効率が高く,安全面でも優れているDDSの開発を目指し,生体親和性物質であるアテロコラーゲンに着目して検討を行ってきた.本稿では,転移性がんを標的にしたアテロコラーゲンの全身性DDSによるsiRNA製剤開発の研究を紹介する.

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創薬の立場からのDDS
薬物体内動態の制御に関する新技術

橋田 充*

* 京都大学大学院薬学研究科薬品動態制御学分野 教授

要  旨
 DDSは,薬物治療の最適化を目的として,物質動態の視点より生体をシステムととらえ,その特性解析を通じて薬物体内動態の精密制御を図る薬物投与技術と定義され,ゲノム創薬に代表される新しい創薬手法,あるいは遺伝子治療,再生医療など将来の医療技術を支える基盤技術と位置づけられる.とりわけ,本来細胞毒作用を有する物質を治療薬として用いるがん化学療法においては,抗がん剤をがん病巣に集中させることのできるDDS技術の開発に対する期待は極めて大きい.また,がん治療の将来を担うとされる遺伝子治療においても,遺伝子やアンチセンスDNA,siRNAを目的の細胞に選択的に送り込む送達技術の開発が,治療実現の決め手になると考えられている.

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創薬の立場からのDDS
プロテオーム創薬からのDDS開発


鎌田春彦*   堤 康央*
* 独立行政法人医薬基盤研究所創薬プロテオミクスプロジェクト

要  旨
 がんなどの難治性疾患を克服するため,より有効ながん治療法の開発が急務であり,全タンパク質の構造と機能解析をもとにした創薬プロテオーム解析に注目が集まっている.本総説では,このプロテオーム解析の結果から得られた情報をもとに,医薬価値に優れた薬物開発を行うためのDDS戦略を提示し,ファージ表面提示法を用いたタンパク質構造変異体の創出とそのDDS的有用性を紹介する.

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ベッドサイドから見たDDS開発の進歩
DDSを視点とした標的化遺伝子治療


中村公則*   加藤和則**  濱田洋文***
* 札幌医科大学分子医学研究部門 講師 ** 同助教授 *** 同教授

要  旨
 腫瘍だけを見つけて選択的に遺伝子導入や薬剤投与が可能なDDSシステムを作ることができれば,標的化治療が達成できる.我々は,ファイバー変異型アデノウイルスと細胞表面抗原を認識する抗体を組み合わせて,遺伝子導入の選択性強化を目指した.系統的スクリーニング方法が樹立され,前立腺がんや膵がんなどの悪性腫瘍に対して選択性の高い遺伝子導入・薬剤投与を可能とする標的候補が見つかってきた.

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ベッドサイドから見たDDS開発の進歩
高分子型薬剤の臨床応用-その現状と将来の展開に向けて-


前田 浩*
* 崇城大学薬学部 教授

要  
 臨床的に高分子型薬剤は,ポリエチレングリコール(PEG)化インターフェロンの出現でその有効性がより広く認識されている.本稿では,高分子薬の概略,その有用性と特徴,EPR効果と呼ばれる高分子薬の腫瘍デリバリーメカニズム,それに関与する因子,EPR効果の人為的な操作による腫瘍デリバリーの増強など,将来の高分子薬剤に対してスマンクスで見られる手技と同様に多面的な応用も記した.

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ベッドサイドから見たDDS開発の進歩
DDSと細胞療法

中村貴文*1 谷 憲三朗**1*2

*1 九州大学生体防御医学研究所ゲノム機能制御学部門 **1 同教授
*2 九州大学病院先端分子細胞治療科 教授

要  旨
 悪性腫瘍に対するDDSの進歩は目覚ましいものがあるが,腫瘍標的化ならびに効果持続性の面からさらなる改良が望まれている.この観点から,DDS開発の1つの方向性として遺伝子導入細胞を用いた治療法は有望であると考えられる.一方,現在実施されている遺伝子導入腫瘍細胞や免疫担当細胞を用いた治療法は,ある程度の効果は望めるものの腫瘍細胞の標的化効率はいまだ低く,顕著な臨床効果は得られていないのが現状である.この現状を打破し理想的な細胞DDSシステムを開発するためには,機能改変免疫担当細胞,血管内皮を含む各種組織前駆細胞などの特殊な細胞の利用が今後重要になるものと考えられる.

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ベッドサイドから見たDDS開発の進歩
DDSにかかわる臨床試験の現況

松村保広**
国立がんセンター臨床開発センターがん治療開発部 部長

要  旨
 DDS製剤の理論的支柱であるEPR効果の概念も世界に広まりつつある.同時に外国においてはDoxilやAbraxaneなど次々とDDS製剤が認可されてきている.本邦ではミセル製剤の臨床試験が始まり,ミセル製剤の臨床的な有用性が期待されている.

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対談
生活習慣病の現状と未来(第15回)
介護予防の食生活

ゲスト  熊谷  修  先生(人間総合科学大学 教授)
聞き手  香川 靖雄 先生(女子栄養大学 副学長)

 熊谷先生は多様な食品摂取は高齢者の生活機能の自立性の低下を予防できるとの調査結果を報告されました。また、従来は腎臓に負担がかかるといわれていた高齢者のタンパク質摂取についても、充分摂取している高齢者ほど加齢に伴う腎機能の低下を予防できる。逆に、タンパク質制限は非常に慎重に行わないと要介護者を量産する結果になると警告されています。
 更に日本の老人保険事業の問題点と今後のあり方・医療の専門家としての認識などについても率直にお話頂きました。是非、お読み下さい。
 聞き手は女子栄養大学副学長 香川靖雄先生です。

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