最新医学61巻7号 
特集 糖尿病の再生医学 -膵β細胞再生の基礎と臨床-   

要  旨


アプローチ

清野 進*1*2

*1 神戸大学大学院医学系研究科細胞分子医学 教授
*2 京都大学医学部附属病院探索医療センター探索医療開発部
膵β細胞再生医療プロジェクトリーダー

要  旨
 糖尿病は種々の組織・器官が障害され,さまざまな合併症が出現する全身性の代謝疾患である.膵β細胞の機能が糖尿病の発症や病態の進展に大きく寄与することは疑いがない.膵β細胞は単にインスリンを産生する細胞ではなく,極めて巧妙に制御された分泌機能を備えた高度に分化した細胞である.血糖コントロール困難なインスリン欠乏状態にある糖尿病患者に対し,膵β細胞の再生医療が試みられているが,そのアプローチはさまざまである.本稿では,膵β細胞再生に関する基礎的・臨床的アプローチの現状について概説する.

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基礎
胚性幹細胞における自己複製能と多分化能

中武悠樹*   丹羽仁史**
* 理化学研究所発生・再生科学総合研究センター多能性幹細胞研究チーム 
** 同チームリーダー

要  旨
 胚性幹細胞(ES細胞)は,胚盤胞の内部細胞塊から樹立された細胞株であり,あらゆる組織に分化することができるという「多能性」を有している.ES細胞が多能性を保つ仕組みについて,分子レベルの解析がなされてはいるが,いまだ細胞の多能性を自在に制御することはできていない.本稿では現在分かっている分子メカニズムを中心に概説し,今後究明すべき点をまとめた.

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基礎
胚性幹細胞からインスリン産生細胞への分化誘導

宮崎早月*   宮崎純一**
* 大阪大学大学院医学系研究科幹細胞制御学分野  ** 同教授

要  旨
 糖尿病の未来医療の1つとして,胚性幹細胞(ES細胞)を用いた膵β細胞の再生研究に大きな期待が集まっている.近年,さまざまなグループから ES細胞を in vitro で膵β細胞に分化させることに成功したという報告がなされた.しかし,得られたインスリン産生細胞の機能や再現性に対し,問題点を指摘されているものもある.本稿では,我々のものを含め,これまでに発表されたインスリン産生細胞の分化誘導に関する論文を紹介する.

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基礎
膵臓における組織幹細胞の分離・同定

谷口英樹*1**2 大島祐二*2
*1 横浜市立大学大学院医学研究科臓器再生医学
*2 理化学研究所発生・再生科学総合研究センター臓器再生研究ユニット **2 同リーダー

要  旨
 さまざまな組織において,多分化能と自己複製能を兼ね備えた組織幹細胞の存在が次々と明らかになっている.膵臓においても,膵島を構成する4種の内分泌細胞[β細胞,α細胞,δ細胞,γ(PP)細胞],外分泌細胞,膵管上皮細胞への多分化能を有した膵幹細胞(pancreatic stem cell)の同定が進みつつある.膵臓における幹細胞システムの解明を基盤科学として,組織修復機構の最大化・最適化に基づく再生療法の開発を目指す必要がある.

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基礎
神経幹細胞の可塑性を利用したインスリン産生細胞の分化誘導


堀 裕一*
* 神戸大学大学院医学系研究科消化器外科学 COE 上級研究員

要  旨
 主に1型糖尿病に対する治療として,各種幹細胞からインスリン産生細胞を分化誘導させ,移植するという再生医学研究が始まっている.我々は,@膵島と神経系組織の発生学的な類似性や,A神経幹細胞の可塑性に着目して,in vitroでヒト神経幹細胞からインスリン産生細胞を分化誘導することを試みた.その結果,グルコース刺激に反応してインスリンを分泌する細胞を誘導することに成功した.

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基礎
膵腺房細胞の分化転換によるインスリン分泌細胞の誘導


南 幸太郎*1  清野 進**1*2
*1 京都大学医学部附属病院探索医療センター
探索医療開発部膵β細胞再生医療プロジェクトサブリーダー・助教授 **1 同リーダー
*2 神戸大学大学院医学系研究科細胞分子医学 教授

要  旨
 成体に存在する機能分化した細胞も予想外の可塑性を示すことがあり,いわゆる「幹細胞」をソースとしなくてもβ細胞が再生できる可能性がある.我々は,マウスの膵腺房細胞からin vitroでインスリン分泌細胞を作製した.このとき膵腺房細胞は,脱分化によって前駆細胞様の細胞へと変化し,再分化(分化転換)するものと考えられた.分化した細胞の可塑性制御の仕組みを理解するうえで,分化転換は興味深い生命現象である.

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基礎
Protein Transduction によるインスリン分泌細胞の分化誘導


野口洋文*1*2
*1 Diabetes Research Institute Japan
*2 名古屋大学医学部先端医療バイオロボティクス学寄附講座

要  旨
 膵島移植の問題点として臓器不足があるが,これを解決するため現在,幹細胞からのインスリン分泌細胞への分化誘導の研究が盛んに行われている.我々は“Protein Transduction System”という新しい手法を用いてPDX-1,BETA2/NeuroDタンパク質を膵幹細胞へ導入し,インスリン分泌細胞へ分化誘導させることに成功した.この新しいシステムは膵島再生において有用な手法である.

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基礎
膵β細胞自己複製系としてのReg-Reg受容体系

高沢 伸*1  岡本 宏*1*2

*1 東北大学大学院医学系研究科先端再生生命科学(江東微生物研究所)寄附講座
*2 東北大学監事

要  旨
 膵β細胞の再生では「発生・分化」よりはβ細胞自身の「自己複製」が重要であり,Reg-Reg受容体系は自己複製系として機能していると考えられる.最近になり,糖尿病患者の中には血清中にREGタンパク質のβ細胞増殖作用を抑制する抗REGタンパク質自己抗体を有する患者も報告され,β細胞の自己複製障害という観点から糖尿病の発症・増悪を研究することも重要と考えられる.

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基礎
内在性膵幹細胞の賦活化


山田聡子*   小島 至**
* 群馬大学生体調節研究所細胞調節分野 ** 同教授

要  旨
膵臓は個体のインスリン必要量を感知し,β細胞量を調節する.インスリン需要をβ細胞量の増加で十分に代償できない場合に2型糖尿病が発症するともいえる.分化誘導因子を利用して「内在性の膵幹細胞を賦活化し,膵再生を促進してβ細胞量を増やす」in vivoアプローチは,将来の糖尿病治療や糖尿病発症予防への応用も期待される.本稿ではβ細胞量の調節,膵再生について概説し,このアプローチの現況と課題を考察する.

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臨床応用
ヒト膵β細胞株の樹立とバイオ人工膵臓開発への応用


小林直哉*
* 岡山大学大学院医歯学総合研究科消化器腫瘍外科

要  旨
 今回我々は,レトロウイルスベクターを用いることで初代ヒト膵島β細胞をトランスフェクションし,可逆的に増殖誘導可能な可逆性不死化ヒトβ細胞クローン(NAKT-15 細胞)を確立した.このベクターに含まれるシミアンウイルス 40 ラージT抗原(SV40T)およびヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)のcDNAは対になったloxP組み換え標的で挟まれているため,Creリコンビナーゼを当該細胞に発現させることでSV40TおよびhTERTを除去できるシステムとなっている.不死化に使用した当該遺伝子を取り除いた復帰 NAKT-15 細胞は,グルコースに反応してインスリンを分泌した.ストレプトゾトシンで糖尿病を誘発した重症複合免疫不全マウスに細胞を移植したところ,血糖値は 30 週間以上にわたり正常値を持続した.健常膵島β細胞と機能的に同等なヒト由来の膵β細胞株の樹立に関する報告はこれまでない.本稿では,こうしたヒト膵島β細胞の可逆的な増殖誘導技術について述べるとともに,こうした細胞を基盤にした糖尿病を標的とした細胞療法の実現化に対する取り組みを紹介する.

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臨床応用
膵島移植


松本慎一*1*2
*1 Diabetes Research Institute Japan
*2 藤田保健衛生大学消化器第二外科 教授

要  
 膵島移植は,分離膵島を局所麻酔下に点滴の要領で移植する低侵襲の糖尿病治療法である.2000年にエドモントンプロトコールが発表されて以降,成績が劇的に向上し臨床応用が急増した.我が国でも2004年に京都大学で開始され,すでに全国で10名以上のレシピエントに施行され,全例において有効性が認められている.一方,シロリムスの副作用や膵島移植の長期成績の改善,そして我が国では膵島移植の普及啓発および社会体制の充実が重要と考えられる.

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臨床応用
膵臓移植の現況

鈴木康之**  藤野泰宏*   黒田嘉和***

* 神戸大学大学院医学系研究科消化器外科学 講師 ** 同助教授 *** 同教授

要  旨
 1型糖尿病の根治的治療法である膵臓移植は,主に脳死ドナーから摘出した全膵十二指腸を,右腸骨窩に移植する臓器移植である.糖尿病合併症として腎不全を有する症例には腎臓移植も同時に行う.腎臓移植後膵臓移植や膵臓単独移植も行われてきた.近年は移植手技や免疫抑制法の向上により成績も安定し移植医療の1つとして確立され,世界中で年間約1,800例が施行されている.国内でも2005年3月までに20例が行われた.

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臨床応用
膵島移植における免疫制御

安波洋一*1  小野順子*2  池田靖洋**1
*1 福岡大学医学部第一外科 助教授 **1 同教授
*2 同臨床検査医学 教授

要  旨
 膵島細胞移植の拒絶反応は,臓器移植とは異なった機序により発現する.したがって,移植成績の向上には膵島移植特有の免疫応答の解析による制御法の開発が必須である.本稿では,我々が最近見いだした移植直後の生着にかかわる膵島障害(自然免疫拒絶反応),同種拒絶反応,ならびに異種膵島移植について概説する.

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臨床応用
バイオ人工膵臓の開発の現況

山口歌奈子*   岩田博夫**
* 京都大学再生医科学研究所 ** 同教授

要  旨
 免疫抑制薬を必要としない膵島移植として,バイオ人工膵臓に期待が寄せられている.バイオ人工膵臓では膵島を半透膜で包んだ後移植する.膵島は,半透膜によりレシピエントの免疫系から隔離(免疫隔離)されているため,拒絶反応を受けることなく長期間生着すると期待される.本稿では最近の研究を引用しながら,バイオ人工膵臓を実現化するために解決しなければならないインスリン分泌細胞の確保,膵島への酸素供給,新たなカプセル化材料などを論じた.

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対談
生活習慣病の現状と未来(第16回)
日本の医療と生活習慣病対策

ゲスト  黒川  清  先生(日本学術会議 会長)
聞き手  香川 靖雄 先生(女子栄養大学 副学長)

 日本学術会議の会長として精力的にご活躍されている黒川先生ですが、今回は日本の医療行政、国家ビジョン・医療制度の問題点とあるべき姿、その為に医療関係者が果たすべき役割などについて忌憚なくお話頂きました。中でも超高齢化社会を迎える中で公的医療サービス、公的医療費の方向性について熱く語って頂きました。また、タバコの問題点についての政策者会議でのやり取りなど大変興味深いお話も伺いました。是非、お読み下さい。
 聞き手は女子栄養大学副学長 香川靖雄先生です。

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総  説
摂食,ストレス調節におけるニューロペプチドWの役割

新見道夫*
* 香川県立保健医療大学保健医療学部臨床検査学科教授

要  旨
 ニューロペプチドW(NPW)は,オーファンGタンパク質共役型受容体(GPCR)であるGPR7およびGPR8の内因性リガンドとして,ブタ視床下部から発見された新規ペプチドである.NPWは主として視床下部に存在し,ラットへの中枢投与によりプロラクチン,コルチコステロンの分泌促進作用と成長ホルモン分泌抑制作用が認められる.NPW は摂食やストレス調節に関与していることが明らかにされてきており,その知見について概説する.

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