最新医学61巻9号 
特集 消化器疾患の遺伝子異常 

要  旨


アプローチ
消化器癌の原因遺伝子研究

中本安成*   金子周一**

*  金沢大学大学院医学系研究科消化器内科学講師   ** 同教授

要  旨
 消化器疾患における遺伝子異常の研究は,悪性腫瘍の分子メカニズムの解明,腫瘍マーカーの探索などを中心に多岐にわたって行われており,一部で分子標的薬の治療効果も検討されている.中でも食道,胃,肝臓,大腸,膵臓においては発癌を促進する分子病態の解析が進められており,その過程で観察されるジェネティック,エピジェネティックな変化や新たなmicro RNA分子の関与が示唆されている.

目次へ戻る


総論
消化器癌と遺伝子不安定性

山本博幸*1 前畑忠輝*1*2 沖 真理子*1 宮本千絵*1 阿久津典之*1
伊東文生**2 篠村恭久**1  今井浩三*3

*1 札幌医科大学医学部内科学第一講座  **1 同教授 
*2 聖マリアンナ医科大学医学部消化器肝臓内科学  **2 同教授  *3 札幌医科大学学長

要  旨
 染色体の構造や数の変化および遺伝子変異が起きやすい病態である遺伝子不安定性は,癌の主要な特徴であるとともに多くの癌の原因と考えられている.ヒト消化器癌は,染色体不安定性とマイクロサテライト不安定性を基盤とした発癌経路に大別される.臨床的にも予後,抗癌剤感受性などの点で両者を区別することは重要である.それぞれの発癌経路にかかわる分子異常を,エピジェネティックな異常との関連も含め解説する.

目次へ戻る


総論
消化器癌とDNAメチル化異常

牛島俊和***  中島 健*   大河内(高田)江里子**
*  国立がんセンター研究所発がん研究部  ** 同室長  *** 同部長

要  旨
 DNAメチル化は発生・分化の基本的仕組みであり,細胞分裂時に複製され,遺伝子発現を制御する.ひとたびDNAメチル化異常が誘発されると,その異常は安定して伝達されるために,突然変異同様,発癌に関与する.消化器癌にはDNAメチル化異常が深く関与することが知られてきたが,慢性炎症が重要な誘発因子であることが分かってきた.癌の存在診断,性質診断,リスク診断への応用が始まっている.

目次へ戻る


総論
消化器癌転移と遺伝子異常

福井広一**  勝又大輔*   藤盛孝博***
* 獨協医科大学病理学(人体分子)  ** 同講師  *** 同教授

要  旨
 癌の浸潤・転移メカニズムの解明は,癌治療の開発に必須である.癌の浸潤・転移には,原発巣からの離脱,浸潤,脈管内移行,2次臓器での浸潤・増殖といった多くのステップがあり,さまざまな因子が各ステップで重要な役割を果たしている.本稿では,癌の浸潤・転移過程で重要な遺伝子異常について,各ステップ別に最近の知見を概説した.

目次へ戻る


各論
胃食道逆流症と発現遺伝子異常


内藤裕二*1   吉川敏一**1*2
*1 京都府立医科大学生体機能分析医学講座助教授  
**1 同教授  *2 同生体機能制御学教授

要  旨
 DNAマイクロアレイによる解析から得られた食道粘膜上皮細胞応答にかかわる遺伝子発現異常について解析した.食道扁平上皮細胞は,酸,胆汁酸,トリプシンなどに応答して種々の細胞内シグナル伝達経路を活性化させ,その結果として変動する遺伝子発現は,食道粘膜炎症反応,細胞増殖,癌化などの病態に密接に関与していることが明らかになりつつある.

目次へ戻る


各論
Gastrointestinal stromal tumor と遺伝子異常


礒崎耕次*1*2  廣田誠一 **1
*1 兵庫医科大学病院病理部  **1 同教授  *2 兵庫県医師会生涯教育委員会

要  旨
 消化管間葉系腫瘍のほとんどは gastrointestinal stromal tumor(GIST)であり,カハールの介在細胞を細胞起源とする.大半のGISTの発生機構には,c-kit遺伝子の機能獲得性変異による c-kit 遺伝子産物(KIT)の恒常的な活性化が関与している.また一部のGISTでは,PDGF受容体α(PDGFRα)遺伝子の機能獲得性変異が関与している.メシル酸イマチニブはKITやPDGFRαの機能を阻害し,GISTに対して抗腫瘍効果を示す.

目次へ戻る


各論
胃癌と遺伝子異常

妹尾 浩*  千葉 勉**
* 京都大学大学院医学系研究科消化器内科  ** 同教授

要  旨
 胃癌は世界で最も頻度の高い癌の1つである.大部分の胃癌はHelicobacter pyloriの感染による数十年に及ぶ慢性炎症の結果発症する.持続する炎症がinitiation,promotion,progressionのすべてにかかわり,多様な遺伝子異常・増幅が積み重なった結果が胃癌である.本稿ではEカドヘリンなど,よく取り上げられる遺伝子の異常を中心に概説する.

目次へ戻る


各論
肝臓癌の遺伝子異常

緑川 泰*1*2  幕内雅敏**2  油谷浩幸**1

*1 東京大学先端科学技術研究センターゲノムサイエンス部門  **1 同教授
*2 東京大学医学部附属病院肝胆膵外科  **2 同教授

要  旨
 我が国における肝臓癌はウイルス性肝炎を発生母地とし,多段階発癌の形式をとることが多く,肝発癌の成因として肝炎ウイルスの関与や既知の癌遺伝子・癌抑制遺伝子の異常に加えて,マイクロアレイ技術の普及により肝癌関連新規遺伝子が多数報告されるようになっている.さらに肝切除や化学療法などの治療効果や予後予測のための遺伝子セットの選定も試みられ,実験室での癌の解析のみならず癌治療の臨床現場でも,包括的な遺伝子発現解析の導入による個別化医療が実現する日が近いと思われる.

目次へ戻る


各論
肝疾患と発現タンパク質・遺伝子発現異常

本多政夫*1**2  山下太郎*2  上田晃之*2  川口和紀*2   西野隆平*2  
鷹取 元*2  皆川宏貴*3   金子周一***2

*1 金沢大学大学院医学研究科感染症病態学助教授  *2 同消化器内科  
**2 同助教授 ***2 同教授  *3 NEC 基礎・環境研究所

要  旨
 Serial Analysis of Gene Expression(SAGE)法やcDNAマイクロアレイを用いて,慢性肝炎,肝細胞癌の網羅的遺伝子解析を行っている.パスウェイ解析を通して,B型肝炎とC型肝炎のシグナルパスウェイの違いが明らかとなった.また,超微量臨床サンプルを用いて網羅的遺伝子発現解析を行うことが可能であり,日常診療への応用が期待できる.さらにプロテオーム解析を加えることにより,遺伝子発現と病態との関連,新たなバイオマーカーの同定が可能となることが期待される.

目次へ戻る


各論
大腸癌と遺伝子異常


池上恒雄*   小俣政男**
* 東京大学大学院医学系研究科消化器内科  ** 同教授

要  旨
 大腸癌は,APC,K-RAS,TP53をはじめとする複数の癌関連遺伝子の異常が蓄積されて生じる.また,癌化にはマイクロサテライト不安定性と染色体不安定性という2種類の遺伝子不安定性が関与している.近年,B-RAF,PIK3CA遺伝子変異や,B-RAF変異と密接にかかわる hyperplastic-serrated pathway という大腸癌発生機序など新たな知見が得られており,大腸癌発生の分子機構の解明には一層の進展が見られている.

目次へ戻る


各論
大腸癌における発現遺伝子・発現タンパク質異常の体系的解析


竹政伊知朗*1  渡辺 真*2  池田正孝*1  山本浩文*1  関本貢嗣**1  
西村 紀**2  門田守人***1
*1 大阪大学大学院医学系研究科消化器外科  **1 同助教授 ***1 同教授 
*2 大阪大学蛋白質研究所 **2 同教授

要  
 ヒトゲノムの完全解読に伴い,遺伝子,タンパク質の各レベルのデータベースが整理され,DNAチップや質量分析法などハイスループットな解析法の技術革新を背景に,ヒト全遺伝子を対象としたトランスクリプトーム解析,プロテオーム解析が近年の癌研究において重要な役割を担っている.大腸癌でも,発育・進展過程における遺伝子・タンパク質発現異常の体系的な研究は,新しい分子マーカーの探索,癌診断・治療への応用が期待される.

目次へ戻る


各論
膵癌における遺伝子異常


佐藤賢一*  下瀬川 徹**
* 東北大学大学院消化器病態学分野  ** 同教授

要  旨
 膵癌は消化器癌の中でも最も予後の悪い癌の1つである.早期発見が困難であり,診断時には局所進展や遠隔転移から手術不能の場合も多い.早期診断や治療への応用を目的に,膵癌の遺伝子異常についての多数の報告がある.ここでは網羅的な遺伝子検索の結果なども含め,最近の膵癌の発生・進展に関与する遺伝子異常について代表的なものを述べた.

目次へ戻る


各論
膵癌におけるタンパク質・遺伝子発現の網羅的解析


間野博行*
* 自治医科大学ゲノム機能研究部教授

要  旨
 ヒトゲノムプロジェクトの完成に伴い,膨大なゲノム情報を利用したゲノミクス解析・プロテオミクス解析が急速に開発されつつある.これら手法を用いた膵癌の解析も報告されており,例えばDNAマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現プロファイリングを用いて膵癌特異的発現を示す遺伝子の同定,あるいは質量分析器を利用した膵癌特異的タンパク質マーカーのスクリーニングなどが報告されている.

目次へ戻る


各論
炎症性腸疾患と遺伝子異常


土屋輝一郎*   渡辺 守**
* 東京医科歯科大学医学部付属病院消化器病態学  ** 同教授

要  旨
 炎症性腸疾患は近年本邦においても増加傾向にある難治性の慢性疾患である.有効な治療法の開発が望まれているが,そのためにも発症原因,病態解明が急務と思われる.その1つの方策として家族内発症に着目し,遺伝子連鎖解析にて複数の感受性遺伝子が明らかにされてきた.遺伝子異常から機能異常まで解明されつつある領域もあり解析は進んでいるが,民族間の差異,疾患ごとの差異等いまだ解明されていない問題点も多く残るのが現状である.今後,複数の変異遺伝子の相互関係や原因遺伝子の機能解析が重要と思われる.

目次へ戻る




対談
生活習慣病の現状と未来(第19回)
日本人の性習慣と健康


ゲスト  北村 邦夫 先生(家族計画協会クリニック)
聞き手  香川 靖雄 先生(女子栄養大学 副学長)

 北村先生は日本家族計画クリニックという現場で実際に青少年の性に関わる問題に取り組んでおられる一方で、青少年問題の政府関係委員も歴任されています。  現在、子供の数が1700万人といわれている日本の少子化問題は様々な議論がなされていますが、北村先生はその原因の一つにセックスレスがあると指摘されています。実際の婚姻関係にあるカップルを対象にした調査で最近1ヶ月で性交渉のないカップルは32%、更に19%は1年以上セックスレスの状態との報告もあります。
 また年間平均セックス回数も世界41か国中最下位の45回(世界平均は103回)とダントツに少ない回数との事で、そこに日本の少子化問題の根本があると北村先生は心配されています。更に分析の結果、セックスレスのカップル間では避妊・妊娠についてお互いに充分話し合いが出来ていないケースが多いことを指摘されています。
 このほかにもピルの意外な疾患予防効果など教科書にはまだ書かれていないお話についても伺いました。是非、お読み下さい。
 聞き手は女子栄養大学副学長 香川靖雄先生です。

目次へ戻る