最新医学61巻10号 
特集 動脈硬化症-成因解明と治療のフロンティア- 

要  旨


アプローチ
動脈硬化にどう取り組むか

石垣 泰*   岡 芳知**

* 東北大学大学院医学系研究科分子代謝病態学分野 ** 同教授

要  旨
 動脈硬化発症には,血管壁の炎症と酸化LDLのマクロファージへの取り込みが重要である.動脈硬化予防にはLDLコレステロール低下に加えて,肥満をベースに複数の代謝異常を合併したメタボリックシンドロームの管理が提唱されている.診断・治療の分野では新たな画像診断法や治療法が開発され,より精密な診断,成績の向上が可能となっている.本稿では動脈硬化を取り巻く現状について,成因,診断,評価,治療の点から概説した.

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成因解明:どこまで分かったか
高脂血症から見た粥状動脈硬化

北  徹*
* 京都大学大学院医学研究科循環器内科 教授

要  旨
 高脂血症と粥状動脈硬化の関係は,以前より実験動物を用いた研究から,高コレステロール血症との関係が明らかにされてきた経緯がある.またその過程で,血球細胞と血管構成細胞との関係が細胞生物学レベルで検証されてきた.一方臨床的には,家族性高コレステロール血症の研究がこの方面の研究を加速する結果になった.LDL受容体異常により惹起される本症は,血中LDL値が上昇し,結果的に粥状動脈硬化が早期に進み,その死因の大部分が心筋梗塞であることが特徴である.本症の病態解明を分子レベルで進めたGoldstein,Brown両博士の精力的な研究から,粥状動脈硬化の病態も次第に解きほぐされてきたと言えよう.またその間のマウスを中心とした発生工学研究の進歩により,粥状動脈硬化の分子レベルでの検証が進み,今日を迎えている.本症ではこれらの進歩について概説したい.

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成因解明:どこまで分かったか
糖尿病から見た動脈硬化

山田信博*
* 筑波大学大学院内分泌代謝・糖尿病内科 教授

要  旨
 糖尿病における動脈硬化の成立には,高血糖に基づく病態とともに,高脂血症,高血圧,インスリン抵抗性の関与も重要と考えられる.生活習慣の是正に始まり,血糖,高脂血症,高血圧の管理,さらに循環動態や血管病態へのアプローチも含めた包括的治療が求められている.特に血糖管理はしばしば困難であることから,境界型の時点から糖尿病発症予防の努力や,糖尿病と診断された時点での十分な患者への教育が重要である.

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成因解明:どこまで分かったか
高血圧から見た動脈硬化

石川一彦*1*2  楽木宏実**1  荻原俊男***1
*1 大阪大学大学院医学系研究科老年腎臓内科  **1 同助教授 ***1 同教授
*2 大阪大学医学部付属病院総合診療部

要  旨
 高血圧に関連する動脈硬化は,従来からよく知られているレニン・アンジオテンシン系だけでなく,近年メタボリックシンドローム,酸化ストレス,血管内皮障害,アポトーシス,脂質代謝異常などが複雑に絡み合うことにより促進される.それぞれの病態を詳細に検討し,どのような遺伝子やサイトカイン,情報伝達物質が影響しているかを調べることにより,高血圧によって各臓器に発症する動脈硬化性疾患を抑制することが可能になる.

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成因解明:どこまで分かったか
動脈硬化関連遺伝子のゲノム解析


田原康玄*1  三木哲郎*2
*1 愛媛大学大学院医学系研究科統合医科学講座 講師
*2 同生命多様性医学講座加齢制御内科学 教授

要  旨
 動脈硬化の発症・進展には複数の遺伝因子が関与している.アポリポタンパク質Eやアンジオテンシン変換酵素,メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素などは,遺伝子上の多型性マーカーを用いて動脈硬化性疾患との相関が多角的に検討されてきた代表と言えよう.反面,いまだ感受性遺伝子としてコンセンサスの得られたものはない.疾患と遺伝因子とを直接的な相関としてとらえるのではなく,環境因子を含めたネットワークとして疾患発症モデルを構築していくことが,これからの疾患感受性遺伝子解析において必要であろう.

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成因解明:どこまで分かったか
動脈硬化発症にかかわるプレーヤー 1. PPARs


高橋貞夫*1  酒井寿郎*2
*1 福井大学医学部病態制御医学・第三内科 講師
*2 東京大学先端科学技術研究センターシステム生物医学ラボラトリー代謝・内分泌分野 教授

要  旨
 PPARsは α,γ,δの3種類が存在し,PPARα・PPARγアゴニストの動物モデル,ヒトにおける動脈硬化抑制作用が確認されている.最近,PPARδアゴニストの筋肉,脂肪組織における脂肪酸代謝亢進作用が注目され,肥満の抑制作用とともに抗動脈硬化作用が期待されている.

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成因解明:どこまで分かったか
動脈硬化発症にかかわるプレーヤー 2. 酸化ストレス

久米典昭*
* 京都大学大学院医学研究科循環器内科学 講師

要  旨
 酸化ストレスと炎症は,相互に作用しながら動脈硬化プラークの進展とプラーク破綻を促進する.血中のLDLの増加は重要な危険因子であるが,中でも血管壁での酸化ストレスの亢進を伴う酸化LDLの増加が,脂質の蓄積のみならず催炎症性の変化を惹起することでプラーク破綻の主因となる.このような病態のマーカーとして,酸化ストレスや炎症性の指標のみならず,可溶型酸化LDL受容体などの有用性が提示されている.

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成因解明:どこまで分かったか
動脈硬化発症にかかわるプレーヤー 3. アディポサイトカイン

木原進士*

* 大阪大学大学院医学系研究科内分泌・代謝内科学

要  旨
 メタボリックシンドロームは動脈硬化性血管病のもととなる病態である.「なぜ内臓脂肪過剰蓄積が血管病につながるのか」という問いに対する答えが,「アディポサイトカインの異常」である.アディポサイトカインには,内臓脂肪蓄積に伴って増加する多くの炎症性因子と,唯一減少するアディポネクチンがある.アディポネクチンは抗動脈硬化作用を有しており,病態評価の指標となるとともに,治療の標的分子となることが期待される.

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成因解明:どこまで分かったか
動脈硬化発症にかかわるプレーヤー 4. 血管平滑筋細胞

藤生克仁*
* 東京大学医学部附属病院循環器内科

要  旨
 動脈硬化の予防・治療法を検討するには,動脈硬化において劇的に形態を変化させ,増殖を始める(形質変換)血管平滑筋細胞の分子メカニズムを研究することが重要である.平滑筋細胞の分化,形質変換に重要な因子が種々同定されているが,多くの成長因子,転写因子,核内受容体,転写共役因子,細胞内イオン濃度などが総合して転写ネットワークを形成し,病態形成がなされることが明らかとなってきている.

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成因解明:どこまで分かったか
動脈硬化発症にかかわるプレーヤー 5. マクロファージ
−高血圧とマクロファージの新たな関係−

渡部琢也*   宮崎 章**
* 昭和大学医学部生化学教室 助教授 ** 同教授

要  旨
 高血圧により単球・マクロファージの機能が変化し,動脈硬化の発症・進展が促進される.圧負荷などの物理的刺激やアンジオテンシンUなどの血管作動性物質により,単球・マクロファージには内皮細胞への接着,細胞内コレステロールエステル蓄積(泡沫化)を促進する遺伝子発現変化が生じる.すでに降圧薬として使用されている血管作動性物質の受容体拮抗薬には,マクロファージを標的とした抗動脈硬化作用が想定される.

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治療のフロンティア
スタチンによる動脈硬化治療の最前線


石井秀人*   吉田雅幸**
* 東京医科歯科大学生命倫理研究センター 助手 ** 同教授

要  
 高コレステロール血症低下薬のスタチンは,血中LDLコレステロール値低下作用のほか,直接血管壁に対する効果があると言われ,その多面的作用の抗動脈硬化作用が注目されている.本稿ではスタチンの高脂血症治療薬としての機能に加え,プレイオトロピック効果(多面的作用)としての血管壁への直接作用を述べ,動脈硬化症に対するスタチン治療について解説する.

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治療のフロンティア
PCI後再狭窄と薬剤溶出ステント


小島貴彦*   代田浩之**
* 順天堂大学医学部循環器内科 ** 同教授

要  旨
 再狭窄はカテーテル治療が始まった当初からの懸案であった.薬剤溶出ステント(DES)は支持力によりリコイルを予防するステントの特性を活かしつつ,新生内膜増殖を防ぐ薬剤を局所的に放出することで再狭窄を抑制する.大規模臨床試験の結果,再狭窄率や長期のイベントの発症を著明に低下したが,新たにDES特有の問題点も認められるようになった.今後これらの点を克服する新しいDES補充療法の開発によって,イベントの発症率のさらなる低下が期待される.

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治療のフロンティア
血管の再生医療


曽根正勝*1  伊藤 裕*2
*1 京都大学大学院医学研究科内分泌代謝内科
*2 慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科 教授

要  旨
 血管の再生治療は,大別して血管新生因子による遺伝子治療と細胞移植治療に分けられる.両手法とも動物実験では有効な結果が得られ,ヒトでの臨床試験の段階に入っている.しかし一方で,前者は大規模臨床試験での効果が期待されていたほどではない例が多く,後者の効果は細胞移植により惹起されるサイトカイン分泌によるものであるという報告もある.それぞれの治療法について,その機序や効果をもう一度整理し直す時期に来ている.

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治療のフロンティア
動脈硬化症への創薬
-ACAT阻害薬,CETP阻害薬-


横出正之*
* 京都大学医学部附属病院探索医療センター探索医療臨床部 教授

要  旨
 動脈硬化性疾患は癌とならぶ死因となっており,その治療法の開発には多くの研究分野からの参入が試みられてきた.我が国で創薬開発が行われたスタチンは,動脈硬化性疾患の標準治療となった感があるが,さらに国内外で新たな創薬の試みが行われている.本稿では,新たな治療法開発の中で CETP阻害薬とACAT阻害薬の展望と問題点について,最近の知見を交えて述べたい.

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治療のフロンティア
日本における動脈硬化性疾患の初発抑制のエビデンス
-MEGA Study-

中村治雄*   MEGA Study Group
* 三越厚生事業団

要  旨
 血清総コレステロール値 220〜270mg/dlの男女7,832人(女性 68.5%)を,無作為に食事療法群と食事療法+プラバスタチン(10〜20mg/日)群に分け,5.3年追跡した.総コレステロールは 12%,LDLコレステロールは18%減少し,冠動脈疾患の発症は相対リスクで33%減少(NNT=119)した.脳卒中は11%減少(5年後で35%減少,NNT=180)し,総死亡は28%減少(5年後で32%減少,p=0.048)した.男女ともに同程度の傾向で,安全性に問題はなかった.

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治療のフロンティア
日本における動脈硬化性疾患の発症抑制のエビデンス
-JELIS-

横山光宏*   JELIS 研究グループ
* 神戸大学大学院医学系研究科循環動態医学講座
                        循環呼吸器病態学分野 教授

要  旨
 JELIS(The Japan EPA Lipid Intervention Study)は,日本人の高脂血症患者を対象にスタチンを両群に投与し,イコサペンタエン酸(EPA)長期投与が主要冠動脈イベントを有意に 19% 抑制することを証明した大規模介入臨床試験である.この画期的な報告は,日本人のエビデンスに基づいたガイドラインを作成するうえで極めて重要な成績である.

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対談
生活習慣病の現状と未来(第19回)
日本人の循環器疾患の遺伝子


ゲスト  森崎 隆幸 先生(国立循環器病センター)
聞き手  香川 靖雄 先生(女子栄養大学 副学長)

 森崎先生は単一遺伝子病、特にマルファン症候群研究において大きな成果を上げられ、現在も全国規模のナショナルプロジェクトで高血圧症に関わる遺伝子について精力的に研究を進められています。
また、一方で「ヒトゲノム解析研究に関する共通指針(案)作業委員会」の委員として指針策定にも関与されました。「研究と倫理」両方のお立場から現行制度の問題点や実際研究を進めていく上でのご苦労などお話頂きました。  このほかにもテーラーメード医療に関して予防医学と現行の健康保険制度の矛盾点など大変興味深いお話についても伺いました。是非、お読み下さい。
 聞き手は女子栄養大学副学長 香川靖雄先生です。

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