最新医学61巻11号 
特集 肺癌治療-新たな治療体系確立への展開- 

要  旨


アプローチ
分子生物学の進歩と肺癌治療

西尾和人**  荒尾徳三*

* 近畿大学医学部ゲノム生物学教室講師 ** 同教授

要  旨
 分子生物学の進展により肺癌治療における個別化に向けて,ファーマコゲノミクス研究の体制が整えられつつある.臨床試験におけるバイオマーカーを用いた研究が重要となってきた.今後実施する臨床試験のデザインから実施,解析,検証に至る過程で,注意深く実施する必要がある.

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肺癌治療への分子病理学的アプローチ

谷田部 恭*
* 愛知県がんセンター遺伝子病理診断部

要  旨
 腫瘍分子生物学の進歩により,癌の増殖・浸潤・転移の分子メカニズムが明らかにされつつある.これらの結果は分子標的療法として臨床的な応用が進められており,その遺伝子変化は効果予測因子としても用いられている.一方で,その遺伝子変化は肺癌の多くをカバーしうる分子マーカーとして用いることも可能である.そこでその変化を分子マーカーとして使うことで,肺癌診断をより正確に行い,治療に役立てる方法について概説した.

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トランスレーショナル研究技法としての組織アレイとその癌治療への応用

福岡順也**  坂井祐太*   熊谷直子*  
川村しのぶ*   堀  隆*

* 富山大学附属病院病理部 ** 同診療教授

要  旨
 ポストゲノム時代に突入し,癌撲滅に向けた研究が加速度的に進んでいる.充実した遺伝子やタンパク質の情報が手に入る現在,網羅的解析によって膨大なデータが蓄積されているが,その一端を担う組織アレイは基礎研究と臨床をつなぐトランスレーショナルな研究ツールであり,バイオマーカー,予後・治療因子の特定に大きく貢献する.組織アレイにより蓄積するデータは,癌を個別化し治療するオーダーメード医療につながる可能性がある.

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肺癌に対する胸腔鏡下手術
Hybrid VATS の適応と限界

岡田守人*
* 兵庫県立成人病センター呼吸器外科長

要  旨
 癌手術の質とは根治性と侵襲のバランスであり,その成果として得られる最大限の予後とQOLの維持にほかならない.しかるに,今話題の胸腔鏡下手術(VATS)は術式や手術内容とは無縁のアプローチの1つにすぎない.我々は手術の質を落とさずに,より多様な病態(気管支形成,区域切除,進行癌手術など高難度手術)へ適用することによって,結果的により多くの症例に採用可能となる低侵襲アプローチとして直視重視のHybrid VATSを施行し,優れた低侵襲性と良好な長期成績を得た.

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早期非小細胞肺癌の術後補助化学療法


多田弘人*
大阪市立総合医療センター呼吸器外科

要  旨
 非小細胞肺癌に対する術後補助化学療法は,長い間その有効性が確立されていなかった.2004年以降に,新規抗癌剤を用いた補助化学療法で初めて有効であることが証明された.一方,本邦では術後補助化学療法としてUFTを用いたところ,有効性が証明されている.今後,分子標的薬剤を用いた補助化学療法の試験が開始予定である.術後補助化学療法は標準治療として確立されており,今後ますます重要性は高くなるものと考えられる.

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早期肺癌に対する定位放射線治療


松尾幸憲*   平岡眞寛**
* 京都大学大学院医学研究科放射線腫瘍学・画像応用治療学 ** 同教授

要  旨
 定位放射線治療は,早期肺癌に対する治療法の1つとして重要な役割を担いつつある.高い固定精度のもと,1回大線量少分割照射を行うことで良好な治療成績が得られている.また,低侵襲治療で安全性も高いと考えられる.しかしながら,長期的な臨床成績はまだ定まったものではなく,現在日米それぞれにおいて進行している多施設共同臨床試験の結果が待たれる.

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局所進行非小細胞肺癌に対する化学放射線療法の新展開

村上晴泰*   山本信之*
* 静岡県立静岡がんセンター呼吸器内科

要  旨
 切除不能で根治的胸部放射線療法が可能な局所進行非小細胞肺癌に対する治療は,胸部放射線療法単独から化学療法と放射線療法の異時併用療法,同時併用療法といった変遷を経て着実に進歩しているが,その治療成績はいまだ満足できるものとは言い難い.最適な薬剤の選択,投与法,併用時期,放射線照射スケジュールなど検討すべき課題は多く,臨床試験によって明らかにしていく必要がある.

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進行非小細胞肺癌における殺細胞性抗癌療法の展望

福山 税*   大江裕一郎*

* 国立がんセンター中央病院肺内科

要  旨
 現在,進行非小細胞肺癌に対しては殺細胞性抗癌剤(cytotoxic drug)による化学療法が標準的な治療とされており,殺細胞性抗癌剤の進歩が非小細胞肺癌の治療成績向上には不可欠である.エポチロン系薬剤,kinesin spindle protein 阻害剤などの新規抗癌剤や既存の抗癌剤の効果を増強するためのドラッグデリバリーシステム(DDS)製剤などの新しい殺細胞性抗癌剤が開発中である.分子標的薬が目覚ましい発展を遂げているが,今後も殺細胞性抗癌剤が非小細胞肺癌の化学療法で果たす役割は大きいと考えられる.

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EGFRを標的とした肺癌治療の展望

田村研治*
* 近畿大学医学部奈良病院腫瘍内科 講師

要  旨
 EGFRチロシンキナーゼ阻害薬であるゲフィチニブまたはエルロチニブは,再発非小細胞肺癌に対して高い奏効率を示した.しかし海外における比較第V相試験では,エルロチニブのみが有意に生存期間の延長を示した.EGFRキナーゼドメインにあるエキソン 19 またはエキソン21の特定領域の変異は,これらの薬剤の奏効の予測因子であることが示された.EGFR抗体療法は従来の抗癌剤との併用の有用性が検討される.

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VEGFを標的とした肺癌治療の展望

中西洋一***  本田泰子* 三橋尚美*   
高山浩一**

* 九州大学大学院医学研究院臨床医学部門内科学講座呼吸器内科学分野
** 同講師 *** 同教授

要  旨
 癌細胞の旺盛な増殖能は大量の酸素消費やエネルギー消費のもとで実現可能な事象であるが,これを支えるのが血管新生である.最近,VEGFを標的とした肺癌治療の臨床応用が開始され,その一部については大規模比較試験において有用性が証明された.近い将来,このアプローチは肺癌の標準的治療法の一翼を担うことと期待される.本稿では,肺癌における血管新生抑制に向けての最新の治療戦略を概説する.

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大細胞神経内分泌癌の治療戦略 -病理病態からみた考察-


淺村尚生*
* 国立がんセンター中央病院呼吸器外科

要  
 大細胞神経内分泌癌(LCNEC)は,小細胞癌(SCLC)とともに神経内分泌学的特性を持つ肺癌の1つと考えられている.肺癌のWHO組織学分類では大細胞癌の亜型として分類され,したがって非小細胞癌として取り扱われている.病理学的にはLCNECと SCLCの鑑別は必ずしも容易でなく,これら両者の生物学的な異同は明らかではない.SCLCは化学療法,放射線治療に極めてよく反応することが知られているが,果たしてLCNECについても同様の治療反応性があるのかどうかは,なお検討を要する課題である.比較的早期のT期,U期のLCNECについては外科切除によってSCLCと同様の予後を示すことが知られているが,これらに対する術後補助療法についてもそのレジメン,必要性は明らかではない.

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限局型小細胞肺癌に対する集学的治療の展望


伊東猛雄*   久保田 馨*
* 国立がんセンター東病院呼吸器科

要  旨
 限局型小細胞肺癌(LD-SCLC)の標準治療は化学放射線療法であり,シスプラチン+エトポシド+胸部放射線加速過分割照射同時併用療法で最も良好な成績が報告されており,一般診療においても推奨される.塩酸イリノテカンをはじめとした殺細胞性抗癌剤や分子標的薬剤の集学的治療への応用が現在検討中である.

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進展型小細胞肺癌の治療


根来俊一*
* 兵庫県立成人病センター呼吸器科部長

要  旨
 進展型小細胞肺癌(ED-SCLC)に対する化学療法について述べた.全身状態良好な ED-SCLCに対する我が国における初回標準的化学療法は,塩酸イリノテカン+シスプラチンの2剤併用である.米国では依然としてエトポシド+シスプラチン併用とされている.今後SCLCに対する塩酸アムルビシンの役割を,我が国を中心として明らかにする必要がある.分子標的薬の今後の進展に期待したい.

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将来展望


西條長宏*
* 国立がんセンター東病院副院長

要  旨
 数多くの分子標的治療薬の導入にもかかわらず,肺癌の治療成績向上に与えるインパクトは大きくない.しかし,EGFR変異例に対するEGFR-TKIの効果には目をみはるものがある.今後適切な分子標的を同定し,それを選択的に抑制することが治療効果向上に結びつくことを,臨床試験で証明する必要がある.

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対談
生活習慣病の現状と未来(第20回)
日本人のメタボリックシンドロームの定義


ゲスト  松澤 祐次 先生(住友病院 院長)
聞き手  香川 靖雄 先生(女子栄養大学 副学長)

  松澤先生は世界におけるメタボリックシンドローム研究の第一人者として、日本人のメタボリックシンドロームの診断基準策定にご尽力されました。今回はメタボリックシンドロームの概念・定義・そして日本人の診断基準策定までのお話やこれからの対応などいろいろお話を伺いました。
 特に今回のメタボリックシンドロームの診断基準についてはセンセーショナルな報道により本質でない議論が先行していることを松澤先生は憂いておられます。メタボリックシンドロームとは一体何なのかその本質について松澤先生に詳しく解説して頂きました。
 新聞報道とは違うメタボリックシンドロームの本質が見えてきます。是非、本誌を手にとってお確かめ下さい。
 聞き手は女子栄養大学副学長 香川靖雄先生です。

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