最新医学61巻12号 
特集 アルツハイマー病研究の最前線

要  旨


アプローチ
アルツハイマー病研究の過去・現在・未来

岩坪 威*

* 東京大学大学院薬学系研究科臨床薬学教室 教授
要  旨
 2006年にはアルツハイマー病の記載百周年に因んで,チュービンゲンにおける記念集会やアルツハイマー病特集誌の出版事業などが行われる.これらの活動を通してアルツハイマー病研究の歴史と現状,そして根本治療を指向した今後の方向性について展望し,特に客観評価法の策定を目的として開始されるJ-ADNI研究についても言及する.

目次へ戻る



認知症の疫学

浦上 克哉*
* 鳥取大学医学部保健学科生体制御学講座環境保健学分野 教授

要  旨
 近年の疫学調査から,認知症は著しく増加し,病型では脳血管性認知症に代わってアルツハイマー型認知症が多くなってきている.アルツハイマー型認知症の危険因子について,加齢,頭部外傷,アルツハイマー型認知症の家族歴,母親の高齢出産,ダウン症候群,アポリポタンパク質E4などが報告されているが,両親の高齢出産や喫煙は重要と考えられる.調査法の問題点としてスクリーニング段階で認知症患者がもれており,その解決策としてタッチパネル式コンピューターを用いた簡易スクリーニング法が有用と考えられる.また,この機器を利用した認知症予防検診および予防教室は認知症の早期発見,早期治療に役立ち,さらに予防による経済効果も大いに期待される.

目次へ戻る



認知症による社会負担

下方 浩史*

* 国立長寿医療センター研究所疫学研究部 部長

要  旨
 平均寿命が延びて高齢者の数が増える中で,認知症の患者数も今後飛躍的に増大するものと思われる.今後15年間で認知症にかかわる介護費用は倍増し,年間10兆円に達するとも予想される.その一方で,認知症の発症を2年遅らせるということの経済効果は年間1兆円以上にもなると考えられる.認知症は介護者の精神的・肉体的負担も大きい.Zarit介護負担尺度などが用いられ,介護負担の大きさについての検討がなされるようになった.最近では,認知症患者の車の運転による交通事故の問題なども増えている.

目次へ戻る



認知症の病理概念の変遷

村山 繁雄*1  齊藤 祐子*2
*1 東京都老人総合研究所高齢者ブレインバンク
*2 東京都老人医療センター剖検病理科

要  旨
 認知症の病理概念の変遷は,脳の萎縮・変性部位と臨床症状とを対応させることで疾患概念を確立しようとする機能解剖学的アプローチと,異常蓄積する物質ならびにその過程に注目し分類していく生化学的アプローチの両方が併存してきた.ゲノム研究の発展に伴ってこの両者ともに正しいことが実証されつつあり,第3のアプローチとしてのゲノムプロファイルの構築が認知症病理に新しい展開をもたらしつつある.

目次へ戻る



認知症の分子病態の多様性


玉岡 晃*
* 筑波大学臨床医学系神経内科 教授

要  旨
 認知症の原因疾患には,脳内蓄積物質の存在によって特徴づけられるものがある.また,家族性に発現する認知症の原因遺伝子産物が,前述の蓄積物質と一致することが明らかにされてきた.これらの知見は,認知症脳に蓄積する分子が認知症の病因物質あるいは病因関連物質であることを強く示唆するものであり,このような分子の異常が発現する機構や神経細胞を障害する機序を明らかにすることが,認知症の治療や予防の開発に重要である.

目次へ戻る



アミロイドβタンパク質とアミロイド形成


柳澤 勝彦*
* 国立長寿医療センター研究所副 所長

要  旨
 アミロイドβタンパク質(Aβ)の脳内蓄積は,アルツハイマー病の中核的病理所見である.しかしながら,本来可溶性の Aβが重合して不溶性のアミロイド線維となり,老人斑の形成にまで至る分子機構の詳細は依然不明である.これまでの研究では,アルツハイマー病患者の大部分を占める孤発性アルツハイマー病において,Aβの産生や処理過程に明白な異常は認められていない.脳内における Aβ の重合と蓄積は老化に依存し,領域特異的に生じる現象である.この時空間的特性に重要な解決の緒が隠されているのかもしれない.

目次へ戻る



セクレターゼによる APP プロセシング

富田 泰輔*
* 東京大学大学院薬学系研究科臨床薬学教室 助教授

要  旨
 アルツハイマー病患者脳に蓄積する老人斑の主要構成成分は,アミロイドβタンパク質(Aβ)である.遺伝学・生化学的解析から,Aβ産生および蓄積過程がアルツハイマー病発症に深く関与していることが示唆されている.そのためAβ産生にかかわるβ,γセクレターゼは重要な創薬ターゲットと考えられてきた.近年になってこれらセクレターゼの分子的な実態が明らかとなり,その特異的な阻害剤も開発され始め,米国ではごく最近治験が開始されている.

目次へ戻る



アミロイド分解機構とアルツハイマー病

黄 樹明*   岩田終永*   西道隆臣**

* 理化学研究所脳科学総合研究センター神経蛋白研究チーム ** 同リーダー

要  旨
 アミロイドβペプチド(Aβ)の蓄積は,アルツハイマー病の発症に中核的役割を果たす.最近,脳内のAβ分解システムが明らかにされ,Aβ分解活性の低下がAβ蓄積をもたらし,アルツハイマー病発症に深くかかわるとする知見が集積してきた.本稿では,Aβ分解酵素ネプリライシンによるAβ分解機構とアルツハイマー病発症との関連性,およびこの分解システムを用いた治療戦略について概説する.

目次へ戻る



ApoEとコレステロール・膜ラフト

櫻井 隆*1*2
*1 順天堂大学医学部薬理学講座
*2 理化学研究所脳科学総合研究センター構造神経病理研究チーム

要  旨
 アルツハイマー病の遺伝的危険因子としてのApoE4の発見や,スタチン服用群でアルツハイマー病有病率が低いという疫学調査報告以後,動物・細胞モデルを用いた実験を通してApoE,コレステロール代謝とアミロイドβペプチド(Aβ)産生・沈着の密接な関連が明らかにされてきた.脳内コレステロール代謝の特殊性,ApoE の役割および膜ラフトと呼ばれるコレステロールに富む膜のマイクロドメインとAPP代謝との関連について概説する.

目次へ戻る



タウタンパク質

高島 明彦*
* 理化学研究所脳科学総合研究センター
  アルツハイマー病研究チーム チームリーダー

要  旨
 タウタンパク質は,アルツハイマー病の病理的変化の1つである神経原線維変化の主要な構成成分である.神経原線維変化が生じる脳の領域内では,神経細胞死また神経活動の低下が顕著である.この30年の間,神経原線維変化の研究は病理学的研究から分子生物学的研究へと広がりを見せている.前頭側頭型認知症の1つFTDP-17の責任遺伝子がタウ遺伝子であることから,タウの異常が認知症と密接にかかわることが明らかになっている.ここでは,タウ研究の歴史的な背景と神経原線維変化形成機構について概説する.

目次へ戻る



認知症画像技術の新展開


樋口 真人**  前田 純*   須原 哲也***
* 放射線医学総合研究所分子イメージング研究センター分子生態研究チーム
** 同チームリーダー *** 同グループリーダー

要  
 認知症の臨床において,形態画像(脳萎縮)や機能画像(脳血流・脳糖代謝の変化)が早期診断や重症度の評価を補助する指標として有用であることが,これまで多くの研究によって示されてきた.一方,近年ではアミロイド線維や活性化グリア発現タンパク質に代表される病理特異性の高い分子を標的とした画像技術の開発が進んでおり,診断精度を高めるのみならず,治療法の作用機序を確認するのに大いに役立つと期待されている.

目次へ戻る



治療戦略 -免疫療法を中心として-


田平 武*
* 国立長寿医療センター研究所 所長

要  旨
 アミロイド前駆体タンパク質遺伝子トランスジェニックマウスをアミロイドβタンパク質で免疫することにより老人斑アミロイドの形成が予防され,できた老人斑の除去も可能であることが分かり,アルツハイマー病のワクチン療法として注目されている.筋注するタイプのワクチンAN−1792は副作用としての脳炎が起こったため開発は中止されたが,それに代わって抗体療法,経口ワクチン,経鼻ワクチン,DNAワクチン,Cop-1ワクチンなどの開発が進んでいる.

目次へ戻る



アルツハイマー病研究関連分子 1.ユビキチン


森  啓*
* 大阪市立大学大学院医学研究科脳神経科学 教授

要  旨
 神経変性疾患における形態変化として,異常線維状構造物が観察されることが多い.この病態の分子背景となる分子構造物の物理的サイズはプロテアソームの分解口径の制限を超えるため,ユビキチン修飾された異常標的タンパク質が分解できない.その結果細胞内封入体として,またあるときは核内封入体として蓄積すると考えられる.一番初めに分子同定された封入体はアルツハイマー神経原線維である.その後,変性疾患の普遍的分子マーカーとしてユビキチン分子が確立してきた.

目次へ戻る



アルツハイマー病研究関連分子 2.αシヌクレイン


長谷川 成人*
* 東京都精神医学総合研究所分子神経生物学研究チーム チームリーダー

要  旨
 αシヌクレインは,家族性パーキンソン病の原因遺伝子であり,パーキンソン病の特徴的病理構造物レビー小体の主要成分である.ヒトαシヌクレインはアルツハイマー病との関連からクローニングされた経緯があるが,タウと多くの共通点を有している.比較的低分子で扱いやすいαシヌクレインの研究から,アルツハイマー病における神経変性のメカニズムを解明する手掛かりが得られるかもしれない.本稿ではαシヌクレインの歴史的背景を振り返りながら,その生化学を中心に概説したい.

目次へ戻る



日本のアルツハイマー病研究 -歴史と将来像-


井原 康夫*
* 東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻神経病理学 教授

要  旨
 本稿では,1970年代後半から85年にかけての時期の我が国のアルツハイマー病研究に対する雰囲気および我が国の研究上の問題点に関して述べる.

目次へ戻る


対談
生活習慣病の現状と未来(第21回)
沖縄戦後世代の栄養と予防


ゲスト  外間 登美子 先生(琉球大学 教授)
聞き手  香川 靖雄 先生(女子栄養大学 副学長)

 男女とも長寿日本一の沖縄県で肥満、生活習慣病が急激に増加し男性平均寿命があっという間に全国26位になったいわゆる「26ショック」を受け、沖縄県では全県を挙げて失地を回復すべくいろいろな方策に取り組んでいます。その取り組みの一つである「健康おきなわ2010」の推進委員として外間先生はご活躍されています。
 沖縄の生活習慣病の増加と平均寿命の低下は日本全体が将来迎えるであろう姿と重ねられ、専門家はその対策に大変注目しています。
 外間先生には沖縄県の健康状況やその取り組みについて詳しくお話頂きました。この他にも占領下時代の沖縄の話など大変興味深いお話も伺いました。是非お読み下さい。
 聞き手は女子栄養大学副学長 香川靖雄先生です。

目次へ戻る