最新医学62巻1号 
特集 アスベストによる健康障害

要  旨


アプローチ
石綿による健康障害

岸本 卓巳*

* 岡山労災病院副院長
要  旨
 日本では1950年頃から広く工業製品に石綿を使用してきた.現在,石綿によって発生する疾患が注目されているが,石綿関連疾患は初回ばく露からの潜伏期間が長く,今後これら疾患が増加することが予想される.特に中皮腫は,その80%が石綿ばく露によって発生する予後の悪い疾患であり,早期診断および治療が確立されることが急務である.本稿では,石綿とは何か,その関連疾患にはどのようなものがあり,どのような対応が必要なのかをまとめた.

目次へ戻る


アスベスト概論
アスベストとは
-その特性と発がん性について-

神山 宣彦*
* 東洋大学経済学部自然科学研究室 教授

要  旨
 アスベストは幾つかの繊維状ケイ酸塩鉱物の総称で,使用規制などに伴う定義では,クリソタイル,アモサイト,クロシドライトおよび繊維状のアンソフィライト,トレモライト,アクチノライトの6種類が示されている.貴重な材料として産業界で盛んに使われた理由は,一物質が多くの優れた性質を兼備し,かつ大量に産出したからである.人類は発がん性を有するアスベストの安全な使用方法を開発することができず,多くの国で使用禁止にしたが,今後も多くの被災者が出ると推測されている.

目次へ戻る


アスベスト概論
アスベストおよびアスベスト代替品による中皮腫発生
-動物発がん実験モデルの展望-

高田 礼子*

* 聖マリアンナ医科大学予防医学教室 講師

要  旨
 アスベストの製造・使用などがほぼ全面禁止され,多種類のアスベスト代替繊維の使用が急速に広まっている.アスベスト代替繊維の発がん性試験法として,ラットなどのげっ歯類への胸腔内あるいは腹腔内注入による中皮腫発生率の検討がある.発生した中皮腫は,ヒト中皮腫と類似した病理組織学的および分子生物学的特徴を示すことから,アスベストなどの繊維の胸腔内・腹腔内注入実験は,中皮腫発生のin vivoモデルとして,発生機序の解明,さらには早期診断法,有効な治療法の開発研究への応用が期待されている.

目次へ戻る


アスベスト関連疾患の疫学
石綿ばく露と石綿関連疾患の国際比較疫学

高橋 謙*
* 産業医科大学環境疫学 教授

要  旨
 世界各国の国段階における石綿ばく露と石綿関連疾患,特に中皮腫死亡について,既存統計を利用したグローバルな実態について記述した.国際比較可能な統計としては,石綿ばく露については1人当たり石綿消費量,中皮腫についてはWHOの死亡データベースによる死亡数が利用可能である.欧米では中皮腫に関する最近の増加傾向は明らかであり,将来の増加予測もほぼ確実と言えよう.このように,ばく露の広がり,罹患や死亡に関する国段階あるいはグローバルな評価が行われる機会が増えている.

目次へ戻る


アスベスト関連疾患の疫学
アスベストの近隣ばく露による中皮腫発生の疫学


車谷 典男*1   熊谷 信二*2
*1 奈良県立医科大学地域健康医学教室 教授
*2 大阪府立公衆衛生研究所生活衛生課 課長

要  旨
 近隣ばく露とは,石綿取り扱い事業場周辺で,その事業場由来の石綿にばく露されることを言う.通常,周辺に住居を持つ者がばく露対象であるが,勤務先が当該事業場の近くにある労働者もばく露対象になりうる.近隣ばく露は一般に低濃度ばく露と考えられるため,低濃度ばく露で発症する中皮腫が問題となる.ここでは,2005年6月に顕在化した尼崎市クボタ旧石綿管製造工場周辺に有意に集積した中皮腫の調査事例を中心に,石綿の近隣ばく露による中皮腫の疫学知見を紹介する.

目次へ戻る


アスベスト関連疾患の診断
アスベスト肺の臨床診断 
-慢性型の間質性肺炎との鑑別について-


井上 義一**1  審良 正則*1*2  坂谷 光則*3*4
*1    国立病院機構近畿中央胸部疾患センター臨床研究センター
             呼吸不全・難治性肺疾患研究部    **1 同部長 
*2 同放射線科医長   *3 同内科   *4 同院長

要  旨
 アスベスト肺の診断は十分な職業ばく露,胸部X線所見と他疾患の除外で診断される.鑑別診断として慢性型の間質性肺炎,他のじん肺などが重要であり,特に特発性肺線維症(IPF)との鑑別が重要である.昔までさかのぼる詳細な職業ばく露歴の聴取,胸膜プラークの有無の確認が基本であるが,高分解能CT(HRCT),気管支肺胞洗浄液,病理所見が診断に有用である.HRCTでは,アスベスト肺で比較的よく認められる所見の組み合わせが診断に有用である.

目次へ戻る


アスベスト関連疾患の診断
中皮腫の血清診断マーカーの考え方

樋野 興夫*
* 順天堂大学医学部病理・腫瘍学 教授

要  旨
 中皮腫は,ヒトではアスベストを肺内に吸引することにより発生することが指摘されており,“Asbestoma”と呼んでもよい腫瘍性疾患である.中皮腫はアスベストばく露から発症までの潜伏期間が35年前後と長く,いったん発症したら治療が難しいため,早期発見・早期治療が「目下の急務」である.
(1)アスベストばく露の可能性のある人に対する「研究型検診」を推進する.
(2)高リスク群における早期診断を目指す.

目次へ戻る


アスベスト関連疾患の診断
胸膜中皮腫の画像所見
-特に早期病変について-


加藤勝也*1  岸本卓巳**2 玄馬顕一*2  金澤 右**1

*1 岡山大学大学院医歯学総合研究科放射線医学 助手 **1 同教授 *2 岡山労災病院アスベスト疾患ブロックセンター **2 同センター長

要  旨
 胸膜中皮腫の画像所見の特徴は,胸水を伴う胸膜不整と腫瘤形成である.初期の症例では,原因不明の胸水のみを認め,胸膜不整をほとんど認めないものも存在する.早期診断には積極的な胸腔鏡下胸膜生検が必要であるが,適切に生検症例を選択するためには,画像上アスベストばく露の根拠となる胸膜プラークの有無や異常所見が顕在化しやすい縦隔胸膜を含め,軽度の胸膜不整に注意する必要がある.

目次へ戻る


アスベスト関連疾患の診断
中皮腫の病理診断のストラテジー 
-免疫組織化学的染色の有用性-

井内康輝***  武島幸男**  櫛谷 桂*
* 広島大学大学院医歯薬学総合研究科病理学 ** 同助教授 *** 同教授

要  旨
 中皮腫の病理診断は難しいが,その理由としては組織像が多彩であることや個々の医療機関での経験数が少ないことなどが挙げられる.上皮型,肉腫型,二相型,線維形成型のそれぞれに多くの鑑別すべき疾患や病変があるが,これらの鑑別のためには免疫組織化学的染色が有用である.しかし単一の抗体で診断できるものはなく,幾つかの抗体の組み合わせによる総合的判断が必要である.

目次へ戻る


アスベスト関連疾患の診断
アスベスト肺がんの臨床 
-その診断と特徴-

三浦 溥太郎*
* 横須賀市立うわまち病院 副院長

要  旨
 アスベストによる肺がんは,アスベスト肺に合併した肺がんと,アスベスト肺のない肺がんに分けられる.両者とも通常の肺がんと組織型や診断方法は変わらないが,最初のアスベストばく露から発生までの潜伏期間は平均約30年と長い.発生頻度は喫煙により相乗的に増加する.アスベストばく露量,肺内アスベスト量,胸膜プラークや線維化などの画像所見により,2倍以上の肺がん発生リスクがあると推定される場合,アスベストによる肺がんと判断される.

目次へ戻る


アスベスト関連疾患の診断
アスベスト胸膜炎の臨床 
-その診断と予後について-


田村 猛夏*
* 国立病院機構奈良医療センター 副院長

要  
 アスベスト胸膜炎は石綿ばく露による胸膜炎のことであり,Eplerらの診断基準がある.発生機序は不明であるが,石綿繊維による機械的な刺激,胸膜の線維化によるリンパの排出孔の閉塞,自己免疫の関与などが考えられる.自然消退例が多いが,遷延例や再発例もある.治療は対症療法となる.X線経過では肋骨横隔膜角の消失,びまん性胸膜肥厚を残すことが多い.胸水貯留後に胸膜肥厚が急速に進行し,呼吸不全となる進行性胸膜線維症を起こす例や,6年以後に同側に胸膜中皮腫を発症する例があり,注意深い経過の観察が必要である.

目次へ戻る


アスベスト関連疾患の治療
胸膜中皮腫の外科的治療 
-胸膜肺摘除術の有用性-



岡田 守人*
* 兵庫県立成人病センター呼吸器外科長

要  旨
 
局所浸潤傾向が強い悪性胸膜中皮腫の治療において,化学療法や放射線療法と並んで手術療法も重要な位置を占める.完全切除を企図した胸膜肺摘除術は,胸腔内に一切入らず壁側臓側胸膜・肺・横隔膜・心嚢を一塊として摘出する手術であり,胸腔内進入を回避することがこの術式最大の目的である.現時点で最も期待できる治療戦略は,早期の確定診断と胸膜肺摘除術を含めたmulti-modality therapyである.

目次へ戻る


アスベスト関連疾患の治療
胸膜中皮腫の化学療法


玄馬 顕一*
* 岡山労災病院呼吸器科 部長

要  旨
 
胸膜中皮腫に対する化学療法において,ペメトレキセド/シスプラチン併用療法がシスプラチン単剤と比較して生存期間の延長を示す結果が報告されており,我が国でも現在承認申請中である.また切除可能例においても,手術単独で治癒が得られる症例は限られた症例だけであり,術前・術後化学療法や放射線療法を加えた集学的治療が今後の中皮腫治療の中心的な役割を果たすものと期待される.

目次へ戻る


アスベスト関連疾患の労災認定および救済
アスベスト関連疾患の労災補償と救済についての考え方


青江 啓介*
* 国立病院機構山陽病院第二腫瘍内科 医長

要  旨
 2007年3月27日に「石綿による健康被害の救済に関する法律」が施行され,「肺がん」と「中皮腫」が指定疾患とされた.従来からの労働者災害補償保険法におけるアスベストによる疾病(いわゆるアスベスト関連疾患)は「アスベスト肺(石綿肺)」,「肺がん」,「中皮腫」,「アスベスト胸膜炎(良性石綿胸水)」,「びまん性胸膜肥厚」の5疾病である.「中皮腫」は「診断の確からしさが担保されれば,石綿を原因とするものと考えて良い」との考えから,中皮腫と診断されれば労災補償もしくは石綿健康被害救済制度のいずれかの対象となり,診断した医師は患者の求めに応じて診断書などを関係機関(労働基準監督署,環境再生保全機構など)に提出することになる.「診断の確からしさを担保」するためには,病理組織学的所見(特に免疫組織染色所見)が重要である.「肺がん」は,労災補償の場合アスベストばく露作業に従事した年数が業務上かどうかの判断において重要であるが,石綿健康被害救済制度ではアスベストばく露作業に従事していない患者が対象であるため,医学的所見が重要である.

目次へ戻る


アスベスト関連疾患の労災認定および救済
画像診断からみた石綿関連肺がん,中皮腫の救済


酒井 文和*
* 東京都立駒込病院放射線診療科 医長

要  旨
 従来石綿関連悪性腫瘍は労災補償の対象となっていたが,石綿吸入によると思われる健康被害が石綿吸入環境の労働者ばかりでなく石綿関連工場の近隣住民などに発生していることが明らかとなったことから,石綿による健康被害の救済に関する法律が公布され,労災補償の対象とならない患者についても一定の基準を満たせば救済補償が行われることになった.ここでは,本法に基づく救済の申請を行う際に必要となる画像の扱いや石綿関連疾患の画像所見などを中心に解説する.

目次へ戻る


対談
生活習慣病の現状と未来(第22回)
ミレニアム・プロジェクトの成果-高血圧-


ゲスト  三木 哲郎 先生(愛媛大学 教授)
聞き手  香川 靖雄 先生(女子栄養大学 副学長)

 三木先生はミレニアム・ゲノム・プロジェクトの高血圧の分野において中心的役割を果たされました。
 現在までに750症例を対象とした全ゲノムスキャンで4つの候補遺伝子が、マイクロサテライト多型を用いた研究で5〜10個の候補遺伝子が検出されたそうですが、意外な事にアンジオテンシノーゲンやアルドステロンの合成酵素等は含まれていなかったそうです。しかしこれは1次スクリーニングで高血圧でかつ肥満のない男性といったかなり対象を絞り込んだ結果、通常の高血圧の患者集団とは違っているためと話されています。
 更に、高血圧の発症には食生活など遺伝子以外の要因も複雑に絡み合う中で、個々のリスクは小さいいくつかの遺伝子が組み合わさると高血圧のリスクが増大する事が解りつつあり、まもなく研究成果として公表いただけるそうです。
 この他にも2007年2月に愛媛大学で始められた「抗加齢センター」のお話など大変興味深いテーマについても伺いました。是非お読み下さい。
 聞き手は女子栄養大学副学長 香川靖雄先生です。

目次へ戻る