最新医学62巻2号 
特集 変わりつつある感染対策

要  旨


アプローチ
変わりつつある外来患者に対する抗菌薬の選択
−新たな市中感染症起因菌の耐性化−

竹末芳生**  中嶋一彦*

* 兵庫医科大学感染制御学 ** 同教授
要  旨
 病院内のみで分離されていたはずの耐性菌が,最近では市中感染症起因菌として大きな問題となりつつある.突然数年前にcommunity acquired MRSAが出現し,その産生するPanton-Valentine leukocidin(PVL)により壊死性肺炎や重症皮膚軟部組織感染を惹起し,注目されている.また,院内感染として基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBLs)産生肺炎桿菌が問題となっているが,近年ESBLs産生大腸菌による市中尿路感染が報告されている.さらに,市中腹腔内感染において高率に分離されるBacteroides fragilisグループの耐性化がここ数年で進んでいる.このような背景の中,市中感染症に対する抗菌薬選択の考え方が大きく変わろうとしている.

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MRSA に対する新たな対策 
-Active surveillance culture の意義-

福岡麻美**  三原由紀子*   青木洋介***
* 佐賀大学医学部医学科臨床検査医学講座・感染対策室 ** 同講師 *** 同助教授

要  旨
 MRSAによる院内感染の増加は,今や深刻な世界的問題として広く認識されている.院内における感染伝播において,MRSAの保菌者が重要なリザーバーの役割を果たしていることが示されてきた.積極的監視培養(active surveillance culture)によって早期に保菌者を検出し,接触予防策を強化することで伝播防止が可能になると考えられ,米国病院疫学学会(SHEA)のガイドラインはこれを推奨している.

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院内感染症における新たな脅威
-多剤耐性緑膿菌-

舘田一博*

* 東邦大学医学部微生物・感染症学講座 助教授

要  旨
 近年,多剤耐性緑膿菌(MDRP)が報告され注目されている.本菌は,カルバペネム系,アミノ配糖体系,フルオロキノロン系抗菌薬のすべてに耐性を示す細菌であり,その治療はしばしば困難となる.MDRP感染症に対する抗菌薬療法は併用療法が基本となるが,どれとどれを併用すれば良いのか,その選択に苦慮する症例も多い.この点において,ブレイクポイント濃度を用いた併用療法検査(B・C-Plate 法)の応用が期待されている.

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バンコマイシン耐性腸球菌アウトブレイク時の対策

村谷哲郎*
* 産業医科大学医学部泌尿器科

要  旨
 バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)は,海外と比較して国内での分離頻度は非常に低い.そのため,VREの院内感染対策マニュアルは作成されているが,その内容が実際に検出されたときに実施可能な内容であるかどうかという点検は重要である.また,日常の標準予防策および VRE 保菌者を早期に発見報告することが拡散防止において最も重要であり,継続的な教育,VREを効率良く検出できる細菌検査を施設の状況に合わせて確立しておく必要がある.

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セラチアによる院内感染報道がもたらしたもの-血管内留置カテーテル管理の見直し-


井上善文*
* 医療法人川崎病院外科 総括部長

要  旨
 セラチア菌による集団感染が3病院で発生し,以来中心静脈カテーテル(CVC)に関連した管理法の見直しが求められた.多くの病院でCVC管理のマニュアルが作成されるようになってきている.しかし,三方活栓の使用,安易な側注の実施,輸液の無菌的調製の不徹底など,解決すべき問題は数多く残っている.予防対策は継続して徹底的に実施されなければならない.まだまだカテーテル関連血流感染症発生の危険性が高い施設が多いと考えておくべきであろう.

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院内感染としてのClostridium difficile感染症


加藤はる*
* 国立感染症研究所細菌第二部 主任研究官

要  旨
 Clostridium difficileは院内感染性下痢症の主要な原因菌である.従来より,特定のタイプの菌株が複数の病院の集団発生の流行株となることが分かっており,院内感染を引き起こしやすい菌株の存在は知られていた.2003年より,北米におけるC. difficile関連下痢症/腸炎症例の増加,特に重症例や死亡例の増加が報告され始めた.特定の毒素遺伝子変異株(BI/NAP1/027 株)が北米の多くの病院で分離され,さらにヨーロッパからも集団発生事例が報告されたことは,世界的に大きな注目を集めている.日本では2005年に1症例から分離された菌株が同株と同定され,今後の感染実態を監視する必要がある.C. difficile院内感染予防対策として多くの報告で有効であったと報告されているのは抗菌薬の処方制限で,特にニューキノロン系抗菌薬の使用には注意を払う必要がある.

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高齢者インフルエンザワクチン接種による感染予防と経済効果

大日康史*
* 国立感染症研究所感染症情報センター 主任研究官

要  旨
 昨年米国で,34年間の超過死亡とインフルエンザワクチン予防接種率の関係から,予防接種が死亡を抑制していないという報告がなされた.同様の研究を日本で行うべく,定期接種化されて以降の期間で都道府県間の超過死亡と予防接種率の関係を検討した.その結果,平均的な都道府県で10%の接種率の向上(1.7万人の追加的な接種)が4,255万円かけて行われると,死亡を5人抑制し,医療費を4.2億円削減することが示された.

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新たな感染対策アプローチ
-地域感染対策ネットワーク-


光武耕太郎*

* 東北大学病院感染制御・検査診断学 講師

要  旨
 病院のみならず長期療養施設を含めた医療関連施設全体における感染制御が求められる中,人材や時間,財源が限られた状況では地域感染ネットワークの果たす役割は大きい.東北感染制御ネットワークでは,情報の共有,協力と連携および共同実施,支援体制の構築という3つのアクションプランに加えて,人材育成プログラムを掲げ,行政の理解と協力のもと,中小の病院や施設における実践的な対策を目指した活動を行っている.

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結核の施設内感染対策におけるQFT-2G検査


伊藤邦彦*
* 結核研究所研究部 主任研究員

要  旨
 QFT-2G検査は高い感度を期待でき(ツベルクリン反応に若干劣る可能性はあるが),しかもBCG接種歴に影響されずに優れた特異度を示すことから,今後感染診断検査の主流になりうる検査である.施設内結核感染対策において感染診断検査が必要とされるのは,@新規採用時の感染把握,A未感染職員の定期的新規感染検査,B職員や面会者などの結核菌暴露後の感染診断であるが,その具体的適応に関しては今後の検討課題である.

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職業感染対策としての医療従事者ワクチン接種の普及

朝野和典*
* 大阪大学医学部附属病院感染制御部 教授

要  旨
 医療従事者に対する院内感染対策は,医療従事者を守るばかりでなく,患者を感染から守ることにもつながる.感染対策としては,針刺し切創事例などによる血液・体液曝露やウイルス感染症の伝播,さらには薬剤耐性細菌・結核菌感染など多様なものがある.その中にはワクチンの接種で高率に予防可能なものもあり,頻度と重篤度を考慮してワクチン接種を積極的に勧める施設が増加している.

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BSEで脚光を浴びたクロイツフェルト・ヤコブ病を念頭に置いた医療器材の扱い


大久保 憲*
* 東京医療保健大学大学院研究科感染制御学 教授

要  旨
 クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)プリオンに関して,脳神経外科手術に使用された手術器械の洗浄と滅菌法が問題となっている.日本におけるCJD患者の有病率から見て,すべての脳神経外科手術に対してCJD対応とする必要はなく,確診症例では器材の単回使用を原則とし,再生しなければならない場合の滅菌条件は,プレバキューム式高圧蒸気滅菌器では134℃,18分間の処理が基本である.最近では,アルカリ洗浄と過酸化水素プラズマ滅菌の効果も期待されている.

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新型インフルエンザ対策

高橋和郎*

* 大阪府立公衆衛生研究所感染症部

要  旨
 新型インフルエンザ対策で重要な点は,その規模や致死率を予測できないが,個人防衛とともに社会機能の損傷をできるだけ最小限にすることである.すなわち,我が国において流行初期段階で迅速な診断,隔離,適切な化学療法,有効な感染防止策を用い,パンデミックワクチンの産生が完了するまで第1波の流行を最小限に抑制することである.そのためには,現在各地域において実効性のある具体的対策を早急に確立する必要がある.

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SARSなどの1類感染症患者発生時の対応


森兼啓太*

* 国立感染症研究所感染症情報センター 主任研究官

要  旨
 1類感染症は現在,海外でのみ発生しているか,すでに根絶された疾患である.海外とのヒトやモノの往来が激しくなっている今日,罹患者が突如として入国してくる事態に備え,1類感染症への最低限の知識を持っておく必要がある.感染症を疑う患者には海外渡航歴を聴取する.そのうえで1類感染症が疑われる場合には,決して1人で抱え込まず,指定医療機関や感染症診療の専門家,保健所に相談すべきである.

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開発途上国におけるアウトブレイクレスポンス
-インフェクションコントロールの現状と問題点-


大石和徳*1  國島広之*2  賀来満夫**2

*1 大阪大学微生物病研究所感染症国際研究センター 特任教授
*2 東北大学大学院医学系研究科内科病態学講座感染制御・検査診断学 **2 同教授

要  旨
 インフェクションコントロールは医療施設における感染症アウトブレイクの対応に不可欠である.開発途上国では,アウトブレイク発生現場のリスクアセスメント,リスクコミュニケーション,ガイドラインの制定,サーベイランスシステム構築,教育と職業化の推進,個人防護装具の供給が必要であるが,実務には多くの障壁がある.また,各国の緊急時の対応の予備能力促進やWHOとの協調性を維持するためにも世界保健規則の改正が待たれる.

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対談
生活習慣病の現状と未来(第23回)
糖尿病におけるゲノム研究の最新の話題


ゲスト  門脇  孝  先生(東京大学 教授)
聞き手  香川 靖雄 先生(女子栄養大学 副学長)

 門脇先生は「ミレニアム・ゲノム・プロジェクト」の糖尿病の分野において中心的役割を果たされました。
 今回はその成果の中でも2型糖尿病の発症に関連する遺伝子として「PPARγの多型」・「アディポネクチン関連のSNP(一塩基多型)」・「HNF-4αの遺伝子多型」・「Tcf7L2(Transcription factor 7-like 2)」の四つについて詳しくご解説頂きました。
 上記、遺伝子の中でも特に「Tcf7L2」はインスリン分泌低下やインスリン抵抗性に関連すると考えられ現在、大変注目されている遺伝子だそうです。実際、白人の糖尿病の20%はこの遺伝子のSNPで説明が可能との報告があり、日本人についても門脇先生のところで解析され、その結果については近日中に「Diabetologia」誌上で発表されるそうです。
 この他にもミトコンドリア遺伝子と糖尿病の関係、遺伝子診断による糖尿病の予防・治療などオーダーメイド医療の将来性など大変興味深いお話も伺いました。是非お読み下さい。

 聞き手は女子栄養大学副学長 香川靖雄先生です。

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