最新医学62巻3号 
特集 慢性閉塞性肺疾患−最近の動向−

要  旨


アプローチ
アプローチ

三嶋 理晃*

* 京都大学大学院医学研究科呼吸器内科学 教授

要  旨
 NICE(Nippon COPD Epidemiology)Study によれば,40歳以上の8.5%がスパイロメトリーで閉塞性障害を示しており,日本の人口に当てはめると530万人がCOPDに罹患していると推定される.COPDの病態形成には,喫煙・空気汚染などの外因,プロテアーゼ・アンチプロテアーゼ,オキシダント・アンチオキシダントの不均衡,アポトーシスなどが重要な位置を占めている.診断はスパイロメトリーが必須であるが,鑑別診断や病態の把握,臨床的重症度の判定には,画像診断,バイオマーカー,QOL評価などが大切である.治療は禁煙・インフルエンザワクチンの接種から,重症度が進むにつれてリハビリテーション,気管支拡張薬,吸入ステロイド(急性増悪を繰り返す場合)などの治療を付加(add on)していく.呼吸不全になれば,酸素療法,NIPPV,外科治療などの適応となる.再生医療は今後の課題である.

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疫学と病因論
疫学と外因

植木 純*1  飛野 和則   *2 笠木 聡*2  児玉 裕三*2
*1 順天堂大学医療看護学部専門基礎内科学 教授
*2 順天堂大学医学部呼吸器内科

要  旨  COPDは,2020年には世界の死因別死亡率の第3位,障害調整生命年(DALY)損失原因の第5位となり,世界の大きな負荷となると推測されている.日本を含むアジア太平洋領域12ヵ国における中等症,重症COPDの推定有病率は,平均6.3%である.喫煙が最大の外因性危険因子であるが,木材煙や室内有機燃料(biomass fuel)煙の関与が注目されている.スパイロメーターを用いた我が国の疫学調査研究(NICE Study)では,有病率は8.6%であった.一方,調査時に約90%の被検者がCOPDと診断されておらず,今後さらなるCOPDの啓発,スパイロメーターの普及が必要である.

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疫学と病因論
病態形成における気道の役割

森脇 篤史*   井上 博雅**
* 九州大学大学院医学研究院附属胸部疾患研究施設 ** 同講師

要  旨  COPDは,肺実質のほか,気道の慢性炎症を特徴とする.炎症は有害な粒子状物質やガスの吸入によって引き起こされ,粘液の分泌過多,気道の浮腫などの病理学的変化を惹起する.COPDの気道に集簇する炎症細胞は,好中球,マクロファージ,CD8+T細胞であり,末梢気道ではB細胞の増加が注目されている.この炎症には,IL-8,TNFα,LTB4などのメディエーターが重要な役割を担っていると考えられている.

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疫学と病因論
病態形成における肺胞の役割

青柴 和徹*
* 東京女子医科大学第一内科 講師

要  旨  従来より肺気腫の病態形成機序については,炎症,プロテアーゼ,オキシダントの相互作用により肺の細胞外基質であるエラスチンが破壊されて生じるものと説明されてきた.近年ではこれとは別に,アポトーシスによる肺胞細胞の消失と細胞老化による再生不全が肺気腫の病態形成に関与しているのではないかという考え方が提出されている.さらに,アポトーシス細胞の貪食処理機能の低下や細胞老化は2次的に肺の炎症を引き起こす可能性が指摘されている.

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疫学と病因論
COPD形成における炎症性サイトカインと酸化ストレスの役割

星野 友昭*
* 久留米大学医学部内科学講座呼吸器・神経・膠原病内科部門(第一内科) 講師

要  旨
 これまでの研究で,タバコによって肺局所に誘導されるサイトカイン,ケモカイン,増殖因子や酸化ストレスが,COPDの発症に深く関与していることが判明した.Eliasらによって,Th1型サイトカインIFNγ だけでなく,Th2型サイトカインIL-13によってもマウスに肺気腫を誘導することが示された.また炎症性サイトカインTNFα,IL-1,Th2型サイトカイン IL-4,IL-13や ケモカインIL-8も,COPD発症に関与していることが示唆されている.

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診断
CT画像解析の意義

中野恭幸*
* 滋賀医科大学呼吸器内科 講師

要  旨
 COPDのCTデータを用いてコンピューター解析を行うことにより,気腫性病変と気道病変を定量化することが可能である.さらに,定量化指標を用いることで,COPD患者を気腫性病変優位群と気道病変優位群という2つのタイプに弁別することが可能であり,将来的にはそれぞれの特性に応じた医療を行える可能性がある.また,技術の進歩により,今後のCT解析は3次元解析になるであろう.

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診断
COPDの気道炎症とバイオマーカー

山縣 俊之*
* 和歌山県立医科大学内科学第三講座 講師

要  旨
 COPDは,慢性的な気道・肺炎症による進行性の閉塞性換気障害を特徴とする疾患である.この気道炎症には種々の炎症細胞と,そこから産生されるさまざまな炎症物質が重要な役割を果たしている.最近,誘発喀痰,呼気ガス,呼気凝縮液などの低〜無侵襲な手法を用いた評価法により,サイトカイン,酸化・窒素化ストレス関連物質など,さまざまな炎症関連物質が測定され,COPDの病態との関連が検討されている.

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診断
COPDにおけるアウトカムとしての健康関連QOL評価

小賀 徹*
* 京都大学医学部附属病院理学療法部

要  旨
 近年COPDを全身性疾患として認識することが重視され,その患者に与える複数の障害の総和としてQOLが重要なアウトカムとなっている.QOLは質問票を用いて客観的に定量評価される.COPDにおいてはSt. George's Respiratory QuestionnaireとChronic Respiratory Disease Questionnaireの2つの疾患特異的な質問票が,QOL評価のために頻用されている.

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治療
禁煙治療の現状と将来展望

石井 健男*   木田 厚瑞**
* 日本医科大学呼吸器内科 ** 同教授

要  旨
 喫煙はCOPDの主たる発症,増悪因子であり,COPDの予防および閉塞性障害の進行を抑えるうえで禁煙治療は最重要項目である.禁煙は行動療法と薬物療法を並行して行う必要があり,後者では「ニコチン依存症」としてニコチンパッチを補助に用い,保険診療が可能となった.喫煙のサイエンスが明らかにされるに伴い,新しい薬剤の開発や治験が海外にて進んでいる.若年者への禁煙治療,禁煙治療の新しい薬剤の認可などが今後の課題である.

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治療
COPDにおける吸入ステロイド,長時間作用型β2刺激薬および両者併用の効果

藤本 圭作*
* 信州大学医学部内科学第一講座 助教授

要  旨
 COPDに対する気管支拡張療法として,長時間作用型抗コリン薬が第1選択薬であるとされている.しかし最近の報告によると,長時間作用型β2刺激薬(LABA)は吸入ステロイド薬(ICS)との併用によって気道炎症を抑制し,呼吸機能の改善,症状増悪の抑制,QOLの改善効果はLABA単独よりもさらに有効性が高く,生命予後を改善させることが示唆され,COPDの薬物治療において新たな可能性が期待されている.

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治療
テオフィリン薬・抗コリン薬

田口 修*
* 三重大学医学部付属病院呼吸器内科 講師

要  
 COPDの治療において,気管支拡張薬としてのテオフィリン薬と抗コリン薬は重要な役割を担っている.長時間作用型のβ2刺激薬と併せて,効果的な使用法,組み合わせ方法により気管支拡張効果による息切れやQOLの改善が得られるばかりではなく,ともに炎症を制御することにより1秒量の経年変化としての減少幅を改善する可能性を有しており,今後の解明が期待されている.

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治療
栄養障害の病態と治療戦略

吉川 雅則**  福岡 篤彦*   友田 恒一*  米田 和之*   木村 弘***
*奈良県立医科大学内科学第二講座 ** 同講師 *** 同教授

要  旨
 全身性疾患であるCOPDにおいて,栄養障害は重要なsystemic effectであり全身性炎症や骨格筋機能障害とも密接に関連している.栄養障害によるlean body massの減少は生理機能やQOL,予後にも関与することから,その維持や増大を主眼とした戦略の確立が必要である.全身性炎症は摂食や栄養治療の効果を規定する因子となる.したがって,タンパク同化作用と抗炎症作用を持つ栄養治療が主軸となるが,グレリンは両作用を併せ持つ治療として期待される.

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治療
包括的呼吸リハビリテーション


塩谷 隆信*1  佐竹 將宏**1  菅原 慶勇*2  高橋 仁美**2

*1 秋田大学医学部保健学科理学療法学専攻 教授    **1 同助教授 
*2 市立秋田総合病院リハビリテーション科主任     **2 同技師長 

要  旨
 呼吸リハビリテーションは,COPD患者の日常生活を全人間的に支援する医療システムである.この中で包括的呼吸リハビリテーションは,多くの職域にわたる専門職から構成される医療チームにより,呼吸理学療法,運動療法および栄養療法を中心にして展開される.運動療法に際しては,その頻度,強度,持続時間,種目が重要であり,運動療法の継続・維持のためにフォローアップは欠くことのできない要素である.COPD患者における酸素吸入下の積極的運動療法の有用性に関するエビデンスはない.包括的呼吸リハビリテーションプログラムでは,患者教育,特に栄養療法,吸入療法およびセルフマネージメントの指導に重点を置くべきである.

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治療
再生医療の展望


久保 裕司*
* 東北大学病院老年科院内 講師

要  旨
 機能が低下した臓器を再構築して機能改善を目指す再生医療は,高齢化社会を迎えるに当たり,社会より求められている医療である.肺は複雑な構造を持ち,また多種類の細胞で構成されているため,再生医療の研究が進んでいない.しかし,肺胞細胞の分化・増殖を促進する細胞増殖因子の同定,肺修復にかかわる幹細胞の解明が進み,「再生しない臓器」である肺でも,少しずつその再生へ向けたアプローチがなされ始めている.

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対談
生活習慣病の現状と未来(最終回)
生活習慣病の検査、指導、診療の新しい対策


ゲスト  永井 良三 先生(東京大学 教授)
      林  同文 先生(東京大学 助教授)
      古井 祐司 先生(東京大学 )
聞き手  香川 靖雄 先生(女子栄養大学 副学長)


 第24回はゲストに東京大学・永井良三 先生、林 同文 先生、古井祐司 先生をお迎えして「生活習慣病の検査、指導、診療の新しい対策」をタイトルにお話をお伺いしました。
 生活習慣病対策には遺伝的素因と環境因子を見極めその相互作用を分析していくことが重要ですが東大病院では現在、いろいろなカルテのデータから遺伝的素因と環境因子を分析するようなシステムの構築を進めているそうです。
 また厚生労働省の研究班で実際に報告された尼崎での介入研究の成果や健康診断結果に対するある企業の取り組みなどについても詳しくご紹介頂きました。
 その他にも「メタボリックシンドローム」の定義についての永井先生のお考えなど大変興味深いお話も伺いました。是非、お楽しみ下さい。
 聞き手は女子栄養大学副学長 香川靖雄先生です。

 読者の皆様に大変ご好評頂いたシリーズ対談「生活習慣病の現状と未来」は今回で終了です。
 次回からは国立精神・神経医療センター総長の金澤一郎先生を聞き手に迎えシリーズ対談「脳と心の科学と医療」が始まります。
 どうぞご期待下さい。

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