最新医学62巻3月増刊号 
特集 がん診療の最前線(前篇)

要  旨



体制の充実と現状
がん対策情報センターの機能と役割

若尾 文彦

国立がんセンター中央病院放射線診断部 医長
国立がんセンターがん対策情報センター センター長補佐

要  旨
 平成18年10月国立がんセンターにがん対策情報センターが設置された.本センターは,がん医療の均てん化を推進するために,正しい情報の提供,がん対策企画立案に必要なデータの蓄積など,さまざまな情報の収集,分析,発信などを担う中核的組織として位置づけられている.本センターが十分に機能し,がん医療を改革していくためには,関連する学会,病院,企業,研究機関の協力のもとALL JAPAN体制での取組みが必要である.

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体制の充実と現状
院内がん登録の機能と現状

津熊 秀明*  井岡 亜希子**
大阪府立成人病センター調査部 *調査課長 **同主査

要  旨
がん登録とは,診療情報などに基づき,個々のがんに関する診断・治療情報を収集,整理,蓄積し,それを集計,解析することにより,がんの予防と医療,がん対策を支援,評価する活動を指す.院内がん登録は,当該施設で診断・治療を受けた患者を対象とし,当該施設における診療支援とがん診療の機能評価を第1の目的とする.院内がん登録の機能と現状を解説した.また,実例として大阪府立成人病センター院内がん登録の概要を示した.

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体制の充実と現状
院内リンパ腫登録

遠西 大輔
癌研有明病院化学療法科

要  旨
 癌研有明病院化学療法科では悪性リンパ腫の症例が年々増加しており,現在その新規治療導入患者は年間200人に近い状態である.悪性リンパ腫の分野は疾患概念や予後因子などの変化が非常に早い分野の1つであり,これまで自施設に存在していた悪性リンパ腫のデータベースでは対応不可能になってきたため,今回新しくデータベースを作成することになった.このデータベース作成にあたり院内におけるデータベース作成の過程とその問題点について述べる.

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体制の充実と現状
地域がん診療連携拠点病院の整備と現状


石倉 浩人
島根大学医学部附属病院腫瘍科 科長

要  旨
 我が国におけるがん医療水準の“均てん化”の推進のための中心的施策である「がん診療連携拠点病院制度」の概略を解説し,拠点病院に求められている機能と最近までの整備状況について触れた.さらに,平成18年2月に通知された拠点病院の指定要件の見直しに示されている特定機能病院や都道府県がん診療連携拠点病院を中核とした新たな地域ネットワーク形成構想の先駆けとなる「島根県がん診療ネットワーク」について紹介した.

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体制の充実と現状
専門施設におけるがん検診

島田 剛延**  猪股 芳文*   加藤 勝章*   渋谷 大助*
*宮城県対がん協会がん検診センター **同副所長

要  旨
 がん検診を効果的・効率的に行うには,がん予防の普及・啓発活動に始まり,検診実施計画作成,スクリーニング検査,精密検査,治療,結果集計と続く一連のシステムを構築し,運営することが必要である.さらに,これら各段階の運営状況の点検,すなわち精度管理が重要である.これまで当施設では客観的に事業を評価する手段はなかったが,厚生労働省が最近取り組み始めた事業評価法を参考に,さらなる体制の充実に努めたい.

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体制の充実と現状
PET/CTの現状

寺内 隆司   森山 紀之
国立がんセンターがん予防・検診研究センター

要  旨
 PETはがん細胞の代謝に関する情報を与える機能画像検査として,がん診断において確固たる地位を築いている.PETには解剖学的情報が少ないことなどの弱点があったが,形態画像と機能画像を融合させたPET/CTは,PETの弱点を補い,がん診断に必要な情報を高い次元で与えてくれる検査モダリティーである.本稿では,PETならびにPET/CTの特徴ならびに問題点などについて解説する.

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体制の充実と現状
ダブルバルーン内視鏡の現状

砂田 圭二郎*   山本 博徳**  矢野 智則*   林 芳和*   岩本 美智子*
宮田 知彦*   新城 雅之*

*自治医科大学内科学講座消化器内科学部門 **同助教授

要  旨
 ダブルバルーン内視鏡は,屈曲した腸管をオーバーチューブのバルーンで把持し,内視鏡挿入時の伸展を防止することで,深部挿入を可能とする原理に基づいている.このたび新しく有効長152cmのEC450-BI5が登場した.小腸のみならず,大腸や術後腸管の診断・治療に応用可能であり,その有用性が明らかとなった.今後も,学会や研究会などを通して新しい知見・経験を共有し,さらなる技術の向上や普及を目指していく必要がある.

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肺癌
非小細胞肺癌治療の進歩


山田 一彦    田村 友秀
国立がんセンター中央病院内科

要  旨
 進行非小細胞肺癌に対する化学療法は,プラチナ製剤を主体とした細胞傷害性抗がん剤の開発の歴史とともに進歩してきたが,近年,ゲフィチニブを始めとする分子標的薬剤が登場し,その有用性が報告され始めており,オーダーメイド治療に向かってパラダイムシフトが起りつつある.
 また,メタアナリシスによる術後補助化学療法の有用性も報告され,非小細胞肺癌に対する集学的治療はますます重要となってきている.

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肺癌
小細胞肺癌の治療


上岡 博***   山崎 富士子*   岸野 大蔵*   片山 英樹* 近森 研一*
青江 啓介**   前田 忠士**

*独立行政法人国立病院機構山陽病院 **同医長 ***同院長

要  旨
 小細胞肺癌に対する標準的治療法は,限局型に対するシスプラチン,エトポシドとhyperfractionation法による胸部照射の同時併用療法,進展型に対するシスプラチンとエトポシドかイリノテカンの2剤併用療法,著効例に対する予防的全脳照射である.amrubicin など新規抗がん剤の開発が期待されている.

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肺癌
上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異の臨床的意義

高坂 貴行*   小野里 良一*   光冨 徹哉**

*愛知県がんセンター中央病院胸部外科 **同部長

要  旨
 上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子の突然変異は,腺癌,女性,非喫煙者,東洋人に多くみられ,阻害薬であるゲフィチニブの感受性と高い相関性を持つことが明らかとなった.さらに,獲得耐性に関与する2次的変異(T790M)の存在も報告された.変異の約90%が欠失変異とL858R変異であり,両者を対象とした高感度検出法が開発されている.変異症例を対象とした前向き臨床試験も進行中で,これらの知見を肺癌の個別化治療に結びつけ,治療成績を改善する努力がなされている.

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消化器系の癌
大腸癌における抗体医薬

小島 隆嗣*   土井 俊彦*   大津  敦**

*国立がんセンター東病院内視鏡部 **同部長

要  旨
 大腸癌における抗体医薬には血管内皮細胞増殖因子の阻害薬である bevacizumab(Avastin)や,上皮成長因子受容体の阻害薬である cetuximab(Erbitux)などがあり,欧米を中心に臨床開発が進み,すでに標準治療として臨床導入がなされている.本邦においても近々承認・臨床導入される予定である.抗体医薬は分子標的治療の1つとして非常に注目され,実用化・臨床開発が急速に進んでいる分野である.

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消化器系の癌
胃癌における抗体医薬


倉田 宝保*   瀧内 比呂也**

*大阪医科大学化学療法センター 講師 **同センター長

要  旨
 進行胃癌の化学療法は5-フルオロウラシル(5-FU)系の抗がん剤を中心に発展してきたが,その効果はプラトーに達した感も否めない.昨今,分子標的薬剤が多くの癌種において有望な結果が得られ胃癌においても期待されるわけだが,現状,標準的治療を変更するほどの結果は得られていない.本稿では特に抗体に的を絞り,胃癌治療において有望とされている標的であるEGFR,HER2,VEGFRに対する抗体の特徴,臨床試験の現状について概説した.

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消化器系の癌
食道癌における薬物療法の位置づけ
-新規抗癌剤,分子標的薬剤の可能性について-

室  圭

愛知県がんセンター中央病院薬物療法部 部長

要  旨
 食道癌の治療成績向上には,手術療法,放射線療法,薬物療法など各種治療モダリティーを洗練させていくべきであること,戦略的な集学的治療を構築していくべきであることなどは今まで論じられてきた.今後,新規抗がん剤や分子標的薬剤を,術前あるいは術後化学療法として,術前あるいは根治的化学放射線療法として導入していくことが,ますます必要になってくると思われる.食道癌治療における薬物療法の重要性を強く認識すべきである.

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消化器系の癌
膵臓癌


井岡 達也

大阪府立成人病センター消化器検診科 副部長

要  旨
 ゲムシタビンの登場により膵癌の生命予後は改善したものの,依然として切除不能の進行膵臓癌の長期生存に関しては厳しい結果であることを否めない.化学放射線療法,既存薬剤の併用療法や分子標的薬との併用療法などのさまざまな治療方法が試されており,本領域におけるエビデンスが集積されつつある.今回,当科における研究的治療を中心に,切除不能の進行膵臓癌の治療方法の変遷と進歩について論じる.

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消化器系の癌
胆道癌に対する化学療法


上野 秀樹   奥坂 拓志

国立がんセンター中央病院肝胆膵内科

要  旨
 胆道癌は切除不能な進行癌として発見されることが多いが,進行胆道癌に対する大規模な臨床試験はこれまでにほとんど行われておらず,標準的な非切除治療は確立していない.しかし,最近,胆道癌に対する抗がん剤の開発が活発化しており,幾つかの化学療法の臨床試験では有効性を示唆する結果も認められ始めている.本稿では,進行胆道癌に対する化学療法の現状と展望について,最新の話題を交えながら解説する.

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消化器系の癌
肝細胞癌の発生・進展および肝転移に関与する遺伝子


中森 正二

独立行政法人国立病院機構大阪医療センター

要  旨
 肝細胞癌発生・進展にかかわる遺伝子として,既知の癌遺伝子や癌抑制遺伝子,DNA ミスマッチ修復遺伝子といった遺伝子の関与頻度は低い.最近の網羅的発現解析によって多くの関連遺伝子が報告されつつあるものの,肝細胞癌発生・進展に関与する普遍的遺伝子群は見いだされていない.肝転移成立に関する遺伝子も数多く報告されているが,実際にそれら遺伝子が本当に肝細胞癌の発生・進展および肝転移に関与しているかが追試,証明されたものは多くない.

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消化器系の癌
消化管間葉系腫瘍(消化管間質腫瘍:GIST)


西田 俊朗

大阪大学大学院医学系研究科外科学講座 助教授

要  旨
 消化管の間葉系腫瘍は大別して消化管間質腫瘍(GIST),神経原性腫瘍,筋原性腫瘍,その他(血管系腫瘍,脂肪系腫瘍など)に分類される.最も頻度が高いものはGISTで,GISTは肉腫であり切除可能な初発GISTに対する治療の第1選択は外科切除である.切除不能GIST治療の原則はイマチニブ投与で,イマチニブは認容性が許す限り高用量で継続的に服用すべきである.

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消化器系の癌
腹腔鏡下胃切除術の現状


比企 直樹*   福永 哲*   山口 俊晴***   大山 繁和*   瀬戸 泰之**
布部 創也*   徳永 正則*

*癌研有明病院消化器外科 **同副部長 ***同部長

要  旨
 胃癌における腹腔鏡下手術はその特殊性から,限られた施設で行われている.腹腔鏡治療の利点と欠点をよく理解することが肝要で,その利点を生かすためには手技の定型化が有用となる.本稿では,腹腔鏡下胃切除の現況および,その利点と欠点を概説し,胃癌の標準治療として腹腔鏡下胃切除がどのような役割を果たせるかを論じる.また,現在腹腔鏡下胃切除の適応として早期胃癌が一般的であり,早期胃癌の診断・治療の整合性についても論じる.

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消化器系の癌
ピロリ菌の関係する癌と除菌


上村 直実
国立国際医療センター内視鏡部長

要  旨
 ピロリ菌の持続的感染は慢性活動性胃炎を惹起し,胃癌や胃粘膜関連リンパ組織(MALT)リンパ腫などの悪性腫瘍に関連する背景胃粘膜を形成することが明らかになった.一方,除菌により組織学的胃炎が改善されるとともに,消化性潰瘍の再発率が著明に低下するのみでなく,胃癌の発症予防に関する報告から「除菌による胃癌の予防」が現実味を帯びてきている.以前は胃全摘術や抗がん剤による化学療法が主体であった胃MALTリンパ腫の治療体系も大きく変化して,現在ではピロリ菌の除菌治療が第1選択となっている.

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婦人科系の癌
上皮性卵巣癌の化学療法の最前線


高野 貴弘*   藤原 寛行**   大和田 倫孝***   
松原 茂 樹****   鈴木 光明****
*自治医科大学産婦人科 **同講師 ***同助教授 ****同教授

要  旨
 卵巣癌は固形腫瘍の中では,化学療法が比較的奏効する腫瘍として位置づけられている.基幹薬剤は,プラチナ製剤とタキサン製剤であり,パクリタキセル(175〜180mg/m2)/カルボプラチン(血中濃度曲線下面積:AUC5〜6)の併用療法が標準的レジュメとなっている.しかしながら,1次効果は改善されたものの長期生存は依然として不良であり,新たな抗がん剤やレジュメの開発,さらには分子標的治療薬の導入が待たれている

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婦人科系の癌
子宮癌(子宮頸癌・子宮体癌)における化学療法


熊谷 晴介*   杉山  徹**
*岩手医科大学医学部産婦人科 **同教授

要  旨
 子宮頸癌と体癌は同じ子宮癌に区分されるが,biologyやclinical behaviorは全く異なる.頸癌・体癌とも進行期別の予後は改善されておらず,従来までの手術療法と放射線療法に加え,化学療法の導入が進んでいる.欧米のエビデンスより,進行頸癌(V/W期)に対してシスプラチンを用いた化学放射線療法が導入されている.一方,本邦では局所進行頸癌(Tb2〜Ub 期)に対しては,術前化学療法も試みられている.体癌ではアドリアマイシン,プラチナ製剤,タキサン製剤をkey drugとした補助化学療法や,進行・再発癌に対する化学療法の検討が行われている.しかしながら,子宮癌の治療法において本邦と欧米では異なる部分があり,治療法の標準化には本邦での臨床試験の推進が欠かせない.

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婦人科系の癌
HPVワクチンによる子宮頸癌の1次予防


平井 康夫
癌研有明病院細胞診断部 部長

要  旨
 疣贅の原因として知られるヒトパピローマウイルス(HPV)は,子宮頸癌発症の必要因子である.欧米で開発中のHPVワクチンは子宮頸癌に関与する高リスク型のHPV16と18の新規感染をほぼ100%防ぐことが示された.日本では2006年から臨床試験が開始されている.実用化されれば11歳から12歳の少女が主なワクチン接種の適応対象年齢になると考えられ,子宮頸癌の発症を大幅に予防することが期待される.

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泌尿器系の癌
前立腺癌の診断と治療 -最近の臨床研究動向と展望-


杉元 幹史*   筧  善行**

*香川大学医学部泌尿器・副腎・腎移植外科 講師 **同教授

要  旨
 近年の診断法の向上によって前立腺癌の罹患率・罹患数の増加は目覚ましいものがある.さらに,治療法においても前立腺永久挿入密封小線源治療や高密度焦点式超音波治療(HIFU)など新しい治療modalityが登場し,それに伴い再発,再燃の定義やその後の治療法についても多様化し複雑になってきている.
 ここではより精度の高い診断,エビデンスに基づいた,より低侵襲でかつ根治性やQOLを損なわない治療法を目指すための最近の知見を述べる.

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泌尿器系の癌
我が国における前立腺癌検診の現状と課題


石山 俊次
石山泌尿器科皮膚科 院長

要  旨
 泌尿器系の癌で早期発見を目的に検診が行われているのは,現在のところ前立腺癌のみである.前立腺癌は今後死亡率が著しく増加すると予想されており,我が国特有の住民検診に組み入れて利用しやすい優れた腫瘍マーカーがあることから,この数年間で検診を実施する自治体は飛躍的に増加した.今後検診の精度をさらに上げるとともに,受診者には適切なインフォームド・コンセントと個人情報の保護が重要である.

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泌尿器系の癌
腎細胞癌と分子標的治療


島居 徹*   赤座 英之**
*筑波大学大学院人間総合科学研究科臨床医学系泌尿器科 助教授 **同教授

要  旨
 有転移の進行腎細胞癌に対するサイトカイン療法の有効率は15%程度であり,有効性も肺転移に限られることが多い.これに対して米国食品医薬品局(FDA)が認可した sorafenibとSU011248は40%近い奏効率,高い腫瘍縮小率,肺外転移巣への効果,予後延長効果などが認められている分子標的薬である.本邦ではこれらの薬剤の第U相臨床試験が終了したところで早期承認が待たれるが,作用・副作用の機序についてもまだ不明な点が多いのも事実である.本稿では最近の臨床試験を中心に概説する.

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トピックス
がん専門薬剤師認定制度とは


井上 忠夫
聖路加国際病院薬剤部 部長

要  旨
 がん治療の臨床現場で求められる知識や技術が大変複雑化し高度化している.そのような状況下でのがん専門薬剤師に求められる知識や技術も当然ながら高度化し,なおかつ多様化している.従来のジェネラリストとしての認定薬剤師の育成だけではもはや十分とは言えない.
 スペシャリストとして,高度な専門的知識を持ったがん専門薬剤師の育成と認定によって可能となる.
 がん専門薬剤師として何をすべきか,その役割,責務・責任を常に意識してさらなる業務の拡大を目標として行動することが必要である.

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トピックス
がん看護分野における認定制度


足利 幸乃
日本看護協会神戸研修センター教育研修部

要  旨
 がん看護分野には,現在,がん看護専門看護師,ホスピスケア認定看護師,がん性疼痛看護認定看護師,がん化学療法看護認定看護師,乳がん看護認定看護師の資格認定がある.高度,専門化するがん医療において,専門的な知識に裏づけされた看護ができる看護師の養成システムとして,資格認定制度には大きな期待がかかっている.専門看護師と認定看護師の資格認定制度の概要と現状を述べる.

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