最新医学62巻4号 
特集 糖尿病の新しい治療戦略

要  旨


アプローチ
糖尿病のこれまでの治療とこれから

稲垣 暢也*

京都大学大学院医学研究科糖尿病・栄養内科学 教授

要  旨
 1990年以降,それまでのインスリンやスルホニル尿素薬,ビグアナイド薬に加え,新たにαグルコシダーゼ阻害薬,チアゾリジン薬,グリニド薬が次々と登場し,インスリンアナログも開発された.また,膵島移植による細胞治療も始まった.さらに,インクレチンによる治療が我が国で用いられる日も近い.今後は,糖尿病の病態に応じてこれらの治療薬や治療法を使い分け,エビデンスに基づいた治療が必要となる.

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糖尿病の治療戦略
新しいインスリン治療 -さらなる改良を目指して-

柳沢 慶香*   岩本 安彦**
* 東京女子医科大学糖尿病センター ** 同教授

要  旨  生理的インスリン分泌を再現するため,遺伝子組み換え技術を用いてアミノ酸構造を修飾したインスリンアナログ製剤が開発された.超速効型アナログは速やかな吸収と短い作用持続時間により食後高血糖の是正に,持効型アナログは長い作用時間と安定した効果により基礎分泌を補うのに適している.
 注射に変わる方法として開発された吸入インスリンの効果発現時間は超速効型インスリンと同等であり,食前インスリンとして使用可能である.

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糖尿病の治療戦略
GLP-1による糖尿病治療 -迫り来る治療の変革-

山田 祐一郎*
* 秋田大学医学部内科学講座内分泌・代謝・老年医学分野 教授

要  旨  食事の摂取とともに消化管から分泌されるインクレチン(GIP や GLP-1)が,2型糖尿病の新しい治療薬として脚光を浴びている.インクレチンは膵β細胞からのインスリン分泌を促進するのみならず,膵β細胞数を増加させる可能性も示唆されている.我が国の2型糖尿病は膵β細胞数が少ないと考えられており,このようなインクレチンを用いた治療の開始は,糖尿病診療を“care”から“cure”に向ける転換点になるかもしれない.

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糖尿病の治療戦略
DPP-W阻害薬による糖尿病治療 - GLP-1 誘導体との比較 -

豊田 健太郎*   稲垣 暢也**
* 京都大学大学院医学研究科糖尿病・栄養内科学 ** 同教授

要  旨  GLP-1は新しい2型糖尿病治療薬として注目されているが半減期が短いため,その分解酵素であるdipeptidyl peptidase-W(DPP-W)の阻害薬と,DPP-Wに分解されにくいGLP-1誘導体が開発されてきた.DPP-W阻害薬は経口薬であるため注射薬のGLP-1誘導体に比べて認容性が高いが,GLP-1以外のさまざまなペプチドホルモンにも作用するためGLP-1誘導体とは異なる作用を示す可能性がある.

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糖尿病の治療戦略
インスリン抵抗性改善薬の現状と未来

山内 敏正*1*2  門脇 孝**1
*1 東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科 **1 同教授
*2 東京大学医学部附属病院22世紀医療センター統合的分子代謝疾患科学講座客員 助教授

要  旨
 インスリン抵抗性改善薬として現在使われているのは,ビグアナイド薬とチアゾリジン誘導体である.ビグアナイド薬は肝臓でAMPキナーゼを活性化し,糖新生の抑制や脂肪酸燃焼を促進してインスリン抵抗性を改善する.一方,チアゾリジン誘導体は,脂肪組織においてPPARγを活性化し,骨格筋・肝臓からの中性脂肪の引き抜きとアディポカイン異常の是正によってインスリン抵抗性を改善させる.今後,アディポネクチンあるいはその受容体AdipoRの増加薬,活性化薬が,原因に基づいた新規治療法として期待される.

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糖尿病の治療戦略
1型糖尿病治療の現状と未来

村瀬裕子*   今川彰久*   花房俊昭**
* 大阪医科大学第一内科(糖尿病代謝・内分泌内科) ** 同教授

要  旨
 1型糖尿病の治療目標は,強化インスリン療法を用いて低血糖を回避しつつ,血糖を正常に近づけることである.強化インスリン療法の具体的な方法は,インスリン頻回注射療法と持続皮下インスリン注入療法に分けられる.本稿では,インスリンアナログ製剤登場後の1型糖尿病におけるインスリン治療の現状と,将来的な展望について述べる.

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合併症の治療
戦略糖尿病網膜症の新しい治療戦略 -VEGFとアンジオポエチン-

鈴間 潔*
* 静岡県立総合病院眼科 総括医長

要  旨
 近年,糖尿病網膜症において血管内皮増殖因子(VEGF)が主要な役割を果たしていることが明らかとなり,VEGFを阻害する治療法が実用化の段階にある.その一方で,一時的にVEGFを阻害するのみでは網膜症の沈静化には不十分であることも分かってきた.アンジオポエチンは血管の成熟・安定化に作用する増殖因子で,血管透過性を抑制する作用を持つため,将来的にはアンジオポエチン作用を応用した治療法の開発が期待される.

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合併症の治療戦略
PKCβ阻害薬による糖尿病合併症治療の可能性

古家 大祐*
* 金沢医科大学内分泌代謝制御学 教授

要  旨
 21世紀に入ってますます進歩した糖尿病治療薬やレニン・アンジオテンシン系阻害薬が臨床応用されているにもかかわらず,増加の一途をたどっている糖尿病患者の増加とその結果生じる糖尿病合併症が,いま我々が直面している医学的・社会的な課題である.したがって,血糖や血圧の管理状況にかかわらず,合併症の発症・進展を阻止する新たな治療が望まれる.特に,高血糖によるPKC,特にPKCβの活性化は,TGFβ,CTGF,そして細胞外マトリックスタンパク質の遺伝子発現,VEGF の発現などを介して糖尿病血管合併症を惹起することが,糖尿病モデル動物において示されてきた.その後,経口投与可能なPKCβ阻害薬が開発され,糖尿病モデル動物のみならず糖尿病網膜症,神経障害,腎症に対して有効である可能性を示す報告がなされている.

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合併症の治療戦略
AGE阻害薬による糖尿病合併症治療の可能性

大江和代*   山本 博**
* 金沢大学大学院医学系研究科血管分子生物学研究分野 ** 同教授

要  旨
 advanced glycation endproducts(AGE)と,これを認識して細胞応答を起こすreceptor for AGE(RAGE)は,糖尿病合併症発症・進展の主要因の1つである.AGEの形成阻害・分解,RAGE遮断,デコイ受容体を用いたリガンド捕捉などによる糖尿病合併症予防・治療の可能性について述べる.

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合併症の治療戦略
糖尿病腎症の血圧管理 -エビデンスに基づいた治療-

片山 茂裕*
* 埼玉医科大学内科学内分泌・糖尿病内科部門 教授

要  旨
 糖尿病腎症を有する患者においては,アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬か,アンジオテンシンU受容体拮抗薬(ARB)を用いて厳格な血圧管理が推奨される.この理由は,これらレニン・アンジオテンシン系を抑制する降圧薬が,全身の血圧低下に加えて糸球体高血圧を改善するからである.事実,多くの臨床試験でACE阻害薬かARBが腎症の進展を抑制することが証明されてきた.最近では寛解や退縮がもたらされることも明らかになり,また早期からの治療により微量アルブミン尿の発症を予防する試みも始まっている.

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合併症の治療戦略
糖尿病予防のための戦略研究 - J-DOIT3 -

門脇 孝**1  植木 浩二郎*1  野田 光彦*2
*1 東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科 **1同教授
*2 国立国際医療センター内分泌代謝科・臨床検査部長

要  
 糖尿病およびその合併症は増加の一途をたどっている.糖尿病予防のための戦略研究(Japan Diabetes Outcome Intervention Trial:J-DOIT)は糖尿病および合併症予防のために厚生労働省が開始した3つの大規模介入研究である.J-DOIT3は死亡,心筋梗塞,脳卒中をはじめとする合併症の高リスク群において,強化治療により合併症の30%減少を目指す研究である.強化治療の内容としては生活習慣介入・自己管理をベースに,糖尿病患者における大血管症抑制のエビデンスがある薬剤を用いて,血管・血圧・脂質をこれまで以上に厳格に管理するものである.J-DOIT3は糖尿病治療の重要なエビデンスを提供することが期待される研究である.

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先端の治療戦略
肝臓のインスリン抵抗性を標的とした糖尿病治療の可能性

小川 渉*   春日雅人**
* 神戸大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝・内分泌内科助教授 ** 同教授

要  旨
 肝臓はインスリンの最重要な標的臓器であり,肝臓の糖代謝制御にかかわる分子はインスリン抵抗性の薬理学的治療の標的となる.グルコース流入とグリコーゲン合成を促進するグルコキナーゼの活性化薬や,糖産生を触媒するPEPCKやグルコース6−リン酸脱リン酸化酵素の阻害薬などは有用な薬剤となろう.最近,中枢性の肝糖産生抑制のメカニズムも明らかとなりつつあり,新しい糖尿病,インスリン抵抗性の治療標的として注目される.

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先端の治療戦略
エネルギー代謝調節における臓器間相互作用を標的とする治療の可能性


山田哲也*1*3 片桐秀樹*2*3

*1 東北大学大学院医学系研究科分子代謝病態学分野
*2 東北大学大学院医学系研究科附属創生応用医学研究センター再生治療開発分野 教授
*3 東北大学病院糖尿病代謝科


要  旨
 生体が適切なエネルギー代謝を行うためには,全身のエネルギー収支を的確に把握し,個体を構成する臓器の相互作用を調整する必要がある.肥満症やそれに合併する糖尿病は,精妙に調整されている臓器間相互作用が破綻した状態とも言える.脳がエネルギー代謝の調節において中心的な役割を果たしていることは言うまでもないが,近年の精力的な研究によりエネルギー情報の脳への入力経路の解明が進展した.本稿では,まずこの分野の最近の進歩を紹介し,実際の治療への展望も論じてみたい.

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先端の治療戦略
新生児糖尿病治療の新展開 -スルホニル尿素薬の有効性-


長嶋一昭*   稲垣暢也**
* 京都大学大学院医学研究科糖尿病・栄養内科学 ** 同教授

要  旨
 永続型新生児糖尿病は,新生児期に発症し,生涯インスリン治療が必要とされてきた.最近,膵β細胞インスリン分泌において重要な役割を担っている KATPチャネル遺伝子の異常が同疾患発症原因遺伝子であることが判明し,さらに経口血糖降下薬への反応性残存が明らかにされた.これは経口薬による治療の可能性を意味し,患者にとっては新たな治療選択肢の提示を意味する.これらは臨床的に大きな意味を持ち,今後の展開が期待されている.

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先端の治療戦略
膵臓・膵島移植による糖尿病治療 -現況と展望-


岩永 康裕
* 京都大学医学部附属病院臓器移植医療部

要  旨
 膵臓移植と膵島移植は,どちらもインスリン依存状態糖尿病に対する外科的治療法である.細胞移植である膵島移植は安全性が高く,臓器移植である膵臓移植は高いインスリン離脱率を維持できることが特徴である.現時点では,両者のメリット,デメリットならびに患者の病期を考慮して選択されるべきである.将来的には,低侵襲の治療法である膵島移植の技術がトランスレーショナルリサーチのプロトタイプとして発展していくことが予想される.

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先端の治療戦略
先端の治療戦略糖尿病の再生医療 -現状と未来-


濱本耕平*   小島 至**
* 群馬大学生体調節研究所細胞調節分野 ** 同教授

要  旨
 近年の研究の進歩により,糖尿病に対する根本的治療戦略として「膵β細胞再生療法」の可能性が示され,注目されている.これまでに,さまざまな手法によって成体内幹細胞からの膵β細胞の再生促進や体外培養における膵β細胞の分化誘導が報告され,臨床応用が期待されているが,一方で多くの問題点も残っている.本稿では膵β細胞再生療法に関する基礎的・臨床的アプローチの現状および将来の展望について解説する.

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対談
脳とこころの科学と医療(第1回)
神経回路を読み解く

ゲスト  水野 昇 先生(自然科学研究機構生理学研究所)
聞き手  金澤 一郎 先生(国立精神・神経センター総長)


 対談シリーズ「脳とこころの科学と医療」は、お招きするゲストの先生方に、ご自身の研究の内容や失敗談、成功談をお伺いしながら、日本における脳・神経研究の歴史を紹介するとともに、そこで語られる先達の教訓を、本誌の対象読者である若手研究者の日頃の研究に役立てていただくことを願って企画致しました。ゲストにはこの分野の基礎を築いて来られた方々、また現在も第一線で研究を続けておられる方々をお招きしています。
 第1回はゲストに自然科学研究機構生理学研究所・水野 昇 先生をお迎えして「神経回路を読み解く」をタイトルにお話をお伺いしました。 
 水野先生が大学院時代に脊髄の比較解剖を始めた頃はMarchi法による銀染色での形態観察が主流で切片標本1枚あたり多い時には30分以上の観察時間を必要としていました。しかしHRP(西洋ワサビペルオキシダーゼ)による染色方法が開発され逆行性標識の所見を読むのが容易になるとその簡便性から爆発的に拡がっていきました。但し、国内ではHRPは当初は高価で質が悪く水野先生も条件設定に大変苦労されたそうです。そのご苦労の末に視蓋前核オリーブ線維(pretecto-olivary fibers)の終止部が背帽(dorsal cap)であることを発見されました。
 この他にも神経解剖学の今後の方向性や若い研究者に向けたメッセージなども伺いました。是非お楽しみ下さい。
聞き手は国立精神・神経センター総長・金澤一郎先生です。



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