最新医学62巻7号 
特集
 パーキンソン病 -最近の進歩-

要  旨



アプローチ
パーキンソン病の病因解明にどう取り組むか
高橋良輔*

* 京都大学大学院医学研究科臨床神経学 教授

要  旨
 パーキンソン病は多系統神経変性を特徴とする全身疾患であることが認識されつつある一方,分子レベルでの病因解明は家族性パーキンソン病研究の進歩によって飛躍的に進展した.発症機構に関して「異常タンパク質の蓄積」と「ミトコンドリア機能障害」の2つの有力な仮説が浮上してきた.これら分子レベルで得られた知見をシステムの理解に結び付ける統合的な視点に立ってパーキンソン病の病態を解明し,治療法開発に結びつけることが重要である.

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疫学:パーキンソン病患者数は増加している

竹島多賀夫**  今村恵子*  楠見公義*   中島健二***
* 鳥取大学医学部附属脳幹性疾患研究施設脳神経内科
** 同准教授 *** 同教授

要  旨  パーキンソン病は社会の高齢化に伴い増加している.本邦の有病率は人口10万当たり約150人である.発症15年までの生存率は一般人口と変わらず,17年以降低下する.うつと認知症が併存症として特に重要である.発症危険因子には農薬,殺虫剤,金属(鉛,銅,鉄,マンガン)の暴露が挙げられる.防御因子として喫煙,コーヒー,食事中の不飽和脂肪酸,血清尿酸値などが注目されている.

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PDDとDLBの病理学的異同:同じ疾患か?

井関栄三*
* 順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター精神医学 准教授

要  旨  認知症を伴うパーキンソン病(PDD)とレビー小体型認知症(DLB)との異同について,筆者らのDLBの病理学的亜型の研究結果と最近の研究結果とを述べる.筆者らの研究では,DLBとPDD,パーキンソン病の間には,病理所見に関して量的な差異が見られ,同一とは言えない.しかし質的な差異はなく,互いに連続性が見られ,最近の研究の趨勢と同様に,これらを同じレビー小体病(LBD)のスペクトラムの中でとらえるのが妥当である.

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病態生理:パーキンソン病における大脳基底核機能障害

浜 喜和*   三輪英人**

* 和歌山県立医科大学神経内科 ** 同准教授


要  旨
 大脳基底核の生理機能は十分に解明されていない.本稿では,現時点で広く支持されている大脳基底核回路仮説の概要を述べ,ドパミン欠乏状態における大脳基底核神経活動の変容によってパーキンソン病症状の背景病態を説明できる可能性について述べた.無動・寡動,振戦,固縮,姿勢反射障害,非運動症状について,それぞれの発生機序についての病態仮説について論じた.

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画像技術:神経画像によるパーキンソン病の早期診断

篠遠 仁*
* 旭神経内科リハビリテーション病院 副院長

要  旨  パーキンソン病の中核の病理である黒質線条体ドパミンニューロンの機能障害をとらえる方法としては,PETまたはSPECTによるシナプス前機能の測定,特にドパミントランスポーターの測定が優れており,パーキンソン症状の発症前から診断することが可能である.しかし,黒質線条体ドパミンニューロンの機能障害は多系統萎縮症,進行性核上性麻痺でも見られるので,拡散強調MRI,voxel-based morphometry,PETによる脳グルコース代謝の測定,脳血流SPECTなどで鑑別診断を進める必要がある.

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薬物治療:我が国発の新規治療薬の開発に向けて
-新規抗パーキンソン病薬ゾニサミドの開発-

村田美穂*
* 国立精神・神経センター武蔵病院神経内科 部長

要  旨
 ゾニサミド(ZNS)は日本で開発された抗てんかん薬であるが,偶然の臨床経験から抗パーキンソン病効果が発見された.大規模二重盲検試験結果の報告により,国際的にも日本発の抗パーキンソン病薬として注目されている.共同研究により,ZNSはドパミン合成亢進作用,MAO-B阻害作用,パーキンソン病で認める基底核の異常発火パターンの正常化作用,ドパミン系を介さない抗振戦作用,培養細胞,モデル動物での神経保護作用などが明らかになった.

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非運動症状とMIBG心筋シンチグラフィーの意味するもの:早期診断の可能性

織茂智之*
* 関東中央病院神経内科 部長

要  旨
 パーキンソン病では運動症状以外にも,嗅覚障害,レム睡眠行動障害,自律神経症状,精神症状,感覚障害などの非運動障害が見られるが,これらは運動症状出現以前に認められることが多い.また,パーキンソン病やレビー小体型認知症では病早期より心臓のMIBG集積が低下し,これは他のパーキンソニズムやアルツハイマー病との鑑別に有用である.このように,非運動症状やMIBG集積低下はパーキンソン病の早期診断におけるバイオマーカーになりうる.

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定位・機能神経外科的治療:脳深部刺激療法を中心に


深谷 親*   片山容一**
* 日本大学医学部脳神経外科・先端医学講座応用システム神経科学部門 准教授 ** 同教授

要  旨
 パーキンソン病の定位・機能神経外科的治療は,脳深部刺激療法,特に視床下核刺激の出現によって急速に広まった.視床下核の刺激は,wearing-offの激しい症例に対しては offの状態を「底上げ」し,副作用のためL-DOPAの内服が十分にできない症例に対してはL-DOPAの「肩代わり」をしてADLを向上させる.ただし,手術合併症として脳内出血が1〜6%に起こると言われている.刺激副作用として精神症状が出現することもあるが,多くは内服と刺激条件の調整でコントロール可能である.

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遺伝子治療と再生医療の可能性


安田 徹*   望月秀樹**
* 順天堂大学医学部脳神経内科学 ** 同助教授

要  旨
 パーキンソン病は進行性の神経変性疾患であり,現在まで症状の緩和を目的とした治療法が臨床応用されてきたが,病気の進行遅延・抑止が可能な治療法はいまだ確立されていない.近年,遺伝子治療法や細胞移植療法,あるいは内因的な神経再生を促すことによって進行の遅延・抑止を目指す研究が盛んに行われており,その一部は臨床的な試験段階に入っている.これら最新の治療法により,元来難治性と言われてきたパーキンソン病を根治できるようになる可能性が期待される.

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遺伝性パーキンソン病の病態から
1. α-synuclein の機能 -凝集タンパク質に毒性はあるのか-

小林理子*   菅野直人* 菊池昭夫*   武田 篤**
* 東北大学病院神経内科 ** 同准教授

要  旨
 α-synucleinは家族性パーキンソン病の原因遺伝子の1つであると同時に,レビー小体,レビー神経突起,グリア細胞封入体の主要構成成分でもあり,家族性,孤発性パーキンソン病や他のシヌクレイノパチーにおけるキー分子として注目されている.α-synuclein は特定の2次構造を持たない通常状態から線維化構造に変化する過程で,オリゴマーからなるプロトフィブリルと呼ばれる構造をとる.最近の研究から,線維化した凝集体よりもこのプロトフィブリルのほうが高い細胞毒性を持つことを示すデータが蓄積されてきている.プロトフィブリルは膜傷害性を持ち,細胞膜やオルガネラなどを傷害し,細胞死を引き起こすと考えられている.α-synucleinの構造変化メカニズムを解明し,プロトフィブリル化を防ぐことがパーキンソン病の予防や治療につながることと考えられる.

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遺伝性パーキンソン病の病態から
2. parkin の機能 -生理学的アプローチから-

野田百美*
* 九州大学大学院薬学研究院病態生理学分野 助教授

要  旨
 家族性パーキンソン病(AR-JP)の原因遺伝子の1つであるparkin遺伝子は,さまざまな神経伝達物質の放出に関与しているATPの受容体(P2X 受容体)の機能を増大させることが明らかとなった.このことは,parkinがATPによる神経伝達物質の放出を促進させる機能があることを示唆している.このようなparkinの生理学的機能の解明は,parkinの変異によるAR-JPの発症メカニズムの謎を解く鍵となるかもしれない.

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遺伝性パーキンソン病の病態から
3. PINK1の機能 -ミトコンドリア機能との関連性から-

山下拓史**   高橋哲也*   松本昌泰***
* 広島大学大学院医歯薬学総合研究科病態探究医科学講座脳神経内科学 助教 ** 同講師 *** 同教授

要  
 PINK1(PTEN-induced putative kinase 1)は,常染色体劣性遺伝性パーキンソン病の1つである PARK6 の原因遺伝子である.PINK1は中枢神経系に普遍的に発現し,ミトコンドリアに局在するセリン/トレオニンキナーゼであり,細胞ストレスに対して保護作用を示す.PINK1はParkinとともにミトコンドリアの機能の維持に関して共通経路で機能し,Parkinよりも上流で機能すると考えられている.

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遺伝性パーキンソン病の病態から
4. 酸化ストレス防御因子としてのDJ-1の機能

有賀寛芳*1  有賀早苗*2
*1 北海道大学大学院薬学研究院 教授   *2 同農学研究院 教授

要  旨
 家族性パーキンソン病 PARK7の原因遺伝子DJ-1の産物タンパク質DJ-1は,酸化ストレスによって発現亢進し,自己酸化と抗酸化ストレス因子群の転写促進を行うことで抗酸化ストレス機能を発揮する.DJ-1遺伝子の変異は現在まで13と少ないが,孤発性パーキンソン病患者のDJ-1は不活性と考えられる異常酸化型DJ-1の蓄積が見られることから,孤発性パーキンソン病発症にDJ-1が関与している可能性が高い.

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遺伝性パーキンソン病の病態から
5. LRRK2の機能 -タンパク質凝集の上流に位置するのか?-

久保紳一郎*
* 順天堂大学医学部脳神経内科 准教授

要  旨
 LRRK2(leucine-rich repeat kinase 2)遺伝子変異による常染色体優性パーキンソン病は,L-DOPAが著効し孤発性パーキンソン病とよく似るが,認知機能障害や精神症状,運動ニューロン疾患の合併,さらに垂直性眼球運動障害を呈する症例も報告されている.病理学的には,典型的なパーキンソン病に矛盾しない黒質変性にレビー小体を伴うものから,びまん性レビー小体病様の広範なレビー小体の出現を認めるもの,レビー小体はなく黒質変性のみを認めるもの,脊髄前角細胞変性やタウオパチーを示唆するタウ陽性神経原線維変化を呈する症例,さらにアルツハイマー型病理も報告されている.この臨床病理学的多様性は,LRRK2遺伝子変異がパーキンソン病のみならず,神経変性疾患と深くかかわっていることを示唆している可能性がある.

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対談
脳とこころの科学と医療(第4回)
人間の行動のトリガーは何か?

ゲスト  丹治 順 先生(玉川大学)
聞き手  金澤 一郎 先生(国立精神・神経センター名誉総長)


 対談シリーズ「脳とこころの科学と医療」は、お招きするゲストの先生方に、ご自身の研究の内容や失敗談、成功談をお伺いしながら、日本における脳・神経研究の歴史を紹介するとともに、そこで語られる先達の教訓を、本誌の対象読者である若手研究者の日頃の研究に役立てていただくことを願って企画致しました。ゲストにはこの分野の基礎を築いて来られた方々、また現在も第一線で研究を続けておられる方々をお招きしています。
 第4回はゲストに玉川大学・丹治 順 先生をお迎えして「人間の行動のトリガーは何か?」をタイトルにお話をお伺いしました。
 無麻酔ザルを使った単一ニューロンの記録法を開発したNIHのEdward Evarts博士の研究室に丹治先生が留学したのは1971年のことでした。そこで先生はサルを使った実験で実際にサルが行動を起こす前に既に脳の細胞活動が始まっていることを発見されました。これはEvarts博士にとっても大変な驚きだったようで、論文として発表する前に競争相手を含め外部の研究者の意見を随分聞かれたそうです。
 3年間の留学を終え、日本に帰国してからも先生は行動の前に現れる脳の活動についてニホンザルを使って研究を進められました。前頭前野は単純な行動をしている時には特徴的な活動は見つかりませんでしたが、いくつかのルール(形合せや色合せなど)をサルに教え、そのルールに従った行動時の脳の活動に注目したところ、たくさんの興味深い結果が得られました。前頭前野は運動の結果何が起こるかを、実行前の段階で既に企画していることが判明したのです。更に、現在は行動の目標設定とそれに伴う個々のディテールの構築という広い意味での概念形成についてその仕組みを解明されているそうです。
 その他にも最近の研究や脳と経済学の融合についての実験的なお話なども伺いました。是非お楽しみ下さい。
 聞き手は国立精神・神経センター名誉総長・金澤一郎先生です。



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