最新医学62巻8号 
特集
 低侵襲弁膜症治療の現状と展望

要  旨



アプローチ
アプローチ -弁膜症治療の変遷-
久米輝善*   吉田 清**

* 川崎医科大学循環器内科 ** 同教授

要  旨
 僧帽弁閉鎖不全に対しては,弁置換術に代わり弁形成術が第1選択の術式となっている.経皮的カテーテルによる弁膜症治療は,現在のところ僧帽弁狭窄に対する経皮的経静脈的僧帽弁交連裂開術以外に確立されたものはないが,僧帽弁閉鎖不全や大動脈弁狭窄に対する経皮的カテーテル治療法が開発され注目されている.今後,ロボット手術や経皮的カテーテル治療の発展により,弁膜症治療のさらなる低侵襲化が進むことが予想される.

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弁置換術と弁形成術 -メリット・デメリット-

中谷 敏*
* 国立循環器病センター心臓内科 医長

要  旨  弁形成術の第1のメリットは,抗凝固療法に関連した合併症を回避できることである.しかし弁形成術はすべての弁において行えるわけではなく,また形成術に慣れた外科医において行われることが望ましい.一方,機械弁を用いた弁置換術は抗凝固療法が必要ではあるが,弁病変の解決という点では確実である.また手技としても確立されており,比較的経験の少ない外科医であっても安定した成績を残せる.生体弁を用いた弁置換術では抗凝固療法は不要であるが,長期的には弁機能不全を生じる.

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人工弁の種類と選択

岡村吉隆*
* 和歌山県立医科大学第一外科 教授

要  旨  人工弁の歴史は50年を超え,日本で年間1万個以上の人工弁が使用されている.機械弁はpyrolyte carbon製の二葉弁が,生体弁はウシ心膜弁またはブタ大動脈弁が主流である.耐久性,抗血栓性をともに満足させる理想の弁はいまだない.ガイドラインの推奨や高齢患者が増加したこと,QOLを考慮して,最近の傾向は生体弁の使用頻度が増加しつつある.ステントレス弁,ホモグラフト,開発中の弁などを紹介する.

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僧帽弁形成術の適応

渡邉 望*

* 川崎医科大学循環器内科


要  旨
 僧帽弁逆流に対しては長年僧帽弁置換術が行われてきたが,外科技術の発展により,自己弁を温存する僧帽弁形成術が普及してきた.形成術は合併症や再手術の必要が少ないため,近年僧帽弁逆流の手術適応はより症状の軽い患者へと広がってきた.形成術の適応や術式の決定は治療の成否を左右する大きなポイントであり,術前診断に当たる内科医は僧帽弁の構造を立体的に把握し,病変の部位と範囲を正確に診断しなくてはならない.

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僧帽弁形成術の手技

種本和雄*
* 川崎医科大学胸部心臓血管外科 教授

要  旨  僧帽弁形成術は僧帽弁閉鎖不全症に対する第1選択の術式であるが,手技についてはさまざまな方法がある.後尖逸脱に対しては四角切除術が行われてきたが,三角切除術を第1選択とする外科医も増えており,良好な成績が報告されている.前尖逸脱に対しては我が国では人工腱索による再建術がよく行われているが,edge-to-edgeなどの新しい術式も注目されている.外科医はこれらの術式を熟知し,症例ごとに適切な術式選択を行うべきである.

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虚血性・機能性僧帽弁逆流に対する治療

尾辻 豊*
* 産業医科大学第二内科学循環器・腎臓内科 教授

要  旨
 機能性・虚血性僧帽弁逆流は,心筋梗塞・拡張型心筋症・心不全例に2次的に合併し,症例の予後を悪化させる独立した危険因子である.治療法は確立していないが,一般的な心不全療法や外科的弁輪および左室形成術が有効な可能性がある.軽度の逆流でも症例の予後を悪化させるため,積極的に治療を考えるべきである.外科的弁輪形成術だけでは再発例が多く,治療法の確立に向けてさらなる検討が望まれる.

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僧帽弁逆流症における経皮的僧帽弁形成術

大門雅夫*
* 順天堂大学医学部循環器内科 准教授

要  旨
 これまで僧帽弁逆流の治療は主に侵襲的な開心術による外科治療であったために,治療の恩恵を受けられない症例も多かった.しかし近年,カテーテルを用いたさまざまな低侵襲僧帽弁形成術が開発され,その一部は実際に臨床に使用され始めている.主な方法は,クリップによる僧帽弁前尖と後尖の結合術や冠静脈洞を利用した僧帽弁輪形成術である.こうした方法は今後,手術リスクの高い僧帽弁逆流症例の予後を改善すると期待されている.

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低侵襲僧帽弁形成術 - Port-Access法 -


工藤樹彦*   四津良平**
* 慶應義塾大学医学部外科(心臓血管)講師 ** 同教授

要  旨
 僧帽弁疾患に関してPort-Access法を第1選択として,過去9年間の僧帽弁形成術177例のうち92例に対し本法にて形成術を施行した.術式はresection-suture法,sliding法,人工腱索再建術,chordal translocation法,leaflet plication法,2005年10月よりは低侵襲僧帽弁手術に適した逸脱弁尖切除を全く行わないloop technique法を導入し,Port-Access法による僧帽弁形成術の適応が広がった.

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経皮的僧帽弁交連裂開術(PTMC)


谷本貴志*   赤阪隆史**
* 和歌山県立医科大学循環器内科 ** 同教授

要  旨
 経皮的僧帽弁交連裂開術(PTMC)とは,経静脈的にアプローチし,バルーンカテーテルを用いて狭窄弁口を開大させる治療法である.本法の開発・普及により,僧帽弁狭窄の治療は従来の外科的治療よりも低侵襲であるPTMCが世界的に主流となっている.心エコー図は僧帽弁狭窄の重症度評価のみならず,PTMCの適応・効果判定にも有用である.

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大動脈弁形成術の適応

荻野 均*
* 国立循環器病センター心臓血管外科 医長

要  旨
 大動脈弁形成術は,僧帽弁に比べ大動脈弁は解剖学的に複雑で,かつその形成が技術的に困難なため,いまだ一般的ではない.しかしながら,近年の自己弁形成,温存の戦略の中で,若年者を中心に,マルファン症候群や二尖弁を含め,大動脈基部から上行大動脈病変に基づく大動脈弁閉鎖不全症など一部の疾患群において積極的に試みられ,良好な成績が得られている.成人例を対象に,その適応について筆者の経験を含めて記述する.

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大動脈弁形成術の手技

田中裕史*   大北 裕**
* 神戸大学呼吸循環器外科   ** 同教授 

要  旨
 僧帽弁形成術の手術手技は確立されてきたが,大動脈弁形成術はいまだチャレンジングな分野である.諸施設で施行されてきた手術手技と手術成績をレビューし,長期予後が見込まれる手技について概説する.

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狭小弁輪での大動脈弁置換術

橋本和弘*
* 東京慈恵会医科大学心臓外科 教授

要  
 近年,加齢に伴う大動脈弁狭窄症が増加している.特に,小柄な高齢女性では狭小弁輪の合併が多く認められ,patient-prosthesis mismatch(PPM)の観点から人工弁,手術術式の選択のうえで考慮が必要とされる.高齢者に弁輪拡大を行うリスク,そのまま挿入可能なサイズの人工弁を選択した場合の PPM の頻度,遠隔予後への影響が懸念される.ここでは,比較的小柄な日本人での臨床結果を我々の経験から検討し,報告する.

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経皮的大動脈弁置換術

種本和雄*
* 川崎医科大学胸部心臓血管外科 教授

要  旨
 通常の大動脈弁置換術を行うにはリスクの高い症例に,経皮的に大動脈弁置換術を行うデバイスが開発され,欧米では臨床使用が進んでいる.初期成功率などはいまだ満足すべき成績ではないが,手技の向上などで改善されてきている.またこのデバイスを使って小切開,off-pumpで行う大動脈弁置換術も報告されている.従来の外科手術では救命できない重症例が適応であるが,今後はデバイスの改良・進歩によって適応が拡大される可能性もある.

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より完成度の高い三尖弁形成術を求めて

山口裕己*
医療法人社団三記東鳳新東京病院心臓血管外科 部長

要  旨
 機能的な三尖弁閉鎖不全症のほとんどが,右心系の拡大に伴う三尖弁輪拡大による.今まで三尖弁形成のため多くの方法が行われてきたが,今回の検討により,Kay法やDe Vega法に比べ三尖弁輪にリングやバンドを用いた弁輪形成法が,長期における三尖弁逆流の再発の防止効果があることが明らかになった.また,最近の三尖弁輪の3次元的解剖学的構造の研究結果をもとに設計された新しい三尖弁輪リングにより,三尖弁輪を3次元的に再構築することが可能となった.

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対談
脳とこころの科学と医療(第5回)
 薬理学はどこへ行く?

ゲスト  大塚 正徳 先生(東京医科歯科大学名誉教授)
聞き手  金澤 一郎 先生(国立精神・神経センター名誉総長)


 対談シリーズ「脳とこころの科学と医療」は、お招きするゲストの先生方に、ご自身の研究の内容や失敗談、成功談をお伺いしながら、日本における脳・神経研究の歴史を紹介するとともに、そこで語られる先達の教訓を、本誌の対象読者である若手研究者の日頃の研究に役立てていただくことを願って企画致しました。ゲストにはこの分野の基礎を築いて来られた方々、また現在も第一線で研究を続けておられる方々をお招きしています。
 第5回はゲストに東京医科歯科大学名誉教授・大塚 正徳 先生をお迎えして「薬理学はどこへ行く?」をタイトルにお話をお伺いしました。
 神経伝達物質に関する研究、特に神経伝達物質としてのGABA(γアミノ酪酸)の研究で多大な業績を築かれた大塚先生は次世代へのメッセージとして「Chance and Design」と言う事に触れられています。これはチャンスを逃さずに、よく考えて次のデザインをすることが大事であるとの意味だそうです。
 実際、大塚先生もハーバード大学のKuffler研に留学した時には研究室に着いてその日から研究を始められ数日の内にロブスターの神経節から運動ニューロンを発見されたそうです。その時には研究室では大変な騒ぎになったそうです。  その他にもJCエックルスとSクフラーの最初の出会いのお話なども伺いました。是非お楽しみ下さい。
 聞き手は国立精神・神経センター名誉総長・金澤一郎先生です。



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