最新医学62巻9号 
特集
 膵炎 −病態と治療指針−

要  旨


アプローチ
膵炎診療の現状と問題点,課題
大槻 眞*

* 産業医科大学消化器・代謝内科 教授

要  旨
 急性膵炎,慢性膵炎などの膵疾患は年々増加する傾向にある.急性膵炎の致命率を低下させるには,急性膵炎重症化の分子病態を解明し,重症化阻止法を開発する必要がある.アルコール性慢性膵炎と特発性慢性膵炎では経過が異なり,成因別診断基準が必要である.慢性膵炎患者には膵癌の合併率が高く,高リスク群と考えて対応していく必要がある.自己免疫性膵炎は慢性膵炎の前病変と考えられ,自己免疫性膵炎の病因を解明することが慢性膵炎の発症・進展を阻止する道へつながると考えられる.

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急性膵炎
急性膵炎の発症機序とアルコールの影響

佐藤晃彦*   下瀬川 徹**
* 東北大学大学院医学系研究科消化器病態学分野 ** 同教授

要  旨  膵腺房細胞で合成されるプロテアーゼは,通常は非活性型の前駆酵素としてチモーゲン分画に貯蔵されており,その細胞内局在や内因性プロテアーゼ阻害因子により病的活性化を回避している.急性膵炎では,これらの防御機構を凌駕してプロテアーゼ活性化が発生し,炎症応答や細胞骨格破綻,外分泌障害とともに膵炎の病態を形成している.アルコールは,これらの因子に複合的に影響して膵炎発症の閾値を低下させる.

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急性膵炎
重症急性膵炎の早期合併症の発症機序と対策

上田 隆*1  竹山宜典*2  安田武生*1 新関 亮*1  沢 秀博*1
中島高広*1  黒田嘉和**1
*1 神戸大学大学院医学系研究科消化器外科学    **1 同教授
*2 近畿大学医学部外科肝胆膵部門

要  旨  重症急性膵炎における早期合併症の本態は,全身性炎症反応症候群(SIRS)の結果としてさまざまなメディエーターによって惹起される重要臓器の機能不全である.その発症機序や治療に関する研究の進歩にもかかわらず,多臓器不全(MODS)から早期死亡に至る例が依然として存在する.十分な初期輸液を行い,早期死亡のリスクが高い症例(BE<−5.5mEq/lかつCr≧3.0mg/dl)は,高次専門施設において特殊療法を含む厳密な集中治療を受ける必要がある.

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急性膵炎
重症急性膵炎の後期合併症の発症機序と対策

竹山 宜典*

* 近畿大学医学部外科肝胆膵部門 准教授


要  旨
 重症急性膵炎は良性疾患でありながら死亡率が10%に達する重篤な疾患で,その死因は,発症早期の高度全身炎症反応による多臓器不全(MOF)と,発症後期の感染合併による敗血症に大別される.急性膵炎における感染は感染性膵壊死と膵膿瘍に大別され,その起炎菌は腸管由来のグラム陰性桿菌であることが多く,腸内細菌の bacterial translocation により発症する.イミペネムなどの抗菌力の強い抗菌薬の全身的予防投与により感染がある程度制御可能であるが,抗菌薬の使用により多剤耐性菌や真菌の感染を惹起することも明らかになってきた.いったん感染性膵壊死を合併すれば壊死部切除を選択せざるをえないが,重症化の阻止とともに経腸栄養や選択的消化管除菌,さらには動注療法などの特殊治療を駆使して感染を防御することが重要である.

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急性膵炎
急性膵炎におけるSIRSとCARS

広田昌彦*** 坂本快郎*   田中 洋*    近本 亮*   
高森啓史**  馬場秀夫****
* 熊本大学大学院医学薬学研究部消化器外科学 ** 同講師  
*** 同准教授   **** 同教授

要  旨  急性膵炎においては,プロテアーゼによる自己消化と虚血による組織破壊がサイトカイン産生の刺激になり,強い高サイトカイン血症が惹起される.また,トリプシンが膵で豊富に発現しているトリプシンの受容体 PAR-2を介してサイトカイン産生を刺激する系もある.急性膵炎では,産生される炎症性サイトカインの作用により全身性炎症反応症候群(SIRS)を発症する.一方,サイトカインが産生されSIRSとなると,同時にSIRSを遷延させないようにサイトカイン活性を上回るサイトカインの拮抗物質が産生される.急性膵炎の発症後早期には炎症性サイトカインの産生に基づく過度の炎症反応(SIRS)から,後期にはサイトカイン産生が抑制された結果生じる易感染性(CARS)から,臓器障害を生じる可能性がある.急性膵炎の診療においては,SIRSとCARS両側面への対応が肝要である.

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急性膵炎
急性膵炎の新しい重症度判定基準と治療指針

武田 和憲*
* 国立病院機構仙台医療センター 外科部長

要  旨
 重症急性膵炎をできるだけ早期に判定し,高次医療施設で適切な治療を受けることが救命率の改善につながることから,急性膵炎診療において重症度判定基準は極めて重要である.しかし,我が国の急性膵炎重症度判定基準は18項目の予後因子からなる煩雑なもので,CT所見が判定項目に含まれるなど臨床現場では極めて使いにくい.こうした点を改善するために重症度判定基準の改定案が作成され,その有用性について検証中である.一方,急性膵炎のガイドラインも第2版が発刊され,新しいエビデンスに基づいて推奨度の変更が行われている.

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慢性膵炎
慢性膵炎と遺伝子異常 −膵炎発症の分子機序−

正宗 淳*  粂  潔*  下瀬川徹**
* 東北大学大学院医学系研究科消化器病態学分野   ** 同教授

要  旨
 遺伝性膵炎のみならず特発性膵炎などにおいても,その発症に遺伝的背景が関与する症例が少なからず存在することが明らかとなった.ここ数年の膵炎関連遺伝子,特にカチオニックトリプシノーゲンや膵分泌性トリプシンインヒビターといったトリプシンに関係する遺伝子の解析は,診断のみならず膵炎の発症機序解明に大きく寄与している.遺伝子異常を背景に炎症を繰り返す症例は膵癌の高リスク群であり,遺伝子解析が成因解析のみならず経過観察や治療方針の決定に有用な情報を与えうる.

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慢性膵炎
慢性膵炎の発症機序とCFTR


成瀬 達*1  藤木理代*2  石黒 洋*3
*1 三好町民病院院長   *2 名古屋学芸大学管理栄養学部   
*3 名古屋大学大学院医学系研究科健康栄養医学 准教授

要  旨
 cystic fibrosis transmembrane conductance regulator(CFTR)は,cAMPにより調節されるクロライドチャネルである.CFTRは全身の上皮膜組織に発現しており,膵導管細胞における重炭酸イオン分泌に最も重要な役割を果たしている.CFTR遺伝子は,(膵)嚢胞性線維症の原因遺伝子であるが,一部の慢性膵炎は本遺伝子の変異を高頻度に合併する.

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慢性膵炎
慢性膵炎における膵線維化機序と治療


清水 京子*
* 東京女子医科大学消化器内科 講師

要  旨
 膵の線維化には,膵腺房周囲に存在する膵星細胞が重要な役割を果たす.膵星細胞は膵が傷害されると筋線維芽細胞様の紡錘形の活性化膵星細胞に形質転換し,炎症性メディエーターによって細胞増殖,細胞外マトリックス産生,遊走能などが亢進し,線維化形成が促進される.慢性膵炎の治療薬としてタンパク質分解酵素阻害薬以外にも,膵星細胞の活性化を抑制するレチノール,PPARγリガンド,アンジオテンシンU阻害薬,抗酸化物質などが候補として期待できる.

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慢性膵炎
慢性膵炎と膵癌-予後改善を目指した慢性膵炎の治療-

木原康之*   大槻 眞**
* 産業医科大学医学部消化器・代謝内科 学内講師   ** 同教授

要  旨
 慢性膵炎の罹病期間が長くなると膵癌を発症する危険が高くなることから,慢性膵炎では長期間にわたり持続して膵が傷害されることで膵癌を発症することが示唆される.慢性膵炎患者の膵癌発症を予防するには,慢性炎症をできる限り軽減し慢性膵炎の進展を抑制することが重要で,発症原因を除去し,慢性膵炎の急性増悪をできる限り繰り返させない治療を行う必要がある.

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自己免疫性膵炎
自己免疫性膵炎の発症機序と病態,治療指針

岡崎和一**  三好秀明*   小藪雅紀*   内田一茂*
* 関西医科大学内科学第三講座消化器肝臓内科   ** 同教授

要  旨
 自己免疫性膵炎は,しばしば硬化性胆管炎,硬化性唾液腺炎などの膵外病変を合併することより,全身性自己免疫疾患の可能性がある.抗核抗体以外に,膵,胆道,唾液腺などに分布するラクトフェリン,炭酸脱水酵素,PSTIなどに対する自己抗体をしばしば認める.疾患感受性ハプロタイプとナイーブ制御性T細胞の減少とともに,特徴的な血中IgG4上昇とIgG4陽性形質細胞浸潤には,メモリー制御性T細胞の増加との関連性が示唆される.

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自己免疫性膵炎
自己免疫性膵炎における自己抗体の発現と病態における意義

西森 功*   大西三朗**
* 高知大学医学部消化器内科 講師 ** 同教授

要  
 自己免疫性膵炎の診断基準には抗核抗体(陽性率 63%)やリウマトイド因子(28%)などの非特異的自己抗体が含まれる.抗 SS-A(Ro)/SS-B(La)抗体(0%/1.5%)や抗ミトコンドリア抗体(1%)など,他疾患の標識自己抗体は自己免疫性膵炎における除外診断に有用である.抗炭酸脱水酵素U抗体(28〜59%)および抗ラクトフェリン抗体(76%)の疾患特異性は低く,病因における意義は不明である.抗炭酸脱水酵素W抗体(31%),抗膵分泌性トリプシンインヒビター抗体(42%)が新しく報告され,病態への関与についての検討が待たれる.自己免疫性膵炎には膵管を含む外分泌腺導管に対する IgG4 型血中抗体が検出され,導管抗原に対する免疫応答が病態において重要と考えられる.

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自己免疫性膵炎
自己免疫性膵炎におけるIgG4と補体系の役割

川 茂幸*1  浜野英明*2   村木 崇*2  新倉則和*2
*1 信州大学健康安全センター 教授   *2 信州大学医学部第二内科

要  旨
 自己免疫性膵炎では血清IgG4が特異的,高率に上昇し,病態に関与していると考えられる.また活動期にC3,C4の低下例を36%に認め,補体活性化の関与も考えられる.補体活性化機序については,C4の低下も認めるので副経路の関与は考えにくく,またマンノース結合レクチン経路の関与は否定的であった.C1q法で測定した免疫複合体高値群と正常群を比較すると,高値群で血清 IgG1 値が有意に高く,C4値が有意に低く,C3値が低値の傾向を認めた.IgG4はC1qと結合性がないので補体活性化経路にIgG4の直接的な関与は否定的で,むしろIgG1による古典的経路の関与が考えられた.

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自己免疫性膵炎
自己免疫性膵炎の疾患モデルと免疫異常 -aly/aly 雄性マウスを用いた病態の解明-

吉田 仁**1  田中滋城***1 山崎貴久*1 湯川明浩*1  
本間 直*2  北村勝哉*1   粟井俊成*3  塙 勝博*1  
今村綱男*4   池上覚俊*1  井廻道夫****1
*1 昭和大学医学部第二内科 **1 同講師 ***1 同准教授 ****1 同教授
*2 せんぽ東京高輪病院内科(消化器・肝臓) *3 東急病院内科 *4 虎の門病院消化器科

要  旨
 自己免疫性膵炎(AIP)の動物モデルとして,膵の小葉間間質部に炎症細胞浸潤を来し慢性膵炎を自然発症するaly/aly雄性マウス(aly マウス)を用いた.alyマウスは12週齢で膵の炎症細胞が増加し,間質部は拡大し16週齢で膵腺房細胞・導管細胞に,その後28週齢でランゲルハンス島細胞にアポトーシスが生じ,実質細胞の萎縮・脱落の本態がアポトーシスであることが推定された.alyマウスは末梢血IgGが低値である点で高IgG4血症・IgG4+形質細胞浸潤を特徴とするAIPとは異なるが,膵におけるCD4+T細胞浸潤が優位であった.発症初期にCD4+Th1活性が増加しTh2活性も高値を示すが膵炎進展期に再度CD4+Th2活性が優位になるなどの特徴を呈し,Th1/2バランスの推移がAIPの病態を形成することを示唆し,alyマウスはAIP動物モデルとして大いに貢献すると推定された.

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対談
脳とこころの科学と医療(第6回)
 分子から脳機能を解明できるか?

ゲスト  高坂 新一 先生(国立精神・神経センター神経研究所 所長)
聞き手  金澤 一郎 先生(国立精神・神経センター名誉総長)


 対談シリーズ「脳とこころの科学と医療」は、お招きするゲストの先生方に、ご自身の研究の内容や失敗談、成功談をお伺いしながら、日本における脳・神経研究の歴史を紹介するとともに、そこで語られる先達の教訓を、本誌の対象読者である若手研究者の日頃の研究に役立てていただくことを願って企画致しました。ゲストにはこの分野の基礎を築いて来られた方々、また現在も第一線で研究を続けておられる方々をお招きしています。
第6回はゲストに国立精神・神経センター神経研究所所長・高坂 新一 先生をお迎えして「分子から脳機能を解明できるか?」をタイトルにお話をお伺いしました。
 高坂先生は人がやってないこと、最も解っていないことは何かを考えミクログリアの研究を始められたそうです。ミクログリアは白血球の代わりに脳内で免疫防御を担っています。先生はその特異的マーカーとしてIba1という新しいタンパク質を発見されました。
 このIba1遺伝子のプロモーターにEGFP遺伝子を結合したトランスジェニックマウスは現在世界中の研究者から譲渡の依頼が引きも切らずに来るそうです。
 その他にも最近の研究であるミクログリアのATP受容体であるP2X4の発見の経緯とその着眼点についても伺いました。
 聞き手は国立精神・神経センター名誉総長・金澤一郎先生です。

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●総     説
糖トランスポーターの調節とトラフィキング

祐田泰延*
* 千葉科学大学薬学部薬学科 教授

要  旨
 糖輸送体であるGLUTsおよびSGLTsのトラフィキングについて,細胞質から細胞膜表面へのエキソサイトーシスと,細胞膜表面から細胞質へのエンドサイトーシスに分けて考察したい.インスリン,GLP-2 などのシグナルがCrk-U,Aktなどを介して,GLUTsあるいは SGLTs を含んだ細胞膜表面あるいは小胞に移送される.小胞形成,移送にかかわるsyntaxin,munc,caveolin,dynamin,SNAP,SNAREなどの分子種,分子集合の会合−解離を促す.これら結合ドメインの分子生物学的な側面,また分子種相互の連繋などについて最近の知見を紹介し,その他,GLUTsやSGLTsの発現調節とのかかわりについても述べる.


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●総     説
バイオマーカーとしてのナトリウム利尿ペプチド(BNP,N端−proBNP)と腎機能

蔦本尚慶**  田中俊成*   西山敬三* 酒井 宏*   
山本 孝* 藤井応理*   堀江 稔***
*   滋賀医科大学呼吸循環器内科** 同講師 *** 同教授

要  旨
 人口の高齢化に伴い心不全患者が増加し,確実な診断と評価が重要になる.心不全診断−重症度−予後−治療効果を理解し,評価するうえでBNP,N端−proBNP濃度測定が有用である.両者は心機能のみならず,腎機能の影響を受けるバイオマーカーである.BNP,N端−proBNPに影響を及ぼす 推定GFR値のカットオフ値は,BNPでは60ml/min,N端−proBNP濃度では 90ml/min 前後である.心不全指標として評価するときは,腎機能異常の有無によりカットオフ値を考慮する必要がある.


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