最新医学62巻10号 
特集
 内分泌代謝疾患と核内受容体

要  旨


アプローチ
内分泌代謝疾患における転写因子(核内受容体)とコレギュレーターの展開
名和田 新*1*2

*1 福岡県立大学学長・理事長
*2 九州大学大学院医学研究院特任教授・名誉教授

要  旨
 核内受容体はリガンド依存性に標的遺伝子の転写制御を行う転写因子である.  核内受容体は共役因子と複合体を形成し,核内クロマチンにおいて転写調節を行う作用発現機構の詳細が解明されつつある.  核内受容体は組織特異的に多くの標的遺伝子の発現を制御し,ホメオスタシスを維持する極めて重要な因子である.  これらの進歩は,器官の発生・分化・再生,転写因子病,共役因子病,染色体調節因子複合体病,メタボリックシンドローム,乳癌,前立腺癌の臨床領域に大きなインパクトを与えている.

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内分泌疾患
転写因子異常による下垂体ホルモン複合欠損症

巽 圭太*
* 大阪大学大学院医学系研究科臨床検査診断学 講師

要  旨  下垂体では哺乳類の転写因子研究の先駆けとしてPit-1が単離され,1992年に私はPIT1異常症(先天性TSH・GH・PRL複合欠損症)を新しい疾患単位として報告した.PIT1異常症は,標的遺伝子や発現細胞が明快なことから,転写因子異常症の機序を説明するモデル疾患と言える.本稿では,その後15年間に続々と解明されてきた転写因子異常による下垂体ホルモン複合欠損症についても述べる.

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内分泌疾患
転写因子と副腎・性腺分化異常症

緒方 勤*
* 国立成育医療センター研究所小児思春期発育研究部 部長

要  旨  副腎および性腺の分化にかかわる転写因子について,ヒトの疾患に関与するものを主として述べた.副腎分化にはSF1とDAX1が,性腺分化にはDAX1,WT1,SRY,SOX9,FOXL2などが関与することが知られている.また,転写因子相互作用も解明されつつある.これらの知見は,ヒトにおける副腎・性腺分化異常症の原因解明に貢献すると期待される.

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内分泌疾患
染色体構造調節因子複合体病としての Williams 症候群

加藤茂明**  藤木亮次*   北川浩史*

* 東京大学分子細胞生物学研究所/ 科学技術振興機構 ERATO   ** 同教授


要  旨
 染色体上での転写制御は,染色体構造調節を伴うことが明らかになりつつある.ビタミンDはカルシウム代謝調節主要因子であり,皮膚などの特異的標的細胞の増殖分化を制御することが,核内ビタミンD受容体(VDR)欠損マウスやヒト家族性くる病U型で確かめられている.我々は,VDR機能を担う核内複合体群を同定する過程で,優性の先天性疾患であるWilliams症候群の責任遺伝子と考えられてきたWSTFを含む複合体を見いだした.この複合体は染色体構造調節因子複合体であったことから,この疾患は染色体構造調節因子複合体病の初めての例と思われる.本稿では,この複合体の機能とWSTFの機能を概観する.

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内分泌疾患
甲状腺ホルモン不応症とコレギュレーター

梅澤良平*   山田正信**  森 昌朋***
* 群馬大学大学院医学系研究科病態制御内科 ** 同講師 *** 同教授

要  旨  甲状腺ホルモン不応症は,主に甲状腺ホルモン受容体β遺伝子の異常により発症し,変異甲状腺ホルモン受容体がドミナントネガティブ作用を示すことで優性遺伝形式を示す.核内受容体である甲状腺ホルモン受容体は,種々のコレギュレーターと相互作用してその活性を示す.一部の甲状腺ホルモン不応症の病態には,変異甲状腺ホルモン受容体とコアクチベーター,コリプレッサーとの相互作用の異常が関係していることが明らかとなってきた.

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内分泌疾患
前立腺癌とアンドロゲン受容体

溝上 敦*   並木幹夫**
* 金沢大学大学院医学系研究科泌尿器科講師 ** 同教授

要  旨
 アンドロゲン依存性増殖を示す前立腺癌において,増殖の鍵となる遺伝子はアンドロゲン受容体(AR)である.アンドロゲンを除去するとARは核内に入ることができず,AR は活性を持たない.しかし,アンドロゲンを体内から完全に除去することは難しく,わずかなアンドロゲンでもさまざまな機序によりARが活性化され,核内に移行して前立腺癌が再燃する.ARの関与する再燃の機序を明らかにすることによって,前立腺癌に対する治療戦略が立てられるだろう.

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内分泌疾患
乳癌とエストロゲン受容体,コレギュレーター

林 慎一*
* 東北大学医学部保健学科検査技術科学専攻分子検査学分野 教授

要  旨
 乳癌は,その治療の主流が核内受容体を分子標的としている代表的腫瘍である.これまで核内受容体研究の進歩はエストロゲンの作用機序を解明し,その成果は内分泌療法という形で乳癌の臨床に多大な貢献をしてきた.さらに耐性の問題,治療選択,治療効果増強などの臨床上の問題解決のための基礎研究への期待は大きい.実際の患者組織内での細胞内リン酸化シグナル系との関係,共役因子等の動態などが重要な鍵となると思われる.

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代謝異常
Ad4BP/SF-1とエネルギー代謝


嶋 雄一*1  諸橋憲一郎**1*2
*1 基礎生物学研究所性差生物学研究部門 **1 同教授(併任)
*2 九州大学大学院医学研究院分子生命科学科機能高分子設計学講座 教授

要  旨
 Ad4BP/SF-1は視床下部腹内側核(VMH)に発現している転写因子で,遺伝子破壊マウスの解析から肥満やエネルギー代謝を調節する機能を持つことが明らかになった.最近の研究により,脳由来神経栄養因子(BDNF)をはじめとしてVMHにおける本因子の標的遺伝子が幾つか明らかになっており,今後Ad4BP/SF-1のVMH特異的エンハンサーを用いて生体レベルでさらに詳細な解析が進むことが期待されている.

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代謝異常
SHPと糖脂質に関する代謝異常


塩谷真由美*   堀川幸男**  武田 純***
* 岐阜大学大学院医学系研究科内分泌代謝病態学 ** 同准教授 *** 同教授

要  旨
 若年糖尿病(MODY)遺伝子にコードされる一連のHNF転写因子は,インスリン分泌において重要である.新規の MODY因子を探索する過程で,オーファン受容体SHPの遺伝子異常が若年糖尿病ではなく,出生時過体重,若年肥満,インスリン抵抗性を生じることが明らかとなった.さらに,HNF転写因子や種々の核内受容体との協調で,SHPは肝の脂質代謝や動脈硬化などさまざまな代謝異常の複合に関与する可能性が示された.

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代謝異常
アンドロゲン受容体,核内受容体コレギュレーターとメタボリックシンドローム

柳瀬敏彦*
* 九州大学大学院医学研究院病態制御内科(第三内科)准教授

要  旨
 アンドロゲン受容体(AR)ノックアウトマウスでは,オス特異的に晩発性の肥満を来し,その成因としてエネルギー消費の低下と脂肪分解の抑制が認められることから,内因性ARには抗肥満作用があると考えられる.一方,核内受容体コレギュレーターの中には肥満に対して抑制的あるいは促進的に作用するものがあり,それらの食事性の発現変動が肥満の病態に関与している可能性がある.一方,PPARγのフルあるいは部分的アゴニストの生理作用の違いの一因は,PPARγ−コレギュレーター複合体構成の差異による.創薬の観点から副作用をより軽減し,抗糖尿病作用のみを示す選択的PPARγモジュレーター(SPPARγM)の開発が進められている.

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代謝異常
エストロゲン受容体と卵胞発育

谷口文紀*   寺川直樹**
* 鳥取大学医学部産科婦人科学教室講師 ** 同教授

要  旨
 卵巣エストロゲンは,莢膜細胞で産生されるアンドロゲンを基質として顆粒膜細胞において産生される.2つのエストロゲン受容体(ERαおよびERβ)は卵巣に発現しており,卵胞発育・成熟において重要な役割を有する.卵巣性ステロイドホルモンの産生は,ゴナドトロピンのみならず卵巣内フィードバック機構により調節される.

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代謝異常
脂肪組織のグルココルチコイド作用過剰とメタボリックシンドローム

益崎裕章*   石井崇子*   泰江慎太郎* 田中智洋*   中尾一和**
* 京都大学大学院医学研究科内科学講座臨床病態医科学・内分泌代謝内科 ** 同教授

要  
 細胞内グルココルチコイド活性化酵素11β-HSD1はPPARγの標的遺伝子であり,チアゾリジン誘導体による内臓脂肪減少効果の担い手分子の1つである.その発現レベルは肥満動物や肥満者の脂肪組織において顕著に上昇しており,体格指数(BMI)やインスリン抵抗性指標とよく相関し,ストレスによる体重増加の病態とも深く関連している.遺伝子操作マウスの解析結果から,脂肪組織における11β-HSD1阻害が糖脂質代謝改善に重要であること,11β-HSD1低分子阻害剤が病態モデルマウスの代謝異常や動脈硬化を改善することが明らかになっており,メタボリックシンドローム診断・治療の分子標的として注目される.

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代謝異常
SREBPと糖尿病,脂肪酸合成

島野 仁*
* 筑波大学大学院人間総合科学研究科内科学 臨床教授

要  旨
 組織や細胞内において脂質が蓄積するような病態は脂肪毒性と言われ,インスリン作用の障害を引き起こす.栄養状態に応じて活性化し,脂肪酸,トリグリセリド合成酵素の発現を支配する転写因子SREBP-1cは,栄養の生理制御のみならず,肥満,脂肪肝,高脂血症などの脂質代謝異常や脂肪毒性の分子機序にかかわる.肝臓インスリン抵抗性や膵臓β細胞インスリン分泌障害に関与して,糖尿病の発症につながる転写因子と考えられる.

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代謝異常
PPARδと糖・脂質代謝

酒井寿郎*
* 東京大学先端科学技術研究センターシステム生物医学ラボラトリー内分泌代謝医学分野 教授

要  旨
 骨格筋細胞における核内受容体PPARδの活性化は,脂肪酸β酸化,脂肪酸活性化,脂肪酸トランスポートなど,脂肪酸β酸化系の遺伝子の発現を包括的に誘導する.個体レベルでは,合成リガンドによるPPARδの活性化は高脂肪食による肥満を抑制し,メタボリックシンドロームにかかわるほとんどの症状を改善することを我々は明らかにした.PPARδは,骨格筋細胞のほか種々の細胞に発現しているが,膵ランゲルハンス島保護作用,インスリン分泌作用,心筋保護作用など,各種細胞における機能が次第に明らかにされてきており,メタボリックシンドロームの創薬の標的分子として明らかにされつつある.

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対談
脳とこころの科学と医療(第7回)
 神経可塑性に挑む

ゲスト  津本 忠治 先生(理化学研究所ユニットリーダー)
聞き手  金澤 一郎 先生(国立精神・神経センター名誉総長)


 対談シリーズ「脳とこころの科学と医療」は、お招きするゲストの先生方に、ご自身の研究の内容や失敗談、成功談をお伺いしながら、日本における脳・神経研究の歴史を紹介するとともに、そこで語られる先達の教訓を、本誌の対象読者である若手研究者の日頃の研究に役立てていただくことを願って企画致しました。ゲストにはこの分野の基礎を築いて来られた方々、また現在も第一線で研究を続けておられる方々をお招きしています。
 第7回はゲストに理化学研究所ユニットリーダー・津本 忠治 先生をお迎えして「神経可塑性に挑む」をタイトルにお話をお伺いしました。
 ドイツへの留学を経て発達期のネコの大脳皮質視覚野ニューロン存在するN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体が視神経発達の「臨界期」に重要な役割を果たしている事を発見された津本先生ですが、最初は臨床医として感覚障害や、視床症候群の患者さんを担当されていたそうです。
 また、津本先生は機能変化を形態変化につなげる分子として神経栄養因子に注目され大きな成果を上げられましたが、現在は脳のシステム的なイメージングと分子(物質)のイメージング技術に大変期待されているそうです。
 その他にも有馬委員会(正式名称は「情動の科学的解明と教育等への応用に関する検討会」)の副座長をされた時のお話から最近の子供たちの情動異常の原因などについても詳しく伺いました。
 聞き手は国立精神・神経センター名誉総長・金澤一郎先生です。

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