最新医学62巻11号 
特集
 ABCタンパク質の基礎と臨床
要  旨


アプローチ
ABCタンパク質と個体維持機構―機能から疾患まで―
稲垣 暢也*

* 京都大学大学院医学研究科糖尿病・栄養内科学 教授

要  旨
 ABCタンパク質はよく保存されたATP結合領域を1機能分子当たり2つ有する膜タンパク質のファミリーであり,バクテリアからヒトまで広く存在する.これらは類似した2次構造を持ち,細胞内ATPによって駆動あるいは制御され,トランスポーター,チャネル,レギュレーターとさまざまな機能を有する特徴がある.ヒトでは約50種類の遺伝子が知られているが,最近ではそれらの異常によってさまざまな疾患を起こしうることも明らかになってきた.

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ABCタンパク質と個体維持機構
バクテリアエンベロープの形成・維持機構とABCトランスポーター

徳田 元*
* 東京大学分子細胞生物学研究所 教授

要  旨  LolCDE複合体は,大腸菌の外膜特異的リポタンパク質を内膜から遊離するABCトランスポーターである.LolCDEは,基質結合型として精製できること,プロテオリポソームに再構成しなくてもシングルサイクルのリポタンパク質遊離反応を再現できることが大きな特徴である.この特徴を生かし,ATPの結合,加水分解,リン酸とADPの解離がLolCDEにどのような変化をもたらすかが詳細に解析されている.

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ABCタンパク質と個体維持機構
植物の個体維持機構とABCタンパク質

矢崎 一史*
* 京都大学生存圏研究所森林圏遺伝子統御分野 教授

要  旨  高等植物のゲノム配列がシロイヌナズナやイネで次々に解読され,植物にはヒトの2倍以上のABCタンパク質遺伝子があることが明らかになった.本ファミリーには植物特有のグループが存在することや,フルサイズABCAが単子葉植物にはないこと,さらに植物特有のオルガネラである液胞ならびに葉緑体に局在する分子の機能などが解明されてきたが,動物と共通の生理的役割も見られる.本稿では個体維持機構の観点から,植物ABCタンパク質の最新情報を動物との比較において概説する.

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ABCタンパク質と個体維持機構
脳関門におけるABCトランスポーターの働きと疾患治療

寺崎 哲也*

* 東北大学大学院薬学研究科薬物送達学分野 教授


要  旨
 脳毛細血管内皮細胞血液側膜に MDR1,MRP4,BCRPが,脈絡叢上皮細胞血液側膜にMRP1,MRP4が発現し,脳内への薬物移行を防いでいる.ABCA1,ABCG1は脊髄液中のコレステロール保持を担っている.胎児,乳児期にMDR1はほとんど発現していないこと,MRP4はプロスタグランジンを輸送することなど,安全で有効な薬物療法にはABCトランスポーターの働きを十分に理解することが必要である.

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ABCタンパク質と個体維持機構

脂質恒常性に関与するABCタンパク質の基質認識機構

木村 泰久*   松尾 道憲*   植田 和光**
* 京都大学大学院農学研究科応用生命科学専攻細胞生化学研究室 ** 同教授

要  旨  脂質恒常性および薬剤輸送に関与するABCタンパク質の機能を比較した結果,ABCタンパク質の基質認識はこれまでの酵素・基質相互作用の基本である特異的な one-to-one 対応ではなく,非常に柔軟な one-to-many 対応であること,ABC タンパク質の柔軟な基質認識に細胞膜中のコレステロールが重要な役割を果たしていることが分かった.「コレステロール Fill-in モデル」と呼びたいと考えている.

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ABCタンパク質の異常と疾患
コレステロール代謝異常とABCA1 -タンジール病-

横山 信治*
* 名古屋市立大学大学院医学研究科基礎医科学講座生物化学分野 教授

要  旨
 ABCA1を介したアポリポタンパク質と細胞脂質からのHDL新生反応は,非特異的物理化学的交換反応と並んで細胞コレステロールの主要な放出機構の1つであり,血漿HDLのほとんどはこの反応で生成される.したがって,ABCA1の遺伝子変異は血漿HDLの消失を招き,ABCA1活性の阻害薬であるプロブコールによるHDL低下も同様の機序による.本稿では,ABCA1によるHDL新生反応の機構とABCA1の活性制御についての知見をまとめ,HDL代謝にかかわる新しいアプローチを概説する.

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ABCタンパク質の異常と疾患
肺疾患とABCA3 -サーファクタント欠損症-

松村 欣宏*1  坂 信広*1*3 稲垣 暢也**1*2*3
*1 秋田大学医学部機能制御医学講座細胞制御学分野 **1 同教授
*2 京都大学大学院医学研究科糖尿病・栄養内科学 教授
*3 科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(CREST)

要  旨
 ABCA3は,肺胞U型細胞においてサーファクタント貯蔵器官であるラメラ体の限界膜に局在するタンパク質である.2004年に,致死的サーファクタント欠損症患者に ABCA3 遺伝子変異が存在することが初めて報告された.その後,変異型 ABCA3 タンパク質やAbca3遺伝子欠損マウスの解析などにより,ABCA3の生理的機能と病態における役割が徐々に明らかになってきた.

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ABC タンパク質の異常と疾患
皮膚疾患とABCA12 -魚鱗癬-


秋山 真志*
* 北海道大学大学院医学研究科皮膚科学分野 准教授

要  旨
 道化師様魚鱗癬は,出生時より全身の皮膚が非常に厚い板状の角層に覆われる最も重症の遺伝性皮膚疾患である.我々は,道化師様魚鱗癬の病因がABCA12の機能欠損であることを明らかにした.ABCA12の役割は,表皮細胞の層板顆粒への脂質輸送であり,層板顆粒内脂質は角層細胞間脂質層を形成し,皮膚バリアの要となる.ABCA12の欠損は角層細胞間脂質層の低形成,バリア機能障害を来し,魚鱗癬の病因となる.

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ABCタンパク質の異常と疾患
ABCタンパク質による胆汁脂質分泌と遺伝性疾患


高田龍平*   鈴木洋史**
* 東京大学医学部附属病院薬剤部 ** 同教授

要  旨
 胆汁酸,リン脂質,コレステロールの胆汁中への分泌には,BSEP/ABCB11,MDR3/ABCB4,ABCG5/ABCG8などのABCタンパク質をはじめとするさまざまなトランスポーターが関与しており,その機能異常は胆汁うっ滞などの遺伝性疾患をもたらす.本稿では,FIC1/ATP8B1 異常による病態発症,NPC1L1 によるコレステロール再吸収と合わせ,胆汁脂質分泌研究の最新の動向を紹介する.

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ABCタンパク質の異常と疾患
ペルオキシソームABCタンパク質と副腎白質ジストロフィー

今中 常雄**  柏山 恭範*   守田 雅志*
* 富山大学大学院医学薬学研究部分子細胞機能学研究室 ** 同教授

要  旨
 ペルオキシソームは,極長鎖脂肪酸のβ酸化,コレステロールの胆汁酸への変換など脂質代謝と密接にかかわっている.哺乳動物のペルオキシソーム膜上には3種のABCタンパク質が存在し,脂肪酸輸送に重要な役割を担っている.因みにALDP(ABCD1)の欠損は,極長鎖脂肪酸の蓄積を特徴とする副腎白質ジストロフィー(ALD)の原因となる.ペルオキシソームABCタンパク質の構造と機能,ALDとのかかわりについて解説する.

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ABCタンパク質の異常と疾患
血糖調節にかかわるSUR1 -低血糖症と糖尿病-

長嶋 一昭*   稲垣 暢也**
* 京都大学大学院医学研究科糖尿病・栄養内科学 ** 同教授

要  旨
 インスリン分泌調節機序において,KATPチャネルは重要な役割を担っている.膵β細胞型KATPチャネルは,ABCタンパク質に属するSUR1とK+チャネルに属するKir6.2の2種類のサブユニットにより構成されており,これら構成サブユニットタンパク質をコードする遺伝子異常により,低血糖症および糖尿病が惹起されることが明らかとなった.遺伝子変異部位による疾患重篤度および薬剤反応性変化の多様性も報告され,今後の知見の集積が期待されている.

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ABCタンパク質の異常と疾患
耳垢型決定因子としてのABCトランスポーター遺伝子(ABCC11)

新川 詔夫*
* 北海道医療大学個体差健康科学研究所 所長

要  
 遺伝学的にヒト耳垢型座をマップ後,ゲノム・関連解析でABCC11遺伝子のcSNP(c.538G>A)が耳垢型決定因子であると結論した.乾型は,例外のΔ27を除いて,変異Aアリルのホモ接合体である.乾型Aアリル由来のMRP8膜タンパク質の移送能は,野生型Gアリルに比べて低下していた.33民族におけるAアリル頻度地図は,中国北部と韓国をピークとして南方・西方へ減少する地理的勾配を示し,乾型人類集団の拡散を反映すると思われる.湿型は腋臭症および産婦の初乳量との強い関連を認めた.

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ABCタンパク質と薬物動態
薬物体内動態における ABCタンパク質の役割 -MRP3とMRP4-

北村嘉章*1*2  楠原洋之**1  杉山雄一***1
*1 東京大学大学院薬学系研究科分子薬物動態学教室 **1 同准教授 ***1 同教授
*2 キョーリン製薬株式会社創薬研究所

要  旨
 薬物トランスポーターを介した担体介在輸送は,薬物代謝酵素とともに医薬品の体内動態を決定する因子として重要であることが広く認識されている.近年,有機アニオン排出ポンプである MRP ファミリーに分類される MRP3 と MRP4 の機能解析が進み,肝疾患時の生体防御機構としての役割のほかに,正常時の薬物体内動態における重要性も明らかとなってきた.

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ABCタンパク質と薬物動態
癌化学療法におけるABCタンパク質 -ABCB1とABCG2-

杉本 芳一*1*2
*1 共立薬科大学化学療法学教授 *2 財団法人癌研究会癌化学療法センター遺伝子治療研究室 室長

要  旨
 P-gp(ABCB1),BCRP(ABCG2)は抗癌剤排出トランスポーターであり,正常の消化管上皮や血管内皮細胞などに発現して,種々の抗癌剤の体外への排出の促進および脳や精巣への侵入の阻止を担う.このため,P-gp,BCRPの阻害剤の投与,あるいはP-gp,BCRPの発現と機能を低下させるSNPは,その基質となる抗癌剤の腸管吸収の上昇,血中濃度の上昇,脳移行の亢進などの効果を示す.

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対談
脳とこころの科学と医療(第8回)
 ヒトの脳とこころの発達

ゲスト  多賀 厳太郎 先生(東京大学)
聞き手  金澤 一郎 先生(国立精神・神経センター名誉総長)


 対談シリーズ「脳とこころの科学と医療」は、お招きするゲストの先生方に、ご自身の研究の内容や失敗談、成功談をお伺いしながら、日本における脳・神経研究の歴史を紹介するとともに、そこで語られる先達の教訓を、本誌の対象読者である若手研究者の日頃の研究に役立てていただくことを願って企画致しました。ゲストにはこの分野の基礎を築いて来られた方々、また現在も第一線で研究を続けておられる方々をお招きしています。
 第8回はゲストに東京大学・多賀 厳太郎 先生をお迎えして「ヒトの脳とこころの発達」をタイトルにお話をお伺いしました。
 大学2年生の時に「自己組織化」という概念と「脳が情報を創る」ということを結び付けて研究をされていた薬学部の清水 博 先生のお話に感銘を受けて脳研究の道を志した多賀先生ですが脳の発達過程に注目された原因の一つはご自身のお子さんの誕生でした。誰も手をつけていないような課題を探されていた先生は小児神経の発達については殆どわかっていなかった事もあり、生まれたばかりの赤ちゃんや子供に大変興味をもたれたようです。
 その成果としてヒトは生後2・3ヶ月で脳の発達ががらりと変わことを発見されました(U字発達)。実際、サルベースの研究ではこの時にシナプスの増減(急激な形成と淘汰)が関与することが分っておりヒトでも同じことが起こっているのかどうかを確かめるのが今後の課題とのことでした。
 まだまだ未解明な脳の発達についてのお話です。是非、お楽しみ下さい。
 聞き手は国立精神・神経センター名誉総長・金澤一郎先生です。

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