最新医学63巻1号 
特集 肺癌分子標的療法 −最近の展開-

要  旨



アプローチ


西條長宏*

* 国立がんセンター東病院 副院長
要  旨
 肺癌に対する臨床試験は数多く行われ,標準的治療が確立されつつあるものの,その成績はプラトーとなり,さらなる治療成績の向上には新しい分子標的治療薬の導入に期待がかけられている.しかし,肺癌に対する分子標的治療の成績は必ずしも好ましいものではなく,予想とは異なる結果も多く報告されている.アプローチでは,分子標的治療と殺細胞性抗癌剤の特性の違いに基づき,今後の臨床試験で考慮すべき点を論じた.

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EGFR-TKI(ゲフィチニブ,エルロチニブ)の基礎
-効果,副作用規定因子-

片山達也*   高坂貴行**   小野里良一*   光冨徹哉**
* 愛知県がんセンター中央病院胸部外科   ** 同部長

要  旨
 EGF 受容体チロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)は,腺癌,女性,非喫煙者,東洋人に高い感受性を持ち,EGFR遺伝子変異と高い相関を持つことが明らかとなった.さらに耐性の機序として,2次的変異(T790M)の存在やMET遺伝子の増幅が報告された.これらの知見や同薬の致死的な有害事象である間質性肺炎の予測因子の探求により,個別化医療の実現に向けた研究努力がなされている.

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EGFR-TKI(ゲフィチニブ,エルロチニブ)の臨床
-臨床試験の動向-

仁保誠治*
* 国立がんセンター東病院呼吸器科

要  旨
 化学療法歴を有する進行非小細胞肺癌に対し,エルロチニブはプラセボと比較して有意に生存期間を延長していたが,ゲフィチニブはプラセボに対し生存期間に有意差がなかった.ただし東洋人に限ったサブセット解析では,ゲフィチニブはプラセボに対し有意に生存期間を延長していた.化学放射線治療後の局所進行非小細胞肺癌を対象としたゲフィチニブとプラセボの比較試験では,ゲフィチニブで有意に生存期間が劣っていた.

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抗EGFR抗体による抗腫瘍効果
-EGFR-TKI との作用機序の違い-

吉田健史*   岡本 勇**
* 近畿大学医学部内科学腫瘍内科部門   ** 同准教授

要  旨
 近年,EGFRを標的としたモノクローナル抗体の開発および臨床導入が進められている.抗 EGFR モノクローナル抗体は,EGFR の細胞外領域においてリガンドである EGF やTGFαなどの増殖因子と競合する.本稿では抗 EGFR 抗体の作用機序について,EGFR-TKI との違いを中心に最新の知見を含めて解説した.

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抗 EGFR 抗体の非小細胞肺癌における臨床動向
-セツキシマブを中心に-


田宮朗裕*   山本信之**
* 静岡県立静岡がんセンター呼吸器内科   ** 同部長

要  旨
 EGF受容体(EGFR)は高頻度に非小細胞肺癌組織で過剰発現している.EGFRのシグナル活性は,細胞増殖,アポトーシス阻害,細胞浸潤,血管新生調節など重要な役割を果たす.抗 EGFR 抗体薬は,腫瘍の増殖を阻害し,放射線治療や抗癌剤治療の効果を強めることが分かってきた.現在,セツキシマブ,パニツムマブ,マツズマブ,ニモツズマブの4種類が日本において臨床試験中であり,セツキシマブを中心に臨床応用されつつある.

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血管新生阻害薬の作用機序と臨床開発
-抗VEGF抗体・VEGFtrap・VEGF-TKIなど-


竹内 啓*   秋田弘俊**
* 北海道大学大学院医学研究科腫瘍内科学分野   ** 同教授

要  旨
 腫瘍の増殖には血管新生が重要な役割を果たしており,VEGF経路を標的とした血管新生阻害作用を有する分子標的治療薬が開発されている.特に抗 VEGF 抗体であるベバシズマブは,生存期間の延長効果が第V相臨床試験で証明されている.我が国でも切除不能進行再発大腸癌で承認されており,他癌種への適応拡大が図られている.現在,血管新生阻害薬に関する臨床試験が各種進行中である.

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抗VEGF抗体(ベバシズマブ)の臨床効果・副作用

棚井千春*   國頭英夫*
* 国立がんセンター中央病院肺内科

要  旨
 血管新生阻害薬であるベバシズマブ(アバスチン)は,未治療進行非小細胞肺癌の初回治療において,標準的治療との併用による上乗せ効果を示した.化学療法による延命効果が限られ,予後不良である進行非小細胞肺癌の新たな治療戦略として期待されるが,致死的な出血を含む有害事象の問題をはじめ,検討すべき課題が多く残されている.

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多標的分子標的治療の可能性

木浦勝行**  瀧川奈義夫*

* 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科血液・腫瘍・呼吸器内科   ** 同准教授

要  旨
 EGF受容体チロシンキナーゼ阻害薬ゲフィチニブの登場以後,進行肺非小細胞癌においても長期生存例を経験するが,その著効例も1年前後で獲得耐性現象を示す.また,RAS 遺伝子などの活性化による肺癌に対して有効な分子標的治療は開発されていない.肺癌細胞を根絶するために,複数の分子標的薬の組み合わせによる複数の生存・増殖に必須の経路を遮断,あるいは2つ以上の分子標的を同時に阻害できる薬剤の開発は必須である.

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肺癌分子標的治療のバイオマーカー

西尾和人*
* 近畿大学医学部ゲノム生物学教室 教授

要  旨
 バイオマーカー研究は,特に分子標的治療において重要である.肺癌領域においても,現在開発が進行している EGFR-TKI,抗 EGFR 抗体,血管新生阻害薬などに関するバイオマーカー研究が盛んになっている.物の薬力学的作用を証明する目的と効果予測ひいては薬物選択のために,バイオマーカー研究は進められる.有害事象のハイリスクを予見するバイオマーカー研究も重要と考えられる.これらを通じて,分子標的薬による個別化医療が進展すると期待される.

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切除不能局所進行非小細胞肺癌に対する分子標的治療の現状
-胸部放射線療法との併用-

引野幸司*   大江裕一郎*
* 国立がんセンター中央病院肺内科

要  旨
 切除不能局所進行非小細胞肺癌に対する標準的治療は,現在のところシスプラチンを含む化学療法と同時胸部放射線療法であることがほぼコンセンサスとなっているが,まだまだ十分な治療成績とは言えない状況である.近年,分子標的薬が非小細胞肺癌の治療薬として注目され,放射線療法との併用で相乗効果も報告されている.これを踏まえ,切除不能局所進行非小細胞肺癌に対して分子標的薬と化学・胸部放射線療法を併用する臨床試験が行われている.今後のさらなる治療成績向上において,分子標的薬は非常に重要な治療戦略と言える.

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小細胞肺癌と分子標的治療

瀬戸貴司*
* 九州がんセンター統括診療部呼吸器科部 副部長

要  
 小細胞肺癌に対する分子標的薬剤は,化学療法や放射線化学療法後の維持療法として開発されることが多い.最初に試された分子標的薬剤はマリマスタットであったが,現在のところ,小細胞肺癌患者の生存率を有意に向上させる分子標的薬剤は開発されていない.血管新生阻害薬などが有望視されているが,小細胞肺癌は従来の抗癌剤に対する感受性が高いため,分子標的薬剤の有用性を評価するのが困難である.

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肺癌の遺伝子治療

高山 浩一*   中西 洋一**
* 九州大学大学院医学研究院附属胸部疾患研究施設 講師   ** 同教授

要  旨
 非小細胞肺癌に対する遺伝子治療で,予後の改善に寄与する治療法はまだ確立されていない.全身性に抗腫瘍効果を発揮する方法として,患者由来の腫瘍細胞に GM-CSF 遺伝子を導入し,再び腫瘍ワクチンとして投与する免疫遺伝子療法(GVAX ワクチン療法)が期待されている.本法を用いた臨床試験では完全寛解を示す症例も認めているが,ワクチン投与の最適化には課題も多く残されている.

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肺癌の免疫療法の現状と展望

河上 裕*
* 慶應義塾大学医学部先端医科学研究所細胞情報研究部門 教授

要  旨
 肺癌は免疫療法が効きにくい癌と考えられていたが,近年,ヒト肺癌抗原の同定や新しい免疫療法の臨床試験結果から,予想以上に肺癌でも免疫療法の意義がある可能性が示されてきた.癌の免疫療法では最先端を行く悪性黒色腫では,最近,担癌生体の免疫抑制環境の解除による免疫療法の効果増強など新たな展開があり,根治が難しい肺癌においても,今後さらなる改良により免疫療法が貢献できる可能性が示唆されている.

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分子標的治療臨床試験の方法論


山本精一郎*
* 国立がんセンターがん対策情報センターがん情報・統計部 室長

要  旨
 臨床試験のデザインという点から考えた場合,分子標的治療薬開発の臨床試験はこれまで開発されてきた薬剤,特にがん分野以外の薬剤開発と比べてそれほど新しいものではない.しかし,がん分野ではこれまで cytotoxic drug が中心だったために,cytotoxic drug 開発と比べると用いる研究デザインに若干違いがある.Cytotoxic drug の場合と比べながら,第T相臨床試験から第V相臨床試験まで順を追って議論したい.

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対談
脳とこころの科学と医療(第10回)
 心理学から見た脳

ゲスト  二木 宏明 先生(埼玉工業大学 教授)
聞き手  金澤 一郎 先生(国立精神・神経センター名誉総長)

 心理学の泰斗である二木先生ですが心理学者でありながら脳の研究に目を向けられたのは心理学の動物実験では結果の解釈についての仮説の立て方に限界を感じられた為だったそうです。
 そこで東大文学部心理学教室から京都大学霊長類研究所に移られてサルを使ってのニューロン活動の研究を始められました。そしてその成果で文学部では珍しい医学博士の学位を取得されたそうです。
 更に海外での留学を交えながら東大にお戻りになりサルのほかにもマウスを使った様々な実験も並行で進められたそうです。
 この他にもFyn欠損マウスを使った実験やその結果のヒトへの解釈,更に分子レベルでの快情動の仕組みの解明など最近のご成果についても分り易くお話頂きました。ぜひ、お楽しみ下さい。
 聞き手は国立精神・神経センター名誉総長・金澤一郎先生です。


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