最新医学63巻2号 
特集 脂質異常症 −新ガイドラインと治療戦略-

要  旨


アプローチ
新ガイドラインの概要


木下 誠*

* 帝京大学医学部内科 教授
要  旨
 今回のガイドラインでは,動脈硬化性疾患の危険因子としてのコレステロール値として,総コレステロール値ではなく LDL コレステロール(LDL-C)値を用いることとした.脂質異常の診断基準としては,従来どおり LDL-C 値 140mg/dL 以上,トリグリセライド 150mg/dL 以上,HDL コレステロール(HDL-C)40mg/dL 未満とした.この値は薬物療法の開始基準とは異なるものであり,薬物療法に関しては動脈硬化のリスクを充分に検討してから導入を決定する必要がある.

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アプローチ
脂質異常症のメカニズム
―産生システムと処理システムの視点から―

島野 仁*
* 筑波大学大学院人間総合科学研究科 内分泌代謝・糖尿病内科 臨床教授

要  旨
 動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2007 年版より,脂質異常症の対象は LDL コレステロール,トリグリセライド,HDL コレステロールの3因子に絞られ,病態との関連がよりクリアになった.これらの血中レベルを処理系側からそれぞれ制御するLDL受容体,LPL,CETPの作用状態が脂質異常症の発症に重要である.食事性脂質や肝臓における脂質合成も合成側として関与していく.血中リポタンパク代謝の生理ならびに脂質異常症の病態メカニズムについて,産生と処理のバランスの視点を中心に概説する.

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アプローチ
動脈硬化の発症メカニズム

横出正之*
* 京都大学医学部附属病院探索医療センター探索医療臨床部 教授

要  旨
 粥状動脈硬化症は種々の要因により発症するが,高 LDL コレステロール血症に代表される脂質異常症は,その発症・進展に重要な役割を演じることが明らかになってきた.その背景には,モデル動物の開発や分子細胞生物学の進歩などの基礎研究に加えて,大規模脂質介入試験などの臨床研究が大きく寄与している.本稿ではこれらの成果に基づき,動脈硬化の成立と脂質異常症のかかわりについて,高 LDL コレステロール血症,高トリグリセライド血症,低 HDL コレステロール血症の各病態における動脈硬化発症の分子機構と予防ならびに治療への展開について,最近の知見を交えて述べたい.

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ガイドラインを支える疫学研究
冠動脈疾患と脂質異常症-

枇榔貞利*
* 松柏会つかさ病院 内科部長

要  旨
 欧米と同様,日本においても脂質異常症は冠動脈疾患に対する重要な危険因子であることが疫学研究により明らかにされている.特に,高 LDL コレステロール血症,低 HDL コレステロール血症は重要な危険因子である.その他の脂質異常症としては,高トリグリセライド血症,高Lp(a)血症,高レムナント血症,n-3系多価不飽和脂肪酸などが冠動脈疾患と関連があると報告されている.

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ガイドラインを支える疫学研究
コレステロールと脳卒中

寳澤 篤*   上島弘嗣**
*  滋賀医科大学社会医学講座福祉保健医学部門 特任助教 ** 同教授

要  旨
 我が国のコホート研究において,総コレステロールと脳卒中の明らかな関連は認められていない.一方で,高コレステロール者ほど喫煙の害が増強されている可能性が示唆されており,高脂血症患者に対する禁煙積極支援の重要性が示唆されている.また脳卒中そのものに対する有益性はあまり強くないものの,心臓病を含めた予防という観点からは,高脂血症に対する治療は全循環器疾患予防に大きな役割を果たすことが明らかとなっている.

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ガイドラインを支える疫学研究
禁煙による循環器疾患予防


本庄かおり*   磯 博康**
* 大阪大学大学院医学系研究科社会環境医学分野公衆衛生学 ** 同教授

要  旨
 日本の大規模コホート研究により,@過去喫煙者の循環器疾患死亡・発症のリスクは喫煙者と比較して低いこと,A脳卒中の死亡,発症リスクの低下は禁煙後2〜4年で,虚血性心疾患の死亡,発症リスクの低下は禁煙後2年未満でみられ始めた.B禁煙による脳卒中,虚血性心疾患の死亡リスクの低下は禁煙後10〜14年で非喫煙者と同レベルに達した.一方,脳卒中の発症リスク低下は禁煙後 10〜14 年で,虚血性心疾患発症リスクの低下は禁煙後2年未満で非喫煙者のレベルに達した.禁煙は循環器疾患の有効な予防手段である.

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ガイドラインを支える疫学研究
治療エビデンスをいかに評価するか

大橋靖雄*
* 東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻生物統計学 教授

要  旨
 治療エビデンスはその正確性,精密性,一般化可能性から評価される.エビデンスの中心となるランダム化臨床試験を主な対象としてこれらの概念を説明し,MEGA Study を例として結果解釈上の問題点について例示する.論文執筆時のガイドラインである CONSORT を紹介し,最後に疫学研究と臨床試験研究との協調について展望を述べる.なお重要な統計用語を補注にまとめた.

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ガイドラインを支える治療エビデンス
食のエビデンス

佐々木 敏*

* 東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻社会予防疫学 教授

要  旨
 LDL コレステロール血症には飽和脂肪酸の過剰摂取が大きく関与し,コレステロール,多価不飽和脂肪酸,食物繊維も関連する.HDL コレステロールは飲酒で上昇する一方,高グリセミックインデックス(GI)食で低下する可能性が示唆されている.トリグリセライド(TG)は高炭水化物食や高 GI 食での上昇が示唆されている.脂質異常症と食事・栄養との関連は病態によって異なり,患者の栄養素摂取量を把握したうえでの適切な食事指導が求められる.

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ガイドラインを支える治療エビデンス
脂質異常症の運動療法

桧垣靖樹*1  田中宏暁*2
*1 佐賀大学医学部社会医学講座予防医学分野 准教授
*2 福岡大学スポーツ科学部運動生理学教室 教授

要  旨
 身体活動量の低下は動脈硬化性疾患の危険因子である.運動による消費エネルギー量と食事による摂取エネルギー量の不均衡は,内臓脂肪蓄積,耐糖能異常,高血圧,低 HDL コレステロール血症,高トリグリセライド血症などを引き起こし,動脈硬化性疾患のリスクを高める.これら生活習慣病の予防には,活動的な日常生活の実践やウォーキング,ジョギングなど有酸素運動の実践が重要であり,体力レベルに合わせた運動処方が望まれる.

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ガイドラインを支える治療エビデンス
日本における脂質異常症治療エビデンス

福與広太郎*1  佐々木 淳**1*2
*1 国際医療福祉大学大学院臨床試験研究分野 **1 同教授
*2 昭和大学医学部第三内科 客員教授

要  旨
 脂質代謝改善薬の中で,スタチンとn-3脂肪酸は総死亡率の抑制効果がメタアナリシスで確かめられている.我が国においても,日本で開発されたスタチンを用いた大規模臨床試験 MEGA Study の結果が得られ,冠動脈イベント発症抑制効果が確かめられた.さらに,n-3 脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA)を用いた JELIS の結果から,EPA による冠動脈イベント抑制効果が確かめられた.薬物治療は生涯に及ぶことから,長期の安全性と効果に加え,QOL が我が国において確かめられた薬剤が一次選択薬になる.

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脂質異常症の治療戦略
高LDLコレステロール血症に対する治療の実際

比企 誠*   大村寛敏**  代田浩之***
* 順天堂大学医学部循環器内科 ** 同准教授  *** 同教授

要  旨
 欧米と同様,我が国でもMEGAの結果から,一次予防におけるLDLコレステロール(LDL-C)低下療法の意義が確認された.脂質異常症の治療は,個人の動脈硬化リスクを正しく評価し,特に一次予防に関しては生活習慣の改善を基本として,絶対リスクが高い患者に薬物療法を行う.強力なLDL-C低下療法の意義については十分なコンセンサスが得られているわけではなく,有効性と安全性などを十分に考慮して行う必要がある.

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脂質異常症の治療戦略
高トリグリセライド血症治療の実際

芳野 原*
* 東邦大学医学部内科学糖尿病代謝内分泌科 教授

要  旨
 最近では高トリグリセライド(TG)血症は虚血性心疾患の危険因子として充分認識されており,メタボリックシンドロームに代表される冠動脈疾患の危険因子集積症候群のコンポーネントとしても重要視されている.さらに,高TG血症にはその動脈硬化惹起性が話題となっている中間型リポタンパク(IDL)やレムナント分画,さらに small dense LDL などの出現,あるいは低HDL血症が合併することも臨床上重要である.一方,食後高血糖のみならず,食後高脂(TG)血症も動脈硬化進展に大きく寄与することが報告されており,幾つかの疫学調査の報告もなされている.食後も含め,高TG血症の治療はまず食事療法であり,厳密な食事内容の管理によって劇的な改善も可能である.運動療法も高コレステロール血症よりも有効で,推奨される.食事療法と運動療法で充分な効果が得られない場合に薬物療法となる.基本はフィブラート系であるが,エイコサペンタエン酸(EPA)製剤もその心血管イベント抑制効果のエビデンスがそろいつつある.本稿ではまず高TG血症(食後の高脂血症も含め)の冠動脈疾患における危険因子としての重要性に触れ,後半では食事療法,さらにライフスタイルの是正,そして薬物療法による治療戦略をも明らかにする.

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脂質異常症の治療戦略
低HDLコレステロール血症治療の実際

横山信治*
* 名古屋市立大学大学院医学研究科基礎医科学講座生物化学分野 教授

要  旨
 HDLは動脈硬化症の負の危険因子であり,我が国の公衆衛生学上HDL低下はLDL上昇より重要な危険因子である.実際には多くの低HDL血症は高トリグリセライド(TG)血症に対して二次的に起こっているものであり,高 TG 血症の改善により是正されるものである.低 HDL 血症の特異的治療法はいまだ存在しないが,多くの研究が行われ,競い合っている.しかし最近,コレステリルエステル転送タンパク質(CETP)阻害によるHDL上昇薬の開発が失敗し,この分野の研究の今後が注目される.今のところ低HDL血症是正による動脈硬化の予防は直接証明されておらず,厳密に言えば低HDL血症はリスクの評価には重要であっても,直接の臨床的治療対象とはならない.

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脂質異常症の治療戦略
メタボリックシンドローム対策

岡田拓也*   船橋 徹**
* 大阪大学大学院医学系研究科内分泌・代謝内科学 ** 同准教授

要  旨
 高コレステロール血症に次ぐ心血管疾患予防ターゲットとなっているのが,メタボリックシンドロームである.メタボリックシンドロームは内臓脂肪蓄積を発症基盤とし,個人に高血糖,脂質代謝異常,高血圧などの動脈硬化危険因子が集積する病態である.メタボリックシンドローム患者の管理・治療には,ライフスタイル改善を通した内臓脂肪の減量が重要である.

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脂質異常症の治療戦略
原発性高脂血症の対応

山下静也*
* 大阪大学医学部附属病院循環器内科 病院教授

要  旨
 原発性高脂血症は体質・遺伝子異常に基づいて発症するものである.原発性高脂血症の中で家族性高コレステロール血症,家族性複合型高脂血症,家族性V型高脂血症は極めて冠動脈疾患を発症しやすく,早期発見と厳重な管理が必要である.一方,カイロミクロンの増加する家族性リポタンパクリパーゼ欠損症では膵炎や黄色腫を発症しやすく,厳重な脂肪摂取の制限が重要である.

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脂質異常症の治療戦略
高トリグリセライド血症における治療指標としてのnonHDLコレステロール


山田信博*
* 筑波大学大学院内分泌代謝・糖尿病内科 教授

要  旨
 高トリグリセライド(TG)血症診療では,TG値が食事の影響を強く受けることから,生活習慣改善や薬物療法の効果が見えにくいことが大きな問題である.nonHDL コレステロール(nonHDL-C)は総コレステロール(TC)と HDL コレステロール(HDL-C)から簡便に計算でき,食事の影響をほとんど受けないことが利点である.nonHDL-C はLDLとともに高TG血症で増加するVLDL,IDL,レムナント中のコレステロールを含み,悪玉コレステロール全体を表現する指標である.

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ガイドラインの今後の課題
動脈硬化予防のための包括的ガイドラインの方向性

北  徹*
* 京都大学大学院医学研究科内科系内科学講座循環器内科学 教授

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ガイドラインの今後の課題
World Health Report 2002 は何を訴えたのか ?

松澤佑次*
* 住友病院 院長

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対談
脳とこころの科学と医療(第11回)
動物の行動から学ぶ

ゲスト  宮川  剛 先生(藤田保健衛生大学 教授)
聞き手  金澤 一郎 先生(国立精神・神経センター名誉総長)

 宮川先生の大学院での研究テーマは行動や心理学的特性と遺伝との関係についてノックアウトマウスを用いて検証するものでした。
 更に留学先の米国国立精神衛生研究所(NIMH)で非常に効率的な実験方法を学ばれたそうで、日本で5年かかる様な実験が数ヶ月で出来た事に大変驚かれたそうです。
 その後、バンダービルト大学に移られた時の業績がきっかけとなってスーパーバイザーとしてNIHに招聘されました。
 宮川先生はできるだけ広い領域(学習記憶、活動性など)を短時間で得られることをポリシーに実験系を構築されるそうですが、個々のテストはよく知見の蓄積されているものを意識的に使っておられるそうです。
 最後には今後の夢についても熱く語って頂きました。ぜひ、お楽しみ下さい。
 聞き手は国立精神・神経センター名誉総長・金澤一郎先生です。


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