最新医学63巻3号 
特集 市中肺炎治療とガイドライン

要  旨


アプローチ
市中肺炎の変遷と診療に求められる対応


二木 芳人*

* 昭和大学医学部臨床感染症学 教授
要  旨
 市中肺炎を取り巻く環境は素早く変化している.耐性菌の問題や,人口の高齢化など宿主側の変化,さらには医療経済性の変化も大きく肺炎診療に影響を与える.しかし,治療薬としての抗菌薬の進歩は停滞気味で,我々は手持ちの抗菌薬を適正に使用することで耐性菌と戦い,耐性化を防ぐことも考えなければならない.医学教育や社会的啓蒙などもそのためには必要であり,その過程は決して容易なものではない.ガイドラインはその適正使用実施の一助として存在するべきであるが,我が国のガイドラインは EBM の観点からはまだまだ未熟である.これを成熟させるためには,今後の精力的な検証試験の実施や,それを使用する臨床医の支援や協力が不可欠であろう.

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総説
市中肺炎の病原微生物
―一般細菌―

松本哲哉*1*2
*1 東京医科大学微生物学講座 主任教授
*2 東京医科大学病院感染制御部 部長

要  旨
 市中肺炎は,感染防御能が正常な健常人に起こる肺炎であり,一般的に病原性が強く,気道に定着(保菌)しやすい菌が原因となりやすい.一般細菌としては,肺炎球菌,インフルエンザ菌,およびモラクセラ・カタラーリスが主要な菌として挙げられ,特に肺炎球菌は市中肺炎の最も重要な菌である.各細菌はそれぞれ独自の病原性を発揮して肺炎を発症させる.診断においては塗抹標本のグラム染色や培養・同定が現在でも重要であり,治療面では耐性菌の増加が問題となっている.

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総説
市中肺炎の病原微生物
―非定型肺炎―

宮下 修行**  清水 大樹*   岡 三喜男***
* 川崎医科大学呼吸器内科 ** 同講師 *** 同教授

要  旨
 最近,非定型肺炎に関する国際的研究が実施され,従来の報告どおり非定型病原体は市中肺炎において頻度の高い原因微生物であることが確認された.さらに本研究では,非定型病原体をカバーする抗菌薬使用群とカバーしない抗菌薬使用群を比較し,カバーする抗菌薬使用群で臨床改善度や入院期間,死亡率が有意に優れていることを確認した.欧米の肺炎ガイドラインは作成当初から非定型病原体をカバーする抗菌薬の選択を推奨しており,現時点においてもその妥当性が証明された.

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総説
レジオネラ市中肺炎の最近の動向

健山 正男*
* 琉球大学大学院医学研究科感染病態制御学講座分子病態感染症学分野 准教授

要  旨
 本邦におけるレジオネラ肺炎は近年届出数が急増しており,2007年度までの届出数の累計では 2,162 例となり,もはや本邦でも欧米と変わることのない頻度でレジオネラ肺炎が発生していることは明らかである.しかしながら診療上の課題として,本邦のレジオネラ肺炎の発生は循環濾過方式の入浴施設関連が多いこと,本症に有効な抗菌薬の種類が諸外国と比較して大幅に制限されることが挙げられる.このように,欧米のガイドラインをそのまま鵜呑みにできない我が国独自の課題に注目して診療に当たる必要がある.

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総説
インフルエンザと市中肺炎

渡辺 彰*
* 東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発研究部門 教授

要  旨
 インフルエンザ流行時には,インフルエンザそのものあるいは細菌2次感染による肺炎が増加する.原因微生物としてインフルエンザウイルス,肺炎球菌の2つが特に重要であるが,いずれも迅速診断キットが有用である.治療では,抗インフルエンザウイルス薬が進歩し,耐性化が進行中の肺炎球菌に対しても幾つかの有用な薬剤で対処できるが,いずれもワクチンによる発症予防が有効であり,ガイドラインを参考としながら対処したい.

注-本文図2につきましては各病原菌の数値が中間集計のものでした。本文中の数値が最終確定値です。
   申し訳ございませんがどうぞご了承願います。

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総説
緑膿菌,MRSAによる市中肺炎


岸 建志*   門田 淳一**
* 大分大学医学部感染分子病態制御講座(内科学第二) ** 同教授

要  旨
 市中肺炎における緑膿菌感染症,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症について,米国感染症学会/米国胸部疾患学会(IDSA/ATS)市中肺炎ガイドラインに沿って概説した.いずれも頻度としては少ないが,薬剤耐性化,毒素産生などを含めて臨床的に重要な問題であり,特に重症感染症を引き起こし予後が重篤になることから,これらの感染症が疑われる場合には厳重な初期治療を要する.

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診断・治療
市中肺炎病原微生物の診断法

石田 直*
* 倉敷中央病院呼吸器内科 主任部長

要  旨
 肺炎の病原微生物判明を決定することにより,適切な抗菌薬を選択できること,検出菌の薬剤感受性が施行可能なこと,エンピリック治療のためのデータが得られるなどの利点がある.肺炎の病原微生物検査法には,各種検体の培養,血清抗体測定,尿中抗原検出などがあるが,それぞれの検査法の特性をよく理解して症例に応じて選択し,原因検出の努力を行うことが必要である.今後,さらなる迅速診断法の開発が望まれる.

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診断・治療
市中肺炎の治療薬 1. 経口薬

宮良 高維*

* 近畿大学医学部呼吸器・アレルギー内科 講師

要  旨
 経口抗菌薬は投与量が限られているため,市中肺炎の治療効果に影響するポイントは標的病原体に対する抗菌力と適切な用法・用量設定である.前者に関しては,ガイドライン中で原因病原体が不明時,判明時に推奨される抗菌薬選択が参考になる.後者に関しては,充分な投与量の設定が重要である.また,本邦のニューキノロン系抗菌薬の用法は,PK/PD パラメーターを用いた理論から1日量を1回でまとめて投与する方向にある.

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診断・治療
市中肺炎の治療薬 2. 注射薬

小林 治*
* 杏林大学医学部総合医療学 講師

要  旨
 成人市中肺炎治療の要点は,細菌性肺炎と非定型肺炎との鑑別,患者の年齢・基礎疾患,重症度の把握などを含めた診断のほか,抗菌薬選択が原因微生物に適切であるか否かのほかに,PK/PD 理論の理解にある.耐性菌誘導阻止の目的から,抗菌薬はいたずらにカルバペネム系薬やキノロン系薬を第1選択すべきではなく,また,投与3日程度で必ず投与前に行った細菌学的検査の結果を踏まえて抗菌療法を再検討するべきである.

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診断・治療
市中肺炎診療と医療経済性

徳江 豊*
* 群馬大学医学部附属病院感染制御部 准教授

要  旨
 医療制度改革が進む一環として Diagnosis Procedure Combination(DPC)が導入され,適正医療に関する医療経済学的アプローチが必須とされている.抗菌療法における薬剤経済学の基本的な考え方を整理した.そのうえで医療経済学的観点から,外来・入院診療,新規抗菌薬の評価,スイッチ療法,診療ガイドラインの有用性,薬剤耐性菌の与える影響など,市中肺炎診療に与える因子を評価する必要がある.

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ガイドライン
市中肺炎の診療ガイドライン 1. 日本呼吸器学会

笠原 敬*   三笠桂一**
* 奈良県立医科大学附属病院感染症センター ** 同教授

要  旨
 本邦では,2005 年に「成人市中肺炎診療ガイドライン」が発表された.このガイドラインの特徴として,重症度の判定に基づく入院・外来治療の判断,診断・治療フローチャートにおける尿中抗原検査の採用,細菌性・非定型肺炎の鑑別,キノロン系やカルバペネム系抗菌薬の使用抑制などが挙げられる.諸外国のガイドラインと併せてこのガイドラインを使用し,検証し,より良い自国のガイドラインへのフィードバックを心掛けたい.

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ガイドライン
市中肺炎の診療ガイドライン 2. 日本感染症学会・日本化学療法学会による市中肺炎の抗菌薬治療ガイドラインの概要

青木 洋介** 永田 正喜*   福岡 麻美*
* 佐賀大学医学部附属病院感染制御部 ** 同部長

要  旨
 本ガイドラインは市中肺炎診療における抗菌薬治療に焦点を当てたものである.患者を5群に層別化し,T,U群が外来治療可能群,V,W,X群が入院加療を要する群に該当する.各患者群において頻度の高い起炎菌や想定すべき起炎菌が整理され,それぞれの臨床像に応じて選択すべき代表的抗菌薬が記載されている.日常診療の現場で臨床医が意思決定を行う場合に参考になるべく,簡潔に要点をまとめた内容になっている.

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ガイドライン
市中肺炎の診療ガイドライン 3. 米国感染症学会/米国胸部学会

関 雅文*   河野 茂**
* 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科感染免疫学講座(第二内科) ** 同教授

要  旨
 米国感染症学会(IDSA)と米国胸部学会(ATS)の合同による市中肺炎ガイドラインが2007年に刊行された.根拠となるエビデンスのレベルを定義し,患者の重症度分類としては従来の CURB-65 や PSI のほか,呼吸不全やショックを主基準とする内容を取り入れた.また診断方法など検査の進め方は任意とし,エンピリック治療に関してはレスピラトリーキノロンのほか,β-ラクタム系+マクロライド系抗菌薬など併用療法が比較的推奨される傾向が特徴的である.
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ガイドライン
市中肺炎診療ガイドラインの課題

吉田 耕一郎** 小司 久志* 二木 芳人***
** 昭和大学医学部臨床感染症学 准教授 * 同助教 *** 同教授

要  旨
 国内には日本呼吸器学会と,日本感染症学会・日本化学療法学会がそれぞれ発表している市中肺炎診療に関するガイドラインがある.両者とも非専門医をも対象としており,外来の日常診療から ICU での診療までを網羅した解説書である.すでに一定の評価を得ているが,非専門医にとっては内容が難解との意見もあり,その浸透は不十分と言わざるをえない.市中肺炎診療レベルの底上げには,非専門医にも有用性の高いガイドラインと認識され,十分に活用される必要があろう.ガイドラインを使用する立場から,現在のガイドラインにおける問題点を考察した.

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対談
脳とこころの科学と医療(第12回)
新しい神経病理学の方向

ゲスト  高橋 均 先生(新潟大学 教授)
聞き手  金澤 一郎 先生(国立精神・神経センター名誉総長)

 高橋先生は良い写真やスライドを残して教育に生かしていく必要があるとお考えになり、現在は先生の研究室でお持ちの世界有数の標本をベースに好きな時間にネットを介して自己学習できるプログラムを若手臨床医向けに構築されました。
 画像診断の進歩に伴い病理解剖の役割が薄らいでいる現状に対して高橋先生は「治療のかいなく亡くなられた場合に患者さんがどれほど治療に耐えられたのか、その治療にどれほど効果があったのかなどといった情報はご遺体からしか得ることはできない」と懸念されています。
 また聞き手の金澤先生も「剖検率が下がっているということは患者さんから学ぶ機会を失っている」と大変ご心配されています。
 最近、作家であり勤務医でもある海堂尊氏も提唱している「死因不明社会」にも通じるお話で大変興味深い議論をされています。
 この他にも遠隔顕微鏡操作システムのお話なども伺いました。
 ぜひ、お楽しみ下さい。


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