最新医学63巻3月増刊号 
特集 新興・再興感染症

要  旨



HIV感染症とAIDS


岩本 愛吉

東京大学医科学研究所先端医療研究センター感染分野 教授
要  旨
 1981年にロサンゼルスから報告されたAIDSは,まず先進工業国で大問題となった.その後サハラ以南のアフリカを始めとする途上国で爆発的に流行した.AIDSの原因ウイルスHIVは1983年に発見された.発見以降四半世紀が過ぎた現在,HIV/AIDSは治療や流行の点で極端な2面性を持つに至った.AIDS は,HIV感染症として先進工業国では臨床的にコントロール可能な慢性疾患となった一方,途上国を中心に1日 5,000人以上が死亡しているキラーでもある.

目次へ戻る



SARS(SARS-CoV 感染症)

川名 明彦
国立国際医療センター国際疾病センター

要  旨
 重症急性呼吸器症候群(SARS)は 21 世紀最初の新興感染症である.重症肺炎を主症状とし,死亡率は約10%である.高齢者ほど予後が悪い.主に気道飛沫により伝播し,医療スタッフへの院内感染が多い.特異的な治療薬やワクチンはない.2002〜2003年に中国を中心に世界的に流行し約8,000人が感染したが,現在は終息している.SARSは再燃する可能性もあり注意が必要である.SARSへの備えは,他の新型感染症への対策に応用可能である.

目次へ戻る



インフルエンザ

菅谷 憲夫
神奈川県警友会けいゆう病院小児科 部長

要  旨
 日本では,インフルエンザ迅速診断とノイラミニダーゼ阻害薬治療は世界で最も普及しているが,ワクチン接種率は先進諸国の中では低い方である.ノイラミニダーゼ阻害薬については,最近副作用や耐性が問題となった.毎年,Aソ連型,A香港型,B型の3種類のウイルスが,交互にあるいは同時に流行を繰り返している.一方,鳥インフルエンザの H5N1 が世界に広がり,新型インフルエンザ出現が懸念される状況となっている.

目次へ戻る



ウエストナイル熱

倉根 一郎
国立感染症研究所ウイルス第一部 部長

要  旨
 ウエストナイルウイルスは自然宿主であるトリと蚊の間で感染環が形成され自然界で維持されている.ヒトは感染蚊の吸血により感染し,急性熱性疾患であるウエストナイル熱,さらには髄膜炎,脳炎(脳髄膜炎),弛緩性麻痺を発症する.ウイルスの我が国への侵入はまだ起っていないが,北米やそのほか本ウイルス侵淫地域からの帰国者においては鑑別すべき感染症である.

目次へ戻る



ヒトのプリオン病の病態

山口 尚宏*   布施 隆行*   石橋 大輔*   新 竜一郎*   西田 教行**
* 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科新興感染症病態制御学系専攻感染免疫学講座感染分子解析学分野
** 同准教授

要  旨
 プリオン病は致死性の神経変性疾患である.ヒトで最も多いのはCreutzfeldt-Jakob病(CJD)で孤発性,家族性,感染性の3つに分けられ,さらに正常型プリオンタンパクのコドン129番目のアミノ酸多型に基づき細分類される.病理的には脳の空胞変性とグリオーシス,異常型プリオンタンパク(PrPSc)の沈着を特徴とする.確定診断には中枢神経の組織から PrPSc を検出しなければならず生前に確定診断をつけることは難しい.臨床診断には MRI の拡散強調画像が有用である.現時点では有効な治療法やスクリーニング検査法は確立されていない.



再興感染症としてのデング


大石 和徳
大阪大学微生物病研究所感染症国際研究センター 教授

要  旨
 デングは蚊媒介性のデングウイルスによる急性熱性疾患で,比較的軽症のデング熱と血管透過性亢進で特徴づけられるデング出血熱に分類される.過去 20 年間,アジア,中南米を中心としてデング症例の発生は増加し,感染地域の拡大も急速に進んでいる.感染機構および重症化機序の解析はいまだ不十分であり,デング特異的な治療法の開発が待たれる.また,複数の有望なデングワクチンが開発中であり,その臨床応用が期待される.

目次へ戻る



ロタウイルス感染症

中込 とよ子*  中込  治**
*長崎大学大学院医歯薬学総合研究科新興感染症病態制御学系専攻感染免疫学講座 准教授
**同教授

要  旨
 ロタウイルス胃腸炎は,ヒトロタウイルスの発見が1973年であることから新興感染症の1つである.世界中のどこでも小児の胃腸炎の最も重要な病因であり,我が国もその例外ではない.ゲノムは分節状の RNA であり,再集合体を形成しやすい.また,多数の血清型が存在し,宿主の種を超えて伝播することもある.ロタウイルスワクチンは世界100ヵ国以上で認可され,次々に定期接種に導入されてきている.ロタウイルス胃腸炎制圧への期待が高まっている.

目次へ戻る



ノロウイルス感染症

牛島 廣治*1  西村 修一*2

*1東京大学医学系研究科名誉教授/鹿児島国際大学福祉社会学研究科 教授 *2西村医院 院長

要  旨
 ノロウイルス感染症は,今やインフルエンザ,ロタウイルス感染症などと同様に冬の感染症の大きな疾患の1つとわかった.接触,空気,食物で 10〜100 個の生きたウイルスにより感染が生じるために,特に集団の場や免疫の低下している場合は大きな問題となる.近年,遺伝子診断と共に免疫学的診断法が確立された.ノロウイルス感染症はワクチンや特異的な治療薬がなく,ウイルスの特性や社会的状況から予防対策が困難である.しかし,早期診断,感染拡大防止対策,食品の安全対策などで感染者を少なくする努力が必要である.

目次へ戻る



E型肝炎

三代 俊治
東芝病院研究部 部長

要  旨
 A型からE型に至る既知5種類の肝炎ウイルスの中で,E型肝炎ウイルスにあえて注目する理由があるとすれば,疫学的に極めて異色のウイルスであることが最近分かったからである.肝炎ウイルス中唯一の人畜共通感染ウイルスだからである.宿主域は実に広いが,ヒトにとって最も重要な感染源はブタとイノシシである.まれだがシカからヒトへの感染も証明されている.とりあえずイノ・シカ・トンに御注意あれ.

目次へ戻る



天然痘(痘瘡)

岡部 信彦
国立感染症研究所感染症情報センター センター長

要  旨
 天然痘(痘瘡)は,発熱,水疱性発疹を特徴とするウイルス性感染症であり,致死率は 50% 以上にも及ぶことがあり古来から恐れられていた代表的疾患である.ワクチン(種痘)の出現により発生は減少し,1980 年世界保健機関(WHO)は天然痘の世界根絶宣言を行い,以降これまでに世界中で天然痘患者の発生はない.しかし,一方では生物テロ(バイオテロ)の道具として昨今問題となっている. 

目次へ戻る



Q熱の診断,治療,予防

渡辺  彰*1  高橋  洋*2
*1東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発研究部門 教授
*2坂総合病院呼吸器科・感染症科 科長

要  旨
 Q熱は,リケッチア類似のCoxiella burnetiiによる肺炎や気管支炎などの総称であり,一過性熱性疾患である.欧米では市中肺炎原因菌の第4〜5位であり,血清抗体価の有意上昇で診断する.無治療でも死亡率は1〜2%と予後良好であるが,一部に遷延例や慢性型もあるので確定診断例や強い疑いの例では積極的に治療する.偏性細胞内寄生性の本菌にβ−ラクタム薬は無効であり,テトラサイクリン薬やマクロライド薬,キノロン薬が奏効する.

目次へ戻る



リケッチア感染症

馬原 文彦
有床診療所馬原医院

要  旨
 感染症法でリケッチア感染症の多くは第四類届出感染症に指定されている.戦後,抗生物質の変遷とともに再燃してきたツツガムシ病,近年発生数が増加し感染地も拡大している日本紅斑熱,さらに 2007 年法改正によりロッキー山紅斑熱が新たに加わり,リケッチア感染症は新興再興感染症として重要な位置付けにある.人と物が大量に移動する時代にあって,日本国内のみでなくグローバルな視点から輸入感染症としても注意を払う必要がある.また,近年の研究により紅斑熱群リケッチアの多様性,節足動物を介する人獣共通感染症としての認識も必要となってきた.リケッチア感染症は適切な治療が遅れると重症化する.治療はテトラサイクリン系抗生剤が第1選択薬となるが,日本紅斑熱では重症化しやすく,早期からのキノロン剤との併用療法が推奨される.

目次へ戻る



麻  疹

沼ア  啓
国立感染症研究所ウイルス第三部 室長

要  旨
 世界的には発展途上国を中心に毎年約 2,000〜3,000 万人が麻疹を発症し,2005 年の麻疹による死亡者数は 34.5 万人(致死率3〜5%)と推計されている.世界保健機関(WHO)は麻疹による死亡率の減少と地域的な排除(elimination)のための世界麻疹排除対策戦略計画を策定した.我が国は,先進国としては異例の危機的状況にある国内の麻疹対策のみならず,西太平洋地域の各国に対し技術支援を行い,2012年根絶の目標達成に向けて国際的責務を果たすことが求められている.


目次へ戻る