最新医学63巻5号 
特集 全身性エリテマトーデス(SLE)
    -病態解明と治療の新たな展開-

要  旨


アプローチ
SLEの難治性病態の克服へ向けて


三森経世*

* 京都大学大学院医学研究科臨床免疫学 教授
要  旨
 SLEの生命予後は年代とともに向上しているが,その一方で依然として治療に抵抗して死亡率が高く,または重い障害を残すような難治性病態が残されている.このような難治性病態としては,重症ループス腎炎,CNS ループス,びまん性肺胞出血,肺高血圧症,難治性血液障害,劇症型抗リン脂質抗体症候群などが含まれる.生命予後をさらに改善し QOL を向上させるには,さらなる病因・病態の解明と,病態に即した新たな治療法の開発が望まれる.

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SLEの免疫異常の解明
SLEの遺伝素因
―最近の研究の進歩―

土屋尚之*
* 筑波大学大学院人間総合科学研究科生命システム医学専攻 教授

要  旨
 SLEの遺伝子解析は急速な展開を見せている.候補遺伝子解析から,集団を越えた SLE感受性遺伝子として IRF5 が確立した.また,C4,FCGR3B のコピー数多型との関連が報告された.さらに 2008 年,相次いでゲノムワイド関連研究が報告され,HLA 領域,STAT4,ITGAM,BLK などの関連が見いだされた.一方 TREX1 変異との関連が報告されたが,これはゲノムワイド関連研究では検出しえない multiple rare variant モデルに従うものであった.今後,診断・治療・予防医学への橋渡しを進めるために,多様なアプローチを駆使して遺伝子解析を継続するとともに,遺伝子間相互作用,遺伝子環境相互作用の解明を進める必要がある.

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SLEの免疫異常の解明
SLET細胞における TCRζ 鎖発現低下

津坂憲政*
* 埼玉医科大学総合医療センターリウマチ・膠原病内科 講師

要  旨
 SLEでは,末梢血T細胞(PBT)におけるTCRζ鎖発現が低下するためにT細胞シグナル伝達に異常を来すことがこれまで知られ,その原因としてエキソン7に相当する部位の欠損などオープンリーディングフレーム異常を伴ったり,選択的スプライシングによって生じた 562bp 短い 3'UTR を持つζ鎖 mRNA スプライスバリアントが優位に発現することが報告されてきた.さらに3'UTR中に存在する2つの保存配列がζ鎖 mRNA の安定性を規定し,ζ鎖発現を調整していることを我々は報告した.

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SLEの免疫異常の解明
SLEにおける抗核抗体の病原性

藤井隆夫*
* 京都大学大学院医学研究科内科学講座臨床免疫学 講師

要  旨
 抗核抗体の検出は,膠原病の診断,活動性および予後評価をするうえで極めて重要である.また動物モデルにより,一部の抗核抗体については病因的意義も示唆されている.本稿では代表的な抗核抗体である抗 DNA 抗体と抗 U1RNP 抗体に関し,その産生機序と病原性を示唆する最近の報告について概説する.

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SLEの免疫異常の解明
膠原病の発症病因


塩沢俊一*1**2 積山 賢*2
*1 神戸大学大学院医学研究科内科学講座免疫感染内科学 教授,リウマチセンター長
*2 神戸大学大学院保健学研究科病態解析学講座臨床免疫学 **2 同教授

要  旨
 組織傷害の主役であるCD8T細胞は,抗原刺激を受けると活性化されてそのクローンが増大し,侵入抗原に対して細胞傷害活性を発揮して病原体などの抗原を殲滅する.しかしこれと同時に,一方で活性化CD8T細胞はその強い活性化のゆえにアネルギーに陥る.アネルギーは,T細胞は生存しているが分裂せず IL-2 も産生しない状態と定義される.CD8T細胞が陥るこのアネルギーは,AINR あるいは split anergy と呼ばれる.その理由は,抗原が殲滅されないで長く存在しかつ CD4T細胞から十分量の IL-2 などのヘルプが供給された場合には,このCD8T細胞は AINR から回復し,再び強く増殖してエフェクター機能を獲得し,最終的に抗原が除去されるとメモリー細胞になるからである.これに対して CD4T細胞の挙動は全く異なり,侵入抗原のシグナルを受けて強く増殖・活性化して所定の仕事をこなすと,その後アネルギーに陥ることなく大部分がアポトーシスすなわち AICD によって死滅する.このように,病原体が殲滅された後にCD4T細胞が死滅するのは,CD8T細胞がCD4T細胞のヘルプがないとエフェクター機能を獲得・発揮できないことに鑑みると,自分の体からみれば侵入抗原に対する細胞傷害活性がいつまでも持続せず短期間で終息し,自身への余分な傷害が回避されるので安全弁となっている.しかしながら,もし何らかの理由でタイムリーに死すべきCD4T細胞の一部が死なないでCD8T細胞をヘルプし続けるならば,細胞傷害性CD8T細胞は常に活性を保ったまま自身の組織を傷害することになる.他方,AICDを越えて生き残ったCD4T細胞は自己抗体を産生し,このようにして膠原病が発症すると私たちは考えている.

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SLEの難治性病態の解明と治療の展開
SLEの難治性呼吸器病変
―肺胞出血・肺高血圧症―


南木敏宏*1*2
*1 東京医科歯科大学薬害監視学講座 客員准教授
*2 同膠原病・リウマチ内科

要  旨
 SLEに見られる難治性呼吸器病態に,肺胞出血,肺高血圧症がある.肺胞出血は肺毛細血管炎によるものと考えられ,高用量の副腎皮質ステロイド,副腎皮質ステロイドのパルス療法,免疫抑制薬などが用いられる.肺高血圧症は血管内皮障害などにより引き起こされると考えられ,副腎皮質ステロイド,免疫抑制薬,プロスタサイクリン製剤,エンドセリン受容体拮抗薬などによる治療が行われる.ともに予後不良であるため,早期診断,早期の治療開始が望まれる.

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SLEの難治性病態の解明と治療の展開
難治性ループス腎炎

高崎芳成*
* 順天堂大学医学部膠原病内科 教授

要  旨
 SLEの予後は著しく改善したが,ステロイドに抵抗し,再燃を繰り返しながら腎不全に進行していく難治性腎炎がいまだに問題となっている.WHO 分類W型を中心に,シクロホスファミドパルス療法が実施されるようになり,より高い確率で腎機能や寛解の維持が可能となった.しかし,依然 15〜20% の症例は腎不全に移行する実態があり,より特異的な免疫抑制効果を目指した新たな治療法が開発され,その臨床試験が進めらている.

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SLEの難治性病態の解明と治療の展開
中枢神経ループス

廣畑俊成*

* 北里大学医学部膠原病・感染内科 教授

要  旨
 ループス精神病では,血清中抗リボソームP抗体(抗P抗体)と髄液中の抗神経細胞抗体の上昇が見られる.抗P抗体はヒト末梢血単球からのTNFαなどの産生を著明に増強することから,このTNFαを介して血液脳関門の透過性を亢進させ抗体の流入を促進する可能性がある.一方,神経細胞の表面のグルタミン酸受容体に対する抗体がループス精神病患者髄液中で増加している.また,抗P抗体が認識する高分子の神経細胞表面抗原の NSPA が最近報告された.

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SLEの難治性病態の解明と治療の展開
抗リン脂質抗体症候群の病態とβ2 - グリコプロテインI

渥美達也*
* 北海道大学大学院医学研究科内科学講座第二内科 講師

要  旨
 抗リン脂質抗体の病原性の研究は,対応抗原,特にβ2−グリコプロテインI(β2 GPI)の機能と,抗体によるその修飾を中心に行われてきた.しかし最近の動向は, β2 GPIの機能そのものよりもβ2 GPIを介した自己抗体の向血栓細胞への作用であるとの仮説がよく論じられる.そして,向血栓細胞の活性化にかかわる分子が次々と明らかにされてきた.このパラダイムシフトは,将来抗リン脂質抗体症候群(APS)の特異的治療法を考案するうえで極めて重要である.  また最近の報告から,APS の症状,特に妊娠合併症の成立に補体の活性化が重要であると認識されるようになった.まだ動物実験レベルの検討であるが,これまで APS の病態とは直接かかわりがないと考えられていた補体系の役割が新たに注目されている.

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SLEの難治性病態の解明と治療の展開
SLEの難治性血液障害

堤 明人*
* 滝川市立病院内科 副院長

要  旨
 SLEに伴う難治性血液障害として,血小板減少,溶血性貧血,血栓性血小板減少性紫斑病,血球貪食症候群を挙げ,一般的な診断と最近の話題,使用される薬剤について解説した.SLEは代表的な全身性自己免疫疾患であり,いずれの病態もステロイド,免疫抑制薬が治療の中心となるが,血栓性血小板減少性紫斑病における血漿交換,血球貪食症候群における抗サイトカイン薬など,病態により使用される治療,あるいは期待されている治療もある.

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SLEの合併症とその制御
ステロイド骨粗鬆症・無菌性骨壊死

河野誠司*1  熊谷俊一*2
*1 神戸大学医学部附属病院検査部 講師
*2 神戸大学大学院医学研究科臨床病態免疫学 教授

要  旨
 SLEは,腎・中枢神経系・肺病変などの臓器病変のコントロールのため,しばしば大量かつ長期のステロイド治療を含めた免疫抑制療法を行う.このステロイド治療のために起きる合併症の中で重要なものとして,続発性骨粗鬆症と無菌性骨壊死の2つの骨合併症がある.これらの骨合併症は患者のQOLに大きく影響するため,SLEの診療を進めるうえでそのマネジメントに関してよく理解しておくことが重要である.

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SLEの合併症とその制御
日和見感染症

田中住明**  和田達彦*
* 北里大学医学部膠原病感染内科学 ** 同専任講師

要  旨
 SLEの日和見感染症合併には,疾患の有する免疫異常と免疫抑制治療に依存する2つの要因がある.今日では後者の要因が大きく,その代表であるニューモシスチス肺炎への対策は重要である.早期診断と適切な治療においても,後遺症の多いこの合併症を制御するためには予防対策が重要である.本稿では,主要な日和見感染症の対策について解説した.

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SLEの新規治療薬
SLEに対するミコフェノール酸モフェチルとタクロリムスの有用性

川合眞一**  楠 芳恵* 秋元貴美子*   北原加奈子*
* 東邦大学医療センター大森病院膠原病科 ** 同教授

要  旨
 SLEは多様な症状を呈する病因不明の自己免疫疾患である.SLEの治療は現在でも大量ステロイド療法を中心に行われているが,免疫抑制薬の併用も種々試みられてきた.本稿では,海外を中心にエビデンスが集積しつつあるミコフェノール酸モフェチルと,2007年に我が国でループス腎炎に対する適用が承認されたタクロリムスについて,臨床試験の成績を中心にまとめた.
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SLEの新規治療薬
生物学的製剤による SLEの治療の新展開

田中良哉*
* 産業医科大学医学部第一内科学 教授

要  旨
 SLEは多臓器障害を特徴とする代表的な自己免疫疾患であるが,その治療はステロイドや免疫抑制薬などの非特異的治療が中心であった.SLEの病態形成において,活性化されたB細胞は自己抗体を産生して中心的な役割を担う.B細胞やT細胞の表面抗原を標的としてB細胞やB-T細胞間相互作用を制御する臨床試験が国内外で進行し,高い認容性と有効性が報告される.生物学的製剤の台頭により,SLEの治療目標が臓器障害制御や寛解導入へパラダイムシフトする可能性が期待される.

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対談
脳とこころの科学と医療(第14回)
神経内科学のかかえる諸問題

ゲスト  葛原 茂樹 先生(国立精神・神経センター)
聞き手  金澤 一郎 先生(国立精神・神経センター名誉総長)

対談シリーズ「脳とこころの科学と医療」は、お招きするゲストの先生方に、ご自身の研究の内容や失敗談、成功談をお伺いしながら、日本における脳・神経研究の歴史を紹介するとともに、そこで語られる先達の教訓を、本誌の対象読者である若手研究者の日頃の研究に役立てていただくことを願って企画致しました。ゲストにはこの分野の基礎を築いて来られた方々、また現在も第一線で研究を続けておられる方々をお招きしています。
 第14回はゲストに国立精神・神経センター・葛原 茂樹 先生をお迎えして「神経内科学のかかえる諸問題」をタイトルにお話をお伺いしました。
 「過去の経験で無駄なものはない」とおっしゃる葛原先生ですが、それはウエストバージニア大学に留学された時に経験されたことが後々になって大変役に立ったからだそうです。
 一つは留学先のChou教授がレジデントの教育用に保存していたクロイツフェルト・ヤコブ病のクールー斑の膨大な資料を見ていたお陰で日本に戻った際にこれまでオーストラリアとドイツでしか見つかっていないゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病(GSS)を日本で初めて発見されたそうです。
 更に同じくChou教授の教室でグアム筋萎縮性側索硬化症の標本作製と病理所見のレポートのアルバイトをされていた事が後に同じ病変を三重の山田赤十字病院の資料で発見する事につながったそうです。
 そこで葛原先生は若い先生方に「現状に不平不満を言うのではなく、今やっていることをしっかり覚えておきなさい。どこかで必ず役に立ちますよ」と話されているそうです。
 この他にもCTが始めて導入された時の感動や日本の神経学が抱えている問題などについてもお話を伺いました。
 ぜひ、お楽しみ下さい。


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