最新医学63巻6号 
特集 がん診療の拠点化と均てん化
    -がん対策基本法成立から1年-

要  旨



アプローチ


門田守人*

* 大阪大学大学院医学系研究科外科学 教授
要  旨
 昨年4月に施行されたがん対策基本法の特色は,がん患者の努力によってできたということである.基本的には我が国における医療全体の問題を包含したものであり,法律の実施に当たっては医療全体の改革を目指す必要がある.その方向で国民,医療人,行政が一体となった努力が必要であろう.

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参加から協働へ -患者から見た「がん対策基本法」-

本田麻由美*1*2
*1 読売新聞東京本社社会保障部記者
*2 厚生労働省「がん対策推進協議会」委員

要  旨
 がん対策基本法が成立した背景には,「もう治療法はありません」として,適切な化学療法や緩和ケアが提供されないまま切り捨てる日本のがん医療のあり方に対し異議を唱え,行動した患者たちの存在があった.彼らは「医療政策への参加」を求め,それが実現しつつある今,「地域医療を支えるための協働」へと歩みを進めつつある中,行政や医療界にも,そうした活動を支援し,協力しながらがん対策を推進する必要がある.

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国のがん診療連携拠点病院としての取り組み

土屋了介*
* 国立がんセンター中央病院 病院長

要  旨
 国立がんセンター中央病院の果たす役割は,人材の育成,緩和ケアの普及,臨床研究の推進による新規診療機器・方法の開発である.放射線療法・化学療法・緩和医療の専門的医療従事者の養成が急務である.患者の視点に立ったがん医療には,病診連携によってがんの専門的医療従事者を有効に機能させることが必要で,がん専門医のパートナーとして有効に機能する総合臨床医(家庭医)の養成が不可欠である.

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地域がん診療連携拠点病院としての組織編成と体制強化の取り組み

岡村 健*
* 独立行政法人国立病院機構九州がんセンター 副院長

要  旨
 がん診療連携拠点病院の整備に関する指針に基づいて,組織編成,体制強化・整備に取り組んだ.クリティカルパスの導入・整備,セカンドオピニオン体制の確立,緩和医療提供体制の強化,地域連携クリティカルパス体制確立の準備,相談支援・情報センターの組織化,院内がん登録体制の強化などについては,ワーキングチームや委員会を組織し,各種規程や細則などを定めるなどの手順を踏んで行った.地域との連携については,相互の連携を深めることが重要であり,連携協議会や研究会などを組織し,情報の共有化のための仕組み(依頼書,情報書の統一化・共有化など)を整備した.拠点病院体制の整備・強化には経済的支援が必要であり,国や都道府県の予算措置の規模ががん医療均てん化の成否を左右すると考えられる.がん医療に対する国民の理解と支援,協力が不可欠である.

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「がん対策基本法」が変えたもの


中川和彦*
* 近畿大学医学部腫瘍内科 教授

要  旨
「がんプロフェッショナル養成プラン」は全国の大学医学部を巻き込んで,がん医療人育成のための多大学連携教育プログラムが考案された.近畿大学医学部は「6大学連携オンコロジーチーム養成プラン」を申請し,全国 18 のプランの1つとして受理された.がん対策基本法成立から1年,現状には不満と憤りを感じることが多い.しかし,何も動かないかに見える現状の中に,確かな変化を見て取れるのも事実である.

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北海道における地域がん診療連携拠点病院としての取り組み


山下幸紀*
* 国立病院機構北海道がんセンター 名誉院長

要  旨
 北海道の,特に地方における医療環境は劣悪であり,二次医療圏に1つ程度を目安とした地域がん診療連携拠点病院の指定も,いまだ当院を含め半数以下の 10 施設にとどまっている.このような状況の中で当院が,指定を受けるべくどのような準備を行い,受けた後はいかなる活動をしているのか,さらに今後,がん医療の均てん化に向けて北海道がんセンターは当面どうすべきか,などについて述べる.

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名古屋大学医学部附属病院における外来化学療法部の取り組み

安藤雄一*
* 名古屋大学医学部附属病院外来化学療法部 准教授

要  旨
 名古屋大学医学部附属病院の外来化学療法室は,外来における化学療法の実施にとどまらず,病院全体ひいては地域のがん化学療法の質を向上させる地域がん診療連携拠点病院としての役割も担っている.今後は外来化学療法室のあり方が,その医療施設のがん化学療法の質を反映するといっても過言ではない.

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都道府県がん診療連携拠点病院としての取り組み

矢野聖二*

* 金沢大学附属病院がん高度先進治療センターセンター長

要  旨
 金沢大学附属病院は,平成 19 年1月に「石川県がん診療連携拠点病院」に指定された.がん高度先進治療センターがその中核として活動を行っている.石川県内の4つの地域がん診療連携拠点病院や石川県医師会と協力し,「研修」,「情報連携」,「がん登録」に重点を置き,石川県のがん医療向上のために種々の活動を行っている.今後,県民に対しがん診療連携拠点病院の活動内容を広報していくことが重要な課題である.

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早期からどこでも安心して受けられるがん緩和医療を目指す取り組み

江口研二*1*2
*1 帝京大学医学部内科学講座 教授
*2 日本緩和医療学会 理事長


要  旨
 がん緩和医療は,単に終末期患者のみならずがん診療の早期から,患者・家族に対する緩和・支持療法を担当する医療分野である.患者・家族の視点も考慮した緩和医療には多職種の専門家によるチーム医療が不可欠である.座学だけの講習会では実践力養成に限界がある.緩和ケアチーム・緩和ケア病棟などでの実習や,初期臨床研修制度に緩和医療実習を必須カリキュラムとする必要がある.地域のがん緩和医療連携体制には,がん診療連携拠点病院(中核病院),地域医師会,在宅緩和医療専門医師の主導型類型モデルがあり,地域特性に応じたモデルを構築すべきである.緩和医療に関する適切な卒前卒後教育体制整備のためにも,医科大学における緩和医療学講座の設置は必要である.

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がん診療専門職の再構築(医師)

西山正彦*
* 埼玉医科大学国際医療センタートランスレーショナルリサーチセンター 教授

要  旨
 がん対策基本法の施行により,がん専門医療職の一刻も早い育成と適正配置が強く促されている.本稿では,がん医療の中枢を担うべき「がん診療の高度専門的医師」に焦点を絞り,国民の幅広い要望に応えうる本邦独自のがん診療医の育成,認定制度として提案され,すでに実働を開始している認定医,専門医の2段階制について紹介し,再構築が進みつつある本邦のがん診療専門医制度の現状について,私見を交えて概説する.

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がん情報のネットワーク

高山智子*
* 国立がんセンターがん対策情報センターがん情報・統計部診療実態調査室 室長

要  旨
 日本のがん対策のための「がん情報提供ネットワーク」の基盤整備を効果的,効率的に進めるために必要な要素について,横断的,縦断的,利用者の視点からがん情報のネットワークをとらえ直し,考察した.幾つかの視点から見直すことの有効性と,特に利用者からの視点で検討することの重要性が,がん対策の2つの目標を達成するための今後のがん情報のネットワークの整備に重要であると考えられた.

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がんの一次予防と二次予防

田島和雄*1*2
*1 愛知県がんセンター研究所 所長
*2 名古屋大学大学院医学系研究科疫学講座 客員教授

要  旨
 日本人の死亡原因としてがんがトップになって四半世紀を過ぎ,その後もがんは増え続け,現在は全国で年間 33万人以上が死亡している.このまま増加すると2020年までに 47 万人を超え,国民の2人に1人はがんで亡くなると予測される.がんの主な原因として,慢性感染症,喫煙・飲酒習慣,偏った食生活習慣などが挙げられる.生活習慣の改善や慢性感染症の撲滅など,一次予防対策によりがんの罹患危険度は低減する.また,がんは早期発見により治癒する可能性が大きく,がん検診などの二次予防対策によりがんの死亡危険度を低減できる.記念すべきイベントにかこつけて常日頃から検診を受ける習慣を身につけておけば,がんの苦しみや死亡危険度は低減する.

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本邦におけるがんTRの促進

村上雅義*
* 財団法人先端医療振興財団常務理事/企画室長・臨床研究情報センター長代行

要  旨
 本邦における「がんトランスレーショナルリサーチ(TR)の促進」は,科学技術基本計画や第3次対がん 10 か年総合戦略,「がん対策基本法」にも盛り込まれたことにより,公的研究事業費が充実したり,それを支援する基盤構築が行われたりしている.特に文部科学省「がんトランスレーショナルリサーチ事業」の推進により,がん TRに関するノウハウの蓄積や,がん TRを進めるうえでの方法論が具体化され,促進するための課題も明確になってきた.
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がん治療開発の臨床試験の推進

中村健一*1*2 柴田大朗**1*3 福田治彦***1**3
*1 国立がんセンターがん対策情報センター臨床試験・診療支援部企画管理室長
**1 同薬事・安全管理室長 ***1 同部長
*2 JCOG 運営事務局
*3 JCOG データセンター **3 同データセンター長

要  旨
 米国では国の機関である NCI が主導して,50 年以上にわたってがん治療開発を戦略的に進めてきたが,我が国でもがん対策基本法の成立やがん対策情報センターの設置の一環として,ようやく国としてがん治療開発に取り組む機運が出てきた.がん対策情報センターでは,その1つの機能として,多施設共同臨床試験支援の強化,臨床試験に関する情報の発信,がん診療連携拠点病院の研究基盤整備支援などを通じて,がん治療開発の効率化に着手している.

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対談
脳とこころの科学と医療(第15回)
脳卒中治療の未来

ゲスト  篠原 幸人(立川病院
聞き手  金澤 一郎 先生(国立精神・神経センター名誉総長)

対談シリーズ「脳とこころの科学と医療」は、お招きするゲストの先生方に、ご自身の研究の内容や失敗談、成功談をお伺いしながら、日本における脳・神経研究の歴史を紹介するとともに、そこで語られる先達の教訓を、本誌の対象読者である若手研究者の日頃の研究に役立てていただくことを願って企画致しました。ゲストにはこの分野の基礎を築いて来られた方々、また現在も第一線で研究を続けておられる方々をお招きしています。
 第15回はゲストに国立精神・神経センター・篠原 幸人 先生をお迎えして「脳卒中医療の未来」をタイトルにお話をお伺いしました。
 脳卒中治療ガイドライン委員会の委員長として、また日本脳卒中学会の理事長として脳卒中治療の成績向上にご尽力されている篠原先生は脳卒中治療で重要なことは第1がprevention(予防)、その次が発症時の対応、そして再発の予防の3点に尽きるとお話されています。
 例えば日本脳卒中学会では急性期の対応として「t-PAの使い方指針」を発行し使用方法の難しいt−PAについても使い方の講習会を全国で実施されているそうです。また、再発予防には血圧のコントロールが重要と話されています。
 若い研究者に対してはご自身の留学時代の経験から実験の結果「作業仮説」が間違っていたとしても出た結果には何らかの理由があるはずでありそこから面白いことが見つかったりするので、既知の研究でも、あるいは人が見た症例でももう一度自分の目で見ることで新しい事実に気付くことが大切であるとお話しされています。
 臨床の場でもserendipityが必要でsendipperになりたいとおっしゃる篠原先生に他にもいろいろと興味深いお話を伺っています。どうぞお楽しみ下さい。



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