最新医学63巻7号 
特集 脳梗塞急性期治療 -t-PA静注療法-

要  旨


アプローチ
rt-PA注療法の現状と問題点


山口武典*

* 国立循環器病センター 名誉総長
要  旨
 アルテプラーゼ認可後2年間の市販後調査成績の概要を述べた.約8千例に使用されているが,解離性大動脈瘤や胸部大動脈瘤の破裂による死亡例が報告されたことから,安全性に関する新たな問題点として添付文書の改訂がなされた.有効性(mRS 0〜1 の割合)は治験(J-ACT)の成績に比べてやや低いようである.しかし,後者は選ばれた施設での厳格なプロトコール遵守を要求された成績で,救急臨床の場面での患者選択ならびに治療成績とはある程度の差があることは致し方ないものと考える.ただし,今後も治療ガイドラインを遵守しつつ,より安全かつ有効性の向上を目指した血栓溶解療法が行われるべく努力しなければならない.

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血栓溶解薬開発の現状と展望

上嶋 繁*1*2 松尾 理*2
*1 近畿大学農学部食品栄養学科 教授
*2 近畿大学医学部第二生理学教室 教授

要  旨
 血栓溶解薬は急性心筋梗塞の治療薬として開発が進められてきた.しかし最近は,心筋梗塞と同じ血栓性疾患である脳梗塞に対する治療薬としても着目されつつある.血栓溶解薬を広く臨床使用するためには,越えなければならないハードルが幾つか存在する.それらのハードルを克服するために開発され,臨床使用に至った血栓溶解薬とともに,現在開発中で今後の発展が期待される薬剤について紹介する.

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ブレインアタック・キャンペーン
―脳卒中発症時の早期症状認識,救急対応を促すための市民啓発活動―

中山博文*
* 社団法人日本脳卒中協会 専務理事
要  旨
 ブレインアタック・キャンペーンとは,脳卒中の症状と救急対応の必要性を一般市民や患者・家族に教育するキャンペーンである.一般市民の啓発にはマスメディアの利用が,患者教育には医師からの情報提供が必要と思われる.(社)日本脳卒中協会は,公共広告機構の支援による新聞広告や市民講座,電話・FAX相談などを実施しており,平成20年7月から,テレビ,ラジオ,雑誌を用いたキャンペーンも開始する.

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t-PA 静注療法のためのトリアージ

門脇太郎*1*2 美原 盤*3
*1 脳血管研究所美原記念病院神経内科
*2 足利赤十字病院内科(現職)
*3 脳血管研究所美原記念病院病院長

要  旨
 超急性期虚血性脳血管障害の治療として,t-PA静注療法が保険収載された.欧米に比し,我が国でのt-PA使用率は低い.この要因として,我が国での脳卒中の救急医療体制が十分に確立されていない可能性がある.プレホスピタル段階でもt-PA静注療法のためのトリアージは可能であり,t-PA静注療法を正確に迅速に施行する助けとなる.t-PA静注療法が可能な医療機関へ搬送するためのシステム化が求められる.

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rt-PA 治療とEarly CT Findings


岡田 靖*
* 国立病院機構九州医療センター臨床研究センター・脳血管内科統括診療部長

要  旨
 脳梗塞超急性期の血栓溶解療法においては,迅速な院内体制の構築と脳虚血の早期CT所見(early CT sign,ASPECTS)に基づく治療判断が重要である.早期CT所見の臨床的意義と診断のための標準化の必要性について述べた.簡易性,迅速性,経済性などから早期CT所見は治療実践的であり,これからの新たな組み合わせ治療の進歩が期待される.

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CT・MRIよる虚血領域の評価


長尾毅彦*1  井田正博*2  片山泰朗*3 田久保秀樹**1
*1 (財)東京都保健医療公社荏原病院総合脳卒中センター神経内科医長 **1 同部長
*2 同放射線科部長
*3 日本医科大学内科(神経・腎臓・膠原病リウマチ部門)教授

要  旨
 血栓溶解療法の際には,制限時間内で迅速かつ詳細な画像診断技術が要求される.CTによる判定が原則であるが,MRを積極的に活用することによって安全性がより向上するものと思われる.最も重要な点は,救済可能な脳組織の検出である.拡散強調画像で高信号域を呈している脳組織の復活は極めて難しい.脳循環の評価を併用することによって最終梗塞予定域を推定し,“diffusion-perfusion mismatch”を検出する.その範囲が広いほど効果が期待できると判断される.MR灌流画像が実施できる施設は限られており,MRAやFLAIRによって閉塞血管を推定し,それを灌流画像の代替として使用することも可能である.

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Multimodal MRI による虚血性ペナンブラの評価

中川原譲二*
* 中村記念病院脳神経外科 診療本部長

要  旨
 脳梗塞急性期の病態診断の1つとして,multimodal MRIによる虚血性ペナンブラの画像評価が注目されているが,撮像方法や判定方法の標準化は必ずしも進んでいない.DWIやPWIの標準化は ASIST-Japanで検討された方法により達成されつつある.MRAで脳動脈閉塞が確認され,DWIによる病変が限局的で,かつ広範なdiffusion-perfusion mismatchが認められる症例に対しては,発症後3時間以内はもちろん,それ以降であってもt-PA静注による血栓溶解療法が選択される可能性がある.

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Clinical Diffusion MismatchとClinical CT Mismatch

鄭 秀明*

* 戸田中央総合病院神経内科 部長

要  旨
 最近 MRI の灌流強調画像と拡散強調画像の解離(いわゆる diffusion-perfusion mismatch)の代用として,臨床症状とMRI・CT所見の解離(clinical diffusion mismatch:CDMおよびclinical CT mismatch:CCM)がt-PA投与決定に適応できないか検討されている.現在のところ,発症3時間を超える例に対してCDMは適応の可能性はあるが,CCMは適応困難と考えられる.

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NIHSSによる重症度の評価と問題点

森 悦朗*
* 東北大学大学院医学系研究科高次機能障害学 教授


要  旨
 脳卒中急性期に重症度を把握することは,治療方針を決定するうえで重要である.National Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)はもともと臨床試験での使用を目的に開発されたが,現在では臨床現場で最もよく使われている神経学的スケールである.ここでは,@脳卒中の計測,A構造と解釈,B信頼性と妥当性,Cアルテプラーゼ静注療法とNIHSS,DNIHSSの習得について述べる.

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t-PA 静注療法と脳卒中ケアユニット

長谷川泰弘*
* 聖マリアンナ医科大学神経内科 教授

要  旨
 t-PA静注療法は,脳卒中ケアユニット(SCU)またはそれに準ずる設備を有する施設で行われなければならない.SCUは,多職種からなる脳卒中チームが配置され,他疾患と明確に分離された専門病棟(病床)であり,ガイドラインに従った治療を 24 時間体制で行い,患者のデータベースを定期的に総覧して,医療の質の向上を図るシステムを取り入れた運営が望まれる.対脳卒中戦略におけるt-PA静注療法とSCUの位置づけが次第に見え始めてきた.

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t-PA 静注療法のリスクベネフィット

星野晴彦*
* 慶應義塾大学医学部神経内科・脳血管障害予防医学講座特別研究 准教授

要  旨
 経静脈性t-PA血栓溶解療法のベネフィットは90日後の mRS 0〜1で表される転帰良好例が有意に増加することであり,そのリスクは症候性頭蓋内出血の増加である.プロトコール逸脱は院内死亡率を明らかに増加させる.多くの市販後調査の結果からは,実地臨床でもNINDS t-PA臨床試験とほぼ同等の有効性とリスクが得られている.

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t-PA 静注療法時の超音波モニター

井口保之*   木村和美**
* 川崎医科大学脳卒中医学准教授 ** 同教授


要  旨
 経頭蓋ドプラ検査(TCD)は,脳血管病変,血流中の栓子,さらにt-PAを用いた線溶療法(t-PA 静注療法)中の再開通現象などの評価が可能である.近年,t-PA静注療法に超音波照射を併用すると,線溶効果が増強することが明らかになった.本稿では,超急性期脳梗塞診療におけるTCDの臨床応用を中心に概説したい.

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超音波による血栓溶解

古幡 博*
* 東京慈恵会医科大学総合医科学研究センター医用エンジニアリング研究室 教授

要  旨
 血栓溶解薬(rt-PA)の効果を増高させる低侵襲法として,診断用経頭蓋ドプラ法(TCD)が良好な臨床成績を示した.このTCDに超音波造影剤(マイクロバブル)を併用することによって,さらに再開通率の向上が招来された.これら診断用超音波に比べ,血栓溶解効果増高のさらに期待できる中周波数超音波を活用する経頭蓋超音波溶解療法は,その臨床試験で頭蓋内出血が増高した.その音響学的安全性などについて詳らかにした.そして,安全上の問題を乗り越える新たな中周波数経頭蓋超音波脳血栓溶解療法の研究の現状にも言及した.

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血栓溶解療法の展望

峰松一夫*
* 国立循環器病センター内科脳血管部門 部長

要  旨
 t-PA(アルテプラーゼ)静注療法の国内承認は,病院前救護や急性期診療体制の変革(脳卒中センター認定など),回復期リハビリテーションや在宅・施設介護との連携を核とした「脳卒中地域連携医療」の創生のうねりとなっている.承認後2年間の国内市販後使用成績調査(全例調査),J-ACTUなどの成績,海外のガイドラインや臨床研究成果をもとに,現行の適正治療指針(日本脳卒中学会)は改訂されるであろう.beyond alteplaseの追求もまた本格化するであろう.

対談
脳とこころの科学と医療(第16回)
アルツハイマー病は予防できるか

ゲスト  朝田  隆 (筑波大学)
聞き手  金澤 一郎 先生(国立精神・神経センター名誉総長)

対談シリーズ「脳とこころの科学と医療」は、お招きするゲストの先生方に、ご自身の研究の内容や失敗談、成功談をお伺いしながら、日本における脳・神経研究の歴史を紹介するとともに、そこで語られる先達の教訓を、本誌の対象読者である若手研究者の日頃の研究に役立てていただくことを願って企画致しました。ゲストにはこの分野の基礎を築いて来られた方々、また現在も第一線で研究を続けておられる方々をお招きしています。
 第16回はゲストに筑波大学・朝田 隆 先生をお迎えして「アルツハイマー病は予防できるか」をタイトルにお話をお伺いしました。
 老人精神医学、特にアルツハイマー病がご専門の朝田先生ですが若い頃には整形中心の救急医を目指された事もあったそうです。
 今回の対談ではアルツハイマー病について臨床的な視点からMCI(軽度認知障害)のお話や病理研究の進展状況などについて聞き手の金澤一郎先生とディスカッションして頂きました。
 その他にも国内の認知症に先進的な医療機関と連携して行われる臨床研究「J−ADNI(Alzheimar's Disease Neuroimaging Initiative)」のお話やこれからの取り組みとしてクリーブランドのInter Generation Schoolをモデルとした筑波大学での新しい取り組みについてもお話頂きました。
 どうぞお楽しみ下さい。



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