最新医学63巻8号 
特集 冠動脈疾患と炎症

要  旨


アプローチ
冠動脈疾患における炎症の意義


杉山正悟**  菅村公一*   野ア俊光*

* 熊本大学大学院医学薬学研究部循環器病態学   ** 同准教授
要  旨
 炎症は生体の生存に必須の防御反応である.冠動脈疾患の主な原因病態である粥状動脈硬化症は,血管壁における慢性炎症性疾患と考えられる.臨床的・基礎的研究から,動脈硬化症は血管内皮細胞とマクロファージなどによる血管内膜における炎症ととらえられ,臨床的には血中バイオマーカー測定によりその炎症レベルが検討される.心血管治療薬の中に抗炎症効果を有する薬剤が検討され,冠動脈疾患を炎症の立場から研究した新たな治療戦略の検討が期待される.

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成因解明
病理学的に見た冠動脈疾患における炎症の役割について

松田俊太郎*   畠山金太**  浅田祐士郎***
* 宮崎大学医学部病理学講座構造機能病態学分野   ** 同講師 *** 同教授

要  旨
 近年,冠動脈プラークの発生・進展における炎症の関与が重要視されている.内皮障害に引き続いて起こるマクロファージの集簇と平滑筋細胞の増生は,最も重要な病理組織学的変化で,プラークの形成だけでなく不安定化にも深くかかわっていると考えられる.また,急性冠症候群の発症に直接的な原因となる血栓形成においても,炎症細胞の関与が示唆されている.

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成因解明
急性冠症候群におけるマクロファージの重要性

海北幸一*   小川久雄**
* 熊本大学大学院医学薬学研究部循環器病態学 講師 ** 同教授
要  旨
 急性冠症候群の発症機序において,プラークの構成成分であるマクロファージは重要な役割を担っている.冠動脈プラークにおいて酸化 LDL を貪食したマクロファージは,種々のサイトカインによって活性化され,タンパク質分解酵素を産生し,線維性被膜を脆弱化する.また,外因系凝固マーカーである組織因子や線溶系障害のマーカーである PAI-1 などを産生することにより,冠動脈プラーク破綻後の血栓形成に重要な役割を果たす.

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成因解明
冠動脈疾患における接着分子の意義

井上晃男*
* 佐賀大学医学部循環器・腎臓内科准教授

要  旨
 動脈硬化の発症・進展に,接着分子を介する白血球の血管壁への接着・浸潤といった炎症性機転が関与する.接着分子は細胞接着に際して糊としての役割のみならず,細胞内あるいは細胞間シグナル伝達を担う重要な機能分子であり,冠動脈疾患においてもさまざまな病態を形成する.今後,接着分子を標的とした炎症機転の制御が,冠動脈疾患の治療戦略として重要な位置を占めるようになる可能性がある.

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成因解明
冠動脈疾患と免疫


福永 崇*   副島弘文*   小川久雄**
* 熊本大学大学院医学薬学研究部循環器病態学 ** 同教授

要  旨
 不安定狭心症や急性心筋梗塞,あるいは虚血性心臓突然死のほとんどは,冠動脈プラーク(粥腫)の破裂あるいはびらんを来し,それに続いて冠動脈内腔に血栓が形成され,内腔が閉塞ないしは亜閉塞されるために発症することが明らかにされ,一括して急性冠症候群(ACS)と呼ばれる.破綻しやすい冠動脈プラークには多くのマクロファージが存在し,T細胞からの刺激を受けてプラーク破綻へと進展する.ACS 患者で活性化している接着分子やT細胞は冠攣縮性狭心症の患者においても亢進しており,血管内皮細胞下への白血球の浸潤やプラークの線維性被膜の菲薄化に関与する可能性がある.このように,冠動脈疾患に免疫(炎症)細胞の関与が重要である.

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成因解明
冠動脈疾患とPPARγ


山岸昌一*
* 久留米大学医学部糖尿病性血管合併症病態・治療学講座 准教授

要  旨
 近年,脂肪細胞の分化調節のマスター転写因子である PPARγを活性化することでインスリン感受性が亢進し,糖・脂質代謝が改善されることが報告された.PPARγの活性化は,血管壁においても抗炎症・抗酸化作用を発揮し,動脈硬化症に対して保護的に作用する.本稿では,冠動脈疾患における PPARγの役割について解説するとともに,最近発表されたピオグリタゾンを用いた大規模臨床試験の成績を紹介し,今後の展望についても言及する.

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冠動脈疾患における炎症に関与する血中バイオマーカーの意義
高感度CRP


小菅雅美*   木村一雄**

* 横浜市立大学附属市民総合医療センター循環器内科  ** 同教授
要  旨
 アテローム性動脈硬化症は,炎症過程を基盤に進行していく慢性疾患である.高感度C反応性タンパク質(CRP)は炎症マーカーとして現在広く用いられている指標であり,健常成人では冠動脈疾患発症の予測に,安定狭心症患者および急性冠症候群患者では病態の把握や重症度ならびに予後予測において有用である.また,薬物治療で HMG-CoA 還元酵素阻害薬(スタチン)治療の指標としても,高感度 CRP は有用であることが示されている.

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冠動脈疾患における炎症に関与する血中バイオマーカーの意義
アディポサイトカインと炎症・冠動脈疾患
―アディポネクチンを中心に―

大塚文之*

* 横浜市立大学附属市民総合医療センター心臓血管センター

要  旨
 これまで単なるエネルギー貯蔵庫とされていた脂肪組織は,実は多彩な生理活性物質を分泌する内分泌臓器であることが明らかにされ,脂肪細胞由来の分泌タンパク質は「アディポサイトカイン」と呼ばれるようになった.近年,アディポサイトカインと動脈硬化・炎症との密接な関係が明らかにされており,本稿では中でも脂肪細胞に最も高頻度かつ特異的に発現する遺伝子産物「アディポネクチン」を中心に,その臨床的意義について概説する.

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冠動脈疾患における炎症に関与する血中バイオマーカーの意義
可溶型接着分子

副島弘文*1  岸川秀樹**1  小川久雄*2
*1 熊本大学保健センター准教授 **1 同教授   
**2 熊本大学大学院医学薬学研究部循環器病態学 教授


要  旨
 動脈硬化進展過程において,血管内皮細胞に sICAM-1,可溶型Pセレクチン,可溶型Eセレクチンなどの接着分子が発現し,単球やT細胞といった白血球との間に強固な接着が起こり,単球やT細胞は内皮細胞に結合し,やがて内皮下へ侵入していくことが明らかになってきている.急性冠症候群および冠攣縮性狭心症の患者において,これらの接着分子は末梢血においてあるいは冠循環で過剰に発現しており,それぞれの炎症反応に関与していると考えられる.

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炎症の観点に立った冠動脈疾患の治療
アスピリン

後藤信哉*1*2
*1 東海大学医学部内科学系 教授
東海大学総合医学研究所代謝システム医学 部門長
*2 同バイオ研究医療センター代謝疾患センター センター長


要  旨
 アスピリンは大規模臨床研究により,動脈硬化,血栓性疾患である心筋梗塞,脳梗塞などの疾病の発症予防効果を有することが確認されている.また,アスピリンは薬理学的にはシクロオキシゲナーゼ1(COX-1)を阻害することも理解されている.心筋梗塞発症予防効果の一部は,COX-1 の阻害に基づく活性化血小板からのトロンボキサンA2 産生阻害による抗血小板効果に依存している可能性が高い.また,一部はアスピリンの古典的な抗炎症効果に依存している可能性もある.大規模臨床試験の結果を薬効薬理から演繹的に説明しきれない部分に,アスピリン治療の難しさがある.

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炎症の観点に立った冠動脈疾患の治療
抗炎症薬としてのスタチン

坂本知浩*
* 済生会熊本病院心臓血管センター循環器内科 副部長

要  旨
 スタチンの多面的作用の1つである抗炎症作用は,LDL コレステロール低下作用と併せて心血管イベントの発症抑制に有効である.スタチンによるメバロン酸経路の抑制は,コレステロール生合成にかかわるファルネシルピロリン酸とともにタンパク質の翻訳後修飾の1つであるイソプレニレーションをつかさどるゲラニルゲラニルピロリン酸をも生成する重要な細胞内経路であるため,炎症の抑制など種々の細胞機能に影響を与える.

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炎症の観点に立った冠動脈疾患の治療
カルシウム拮抗薬

守川義信*   上村史朗**  斎藤能彦***
* 奈良県立医科大学第一内科 ** 同講師 *** 同教授


要  旨
 経頭蓋ドプラ検査(TCD)は,脳血管病変,血流中の栓子,さらにt-PAを用いた線溶療法(t-PA  冠動脈のプラーク形成とその不安定化には,血管壁における炎症および免疫学的機序の関与が示されている.カルシウム(Ca)拮抗薬には血管壁における炎症反応に抑制的に作用するものも報告されている.現在,実地臨床においては数多くの Ca 拮抗薬を使用することが可能であるが,病態に応じて適切に使用するためには Ca 拮抗薬の基礎を十分に理解したうえで薬剤を選択することが望ましい.本稿では,Ca 拮抗薬の冠動脈疾患における抗炎症作用と治療効果について概説する.

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炎症の観点に立った冠動脈疾患の治療
アンジオテンシンU受容体拮抗薬

小川洋司*
* 東京女子医科大学循環器内科(旧心研内科) 講師

要  旨
 高血圧や糖尿病などのさまざまな冠危険因子が存在することで動脈壁に炎症性変化が発生し,その結果動脈硬化が出現する.また冠動脈に出現した炎症性変化が不安定プラークを生じ,それが破綻することにより急性冠症候群に至る.この過程で重要な役割を果たすのが,レニン・アンジオテンシン系(RAS)である.RAS を効果的に抑制することを目的として開発されたアンジオテンシンU受容体拮抗薬の果たす役割は,今後さらに大きくなると考えられる.

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炎症の観点に立った冠動脈疾患の治療
チアゾリジンの我が国における臨床研究
―冠動脈疾患病態改善作用―

村上達明*
* 福井循環器病院循環器科 医長

要  旨
 炎症は冠動脈疾患病態に強く関与するため,冠動脈疾患治療の主たる標的の1つが炎症ストレスの抑制・軽減である.冠動脈疾患治療におけるチアゾリジンの効果を列挙すると,@炎症および糖・脂質代謝改善作用,耐糖能改善によらないA狭心症病態改善作用,B冠予備能および内皮機能改善作用,C脈波伝播速度や流量依存性上腕動脈拡張反応等の血管機能改善作用,D動脈壁肥厚抑制作用,Eステント内再狭窄抑制作用などである.

対談
脳とこころの科学と医療(第17回)
多発性硬化症の攻略

ゲスト  山村  隆 (国立精神・神経センター)
聞き手  金澤 一郎 先生(国立精神・神経センター名誉総長)

対談シリーズ「脳とこころの科学と医療」は、お招きするゲストの先生方に、ご自身の研究の内容や失敗談、成功談をお伺いしながら、日本における脳・神経研究の歴史を紹介するとともに、そこで語られる先達の教訓を、本誌の対象読者である若手研究者の日頃の研究に役立てていただくことを願って企画致しました。ゲストにはこの分野の基礎を築いて来られた方々、また現在も第一線で研究を続けておられる方々をお招きしています。
 第17回はゲストに国立精神・神経センター・山村 隆 先生をお迎えして「多発性硬化症の攻略」をタイトルにお話をお伺いしました。
 免疫性神経疾患である多発性硬化症(MS)の第一人者である山村先生ですが、大学卒業の翌年には既にMSの患者さんを診察されており、「何とか治す方法を探してください」と患者さんから言われたことが深く心に残っているそうです。
 MSの患者数はここ30年間増加傾向にありますが、その原因に生活習慣の欧米化が関係していると山村先生は考えておられます。
 以前は画期的な治療薬がない疾患であったMSですがステロイドやインターフェロンなど様々な治療法が開発されています。そして山村先生も免疫制御細胞であるNKT細胞刺激を目的とした新薬の開発に取り組んでおられます。
 この他にも腸管免疫について興味深いお話を伺っています。どうぞお楽しみ下さい。



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