最新医学63巻9号 
特集 非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)研究をめぐる新展開

要  旨


アプローチ
NASH の発症機序 −謝異常と肝病態進展の接点−


池嶋 健一*   渡辺 純夫**

* 順天堂大学医学部消化器内科 准教授   ** 同教授
要  旨
 NASH は,インスリン抵抗性を基盤とした代謝異常による肝細胞への脂質蓄積から,肝組織の慢性炎症・線維化進展,さらには肝発癌にまで至る進行性の肝病変を呈する.その病態には,さまざまな体質・遺伝的素因と生活習慣や環境因子などが複雑に相互作用を及ぼしつつ関与している.NASH の管理や治療を考えるうえで,代謝異常と肝病態の連関をよく理解することが重要である.

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臨床
NAFLDとNASHの疫学

橋本 悦子*
* 東京女子医科大学消化器内科 准教授

要  旨
 飽食の時代を迎えた我が国では,運動不足と相まって肥満人口は増加の一途をたどり,メタボリックシンドロームの肝病変であるNAFLDは最も高頻度な肝疾患となり,その頻度は成人の10〜30%である.肝生検により診断されるNASHの頻度に関しては大規模な疫学調査はないが,成人の2〜3%と推測され,肥満や糖尿病が重要な発症危険因子である.なお,NAFLD,NASHの有病率は男性で高いが,女性でも閉経後に男性とほぼ同率となる.この性・年齢別の有病率は,肥満,メタボリックシンドローム,NAFLD,NASHはほぼ同じ傾向を示す.

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臨床
NAFLD/NASHの診断

野崎 雄一*1   藤田 浩司*1   米田 正人*1    前山 史郎*2   中島 淳**1
*1 横浜市立大学大学院医学研究科分子消化管内科学    **1 同教授
*2 北柏リハビリ総合病院 病院長
要  旨
 生活習慣病が深刻化している昨今,NASHを含むNAFLDはメタボリックシンドロームの肝における表現型として増加の一途をたどり,近年注目されている.NASHは病態が進むと肝硬変にも至り,その早期診断・治療が必要とされるが,現在その診断は肝生検による組織診断が必須であり,このことが数百万人にも及ぶと言われるNASH患者の診断を困難にさせている.今後は,病歴や身体所見,血液・画像検査といった非侵襲的な検査を組み合わせ,的確に「肝生検を勧めるべき症例」を選択していくことが望まれる.

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臨床
NASHの治療

宇都 浩文**  上村 修司*   坪内 博仁***
* 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科消化器疾患・生活習慣病学
** 同講師 *** 同教授

要  旨
 NASHは今後日本で増加することが予想されるが,NASHに対する薬物療法に関してはエビデンスレベルの高い報告は少なく,日本人を対象とした検討も少ない.NASH は内臓脂肪蓄積を基盤とするメタボリックシンドロームを背景に,インスリン抵抗性・耐糖能異常,糖尿病,脂質異常症,高血圧などを合併することが多く,その対策が NASH 治療の基本である.つまり,日常生活・生活習慣の是正や肥満の改善に加え,合併する疾患に対する治療が NASH の病態改善にも有効と考えられる.

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臨床
NASHの病理組織像


前山 史朗*1   藤田 浩司*2   米田 正人*2   中島 淳**2   小林 稔*3
池田 裕喜*3   高橋 秀明*3   鈴木 通博**3   飯島 尋子*4

*1 北柏リハビリ総合病院内科・病院長
*2 横浜市立大学大学院医学研究科分子消化管内科学 **2 同教授
*3 聖マリアンナ医科大学消化器肝臓内科 **3 同教授
*4 兵庫医科大学肝胆膵内科

要  旨
 NASHの肝生検組織像の基本は,中等度以上の大滴性の脂肪化に線維染色(鍍銀像)でアルコール性肝線維症(ALF)の線維化パターンが加わったものである.HE 染色では実質の軽度から中等度までの壊死・炎症所見を見るが概して弱く,門脈−実質境界域で限界板の piecemeal necrosis の顕著な例は少ない.そのほかには,肝細胞の風船様膨化,核空胞化,脂肪肉芽腫,胞体内凝集傾向が種々の程度で重複して観察され,約 30% にマロリー体が出現する.

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臨床
NASHと小児


乾 あやの*   藤澤 知雄**
* 横浜市東部病院こどもセンター肝臓消化器部門副部長 ** 同部長

要  旨
 小児の肥満が増加し,脂肪肝を診療する機会が小児科医にも増えている.小児においても成人と同様に,肝硬変へ進行する可能性がある NASH を呈する症例がある.現在のところ,NASH の診断は肝生検しかない.小児の NASH の疫学的特徴は不明である.筆者らの検討では NASH の社会的予後は悪く,小児科医,肝臓専門医,精神科医,心理療法士,栄養士,理学療法士,教師などを含む多方面からの包括的な取り組みが必要と考えられる.

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病態
NASH とC型肝炎


小池 和彦*

* 東京大学大学院医学系研究科内科学専攻生体防御感染症学 教授
要  旨
 NASH とC型肝炎には,幾つかの共通点がある.肝脂肪化,インスリン抵抗性,TNFα等の炎症性サイトカインなどに共通の現象が認められる.さらにそれらの現象の背後には,酸化ストレス過剰産生,ミトコンドリア機能障害などの共通点が見えてくる.一方,血清脂質異常,細胞内シグナル伝達,肝癌発生などの点では明確な相違点も存在する.これら2つの病態の対比によって,NASH の病因に迫ることが可能となるであろう.

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病態
NASH とインスリン抵抗性

西原 利治**  野崎 靖子*   小野 正文*
* 高知大学医学部消化器内科 ** 同准教授

要  旨
 生体はエネルギーバランスを恒常的に維持する機構を有しており,その調節系が正常に作動する限り,生体の脂肪量はほぼ一定に保たれる.しかし過食や運動不足が持続すれば,過剰蓄積したエネルギーは脂肪として蓄積され,内臓脂肪型肥満が惹起される.NASH は内臓脂肪型肥満に伴う脂肪肝を背景として発症する生活習慣病であり,肝病変の発症と進展にはインスリン抵抗性が深く関与している.

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病態
薬剤起因性NASH

藤田 尚己*   竹井 謙之**
* 三重大学大学院医学系研究科病態制御医学講座消化器内科学 ** 同教授


要  旨
 近年,NASH の疾患概念の普及とともに,薬剤起因性 NASH が注目されている.@分子レベルで発症機序が解明されているもの,Aメタボリックシンドローム関連因子誘発作用によるもの,B原因不明のものなど,NASH 発症に至る薬剤の関与はさまざまである.今後,NASH 診療時は薬剤起因性の可能性も念頭に置きたい.

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病態
肝細胞特異的ノックアウトマウス

堀江 泰夫*
* 秋田大学医学部内科学講座消化器内科学分野 講師


要  旨
 肝細胞特異的 Pten ノックアウト(Pten KO)マウスは,NASH の自然経過,組織所見を再現する動物モデルである.その肝病変である肝脂肪化は,SREBP1c と PPARγの発現増加による.一方,脂肪肝から脂肪性肝炎への進展は,脂肪酸のβ酸化の亢進による酸化ストレスの増加と,腸内細菌叢由来のエンドトキシンに対する肝臓の感受性の亢進に起因する.抗酸化薬,プロバイオティクス,脂肪代謝改善薬は Pten KO マウスの肝病変を改善させるが,各薬剤の効果には限界がある.これらの薬剤の併用が,肝病変の進展をより効果的に抑制すると思われる.

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病態
レチノイン酸とNASH

汐田 剛史**  土谷 博之*   星川 淑子*
* 鳥取大学大学院医学系研究科遺伝子医療学 ** 同教授

要  旨
 慢性肝疾患の進展とともに肝星細胞が活性化されるが,その際に認められるレチノイン酸の機能喪失が,慢性肝疾患から肝発癌への進展の原因として重要である.すなわち,慢性肝疾患でのレチノイン酸シグナル低下が脂肪酸代謝異常,鉄代謝異常を惹起し,酸化ストレスを惹起し,肝発癌に寄与していると考えられる.NASH においてレチノイン酸代謝異常が生じ,これが肝硬変,肝発癌の一要因となっている可能性について概説する.

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病態
アディポサイトカインと NASH

鎌田佳宏*   林 紀夫**
* 大阪大学大学院医学系研究科消化器内科学 ** 同教授


要  旨
 経頭蓋ドプラ検査(TCD)は,脳血管病変,血流中の栓子,さらにt-PAを用いた線溶療法(t-PA  脂肪組織から分泌されるさまざまな生理活性物質をアディポサイトカインと呼ぶ.肥満に伴い肥大した脂肪組織の慢性炎症によってアディポサイトカインの分泌異常を来し,善玉アディポサイトカインであるアディポネクチンの低下,炎症性アディポサイトカインである TNFαの増加などが起こる.このアディポサイトカイン分泌異常が NASH の病態進展に重要な役割を果たしていることが,近年の研究により明らかになりつつある.

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病態
鉄代謝とNASH

高田弘一*   加藤淳二**
* 札幌医科大学第四内科 ** 同准教授

要  旨
 NASH の発症・進展には,酸化ストレスの関与が示唆されている.この酸化ストレス増加の原因の1つとして,肝への鉄過剰蓄積が関与している可能性が示唆されている.本稿では,最近分かってきた NASH における鉄代謝異常に関して概説した.NASH においては肝臓に鉄が過剰に蓄積し,血清フェリチン値やトランスフェリン飽和度が上昇していることから,鉄が NASH の病態を修飾していると考えられる.また,肝内鉄過剰の原因として,消化管からの鉄吸収が亢進していることが明らかとなった.その機序は,十二指腸粘膜での DMT1,Dcytb および Hephaestin の発現が上昇していることによると考えられた.また,Hepcidin は肝鉄過剰状態を反映し上昇していると推測された.
 NASH に対する除鉄療法(瀉血+低鉄栄養療法)は,血清 ALT 値およびW型コラーゲン値を改善させ,さらに酸化ストレスのマーカーである 8-OHdG を正常化することから,有効な治療法の1つであると考えられた.

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病態
炎症性サイトカインと NASH

佐藤 顕*   中尾 春壽**  米田 政志***
* 愛知医科大学医学部消化器内科 ** 同准教授 *** 同教授

要  旨
 NASH の発症や病態の進行において,TNFα や TGFβなどの炎症性サイトカインは重要な役割を果たしている.TNFαは炎症による肝障害やインスリン抵抗性の発現に重要であり,TGFβは肝線維化に深く関与している.これらの炎症性サイトカインは,他のサイトカインとも複合的に関与して病態を進展させている.本稿では,NASH における炎症性サイトカインの役割およびインスリン抵抗性や酸化ストレスとの関連について述べる.

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対談
脳とこころの科学と医療(第18回)
筋ジストロフィー研究の未来

ゲスト  武田 伸一 (国立精神・神経センター)
聞き手  金澤 一郎 先生(国立精神・神経センター名誉総長)

対談シリーズ「脳とこころの科学と医療」は、お招きするゲストの先生方に、ご自身の研究の内容や失敗談、成功談をお伺いしながら、日本における脳・神経研究の歴史を紹介するとともに、そこで語られる先達の教訓を、本誌の対象読者である若手研究者の日頃の研究に役立てていただくことを願って企画致しました。ゲストにはこの分野の基礎を築いて来られた方々、また現在も第一線で研究を続けておられる方々をお招きしています。
 第18回はゲストに国立精神・神経センター・武田 伸一 先生をお迎えして「筋ジストロフィー研究の未来」をタイトルにお話をお伺いしました。
 創設間もない秋田大学医学部に第2期生として入学された武田先生は夏休みに郷里の松本に帰省された時に信州大学第三内科・柳澤教授の元で2週間実習されたことがきっかけで神経学を志されるようになりました。更に信州大学の大学院に進学された武田先生は教授の勧めで東京大学の薬理学教室に内地留学され、鶏をモデルに研究を始められました。そしてついに筋ジストロフィーに関して構造タンパク質の構成に正常型とは異なる異常があること発見され、その論文で博士号を取得されました。
 その後パスツール研究所に留学されミオシン重鎖の転写調節について研究されたことが後に筋ジストロフィーの研究や病気の成り立ちを理解する上で大いに役立つ事になりました。
 この他にもジストロフィー研究のために武田先生のグループが確立した筋ジストロフィービーグル犬のお話や最近のご研究の成果なども伺いました。他にもいろいろと興味深いお話を伺っています。
 どうぞお楽しみ下さい。




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