最新医学63巻9月増刊号 
特集 臨床遺伝子学’08

要  旨



総説
血液疾患の遺伝子学

富田 章裕*   直江 知樹**

*名古屋大学大学院分子総合医学専攻病態内科学講座血液・腫瘍内科学分野 **同教授

要  旨
 WHO分類の時代に入り,血液疾患は細胞形態のみならず,細胞表面マーカーや遺伝子学的背景によって,さらに細かく分類されるようになった.骨髄異形成症候群(MDS)における 5q−症候群も新たに分類された疾患群の1つであるが,特徴的な遺伝子異常が,臨床症状や治療への反応性にもかかわっていることが,最近の研究で明らかになってきた.また,一部のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)における遺伝子異常も,最近報告された.

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総説
循環器疾患の遺伝子学

堀江  稔
滋賀医科大学呼吸循環器内科 教授

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総説
呼吸器系疾患の遺伝子学

瀬戸口 靖弘
東京医科大学内科学第一講座(呼吸器内科)教授

要  旨
 呼吸器領域で最近3年間の遺伝子医学の新たな知見としてゲノムワイドに一塩基多型(SNP)タイピングされた GeneChip を用いた homozygosity fingerprinting 法により肺胞微石症の責任遺伝子が,また SNP genotype により肺癌の感受性領域として染色体 15q25 の nicotinic acetylcholine receptor subunit が同定された.また,他領域の研究から発見された ATP−binding cassette transporter A3 遺伝子変異が間質性肺炎や肺胞タンパク症を引き起すことが明らかにされた.本稿では,この3点につき解説する.

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総説
代謝性疾患の遺伝子学


武田  純
岐阜大学大学院医学系研究科分子・構造学講座内分泌代謝病態学分野 教授

要  旨
 糖尿病,肥満,脂質異常症などの代謝疾患は互いに関連する“生活習慣病”の範疇に分類されるが,おのおのの疾患感受性には遺伝素因が関与する.多因子疾患へのアプローチとして,単一遺伝子異常のポジショナルクローニングを端緒として,遺伝子多型を用いたゲノムレベルの解析へと展開された.その結果,多くの原因遺伝子や感受性多型が同定されたが,今後の課題は,これらの遺伝子情報を代謝リンクの観点から理解を深め,体質診断に臨床応用することである.

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総説
消化器系疾患の遺伝子学 -消化器癌におけるmiRNA異常-

井戸川 雅史*1  時野 隆至**1 篠村 恭久*2  今井 浩三*3
*1札幌医科大学附属がん研究所分子生物学部門 **1同教授 *2第1内科教授 *3学長

要  旨
 タンパクに翻訳されない21−23塩基の mRNA,microRNA(miRNA)がさまざまな遺伝子の発現を抑制していることが明らかとなってきた.がん促進的に働く発がん miRNA やがん抑制 miRNA が存在し,消化器癌でも発現の異常が認められている.一方,代表的ながん抑制遺伝子 p53 の標的に miR−34 ファミリーが含まれることも報告された.今後,消化器癌における miRNA の役割について,さらなる成果が期待される.

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総説
自己免疫疾患の遺伝子学

鎌谷 直之*1*2
*1理化学研究所ゲノム医科学研究センター グループディレクター
*2情報解析研究所 所長

要  旨
 関節リウマチ(RA)と全身性エリテマトーデス(SLE)の疾患感受性遺伝子が次々に取り出されている.最初のうちは候補遺伝子アプローチにより,最近では統計学を用いた連鎖解析および全ゲノム関連解析(GWAS)により網羅的な遺伝子探索がなされている.また,RA の治療に用いられるメトトレキサート,スルファサラジン,SLE の感染症予防に用いられる ST 合剤の効果や副作用に関連する遺伝子も解明されている.

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総説
内分泌系疾患の遺伝子学 -副腎腫瘍の遺伝子異常-

河手 久弥*   高柳 涼一**
*九州大学大学院医学研究院病態制御内科学 **同教授

要  旨
 近年の画像診断の普及で,偶然に副腎腫瘍が発見されるケースが増えてきている.副腎腫瘍は,発生母地の違いで副腎皮質腫瘍と副腎髄質腫瘍に大きく分けられる.両者とも,家族性に腫瘍が多発する症候群の1症状としてしばしば認められるが,そのような症候群の発症要因となる遺伝子異常が,孤発性の副腎腫瘍でも認められており,副腎腫瘍形成の分子メカニズムが明らかにされつつある.

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総説
神経疾患の遺伝子学


東京大学大学院脳神経医学専攻神経内科学 東京大学医学部附属病院神経内科
後藤  順

要  旨
 ヒトゲノム計画の終了宣言から5年が経過し,全ゲノム関連解析(GWAS)の成果が各領域で上がり始めた.神経疾患についても,筋萎縮性側索硬化症の報告がなされるようになった.単一遺伝子疾患遺伝子の話題として,家族性筋萎縮性側索硬化症に,孤発性疾患においても注目されている TARDBP のミスセンス変異によるものがあることが報告されている.また,動物でその変異が小脳失調を起すことが知られていたイノシトール1,4,5−三リン酸受容体1型の変異が,脊髄小脳失調症 15 型(SCA15)の病因であることが示されている.ゲノム医科学およびゲノム医療における今後の課題について若干触れ,今後,個人の全ゲノム配列すなわち personal genome を扱う研究や診療が,近い将来に実現されるであろうと考えられる,ゲノム医学の潮流を紹介した.

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総説
腎・電解質系疾患の遺伝子学


東京大学大学院医学系研究科小児医学講座 教授
五十嵐  隆


要  旨
 巣状糸球体硬化症を中心とするネフローゼ症候群,D胞性腎疾患,低 Mg 血症を呈する疾患についてまとめた.糸球体上皮細胞(ポドサイト)における細胞内情報伝達の障害がポドサイトの形態変化をきたしネフローゼ症候群や糸球体硬化の原因となること,線毛に関連するタンパクの異常が細胞内情報伝達に異常をもたらし腎D胞の原因となること,尿細管における Mg 輸送に関するタンパクの異常が遺伝性低 Mg 血症の原因となることが明らかにされた.

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トピックス
骨髄異形成症候群の分子病態と新規治療法

鈴木 隆浩

自治医科大学医学部内科学講座血液学部門 講師

要  旨
 骨髄異形成症候群(MDS)は未分化造血細胞における遺伝子異常が原因となって発症する腫瘍性疾患である.原因となる遺伝子変異は多様であり,さまざまな臨床病態が認められる.MDS は治療抵抗性の症例が多く,新たな治療法の開発が大きな課題であった.最近になり,MDS 発症の分子機序を考慮した新たな薬剤が次々に登場してきており,臨床試験からは有望な結果も得られている.今後,これらの薬剤を治療戦略に加えていくことで,MDS の治療成績が改善されるかも知れない.

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トピックス
不整脈と遺伝子

三好 俊一郎*1  小川  聡*2

*1慶應義塾大学医学部・心臓病先進治療学講座 講師
*2慶應義塾大学医学部・呼吸循環器内科 教授

要  旨
 不整脈疾患の中に遺伝的素因に起因する一群の疾患がある.日常の循環器診療でそのような病態に遭遇する機会は比較的少ないが,知識がなければ患者を危険にさらす場合もある.本稿では,とりわけ遭遇する機会の多い,遺伝性不整脈疾患の原因遺伝子とその病態を対比し掲載する.また後半では,遺伝子への介入によって不整脈治療を行える可能性について述べたい.

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トピックス
肺胞微石症の分子病態


萩原 弘一

埼玉医科大学呼吸器内科 教授

要  旨
 肺胞微石症(PAM:OMIM265100)は,リン酸カルシウムを主成分とする肺胞内微石の出現を特徴とする常染色体劣性遺伝疾患である.微石は極めて緩徐に成長するが,最終的には多くの肺胞を埋め尽くす.同時に肺胞壁には慢性炎症と線維化が生じる.小児期に胸部X線異常にて発見される症例が多い.初期は無症状であるが,疾患は緩徐に進行し,患者は中年期以降慢性呼吸不全,肺性心にて死亡する.世界で 600 例,日本で 100 例が報告されている.疾患原因はU型肺胞上皮細胞に特異的に発現しているUb型ナトリウム依存性リン運搬タンパクの機能欠損である.患者では同タンパクをコードする SLC34A2 遺伝子の機能欠失型変異遺伝子がホモ結合となっている.

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トピックス
2型糖尿病とその疾患遺伝子

原  一雄*   門脇  孝**

*東京大学大学院医学系研究科総合研修センター 講師 **糖尿病・代謝内科 教授

要  旨
 近年,ハード・ソフト両面で遺伝子多型タイピング技術が飛躍的に向上し,全ゲノム上の数十万の一塩基多型(SNP)について網羅的相関解析を行い,糖尿病を始めとして多因子病の感受性遺伝子を一網打尽に明らかにしようという全ゲノム相関解析が行われるようになってきた.その成果として TCF7L2 など 10 以上の新たな糖尿病感受性遺伝子が同定された.これらの新規感受性遺伝子の糖尿病発症における具体的な役割の解明と,感受性遺伝子を標的とした新たな診断法・治療法の開発が今後期待される.

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トピックス
Crohn病と遺伝子異常


井上  詠*   日比 紀文**

*慶應義塾大学病院包括先進医療センター **慶應義塾大学医学部消化器内科 教授

要  旨
 炎症性腸疾患は遺伝子や環境などのさまざまな因子より成る多因子疾患である.古典的なアプローチにより9つの遺伝子座が報告されてきたが,2001 年に Crohn 病の疾患関連遺伝子として NOD2/CARD15 遺伝子が同定された.さらに国際 HapMap プロジェクトデータベースに基づき,genome−wide association study が行われるようになり,IL23R,ATG16L1 など新たな疾患関連遺伝子が次々と報告されている.

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トピックス
関節リウマチの病態関連遺伝子


柱本  照

神戸大学大学院医学研究科内科学講座リウマチ学教育研究分野
神戸大学医学部附属病院リウマチセンター 准教授

要  旨
 近年,関節リウマチ疾患感受性候補遺伝子が欧米からの大規模研究によって相次いで報告された.中でも STAT4 遺伝子変異については韓国からの追試によって疾患感受性が肯定され,民族背景を超えた病態関連遺伝子と成りうる可能性がある.本稿では,HLA−DRB1 遺伝子,PTPN22 遺伝子,PADI4 遺伝子,STAT4 遺伝子,第6染色体 6p23 領域,第9染色体 TRF1−C5 領域を取り上げ,解説する.

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トピックス
プロスタノイド受容体欠損マウスの解析から明らかになったその病態生理における役割


結城 幸一**   鈴木 康博* 柏木  仁*   牛首 文隆***

*旭川医科大学医学部薬理学講座 **同講師 ***同教授

要  旨
 プロスタノイドは,プロスタグランジン(PG)とトロンボキサン(TX)より成る生理活性脂質であり,生体においておのおののプロスタノイドに特異的な受容体を介してさまざまな作用を発揮する.しかし,おのおののプロスタノイドの役割については不明な点が多い.本稿では,各プロスタノイド受容体欠損マウスを用いて明らかとなった,プロスタノイドの心虚血−再灌流障害,炎症性頻脈における役割について紹介する.

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トピックス
ヒトゲノムコピー数多型


油谷 浩幸

東京大学先端科学技術研究センターゲノムサイエンス分野 教授

要  旨
 ゲノム構造変異,とりわけゲノムコピー数多型(CNV)が注目を浴びており,CNV と疾患の関連についての報告も行われている.高密度マイクロアレイおよび高速シーケンサーを用いた解析により CNV の全貌が次第に明らかにされつつある中で,de novo に生ずる CNV も少なからず存在することも明らかになってきた.CNV が生じている遺伝子ファミリーは環境応答に関連するものが多く,基本的な細胞プロセスにかかわる遺伝子群には少ない傾向があり,選択圧が存在すると思われる.CNV を生み出すメカニズムは遺伝子重複あるいは欠失を生じる基本的なプロセスと同様と考えられ,遺伝子ファミリーの安定性や拡張性などに関して重要な情報を提供してくれる可能性がある.すなわち,重複した遺伝子は余分にできたコピーが固定され,維持されたものであり,エラーを生じたコピーは偽遺伝子(pseudogene)としてゲノム中に残る.今後,多数のヒト集団についてゲノム配列が決定され,ヒトゲノムの多様性や成り立ちが明らかにされていくことが期待される.

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トピックス
腎周辺疾患と遺伝子異常


大澤  勲*   富野 康日己**

*順天堂大学腎臓内科准教授 **同教授

要  旨
 ベロ毒素が発症に関与しない溶血性尿毒症症候群のうち,補体制御因子の欠損症が原因であるものが約半数を占める.現在,factor H,factor I および membrane cofactor protein の欠損例についての解析が進んでおり,遺伝学的な知見を中心に紹介する.

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