最新医学63巻10号 
特集 大きく変わる肥満症のとらえ方
     -摂食とエネルギー消費のバランス機構-

要  旨


アプローチ
肥満症と食行動・エネルギー代謝調節機構


吉松 博信*
* 大分大学医学部総合内科学第一講座 教授
要  旨
 肥満症は,エネルギー摂取と消費のバランス異常に基づく過剰な脂肪蓄積によって発症する.このエネルギーバランス調節機構の中心に視床下部があり,食行動および末梢エネルギー代謝を制御している.視床下部にはエネルギー動態をモニターするセンサーがあり,レプチンをはじめとする末梢由来のホルモンや代謝産物,遠心性および求心性の自律神経系,脳内の各種神経ペプチドやモノアミン類が,その調節系を駆動する情報伝達系として機能している.

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中枢からのアプローチ
Nesfatin-1 の新たな展開

清水 弘行*   森 昌朋**
* 群馬大学大学院医学系研究科病態制御内科学(内分泌・糖尿病内科)講師 ** 同教授
要  旨
 視床下部において摂食行動と相関してその発現が変動する Nesfatin-1 は,外因性に第三脳室内に投与されても皮下などの末梢に投与されても動物の摂食行動を抑制する.このような Nesfatin-1 による摂食抑制機構には,中枢においてレプチン系とは独立したメラノコルチン系の関与が推察されるが,これとともに最近の研究成果では,視床下部において認められるオキシトシンやメラニン凝集ホルモン(MCH)の変動が関与する可能性も示唆される.

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中枢からのアプローチ
AMPKと摂食調節

岡本士毅*1*2  箕越靖彦**1**2
*1 生理学研究所発達生理学研究系生殖・内分泌発達機構研究部門 **1 同教授
*2 総合研究大学院大学生命科学研究科生理科学専攻 **2 同教授

要  旨
 近年,摂食行動を調節するシグナル分子として視床下部 AMP キナーゼ(AMPK)が注目されている.視床下部 AMPK は,栄養素やホルモンなどさまざまな摂食抑制因子によって活性が低下し,逆に飢餓や摂食促進因子によって亢進する.AMPK は末梢組織と同様,神経細胞(あるいはグリア細胞)内において代謝を変化させ,これを細胞内シグナルとして用いることにより摂食行動を制御している可能性がある.

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中枢からのアプローチ
神経ヒスタミンとエネルギー代謝調節

正木 孝幸*   吉松 博信**
* 大分大学医学部総合内科学第一講座 ** 同教授

要  旨
 視床下部に存在する神経ヒスタミンは,摂食調節,エネルギー消費調節に重要であり,また肥満遺伝子産物であるレプチンの脳内ターゲットの1つとしても機能している.また神経ヒスタミンは,ヒスタミンH1 受容体を介した食事のリズム調節を介してもエネルギー代謝調節をしていると考えられている.そこで本稿では,主にヒスタミン神経系とエネルギー代謝調節,摂食リズムとの関係について述べる.

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中枢からのアプローチ
摂食調節におけるFoxO1の役割


北村 忠弘*
* 群馬大学生体調節研究所 代謝シグナル研究展開センター 教授
要  旨
 レプチンとインスリンが摂食を抑制する分子機序として,視床下部における PI3 キナーゼ/Akt/FoxO1 経路と JAK2/STAT3 経路が重要である.FoxO1 と STAT3 は視床下部弓状核において,摂食調節神経ペプチド AgRP と POMC の転写調節を介して中枢性の摂食調節にかかわっている.

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末梢からのアプローチ
脂肪細胞の肥大化と過形成


阪上 浩*
* 近畿大学医学部薬理学教室 講師

要  旨
 肥満とは体脂肪が過剰に蓄積された状態であり,脂肪細胞自身のサイズの増大(肥大化)と脂肪細胞の数の増加(過形成)が関与しているものと考えられる.最新の研究成果は,脂肪細胞の肥大化の調節機構や肥大化によりもたらされる肥満症病態の介在因子を明らかにし,「肥満症治療のアプローチ」の可能性が探索されている.一方,肥満発症における脂肪細胞の分化・増殖機構を標的とした肥満症治療のトランスレーショナルリサーチが実際可能かどうかは,さらなる検討が必要である.

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末梢からのアプローチ
脂肪組織と炎症


豊田 拓矢*   小川 佳宏**

* 東京医科歯科大学難治疾患研究所分子代謝医学分野 ** 同教授
要  旨
 肥満の脂肪組織にはマクロファージ浸潤の増加が認められ,脂肪組織の炎症性変化における病態生理的意義が注目されている.我々はすでに,脂肪細胞に由来する飽和脂肪酸がマクロファージの炎症性変化を誘導し,これによりマクロファージにおける TNFα 産生が増加して脂肪細胞の炎症性変化を増大するという「悪循環」を見いだした.肥満の脂肪組織における炎症性変化は,メタボリックシンドロームの新しい創薬ターゲットになることが期待される.

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末梢からのアプローチ
アディポネクチンとアディポネクチン受容体

山内敏正*1*2  門脇 孝**1
*1 東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科 **1 同教授
*2 東京大学医学部附属病院22世紀医療センター統合的分子代謝疾患科学講座 特任准教授

要  旨
 我々は抗糖尿病・抗動脈硬化ホルモンであるアディポネクチンの受容体 AdipoR1,R2 をクローニングした.AdipoR1,R2 は,アディポネクチンによる AMP キナーゼや PPARα 活性化の代謝作用を伝達した.肥満では AdipoR1,R2 の発現レベルの低下を認め,アディポネクチン抵抗性を来し,血中アディポネクチンの低下と相まって,インスリン抵抗性が惹起される.PPARα アゴニストは AdipoR1,R2 の発現を増加させた.高活性型の高分子量アディポネクチンを増加させる PPARγアゴニストとの併用は相加効果が期待される.酵母の AdipoR ホモログ(PHO36)のリガンドであるオスモチンが,骨格筋細胞において AdipoR を介して AMP キナーゼを活性化した.AdipoR アゴニストを開発できる可能性がある.

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末梢からのアプローチ
アディポステロイドとストレス性肥満,脂肪組織の炎症

益崎 裕章**  岡田 定規*   石井 崇子* 泰江 慎太郎*   中尾 一和***
* 京都大学大学院医学研究科内科学講座内分泌代謝内科 ** 同講師 *** 同教授


要  旨
 細胞内でグルココルチコイドの再活性化を担う酵素,11β-HSD1 の発現や活性は,肥満の脂肪組織において組織特異的に上昇し,インスリン抵抗性や種々の代謝パラメーターとよく相関する.最近の研究から,11β-HSD1 の調節異常を基盤とする脂肪組織の機能異常(アディポステロイド)がストレス誘導性肥満の病態に関与することや肥満の脂肪組織で生じている炎症に関与することが明らかとなり,メタボリックシンドローム治療標的として注目される.

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末梢からのアプローチ
エネルギー代謝調節におけるPPARファミリーの役割

島野 仁*
* 筑波大学大学院人間総合科学研究科内分泌代謝・糖尿病内科 教授


要  旨
 PPAR ファミリーは,脂質をリガンドとする核内受容体として,エネルギー代謝転写制御に中心的な役割を担っている.PPARαは肝臓を中心に脂肪酸燃焼系を活性化し,血中トリグリセリドを低下させる.PPARδは骨格筋の燃焼系活性化などにおいて同様の作用が注目されている.PPARγ は脂肪分化あるいは脂肪酸取り込みを制御する.各薬剤リガンドは,それぞれの発現組織でエネルギー代謝を改善させる生活習慣病治療標的として期待されている.

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末梢からのアプローチ
性ステロイドと肥満

柳瀬 敏彦*
* 九州大学大学院医学研究院病態制御内科(第三内科)准教授

要  旨
 肥満,インスリン感受性に影響を与えるステロイドホルモンとして性ステロイド(テストステロン,エストロゲン)を取り上げ,末梢作用の観点から概説した.性ステロイドには抗肥満作用があり,加齢に伴う性ステロイドの低下は,生活習慣病,特に内臓脂肪型肥満を基盤とするメタボリックシンドロームの発症の重要な背景要因となっている可能性がある.

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中枢と末梢のクロストーク
エネルギー代謝調節の中枢−末梢のクロストーク

山田 哲也*1*3 片桐 秀樹*2*3
*1 東北大学大学院医学系研究科分子代謝病態学分野
*2 同附属創生応用医学研究センター再生治療開発分野 教授
*3 東北大学病院糖尿病代謝科



要  旨
 経頭蓋ドプラ検査(TCD)は,脳血管病変,血流中の栓子,さらにt-PAを用いた線溶療法(t-PA  近年,エネルギー代謝のホメオスタシス維持における臓器間相互作用の重要性が注目されている.脳(中枢)と末梢臓器(肝,胃・腸管,脂肪など)の相互作用もその1つであり,最近の研究の進歩は著しい.脳はエネルギー代謝のオーガナイザーとして中心的な役割を果たしており,特に個体レベルで末梢臓器の代謝を解析する場合,脳との相互作用が鍵となることも多い.本稿ではエネルギー代謝調節の中枢−末梢のクロストークについて解説する.

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中枢と末梢のクロストーク
求心性神経を介する食行動調節情報

伊達 紫*
* 宮崎大学フロンティア科学実験総合センター 教授

要  旨
 摂食行動には末梢および中枢のさまざまな因子が多層的かつ多重的に関与しており,それらの因子が精巧なネットワークを構築することで生体のエネルギーバランスは維持されている.迷走神経求心路は,摂食調節に関連する末梢の情報を中枢へ伝達する重要なルートとして認識されている.迷走神経による情報は液性因子からの情報と統合され,脳内神経ネットワークを作動させることにより,エネルギー収支バランスの維持に寄与しているものと考えられる.

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中枢と末梢のクロストーク
レプチンの生理作用に関する新たな知見

加隈 哲也*
* 大分大学医学部総合内科学第一講座

要  旨
 外来性に導入したレプチンは,食事量を適度に抑えたうえに,ケトンを産生しない脂肪分解を起こす.また,白色脂肪細胞を脂肪燃焼細胞へと形質転換させる.レプチンによる肥満治療が成功した際の最大のベネフィットである.一方で,内因性高レプチン血症ではこの作用は発揮されず,むしろレプチン分泌は持続し,肥満時に見られる非脂肪組織での脂肪毒性を抑制する.レプチン抵抗性とレプチンの生理機能を再検討する.

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対談
脳とこころの科学と医療(第19回)
脳神経外科の今と昔

ゲスト  桐野 高明 (国立国際医療センター)
聞き手  金澤 一郎 先生(国立精神・神経センター名誉総長)

対談シリーズ「脳とこころの科学と医療」は、お招きするゲストの先生方に、ご自身の研究の内容や失敗談、成功談をお伺いしながら、日本における脳・神経研究の歴史を紹介するとともに、そこで語られる先達の教訓を、本誌の対象読者である若手研究者の日頃の研究に役立てていただくことを願って企画致しました。ゲストにはこの分野の基礎を築いて来られた方々、また現在も第一線で研究を続けておられる方々をお招きしています。
 第19回はゲストに国立国際医療センター総長・桐野 高明 先生をお迎えして「脳神経外科の今と昔」をタイトルにお話をお伺いしました。
 脳関係の臨床家になりたいということで精神科・神経内科・脳外科のいずれの道に進むべきか悩まれていた桐野先生が脳外科医を選ばれたのには山岳部での先輩であり当時、脳外科に在籍されていた廣川信隆先生の誘いのお言葉があったそうです。ところが実際に桐野先生が脳外科教室に入局されると廣川先生は解剖学教室に移られており、廣川先生から脳外科の教科書を買わされたそうです(廣川先生がなぜ病理学教室へ移られたかは本対談の第2回をご覧下さい)。
 桐野先生が入局当時、「病院の中の病院」として確固たる地位を築いていた東大病院では年間500〜600例の手術をされていたそうです。その一方で基礎研究の分野についても貢献すべきとの教室の方針もあり、桐野先生は当時、誰も検討していなかった海馬の虚血状態についての研究を始められたそうです。
 その他にも帝京大学時代のお話やこれからの脳外科の方向性など興味の尽きないお話を伺いました。是非、お楽しみ下さい。





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