最新医学63巻11号 
特集 骨研究の最前線


要  旨


アプローチ
骨生物学の新機軸 -Osteonetwork とOsteocrine System−


山口 朗*1  松尾光一*2  今村健志*3 田中 栄*4  福本誠二*5
*1 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科口腔機能再建学講座口腔病理学分野 教授
*2 慶應義塾大学医学部微生物・免疫学教室 准教授
*3 財団法人癌研究会癌研究所生化学部 部長
*4 東京大学医学部整形外科 准教授
*5 東京大学医学部附属病院腎臓・内分泌内科 講師

要  旨
 骨生物学の研究は,1990 年代後半から急速に進展し,我が国の研究者もその発展に大きな貢献をしてきた.その一方で,近年,骨格を全身臓器・組織との関連の中でとらえ直し,骨格の維持機構と多様な機能を統合的に解析する新たな研究分野の構築も期待されている.このような状況を踏まえて,本稿では,骨生物学の新機軸として Osteonetwork と Osteocrine System の概念を紹介し,今後の骨生物学の展開を模索したい.




骨形成の制御

小守 壽文*
* 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科生命医科学講座細胞生物学分野 教授
要  旨
 骨形成には,転写因子 Runx2,Osterix のほか,Notch,Wnt,BMP,ヘッジホッグシグナルが重要な役割を果たす.まず,Notch シグナルは骨芽細胞分化を抑制し,未分化間葉系細胞プールの維持に働く.間葉系幹細胞から骨芽細胞への分化は Runx2,Osterix,Wnt シグナルによって誘導される.BMP シグナルは Runx2 と Osterix を誘導し,BMP,ヘッジホッグシグナルは Runx2 の機能を増強させる.

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内軟骨性骨形成の分子制御機構

西村理行**  波多賢二*   天野克比古*  滝川陽子*   
小野孝一郎*   米田俊之***

* 大阪大学大学院歯学研究科生化学教室   ** 同准教授 *** 同教授

要  旨
 脊椎動物の骨格の大部分は内軟骨性骨形成により形成されている.内軟骨性骨形成は,さまざまなサイトカインとその下流で機能する細胞内情報伝達経路と転写因子により,時間的・空間的に制御されている.軟骨細胞分化に重要な役割を果たすサイトカインとしては,BMP,インディアンヘッジホッグ,PTHrP,FGF,Wnt の関与が明らかになっている.また転写因子としては,Sox9 ファミリーと Runx2,Runx3 が必須である.さらに,これら分子の作用機序の解明も飛躍的に進展している.

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破骨細胞分化制御と骨免疫学

高柳 広*
* 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科分子情報伝達学 教授

要  旨
 骨と免疫系は,骨髄微小環境をはじめサイトカイン,受容体,転写因子などの制御分子を共有し,緊密な関係にある.関節リウマチにおける炎症性骨破壊の研究は,両者の融合領域である骨免疫学に光を当てた.破骨細胞分化因子のクローニングに加え,種々の免疫制御分子の遺伝子改変マウスに骨の異常が見いだされ,骨免疫学の発展を加速した.近年では骨の細胞と造血幹細胞の関係も解明され,骨免疫学がさまざまな疾患の制御に重要な知見を提供するようになった.

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破骨細胞のアポトーシスと機能制御


田中 栄*
* 東京大学医学部整形外科 准教授
要  旨
 破骨細胞は,生体における骨吸収を担い,骨リモデリングにおいて中心的な役割を果たす細胞である.しかしながら,最終分化後は急速にアポトーシスにより死滅する非常に短命な細胞である.現在,骨粗鬆症治療薬として広く使用されているビスホスホネートは,破骨細胞アポトーシスを誘導することも知られている.我々は,破骨細胞アポトーシスの過程に Ras-MAP キナーゼ経路および Bcl-2 ファミリーが重要な役割を果たすことを明らかにした.

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関節リウマチと骨・軟骨破壊


上阪 等*
* 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科膠原病・リウマチ内科 准教授

要  旨
 関節リウマチでは,自己反応性T細胞応答が契機となり,関節滑膜のマクロファージや線維芽細胞が活性化して増殖肉芽組織であるパンヌスが形成される.パンヌスでは,破骨細胞活性化やタンパク質分解酵素の分泌が促進されて骨・軟骨破壊に至る.分子生物学の進歩により臨床に供された生物学的製剤には,その強力な抗炎症作用により骨破壊抑制を達成しうる症例も増えた.将来の集学的手法により,骨・軟骨破壊が完全阻止されることが望まれる.

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メカニカルストレスによる骨代謝制御


栗若里佳*

* 徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部生体情報内科学
要  旨
 長期臥床あるいは宇宙飛行など微小重力環境では著明な骨量の減少(不動性骨粗鬆症)が見られることから,骨に対する力学的負荷は生理的な骨量の維持に必須であると考えられる.不動性骨粗鬆症は,骨吸収の亢進のみならず骨形成も低下した,いわゆる「アンカップリング」の状態を呈することが特徴である.また,重力免荷は骨芽細胞アポトーシスを惹起することも明らかにされ,不動性骨粗鬆症の発症メカニズムが分子レベルで明らかにされつつある.

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メカニカルストレスによる骨形態変化

菅本一臣*
* 大阪大学大学院医学系研究科運動器バイオマテリアル学講座 教授

要  旨
 骨粗鬆症を解決する目的で,骨強度を改善させるための多くの研究が行われている.骨密度以外に骨の微細骨梁構造などがそれに影響を与えることが解明される一方で,それらを評価するための方法が画像解析手法の進歩などにより開発されている.骨の強度に直接影響を与える最も重要な要因の1つとして,メカニカルストレスが知られている.Frost らの提唱したメカノスタット(mechanostat)仮説では,ひずみを感じるセンサーが骨に存在し,さまざまな刺激が骨芽細胞の分化および活性化などを促すが,その詳細は明らかにされていないことも多く,今後の研究が期待されている.

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骨芽細胞分化における Notch シグナルの役割

山口 朗*** 坂本 啓*   玉村貞宏* 勝部憲一**
* 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科口腔機能再建学講座口腔病理学分野
** 同講師 *** 同教授


要  旨
 Notch シグナルは,無脊椎動物から哺乳類までよく保存されており,哺乳類の多くの細胞・組織の発生と分化を制御する重要な因子である.培養細胞を用いた実験系で,Notch シグナルは骨芽細胞分化の抑制と促進の相反する機能をもたらすことが明らかにされているが,最近,種々の遺伝子改変マウスの解析で,Notch シグナルは骨芽細胞分化を抑制し,間葉系前駆細胞のプールに必要なシグナル系と考えられている.

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骨系統疾患と遺伝子異常 ―蝸牛様骨盤異形成症の原因遺伝子 SLC35D1 の発見―

池川志郎**1*2 古市達哉*1  西村 玄*2*3
*1 理化学研究所ゲノム医科学研究センター骨関節疾患研究チーム **1 同チームリーダー
*2 骨系統疾患コンソーシウム *3 東京都立清瀬小児病院放射線科部長


要  旨
 骨系統疾患とは,骨・軟骨など骨格を形成する組織の成長・発達・分化の障害により骨格異常を来す疾患の総称である.ノックアウトマウスの解析を起点としたヒトとマウスの融合遺伝学的アプローチにより,周産期に死亡する重篤な骨系統疾患である蝸牛様骨盤異形成症(Schneckenbecken dysplasia)の原因遺伝子 SLC35D1 を発見した.これは,小胞体での糖ヌクレオチドの輸送および軟骨でのコンドロイチン硫酸鎖の合成に関与する,全く新しいタイプの骨系統疾患の原因遺伝子であった.

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FGF23 と骨ミネラル代謝

福本誠二*
* 東京大学医学部附属病院腎臓・内分泌内科 講師

要  旨
 FGF23は,腎近位尿細管でのリン再吸収と,血中1,25−水酸化ビタミンD濃度の低下を介した腸管リン吸収の抑制により,血中リン濃度を低下させる.FGF23 は骨細胞により産生され,Klotho と FGF 受容体の複合体に結合し,その作用を発揮する.FGF23 作用過剰によって複数の低リン血症性くる病/骨軟化症が,逆に FGF23 作用障害によって高リン血症性腫瘍状石灰沈着症が惹起される.これらの結果は,FGF23 が骨により産生されるホルモンであることを示している.

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ニューロペプチドによる骨代謝制御

竹田 秀*
* 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科整形外科学 客員准教授



要  旨
 経頭蓋ドプラ検査(TCD)は,脳血管病変,血流中の栓子,さらにt-PAを用いた線溶療法(t-PA  近年,視床下部に作用する摂食関連ペプチド群の欠損マウスの骨代謝機構の解析を通じて,一連のペプチドの骨形成,骨吸収における意義が明らかとなった.さらには,カンナビノイド,カルシトニン遺伝子関連ペプチドなどの骨代謝調節作用も発見され,新たな骨代謝調節機構として神経系やニューロペプチドが着目されている.

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骨組織における核内性ホルモン受容体群の機能

加藤茂明*1*2
*1 東京大学分子細胞生物学研究所教授 *2 科学技術振興機構 ERATO

要  旨
 核内ステロイドホルモン受容体群は,脂溶性生理活性物質をリガンドとする転写制御因子である.これら受容体遺伝子破壊マウスの作出から,受容体の生理的重要性が確かめられている.本稿ではこれらの最近の進歩とともに,女性ホルモン受容体の破骨細胞内での機能や PPAR の骨髄での機能についての筆者らの最近の知見について述べる.

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In vivo 光イメージングの骨代謝領域への応用

今村健志**  羽生亜紀*
* 財団法人癌研究会癌研究所生化学部 ** 同部長

要  旨
 近年,動物が生きた状態で細胞や生体分子を可視化する in vivo 光イメージングが急速に進歩した.この背景には,細胞や分子の振る舞いや機能を可視化する発光および蛍光プローブ分子の開発と,それを観察する機器の開発の飛躍的進展がある.本稿では,特に癌と骨代謝研究領域への in vivo 光イメージングの応用について,最近の我々のデータを紹介し,生命科学研究における細胞と分子機能イメージングの最先端と近未来の展望について考察する.


対談
脳とこころの科学と医療(第20回)
脳深部刺激の将来

ゲスト  片山 容一 (日本大学医学部)
聞き手  金澤 一郎 先生(国立精神・神経センター名誉総長)

対談シリーズ「脳とこころの科学と医療」は、お招きするゲストの先生方に、ご自身の研究の内容や失敗談、成功談をお伺いしながら、日本における脳・神経研究の歴史を紹介するとともに、そこで語られる先達の教訓を、本誌の対象読者である若手研究者の日頃の研究に役立てていただくことを願って企画致しました。ゲストにはこの分野の基礎を築いて来られた方々、また現在も第一線で研究を続けておられる方々をお招きしています。
 第20回はゲストに日本大学医学部教授・片山 容一 先生をお迎えして「脳深部刺激の将来」をタイトルにお話をお伺いしました。
 機能外科の第一人者である片山先生ですが、大学院一年生の時に脳死の患者さんがラザロ兆候を起こすのを目撃されたそうです。それはラザロ兆候の論文が発表される10年も前のことで、残念ながら学会から帰ってこられた先輩達には「おまえ疲れているのだろう」と信じてもらえなかったそうです。
 大学院を卒業後、バージニア医科大学にある頭部外傷センターに留学され重症頭部外傷患者の臨床に携わる傍ら、DBS(脳深部刺激)の研究の先駆者であるDaivid Mayer教授の研究室と痛み抑制機能の研究を一緒にされていたそうです。
 更に一旦帰国後にUCLA脳損傷研究センター助教授・客員教授を経て日本に戻ってこられたのですが、それには片山先生の将来を見通したお考えともう一つ別の理由が隠されていました。その理由については本書を手にとってお確かめ下さい。
 更にDBSによるパーキンソン病治療の現状や他の疾患への適応についても詳しくお話頂きました。是非、お楽しみ下さい。




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