最新医学63巻12号 
特集 幹細胞-基礎と臨床応用-


要  旨


アプローチ
幹細胞研究の進歩と臨床への展開


小澤 敬也*1*2
*1 自治医科大学医学部内科学講座血液学部門教授
*2 同分子病態治療研究センター遺伝子治療研究部教授

要  旨
 本特集では,造血幹細胞や間葉系幹細胞(MSC)といった体性幹細胞を取り上げ,基礎研究と臨床応用の可能性がそれぞれの専門家により概説されている.造血幹細胞の潜むニッチの分子基盤に関する研究が最近大きく進んだ.また,MSC を血管内投与すると,組織傷害部位や炎症の場,さらには癌病巣に集積する性質があり,それぞれ再生医療への応用,移植後 GVHD の治療,癌遺伝子治療のプラットホームとしての利用などが検討されている.その他,癌幹細胞もホットな研究領域となっている.

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造血幹細胞の基礎と応用
造血幹細胞の増殖制御メカニズム

樫尾 牧子*   岩間 厚志**
* 千葉大学大学院医学研究院細胞分子医学 ** 同教授
要  旨
 造血幹細胞は,個体の造血を一生にわたって維持する.したがって,十分な数の造血幹細胞を長期間維持するためのさまざまな機構が発達してきた.特徴的な細胞周期制御に加え,細胞障害性ストレス耐性にかかわる分子機構など,新しい領域が明らかになりつつある.また,造血幹細胞の老化現象とも言える加齢に伴う機能変化の理解に伴い,造血幹細胞の老化を抑える機構の重要性も理解され始めた.本稿では,造血幹細胞増殖制御とともに,その数的・機能的維持機構に関する最新の知見を紹介する.

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造血幹細胞の基礎と応用
造血幹細胞の体内動態

服部 浩一**  西田 知恵美*   Beate Heissig*
* 東京大学医科学研究所幹細胞治療研究センター幹細胞制御領域   ** 同准教授

要  旨
 生体内の造血幹細胞は,その周囲の細胞外微小環境との相互作用により実にさまざまな動態を呈し,生命現象に関与することが分かってきた.特に骨髄内の幹細胞ニッチへの定着と離脱の分子制御機構は,幹細胞分化,動員あるいは造血系細胞の増殖とも密接な関連性を有しており,その解明は再生医療の実現化に向けた最重要課題の1つと言える.本稿では,筆者らの研究成果を中心に,造血幹細胞の動態に関する近年の知見について概説する.

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造血幹細胞の基礎と応用
造血幹細胞の骨髄内移植法 ―その臨床的意義―

薗田 精昭*
* 関西医科大学大学院医学研究科先端医療学専攻修復医療応用系幹細胞生物学 教授

要  旨
 今日の造血幹細胞移植においては,ドナーの骨髄,臍帯血,末梢血由来の造血幹細胞(HSC)を含む細胞分画を,レシピエントの静脈内に注入する方法が一般的である.しかし最近の基礎研究の進歩により,ホーミング能力に欠陥があるために骨髄腔内に直接移植しないとニッチに生着できない HSC が存在することが明らかにされた.本稿では,HSC の本体と骨髄内移植に関する基礎研究の進展と臨床応用の現状について述べる.

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造血幹細胞の基礎と応用
造血幹細胞遺伝子治療の将来的展望


小野寺 雅史*
* 国立成育医療センター研究所成育遺伝研究部伝子診断治療研究室 室長

要  旨
 自己複製能と多分化能を持つ造血幹細胞は,たとえ患者細胞であっても,ベクターによる遺伝子修復が可能となれば,幹細胞移植のように患者に投与することで永続的な治療効果が期待できる.一方,高い自己複製能ゆえにこれら細胞はときに腫瘍化し,まさに現行の造血幹細胞遺伝子治療はこのリスクバランス上にある.今後も安全な造血幹細胞遺伝子治療の確立に向け,血液学,ウイルス学を含む幅広い分野での画期的な技術革新が望まれる.

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間葉系幹細胞の基礎と応用
間葉系幹細胞の培養技術


梅澤 明弘*1  高橋 秀和*2
*1 国立成育医療センター研究所部長   *2 東洋紡績株式会社

要  旨
 間葉系幹細胞および間葉系細胞は,現在行われている再生医療において最も利用されている.臨床研究および前臨床研究において,培地組成を明確にした chemically-defined media の開発は必要不可欠である.再生医療においては,ウシおよびヒト血清のロット差の問題および感染症などの安全性の問題を回避するために,無血清化は重要な意義を有する.また基盤研究においても,成分が一定しない血清を排除することで結果の解釈を明確にできる点からも大きな意義がある.

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間葉系幹細胞の基礎と応用
間葉系幹細胞による免疫制御

尾崎 勝俊*

* 自治医科大学内科学講座血液学部門 講師

要  旨
 間葉系幹細胞の免疫抑制作用は以前より細胞実験レベルでは知られていたが,臨床血液学の分野で注目されるようになったのは 2004 年の『Lancet』に掲載された1例報告からである.造血幹細胞移植後の重症難治性 GVHD に間葉系幹細胞を投与し たところ,著効したというものであった.その後も同グループは症例数を積み上げ,ヨーロッパ血液・骨髄移植グループ(EBMT)の第U相臨床試験として 2008 年に 55 例の成績を同じく『Lancet』に報告した.この報告を見る限りは奏効率が 70% と高く,ステロイド抵抗性の GVHD に対する治療選択肢の1つとなりうると考えられる.間葉系幹細胞を薬剤の代わりに使用している点で,全く新しい治療法である.

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間葉系幹細胞の基礎と応用
間葉系幹細胞を用いた心不全治療

永谷 憲歳*1*2
*1 ながや内科循環器内科呼吸器内科 院長
*2 国立循環器病センター研究所

要  旨
 心不全に対する再生医療として,骨格筋芽細胞,骨髄単核球,間葉系幹細胞を用いた細胞移植治療が,実際の臨床で試みられるようになってきた.さらに,細胞移植効果を高めるための第2世代の再生医療の開発がスタートし,細胞と成長因子の併用や細胞シートを用いたハイブリッド治療が期待される.どの種の細胞が最も有効であるのか,安全性は担保されているか,生命予後が改善されるのか,解決しなければならない課題は多い.

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間葉系幹細胞の基礎と応用
骨髄間葉系細胞を用いた神経筋疾患治療の可能性

出澤 真理*
* 東北大学大学院医学系研究科細胞組織学分野 教授


要  旨
 幹細胞を用いる細胞移植治療は,次世代の医療として期待されている.特に神経・筋変性疾患においては早い確立が切望されているが,移植細胞の候補として幹細胞,前駆細胞,ES 細胞などが検討されている.今回我々は,骨髄間葉系細胞から効率良く機能的なシュワン細胞,神経細胞および骨格筋細胞を誘導する方法を開発したので紹介する.

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間葉系幹細胞の基礎と応用
間葉系幹細胞を利用した癌遺伝子治療

岡田 尚巳*
* 国立精神・神経センター神経研究所遺伝子疾患治療研究部 室長


要  旨
 癌に対する遺伝子治療法として,自殺遺伝子治療をはじめとするさまざまな戦略が試みられているが,従来のベクター系では遺伝子導入効率が不十分なことや全身的治療が困難なことから,臨床的な有効性がいまだ不十分である.間葉系幹細胞は腫瘍に集積する性質を有することから,全身投与により転移巣も標的することが可能であるほか,局所的に治療分子の濃度を高くすることで副作用の軽減が期待できるため,治療遺伝子の担体として有用性が高い.ただし移植後の生着効率が低く,遺伝子修飾を施した間葉系幹細胞を移植しただけでは十分量の遺伝子発現を維持することは期待できない.また,腫瘍細胞との相互作用が続く場合,腫瘍の転移や血管新生を促してしまうことが懸念される.本稿では,短期間の移植で高い有効性と安全性が期待できる手法として,ベクター産生細胞を用いた治療遺伝子増幅法について概説する.

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がん幹細胞
がん幹細胞の生物学

村口 輝行*1  平尾 敦**1*2
*1 金沢大学がん研究所がん幹細胞センター遺伝子染色体構築研究分野日本学術振興会特別研究員
**1 同教授   *2 独立行政法人科学技術振興機構戦略的創造推進事業(CREST)

要  旨
 腫瘍組織の不均一性を説明する仮説の1つとして近年,自己複製能と多分化能を持つ少数の幹細胞様がん細胞から腫瘍組織全体が構成されるという「がん幹細胞仮説」が提唱され,その実在が示されつつある.がん幹細胞は従来の治療に抵抗性を示すことが想定され,その残存ががん再発の原因と考えられることから,今後の新たな治療標的として注目されている.しかしながら,異種細胞移植による実験系の問題なども指摘されており,今後も十分な検証を踏まえて基礎研究を進める必要がある.

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がん幹細胞
白血病幹細胞

竹中 克斗*   赤司 浩一**
* 九州大学大学院医学研究院病態修復内科学   ** 同教授



要  旨
 急性白血病は,正常造血における造血幹細胞と同様に,ごく少数の白血病幹細胞が自己複製と限定された分化を行うことにより構成されている.白血病化は,自己複製能を有する造血幹細胞に遺伝子変異が生じて白血病化する場合と,分化した造血前駆細胞が遺伝子変異によって自己複製能を再獲得し,白血病幹細胞システムを形成する場合がある.白血病幹細胞の起源や自己複製機構などには不明な点も多いが,免疫不全マウスを用いたアッセイ系の改良によって白血病発症機構も詳細に解析されつつあり,白血病幹細胞を直接の標的とした新規治療法の開発への応用が期待されている.

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がん幹細胞
骨髄腫幹細胞と微小環境

古川 雄祐**  菊池 次郎*
* 自治医科大学分子病態治療研究センター幹細胞制御研究部 講師   ** 同教授

要  旨
 骨髄腫細胞の増殖・生存には,骨髄微小環境との相互作用が重要である.特に骨芽細胞との接着により,細胞周期停止,抗癌剤抵抗性(接着耐性)が獲得される.骨髄腫の細胞表面には種々の接着分子が発現しているが,接着耐性の責任分子は VLA4 である.骨髄腫幹細胞のマーカーは CD138−/CD19+/CD27+/CD38− で,メモリーB細胞に相当する.メモリーB細胞の段階で染色体転座や NF-κB 活性化によって骨髄腫幹細胞が生じ,形質細胞に分化した段階で微小環境との相互作用により骨髄腫として発症する.

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がん幹細胞
消化器癌における癌幹細胞研究の動向

谷口 英樹*
* 横浜市立大学大学院医学研究科臓器再生医学 教授

要  旨
 癌組織にも幹細胞(癌幹細胞)を頂点とする階層的な細胞社会が存在することが示唆されている.これらの癌幹細胞は,発癌や転移・再発などの癌診療上の重要なイベントにおいて,キープレーヤーとして機能していることが予想されている.患者数の多い大腸癌,膵癌,肝癌などの消化器癌において癌幹細胞を同定し,これらの細胞生物学的な性質を深く理解することは,革新的な癌治療法を開発するための大きな手掛かりとなるであろう.


対談
脳とこころの科学と医療(第21回)
こころを病む人たちとの付き合い方

ゲスト  佐藤 光源 (東北福祉大学)
聞き手  金澤 一郎 先生(国立精神・神経センター名誉総長)

対談シリーズ「脳とこころの科学と医療」は、お招きするゲストの先生方に、ご自身の研究の内容や失敗談、成功談をお伺いしながら、日本における脳・神経研究の歴史を紹介するとともに、そこで語られる先達の教訓を、本誌の対象読者である若手研究者の日頃の研究に役立てていただくことを願って企画致しました。ゲストにはこの分野の基礎を築いて来られた方々、また現在も第一線で研究を続けておられる方々をお招きしています。
 第21回はゲストに東北福祉大学教授・佐藤光源 先生をお迎えして「こころを病む人たちとの付き合い方」をタイトルにお話をお伺いしました。
 2002年に日本精神神経学会の理事長に就任された佐藤先生は、これまで「精神分裂症」と呼ばれていた精神障害の呼称を「統合失調症」に変えられました。その結果、それまで3割程度であった患者・家族への病名告知率が7割に増加したそうです。更に病名の告知により、これまで「なぜ治療を受けるのか?」、「一体自分は何の病気であるか?」といった漠然とした不安を持っていた患者さんが診療について十分な説明を受けることが出来るようになったそうです。
 また、佐藤先生は精神科は他の診療科とは異なり、症状が治まり社会生活ができるようになれば“回復”と呼ぶのであり、患者を取り巻く社会も「アイデンティティーを取り戻した普通の人」として関わっていくことが重要であると力説されています。
 また、わが国における精神保健医療福祉施策のあり方についてもお話頂きました。




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