最新医学64巻1号 
特集 睡眠時無呼吸 −最近の進歩と展望-

要  旨


アプローチ
社会生活と予後に大きな影響を与える重要な病態

陳 和夫*

* 京都大学大学院医学研究科呼吸管理睡眠制御学 教授
要  旨
 米国においては 1,500 万人の睡眠時無呼吸が存在するとの報告が見られる1).閉塞型睡眠時無呼吸の 50% には高血圧があり1),40% がやがて糖尿病になり2),高血圧患者の 30%1),糖尿病患者の 23% は閉塞型睡眠時無呼吸患者とされる3).中枢型睡眠時無呼吸も,心不全患者の予後を左右することが明らかになっている.睡眠時無呼吸は,睡眠不足以外では日中の過度の眠気の最も頻度の高い原因である4).顔面形態などの影響もあり5),本邦の閉塞型睡眠時無呼吸の頻度は欧米と同程度とされる.睡眠時無呼吸は学際的に検討が必要な領域と考えられる.

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睡眠時無呼吸の病態生理と呼吸調節
閉塞型睡眠時無呼吸
―咽頭閉塞とその周期性のメカニズム―

磯野 史朗*
* 千葉大学大学院医学研究院高齢医学講座麻酔学領域 准教授

要  旨
 閉塞型睡眠時無呼吸(OSA)の病態は,依然としてすべてが解明されたわけではない.肥満あるいは顎顔面形態異常による咽頭周囲の解剖学的アンバランスが,咽頭閉塞性を増加させることは確かなようである.さらに,特に肥満 OSA 患者では,肺容量減少が咽頭閉塞性増加に大きく寄与しているようである.呼吸器系の不安定性が高い患者では,OSA を周期的に繰り返し重症化しやすいと考えられている.

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睡眠時無呼吸の病態生理と呼吸調節
中枢型睡眠時無呼吸の病態生理

越久 仁敬*
* 兵庫医科大学生理学講座生体機能部門 教授

要  旨
 中枢型睡眠時無呼吸はまれな疾患であり,閉塞型睡眠時無呼吸に比べて臨床的重要性は少ないと考えられている.しかし高齢者,特に嚥下障害や自律神経障害を伴う症例においては,考えられているより頻度が高く,見逃されている可能性がある.近年,脳幹部呼吸調節神経機構の解明が進み,さらに先天性肺胞低換気症候群の原因遺伝子も発見されて,中枢型睡眠時無呼吸の病態解明は急速に進んでいる.

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疫学と診断
診断と疫学の新展開

榊原 博樹*
* 藤田保健衛生大学呼吸器内科・アレルギー科 教授

要  旨
 米国を中心に行われた疫学研究の成果により,「閉塞型睡眠時無呼吸症候群(OSAS)関連症状+無呼吸低呼吸指数(AHI)5以上」のほかに「自覚症状の有無にかかわらず,AHI が 15 以上」を OSAS と診断する基準が提唱されている.診断に当たっては過眠を呈する類似疾患の鑑別が重要であり,スクリーニング検査に基づく診断アルゴリズムが提示されている.勤労男性を対象とした日本人の睡眠時無呼吸症候群(SAS)有病率が明らかにされ,予想以上の高率であった.小児の OSAS の実態解明(有病率,病態,健康被害や学習障害,QOL 障害の解明)が急務である.

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疫学と診断
日本の睡眠呼吸障害の特徴


佐藤 誠*
* 筑波大学人間総合科学研究科次世代医療研究開発・教育統合センター睡眠医学講座 教授

要  旨
 日本人の睡眠呼吸障害の危険因子は,欧米と同様に男性,高齢,肥満であることが明らかになってきた.特記すべきことは,日本人は欧米人に比して肥満の程度が軽いにもかかわらず,有病率は肥満者が多い欧米と変わらないかむしろ多いということである.日本人は解剖学的に睡眠呼吸障害を発症しやすい顔面頭蓋骨格をしているため,わずかな体重増加でも睡眠呼吸障害を生じやすいと考えられている.日本人は,高血圧症や糖尿病などの生活習慣病のみならず,睡眠呼吸障害に関しても肥満に対する感受性が高い.

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治療
CPAP治療と治療アドヒランス(adherence)向上の工夫


赤柴 恒人*
* 日本大学医学部睡眠学・呼吸器内科 教授

要  旨
 経鼻持続陽圧呼吸(nasal CPAP)療法は睡眠時無呼吸症候群患者に対する第1選択の治療法であり,その有効性,安全性ともすでに確立されている.しかし,根治療法ではなく対症療法であり,また毎晩機器を装着して就寝しなくてはならないため,長期にわたる継続(アドヒランス)が難しいことがある.アドヒランスを高めるためには,機器の改良だけでなくきめ細かな患者対策が必要である.

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治療
閉塞型睡眠時無呼吸症候群の日中の眠気
―治療開始前に考慮すべきこととそのコントロールの実際―

立花 直子*1*2
*1 関西電力病院神経内科・睡眠関連疾患センター
*2 京都大学大学院医学研究科附属高次脳機能総合研究センター臨床脳生理学領域

要  旨
 眠気は非特異的な症状であり,それが病的なものかどうか,またどういう原因で眠いのかを簡単に判断することは難しい.したがって,一見,閉塞型睡眠時無呼吸症候群による眠気と思えても,他の疾患が併存している可能性や,十分な睡眠時間が取れているかどうかなど,生活習慣全般から吟味していく必要がある.確実な治療法としての持続陽圧呼吸療法(CPAP)を導入する場合に,その前後で考慮しなければならないポイントについてまとめた.

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治療
本邦の心不全の現状と睡眠時無呼吸
―酸素療法の有効性と限界―

篠山 重威*1*2

*1 同志社大学生命医科学部 教授
*2 医療法人大寿会病院

要  旨
 心不全の概念は時代とともに大きな変遷を遂げ,治療法も大きく変わってきた.高齢化社会の進展とともに心不全は急速に増加しつつある.過去 20 年間に多くの薬物療法が開発されたが,その有効性は満足のいくものとはほど遠い.非薬物療法として今,心不全に合併する睡眠時無呼吸に対する治療が注目されている.我が国では,夜間酸素療法が中枢型睡眠時無呼吸を有する心不全患者のアウトカムと QOL を改善する可能性が示された.

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治療
心疾患に対するCPAP,NPPVとASV

百村 伸一*1  内藤 亮*2  葛西 隆敏*2   成井 浩司*2  土肥 智貴*3
*1 自治医科大学附属さいたま医療センター循環器科 教授
*2 虎の門病院睡眠センター *3 順天堂大学医学部循環器内科

要  旨
 さまざまな循環器疾患に睡眠時無呼吸を合併することが知られている.その多くは閉塞型睡眠時無呼吸(OSA)であり,OSA の治療法の第1選択は持続陽圧呼吸療法(CPAP)である.OSA 患者における CPAP の心疾患一次および二次予防効果については,幾つかの前向き観察研究よりほぼ明らかである.一方,中枢型睡眠時無呼吸(CSA)は多くの場合,心不全の結果招来される病態である.CSA に対して CPAP は部分的効果しか発揮できないが,非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)特に Adaptive-servo ventilation(ASV)が優れている.ただし,ASV の心不全患者に対する予後改善効果は今後明らかにされる必要がある.

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治療
口腔内装置治療の有効性と限界および顎矯正手術の展開

吉田 和也*
* 独立行政法人国立病院機構京都医療センター歯科口腔外科

要  旨
 日本人は,欧米人と比較して前後に短く上下に長い顎顔面形態の特徴から,肥満の程度が低くても睡眠時無呼吸症候群を発症しやすい.下顎を前方で固定する口腔内装置がその有効性と簡便性から広く臨床で使用されるようになった.また,下顎や上顎が小さく後退している睡眠時無呼吸症候群の患者に対する顎矯正手術は,審美的改善とともに呼吸機能の著明な改善を認めることが多い.今後,適応を慎重に診断し積極的に応用されるべきである.

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治療
睡眠時無呼吸の薬物療法と新薬の展開

山内 基雄*   木村 弘**
* 奈良県立医科大学内科学第二講座 ** 同教授

要  旨
 現在において有効性が確認されている睡眠呼吸障害の標準的治療法は,経鼻持続陽圧呼吸療法(nasal CPAP)である.しかしながら nasal CPAP をさまざまな理由で中断したり,nasal CPAP にても呼吸障害が残存したりする患者が存在する.そういった患者群に対して,nasal CPAP に代わる治療あるいは補助的な治療が必要となる.現時点において薬物療法の有効性を十分に支持するエビデンスは少ないが,今後期待される治療法の1つである.

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睡眠時無呼吸と全身病態
閉塞型睡眠時無呼吸と高血圧,脳卒中との関連
─解明できた点と不明点─

大井 元晴*
* 大阪回生病院睡眠医療センターセンター長

要  旨
 閉塞型睡眠時無呼吸症候群(OSAS)により予後が悪化し,dose-response の関係があることが明確になりつつあり,経鼻持続陽圧呼吸療法(nasal CPAP)により予後が改善すると考えられる.高血圧合併のメカニズムについては多因子によると考えられているが,睡眠時無呼吸とともに繰り返す低酸素血症により交感神経系の亢進状態となり,覚醒時にも高血圧となる.また,血管拡張能の低下,動脈硬化の関与も考えられているが,動物実験などで今後詳細なメカニズムが検討されると考えられる.脳卒中との関係もやはり dose-response の関係があるが,脳卒中を合併した症例の nasal CPAP の効果については,アドヒランスも含め,なお明確でない.

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睡眠時無呼吸と全身病態
睡眠時無呼吸症候群と循環器疾患(高血圧以外)およびメタボリックシンドローム

篠邉 龍二郎*   塩見 利明**
* 愛知医科大学病院睡眠科睡眠医療センター 准教授・副部長 ** 同教授・部長

要  旨
 睡眠時無呼吸症候群(SAS)は,肥満,高血圧,メタボリックシンドロームなどと関連し,虚血性心疾患や心房細動などの心疾患のリスクである.心血管病の一次予防として,メタボリックシンドロームを代表とする生活習慣病の是正,すなわち生活習慣の修正が必須である.一時的な介入で終わらずに,困難ではあるが継続することが逆にリスクを共通とする SAS の治療にもつながり,定期的な指導が大切である.

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睡眠時無呼吸と全身病態
小児の閉塞型睡眠時無呼吸に関する最近の動向

神山 潤*
* 東京北社会保険病院 院長

要  旨
 頻度は1〜4%と考えられている小児の閉塞型睡眠時無呼吸症候群であるが,睡眠ポリグラフ検査では2呼吸周期以上持続する無呼吸を異常としてカウントする.合併症では中枢神経系,代謝への影響に近年特に注目が集まり,学業成績不振,注意欠陥,多動,そして肥満との関連に関心が高まっている.治療としてはアデノイド扁桃摘除術,持続陽圧呼吸,口腔内装具に加え,抗炎症療法も試みられ始めている.

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睡眠時無呼吸と全身病態
睡眠時無呼吸と神経内科疾患および認知機能

宮本雅之**  岩波正興*   宮本智之** 平田幸一***
* 獨協医科大学内科学(神経) ** 同准教授 *** 同教授

要  旨
 神経疾患において睡眠関連呼吸障害(SRBD)の合併が多い.特に日常診療でも問題となる多系統萎縮症(MSA)と神経筋疾患における SRBD について,また閉塞型睡眠時無呼吸症候群(OSAS)と認知機能との関連について解説した.
(1)MSA における SRBD は Gerhardt 症候群,中枢型呼吸障害など多岐にわたり,SRBD は突然死の原因となりうる.
(2)神経筋疾患における呼吸障害の病初期には睡眠中に肺胞低換気を呈し,非侵襲的人工呼吸管理により QOL の向上が期待できる.
(3)OSAS では,前頭前野の機能障害による遂行機能障害が見られるが,治療による改善は部分的であり,病態には睡眠の分断化,間欠的低酸素血症のほか,多種の要因が関与していると考えられている.

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睡眠時無呼吸と基礎研究
睡眠時無呼吸の動物モデル

角谷 寛*
* 京都大学大学院医学研究科ゲノム医学センター 准教授

要  旨
 睡眠時無呼吸症候群はヒトに起こる疾患であるが,その病態を特に細胞・分子レベルで調べるためには動物モデルが有用である.動物モデルとして主にラット・マウスなどのげっ歯類を対象に,一定の時間間隔でケージ内に間欠的に低酸素を投与する間欠的低酸素モデルが一般的である.イヌ,サル,ブタなどのより大型動物でも睡眠時無呼吸モデルが報告されている.このような動物モデルを用いた研究を紹介し,その問題点を含めて考察する.

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睡眠時無呼吸と基礎研究
睡眠時無呼吸由来の低酸素と細胞・分子生物学

横江 琢也*1  美濃口 健治*2
*1 昭和大学医学部呼吸器・アレルギー内科 *2 すみれが丘クリニック

要  旨
 睡眠時無呼吸症候群患者において夜間の無呼吸によって引き起こされる間欠的低酸素は,心血管,脳血管,内分泌代謝系に多大な影響を及ぼす.この間欠的低酸素は交感神経系の活性化,血管内皮細胞の障害,酸化ストレスの増強,凝固系異常,代謝内分泌系異常,炎症反応の増強に関与することが明らかになっている.これらの異常が動脈硬化の発症と進展に重要な役割を果たしており,多くの免疫担当細胞やサイトカインが関与して,心血管・脳血管イベントの発症リスクを高めている.

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対談
脳とこころの科学と医療(第22回)
 新しい精神科医療と脳科学


ゲスト  山脇 成人 先生(広島大学 教授)
聞き手  金澤 一郎 先生(国立精神・神経センター名誉総長)

 対談シリーズ「脳とこころの科学と医療」は、お招きするゲストの先生方に、ご自身の研究の内容や失敗談、成功談をお伺いしながら、日本における脳・神経研究の歴史を紹介するとともに、そこで語られる先達の教訓を、本誌の対象読者である若手研究者の日頃の研究に役立てていただくことを願って企画致しました。ゲストにはこの分野の基礎を築いて来られた方々、また現在も第一線で研究を続けておられる方々をお招きしています。
 第22回はゲストに広島大学・山脇 成人 先生をお迎えして「新しい精神科医療」をタイトルにお話をお伺いしました。
 「これからは脳の時代だ」といわれた1979年に大学を卒業された山脇先生は精神科に入局後、大学の生協で瀬川富朗先生の著書を手にとられたことが縁で薬学部に在籍されていた瀬川先生の研究室にも通われるようになり、そこで薬理学を学ばれました。ワシントン大学留学を経て国立呉病院精神科医長時代には「悪性症候群の病態と治療に関する研究班」・「がん患者の苦痛緩和に関する研究班」で実績を上げられ35歳の若さで広島大学精神神経医学講座教授に就任されました。
 大学に戻られてからは外科の教授と一緒にがん患者の回診をされたり、救急現場での精神科治療実践の為に日本医科大学の救急医療センターに入局者を短期研修で送るなど斬新な活動をされてこられました。
 更にfunctional MRIによる脳報酬系の解析からのうつの病態解明、快・不快情動予測のお話など最新の研究成果についてもお話頂きました。
 是非お読み下さい。  

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