最新医学64巻3号 
特集 薬剤耐性菌
-現状把握と診断・治療-

要  旨


各種疾患における耐性菌の現状把握
市中呼吸器感染症における耐性菌

柳原克紀*

* 長崎大学医学部附属病院検査部 講師
要  旨
 市中肺炎の重要な原因微生物は肺炎球菌やインフルエンザ菌であるが,どちらもマクロライド系やペニシリン系抗菌薬に対する耐性菌が多いことに留意する必要がある.最近では,マクロライド耐性のマイコプラズマも報告されるようになってきた.
 グラム染色や尿中抗原検出などを十分に活用して原因菌推定に努めるとともに,各種病原体の耐性状況を把握して,適切な抗菌薬を投与する必要がある.

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各種疾患における耐性菌の現状把握
尿路感染症・性感染症(尿道炎)における耐性菌

門田晃一*
* あらき腎・泌尿器科クリニック

要  旨
 尿路性器感染症の領域においても耐性菌の増加は深刻である.単純性膀胱炎ではキノロン耐性大腸菌が増加傾向にあり,複雑性尿路感染症では特にカテーテル留置例を中心に MRSA や MBL 産生緑膿菌など多剤耐性菌が分離され,院内感染の汚染源として問題となる.また,性感染症(STI)の領域では淋菌の薬剤耐性化が顕著であり,有効な薬剤が限定されつつあるのが現状である.

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各種疾患における耐性菌の現状把握
消化管感染における耐性菌

吉村幸浩*   相楽裕子*
* 横浜市立市民病院感染症内科

要  旨
 抗菌薬耐性菌の増加が世界規模で問題となっている.特にカンピロバクター,チフス菌,パラチフスA菌に対して,日本で使用頻度の高い抗菌薬であるニューキノロン系抗菌薬の耐性が増加していることは見逃せない.また非チフス性サルモネラ,赤痢菌においても同薬耐性が増えている.今後も増加していくことが予想され,最小限に抑える対策,中でも抗菌薬の適正使用をより一層遵守することが必要と思われる.

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各種疾患における耐性菌の現状把握
髄膜炎における耐性菌

石和田稔彦*
* 千葉大学大学院医学研究院小児病態学 講師

要  旨
 日本における細菌性髄膜炎の起炎菌は,インフルエンザ菌b型(小児),肺炎球菌(小児,成人)が主体である.両菌ともペニシリン耐性菌が増加し,髄膜炎治療に用いられる第3世代セフェム系抗菌薬に対しても感受性低下が認められるようになってきている.髄膜炎治療は耐性菌感染を考慮し,かつ想定される起炎菌を幅広くカバーするような初期治療が要求されるため,抗菌薬併用療法を行うことが多い.

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各種疾患における耐性菌の現状把握
外科領域感染症における耐性菌


大毛宏喜*
* 広島大学大学院医歯薬学総合研究科病態制御医科学講座外科

要  旨
 手術部位感染症の特殊性は,すでに手術の際に予防抗菌薬が投与されている点である.このため術後感染症では,予防抗菌薬に対して耐性のものが原因菌の中心になる.加えて周術期管理の交差感染により,MRSA のような外因性の耐性菌が関与し得る.したがって手術部位感染症の治療では,耐性菌を念頭に置いた抗菌薬選択が必要である.そして,予防抗菌薬を使用する時点ですでに耐性菌対策は始まっていることも知らなければならない.

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各種疾患における耐性菌の現状把握
医療関連感染における耐性菌


松永直久*
* 東京医科大学病院感染制御部

要  旨
 医療関連感染と耐性菌は密接な関係がある.入院中は抗菌薬を投与する機会も多くなり,投与量が多くなるほど耐性菌出現のリスクは高くなる.また,新たな耐性機構を持つ微生物の報告はとどまることがない.しかし,耐性菌に対する基本的な取り組みは今後も変わることはない.抗菌薬の適正使用によって耐性菌の出現を抑え,耐性菌が出現した際には標準・接触感染予防策を講じ,治療の適応を見極めて耐性菌に対する治療を行うことが大切である.

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各種疾患における耐性菌の現状把握
耐性菌を作らない抗菌薬治療

岩田健太郎*1*2
*1 神戸大学医学部附属病院感染症内科 診療科長
*2 神戸大学大学院医学研究科感染治療学分野 教授

要  旨
 抗菌薬の適正使用が耐性菌対策にとって重要であることに異論はあるまい.しかし,何が「適正な」抗菌薬使用なのか,こういったシンプルで根本的な疑問には意外に答えられていない.抗菌薬の適正使用とは単なる総量規制ではなく,患者ケアの最良化,最適化こそがその目的である.患者ケアの最適化のためには適切な診断が不可欠で,それには血液培養をはじめとする各種検査を活用する.抗菌薬終了の基準は臨床的に複合的に定められ,CRP に代表される炎症反応だけにその基準をゆだねてはならない.

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耐性菌別にみた診断と治療
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌

志水太郎*   北村 大*   中前範子* 藤本卓司**

* 市立堺病院総合内科 ** 同部長

要  旨
 MRSA は最も重要な医療関連感染症の起因菌であり,市中感染型 MRSA が近年注目を集めている.治療の主軸はグリコペプチド系抗菌薬であるが,切り札としてリネゾリドがあり,補助薬との併用が必要なこともある.感染対策の分野では,MRSA アクティブサーベイランスの意義が注目されている.

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耐性菌別にみた診断と治療
ペニシリン耐性肺炎球菌

笠原 敬*   三笠桂一**
* 奈良県立医科大学感染症センター ** 同教授

要  旨
 ペニシリン耐性肺炎球菌の増加の原因は,国際的に流行している幾つかの薬剤耐性肺炎球菌クローンの拡散・伝播である.従来はペニシリンに対する肺炎球菌の MIC が1のものをI,2以上がRと定義されていたが,CLSI は 2008 年に呼吸器感染症におけるブレークポイントを引き上げ,4をI,8以上をRとした.これにより,今後は呼吸器感染症についてはペニシリン高用量による治療が推奨されるようになると考えられる.

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耐性菌別にみた診断と治療
アンピシリン耐性インフルエンザ菌

岩田 敏*
* 独立行政法人国立病院機構東京医療センター小児科,統括診療部長

要  旨
 インフルエンザ菌は,成人および小児の呼吸器感染症,小児の髄膜炎,敗血症,中耳炎などのさまざまな市中感染症の原因菌となるが,近年βラクタマーゼによる耐性に加えて,ペニシリン結合タンパク質(PBP)の変異したアンピシリン(βラクタム系薬)耐性株(BLNAR)の増加が問題となっている.これらの耐性菌に対しては,新世代セフェム系薬,フルオロキノロン系薬が第1選択薬となるが,BLNAR に対してはペントシリンの有効性も注目されている.莢膜株であるb型株(Hib)に対しては,Hib ワクチンが有効である.

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耐性菌別にみた診断と治療
緑膿菌(多剤耐性緑膿菌を含む)

平潟洋一*
* 東北大学大学院医学系研究科内科病態学講座感染制御・検査診断学分野 准教授

要  旨
 緑膿菌は高頻度に臨床材料から分離され,最近では緑膿菌に対して本来抗菌力の強いカルバペネム系抗菌薬,フルオロキノロン系抗菌薬,アミノ配糖体系抗菌薬のすべてに耐性を示す多剤耐性緑膿菌(MDRP)が問題となっている.MDRP 感染症に対して唯一単剤で有効とされるコリスチンは,国内では未承認であるため早期輸入が必要である.現時点では,周囲への伝播防止および日常のモニタリングを含めた厳重な感染対策により,院内における拡散を防止する必要がある.

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耐性菌別にみた診断と治療
バンコマイシン耐性腸球菌

光武耕太郎*
* 埼玉医科大学国際医療センター感染症科・感染制御科 教授

要  旨
 バンコマイシン耐性腸球菌は,尿路系や胆道系の感染症,術後創部感染,カテーテル関連血流感染,好中球減少状態での敗血症,蜂窩織炎などを起こす.抗菌薬治療では,リネゾリドやキヌプリスチン/ダルホプリスチンが用いられる.発症に関連したカテーテル抜去や膿瘍ドレナージ,また宿主の免疫能の回復が重要である.本菌が検出されれば,患者コホートや接触予防策を中心とした伝播防止のための迅速かつ強力な感染対策が必要となる.

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耐性菌別にみた診断と診療
基質特異性拡張型 βラクタマーゼ産生菌

村谷哲郎*
* 産業医科大学医学部泌尿器科

要  旨
 基質特異性拡張型βラクタマーゼとは,ペニシリン,第4世代を含むすべてのセファロスポリン系およびモノバクタム系抗菌薬を分解可能な外来性のクラスAおよびクラスDβラクタマーゼと定義される.本邦でも 2000 年以降急増しており,検出法,検出状況,治療薬に関する知識を身につけておく必要がある.多剤耐性を獲得している頻度が高い.切り札的存在のカルバペネム系抗菌薬に耐性を示すクレブシエラなどが海外で報告されており,抗菌薬の適正使用を含めて注意が必要である.

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耐性菌別にみた診断と治療
メタロβラククマーゼ産生菌

草野展周*
* 岡山大学医学部・歯学部附属病院中央検査部 准教授

要  旨
 メタロβラクタマーゼ(MBL)は,カルバペネム系抗菌薬を分解するカルバペネマーゼである.プラスミドに認められる伝達性の MBL 遺伝子が重要であり,産生菌は緑膿菌をはじめとした種々のグラム陰性桿菌で認められている.診断には MBL 阻害薬によるスクリーニング検査が必要である.保菌例が多いが,治療に当たっては薬剤感受性成績に基づいた抗菌薬の選択が必要である.感染対策としては,早期発見と接触予防策の徹底が重要である.MBL 産生緑膿菌は多剤耐性であり,多剤耐性緑膿菌(MDRP)における割合が増加している.

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耐性菌別にみた診断と治療
マクロライド耐性肺炎マイコプラズマ

田中裕士*
* 札幌医科大学医学部第三内科学第三講座 准教授

要  旨
 マクロライド耐性肺炎マイコプラズマが,2000 年以降に本邦の小児マイコプラズマ肺炎で検出され,分離菌の 15〜30% を占めるようになってきた.成人領域でも,耐性菌によるマイコプラズマ肺炎は,数は少ないが最近報告されてきている.本菌の耐性機構については,現在までは 23S rRNA の点突然変異のみであり,マクロライドが結合するドメインVにおける A2063G の点変異菌が最も多く,次いで A2064G がある.小児の臨床検討では,本耐性菌では感受性菌と比較して発熱期間が2日程度延長するが,大流行の兆しは現在のところ見られていない.

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耐性菌別にみた診断と治療
多剤耐性結核

御手洗 聡*
* 結核予防会結核研究所抗酸菌レファレンス部細菌検査科 科長

要  旨
 多剤耐性結核は主に化学療法の失敗の結果として発生する.一度感染症として成立すると治療困難となるため,感受性検査結果を基礎とする多剤併用療法と対面内服療法(DOTS)の実施による治療完遂・発生予防が最も重要である.また,多剤耐性結核菌が他者へ感染しないよう,感染コントロールにも留意しなければならない.

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対談
脳とこころの科学と医療(最終回)
 リハビリテーション医学の行方


ゲスト  江藤 文夫 先生(国立障害者リハビリテーションセンター)
聞き手  金澤 一郎 先生(国立精神・神経センター名誉総長)

 対談シリーズ「脳とこころの科学と医療」は、お招きするゲストの先生方に、ご自身の研究の内容や失敗談、成功談をお伺いしながら、日本における脳・神経研究の歴史を紹介するとともに、そこで語られる先達の教訓を、本誌の対象読者である若手研究者の日頃の研究に役立てていただくことを願って企画致しました。ゲストにはこの分野の基礎を築いて来られた方々、また現在も第一線で研究を続けておられる方々をお招きしています。
 最終回はゲストに国立障害者リハビリテーションセンター・江藤 文夫 先生をお迎えして「リハビリテーション医学の行方」をタイトルにお話をお伺いしました。
 神経も消化器も循環器もいろいろ勉強できるからとの動機で老人病科に入局された江藤先生が卒業後に自主的に受けられた物療内科の研修がリハビリテーションとの出会いでした。
 リハビリには理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語療法士(ST)などとの連携が必要で、ある意味診療形態としては最先端の領域であると先生はお考えです。
 その一方で江藤先生はリハビリ専門医が大変少ない事や診療報酬の配慮が無いことを危惧されています。
 この他にも東大にリハビリテーション教室を立ち上げられた頃のお話やCI療法(constraint induced movement therapy)などについても詳しく伺いました。
 是非お読み下さい。


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