最新医学64巻3月増刊号 
幹細胞研究の最近の進歩(前篇)
多能性幹細胞

要  旨


総説
人工多能性幹(iPS)細胞研究の現況

沖田 圭介*1   山中 伸弥**1*2

*1京都大学 iPS 細胞研究センター **1同教授 *2京都大学再生医科学研究所再生誘導研究分野教授
要  旨
 人工多能性幹(iPS)細胞は,ごく少数の遺伝子を体細胞に導入することにより樹立される多能性幹細胞である.これを応用することにより患者と同じ遺伝情報を持つ神経細胞や心筋細胞などを作り出すことが可能であり,病態の解明,薬効検査や移植治療などへの応用が期待されている.現状では iPS 細胞の誘導機構,胚性幹(ES)細胞との十分な特性比較,移植治療における安全性確保など検討すべき課題がある.本稿では iPS 細胞研究の現状について紹介する.

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ES細胞
研究の歴史

山村 研一
熊本大学発生医学研究センター臓器形成分野 教授

要  旨
 胚性幹(ES)細胞研究の歴史は,1981 年に樹立されたときから始まるのではなく,それ以前の奇形腫の研究にさかのぼることができる.したがって,ES 細胞の研究の歴史は,3段階に分けることができる.第1は,129 マウス系統に発生する奇形腫の研究であり,第2は,その奇形腫から単離した奇形癌腫細胞の研究で,第3が胚盤胞から樹立した ES 細胞の研究である.今や ES 細胞の研究は華々しい注目を浴びているが,それは地道な基礎研究の積み重ねの結果である.

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ES細胞
ヒトES細胞

川瀬 栄八郎
京都大学再生医科学研究所発生分化研究分野 特任講師

要  旨
 ヒト胚性幹(ES)細胞あるいはこれとほぼ同等の性質を持つと考えられているヒト人工多能性幹(iPS)細胞は,体を構成するすべての細胞種に分化する能力を保持したまま,培養下で無制限に増殖できる細胞株である.この特性からヒト ES 細胞およびヒト iPS 細胞を用いた再生医療への期待は大きい.さらに,再生医療以外にも,創薬のスクリーニングなどへの展開も期待されている.
 本稿では,ヒト ES 細胞研究における最新の知見を従来とはやや異なる切り口でまとめてみたい.

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ES細胞
ES細胞からの分化

江良 択実
熊本大学発生医学研究センター神経発生分野 教授

要  旨
 幹細胞や未熟前駆細胞は,多分化能から欠損した組織の補充,あるいは治療に伴う消費の補填療法の細胞源として期待されている.我々は,細胞表面マーカーと遺伝子工学的手法を用いて,中胚葉や内胚葉に相当する細胞を胚性幹(ES)細胞の分化誘導系より分離・同定した.さらに,その分化経路を明らかにし,分化の分子機構についても解析を進めている.このような ES 細胞の知見は今後,人工多能性幹(iPS)細胞研究を含む幹細胞研究の発展に役立つ.

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幹細胞の多分化性/シグナル
多能性を規定する転写因子ネットワークの基本構造


丹羽 仁史
独立行政法人理化学研究所発生・再生科学総合研究センター多能性幹細胞研究チームチームリーダー

要  旨
 胚性幹(ES)細胞研究から同定された多能性幹細胞に発現しその維持にかかわる転写因子の研究は,体細胞に多能性を賦与し人工多能性幹(iPS)細胞を作り出す技術へと結実した.今,iPS 細胞ができたという事実から,ES 細胞における転写因子の機能をネットワークとして理解する試みが始まっている.

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幹細胞の多分化性/シグナル
未分化維持のシグナル 1.LIF/STAT3 経路


小出  寛*   横田  崇**
*金沢大学医薬保健研究域医学系再生分子医学 准教授 **同教授

要  旨
 マウス胚性幹(ES)細胞はサイトカイン白血病阻害因子(LIF)の存在下で未分化性を維持することができる.LIF による刺激は,その下流に位置する転写因子 STAT3 を活性化する.STAT3 は標的分子である Eed や Dax1 などの発現を誘導することにより,ES 細胞の未分化性を維持している.

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幹細胞の多分化性/シグナル
未分化維持のシグナル 2.MAPキナーゼシグナル伝達経路と多能性幹細胞

山本 拓也*   西田 栄介**
*京都大学大学院生命科学研究科 **同教授

要  旨
 人工多能性幹(iPS)細胞や胚性幹(ES)細胞といった多能性幹細胞は,未分化状態を維持しながら分裂する.未分化状態の維持は細胞分化制御と密接なかかわりを持つ.近年,細胞内シグナル伝達経路の1つであるマイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAP キナーゼ)経路がさまざまな局面において細胞分化を制御することが明らかとなってきている.本稿では最新の知見をもとに,MAP キナーゼ経路の制御機構と多能性幹細胞などの未分化性や多分化性に果たす役割について紹介したい.

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幹細胞の多分化性/シグナル
細胞分化と核−細胞質間分子輸送システム

安原 徳子*1  岡  正啓*2*3 米田 悦啓**1**2*3

*1大阪大学大学院医学系研究科生化学教室 **1同教授
*2同生命機能研究科細胞ネットワーク講座細胞内分子移動学グループ **2同教授 *3CREST・JST

要  旨
 細胞が分化する際,転写調節因子や RNA などさまざまな分子を適切に核内外へと輸送して機能を発揮させる必要がある.最近の研究から,核−細胞質間分子輸送が細胞分化の過程で重要な役割を果たすことが明らかになりつつある.本稿では細胞分化にかかわる核−細胞質間分子輸送システムについて説明し,その重要性を探る.

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幹細胞の多分化性/シグナル
リプログラミングの過去と未来

多田  高
京都大学再生医科学研究所幹細胞加工研究領域 准教授

要  旨
 体細胞を多能性幹細胞(万能細胞)に変えてしまうリプログラミングは,まさに生物学のマジックのようである.近年トピックスとなった人工多能性幹(iPS)細胞誕生までの道のりは,体細胞核移植,細胞融合,遺伝子導入によるリプログラミングと既成概念への挑戦の連続であった.その分子機構はまだ分らないことだらけであるが,その研究成果は,社会への還元を目指して複数の分野への新たな応用を展開するとともに,社会問題をも提起している.

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幹細胞の多分化性/シグナル
精子幹細胞の多分化能とその医療応用への可能性

篠原 美都*   篠原 隆司**
*京都大学大学院医学研究科遺伝医学講座分子遺伝学 **同教授

要  旨
 生後の精巣からは胚性幹(ES)細胞と極めて似た多能性幹細胞を樹立できる.樹立効率は低いが,遺伝子導入なしに自発的に起るため外来遺伝子の影響を懸念する必要がない.この精巣由来多能性幹細胞の医療応用への可能性を検討するため,その発生機序の解析や,樹立効率の改善,樹立細胞のエピジェネティックな性質の解明などが必要とされている.本稿では生殖細胞の持つ特殊性と多能性とのかかわりや,最近の研究の動向を紹介する.

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幹細胞の多分化性/シグナル
幹細胞の可塑性と細胞分化

岡林 浩嗣*1  大沼  清*3 浅島  誠**1*2**3
*1科学技術振興機構,国際共同研究,器官再生プロジェクト **1同研究総括
*2独立行政法人産業技術総合研究所,器官発生工学研究ラボ,ラボ長
*3東京大学大学院総合文化研究科生命環境科学系「細胞・器官制御講座(和光純薬工業株式会社)」寄付講座講師 **3同教授

要  旨
 幹細胞の可塑性とは,一般に組織幹細胞がその由来とする組織の範囲を超えた他の組織の細胞へと分化しうる性質を指す.組織幹細胞の多分化能の調節機構と体細胞のリプログラミング機構の解明によって得られる知見を応用することによって,組織幹細胞の可塑性を生かした安全な再生医療の早期実現が期待される.再生医療の安全性を確保するうえでは,幹細胞の未分化性と分化状態を統一的に記述するための基準作成の試みも重要である.

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幹細胞のゲノム/エピジェネティクス/染色体
ゲノム解析

長谷川 由紀*   林崎 良英**
*理化学研究所オミックス基盤研究領域LSA 要素技術開発グループ特別研究員 **同領域長

要  旨
 2006 年にマウスで,そして 2007 年にヒトにおいて人工多能性幹(iPS)細胞樹立が報告されて以降,再生医療への応用に向け,その細胞の性質をより詳細に理解するためのゲノム解析が進められてきている.これらの幹細胞や,分化細胞のゲノム解析には,次世代シークエンサーとよばれる高速で大量のデータを算出可能な機械が用いられてきている.本稿では,近年の DNA メチル化解析,クロマチン構造解析と共に,次世代シークエンサーの原理についても簡単に紹介する.

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幹細胞のゲノム/エピジェネティクス/染色体
幹細胞制御因子としてのmicroRNA

塩見 春彦
慶応義塾大学医学部分子生物学教室 教授

要  旨
 幹細胞の特性は自己新生能と多様な細胞に分化する能力を併せ持つことである.このような性状は,隣接細胞やその他外界からの刺激への応答,転写および転写後の遺伝子発現制御,さらにはエピジェネティックな制御による複雑なバランスのうえに維持されている.最近の研究から,microRNA(miRNA)が,特定 mRNA の翻訳抑制や分解促進,つまり転写後の遺伝子発現抑制を通して,幹細胞の自己新生と分化制御にかかわる極めて重要な分子であることが明らかになってきた.

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幹細胞のゲノム/エピジェネティクス/染色体
幹細胞におけるポリコーム群の機能

古関 明彦
理化学研究所免疫アレルギー総合科学研究センターグループディレクター

要  旨
 Oct3/4,Sox2,Klf4,cMyc の4転写因子が体細胞を人工多能性幹(iPS)細胞へとリプログラムしたという事実は,細胞の形質を規定する転写制御には明確な階層性が存在することを証明した.これらが形成するコアサーキットは,エピジェネティック制御と機能的にリンクし,それらを下部構造として利用することでゲノムワイドな転写調節を行っているという図式が浮かび上がりつつある.本稿では,エピジェネティック制御メカニズムの1つであるポリコーム群に焦点を絞り,転写因子ループとのリンクがどのように構築されうるのか,論述していく.

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幹細胞のゲノム/エピジェネティクス/染色体
ポリコーム複合体による幹細胞制御

宮城  聡*   岩間 厚志**
*千葉大学大学院医学研究院先端応用医学講座細胞分子医学 **同教授

要  旨
 ポリコーム群遺伝子は,ショウジョウバエのホメオボックス遺伝子群の領域特異的な発現パターンの維持に働く遺伝子として同定され,その後の生化学的解析から,タンパク質複合体を形成し,その内在的なヒストンの修飾酵素活性やクロマチンリモデリングの阻害活性を介して,標的遺伝子の転写抑制に働くことが明らかにされた.このような中,ポリコーム複合体による Cdkn2a 遺伝子などの発現抑制が幹細胞の自己複製に必須であることが示され,幹細胞における研究が急速に進みつつある.近年では,胚性幹(ES)細胞をモデルとした網羅的な発現解析,クロマチン免疫沈降解析から,分化制御遺伝子のプロモーター領域に特徴的なヒストン修飾を導入することにより,分化多能性の維持にも重要な役割を果たす可能性が示唆されている.幹細胞の重要な制御分子として,ポリコーム複合体の研究は新たな展開を示しつつある.

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幹細胞のゲノム/エピジェネティクス/染色体
幹細胞へのヒト人工染色体導入 ―医学・薬学への応用―

黒崎  創*   押村 光雄**
* 鳥取大学大学院医学系研究科機能再生医科学専攻生体機能医工学講座遺伝子機能工学部門  **同教授

要  旨
 ヒト人工染色体(HAC)は宿主染色体に挿入されず独立して存在し,自律複製・分配・維持されるという利点があり,新しい遺伝子導入ベクターとして注目されている.我々は,ヒト第 21 染色体を改変し,目的の遺伝子をカセット方式で特異部位に挿入あるいは転座できる新規の HAC ベクターを構築した.この HAC を用いて,筋ジストロフィーなどの遺伝子疾患の遺伝子補正を行ったり,ヒト型 P450 薬物代謝酵素を有するマウスやダウン症モデルマウスなどを作製してきた.HAC を用いた医学,薬学への利用に関する現状と展望を紹介する.

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iPS細胞を用いた再生医療実現化に向けて
京都大学 iPS 細胞研究統合推進拠点の活動

林  秀也
京都大学iPS細胞研究センター研究戦略本部

要  旨
 文部科学省「再生医療の実現化プロジェクト」の一環で,その研究統合推進拠点の1つとして京都大学が選ばれた.本拠点は,人工多能性幹(iPS)細胞を樹立した山中伸弥教授を代表研究者として運営,推進している.推進体制は,京都大学 iPS 細胞研究センター(CiRA)を中心として再生医科学研究所,医学部附属病院,医学研究科,物質−細胞統合システム拠点,大阪大学大学院医学系研究科との連携により iPS 細胞の基礎研究から応用研究まで幅広く取り組んでいる.

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iPS細胞を用いた再生医療実現化に向けて
慶應義塾大学の活動

岡野 栄之
慶應義塾大学医学部生理学教室 教授

要  旨
 慶應義塾大学iPS細胞拠点では,中枢神経系,造血系,心血管系,感覚器系の疾患を標的として,霊長類モデルを含めた再生医療の世界トップレベルの前臨床研究の推進を行い,その安全性と有効性を確認し,再生医療実現化を目指す.また,多くの HLA タイプのヒト iPS 細胞の樹立とセルプロセッシングを行い,ヒト iPS 細胞に関する研究基盤を強固なものとしたい.本稿では,中枢神経系の再生医学を中心に iPS 細胞拠点の活動について紹介したい.

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iPS細胞を用いた再生医療実現化に向けて
東京大学の活動 ヒトiPS細胞等研究拠点整備事業

江藤 浩之*   中内 啓光**
*東京大学医科学研究所 特任准教授 **同教授

要  旨
 再生医療の実現には幹細胞に関する基礎的な研究に加えて,その成果を円滑にトランスレートできる体制が必須である.東京大学では,医科学研究所,医学部付属病院,分子細胞生物学研究所ならびに駒場地区の総合文化研究科の4キャンパスにおける幹細胞研究,発生学,分子生物学,工学などの先駆的な研究を展開する研究者がお互いに協力する体制のもとに,iPS 細胞を用いた次世代遺伝子・細胞治療法の開発を行っている.

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iPS細胞を用いた再生医療実現化に向けて
理化学研究所神戸研究所の活動 -ヒト多能性幹細胞の分化誘導・移植の技術開発と技術支援のための総合拠点-

笹井 芳樹
独立行政法人理化学研究所発生・再生科学総合研究センターグループディレクター

要  旨
 「再生医療の実現化プロジェクト」において,理研発生・科学総合研究センターでは,ヒト胚性幹(ES)細胞・人工多能性幹(iPS)細胞を用いた神経系・感覚器系の高効率の分化誘導技術,分化細胞利用の安全性を向上させる培養技術,産生された有用細胞の鈍化技術,さらに動物での移植技術などの開発を通し,医学応用への基盤を確立する.特に,網膜細胞の移植については,中型動物のレベルでの前臨床研究を強力に推進し,加齢黄斑変性や網膜色素変性の治療に応用可能な技術的確立を行う.

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iPS細胞を用いた再生医療実現化に向けて
理化学研究所筑波研究所の活動 幹細胞バンク

中村 幸夫
独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンター細胞材料開発室 室長

要  旨
 研究材料は標準化されたものである必要がある.標準化されていない材料には実験の再現性がなく,科学的な材料にならないからである.細胞も例外ではない.特に,幹細胞には高度な標準化が求められている.繁用細胞の標準化を図るには,多数の機関で独立的に実施するよりも,少数の専門機関で集約的に実施することが適切である.細胞バンクは,第一義的には細胞の保存と提供を使命として誕生したが,現在では標準化作業を実施する機関としても重要な責務を担っている.

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幹細胞研究の優れたツール,ソース
細胞周期を時空間的に可視化する技術

阪上−沢野朝子*1*2 正井 久雄*3 宮脇 敦史**1*2
*1 独立行政法人理化学研究所脳科学総合研究センター細胞機能探索技術開発チーム **1 同チームリーダー
*2 JST・ERATO・宮脇生命時空間情報プロジェクト *3 東京都臨床医学総合研究所ゲノム動態プロジェクト


要  旨
 細胞の増殖と分化とが絡み合うことで,組織,器官,そして個体が形成されていく.多細胞社会の中で細胞周期の進行はどのような時空間パターンで起るものなのか.こうした問いに答えるために我々は,細胞周期をリアルタイムに可視化する蛍光プローブ Fucci を開発した.Fucci を用いて,マウスに移植したがん細胞の浸潤・転移の様子を可視化したり,マウス胚の神経細胞の分化,移動などにおける細胞の増殖と分化との協調関係を解析することに成功した.さらに,プローブの機能拡張を目指して,S/G2/M期の細胞のシルエットを描出する次世代型 Fucci プローブを開発した.

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幹細胞研究の優れたツール,ソース
レンチウイルスベクター

三好 浩之
理化学研究所バイオリソースセンター細胞運命情報解析技術開発サブチーム チームリーダー

要  旨
 レンチウイルスベクターは,非分裂細胞を標的とした遺伝子治療用のベクターとして開発されたが,現在では安全性の面も含めた多くの改良がなされ,in vitro,in vivo を問わず基礎研究にも広く使用されている.胚性幹(ES)細胞を始めとする幹細胞研究分野でも,遺伝子の強制発現や蛍光タンパク質遺伝子によるマーキングあるいは short hairpin RNA(shRNA)発現ベクターによる遺伝子発現の抑制などに使用され,人工多能性幹(iPS)細胞の樹立にも使用されている.

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幹細胞研究の優れたツール,ソース
コモンマーモセット

谷  憲三朗*1*2
*1九州大学生体防御医学研究所ゲノム病態学 *2九州大学病院先端分子細胞治療科

要  旨
 小型霊長類コモンマーモセットはその幾つかの優れた特性からこれまでにも医薬品開発における前臨床研究動物としてさまざまな方面で利用されてきた.現在の医薬品開発においては,安全性と有効性の観点からより疾患特異性が重んじられてきており,薬剤の性質上,前臨床研究段階からより人に近い動物での検討が必要になってきている.本稿では再生医療の臨床展開をゴールとした幹細胞研究におけるコモンマーモセットの利用の可能性について,これまでの我々の造血幹(前駆)細胞ならびに胚性幹細胞研究結果を中心に紹介させていただく.

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各界の取り組み
幹細胞研究に対する文部科学省の取組み

菱山  豊
文部科学省研究振興局ライフサイエンス課長

要  旨
 文部科学省は,「iPS細胞研究等の加速に向けた総合戦略」を策定し,幹細胞研究の振興,研究基盤の整備,産学官連携や特許権確保の支援などを行ってきた.平成 21 年度予算政府原案では,研究基盤を拡大するためのプラットフォーム作りや知的財産権への取組みを強化する.

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各界の取り組み
科学報道の難しさ ―“iPS細胞”の事例から―

竹石 涼子
*朝日新聞科学グループ 記者

要  旨
 人間の細胞からiPS細胞ができたことは,日本のみならず,世界でも驚きをもって受け止められた.その衝撃は科学界を超え,社会を巻き込んで大きく広がった.我々記者も,その中で日々の動きを追い続けた.発表以後のこの1年余りの中で,何を報じてきたのか振り返るとともに,報じる側としての悩みについてもあえて触れた.拙稿が科学者・研究者と報道機関との対話のきっかけになれば,と願っている.

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各界の取り組み
生命倫理と幹細胞研究

野島 久美恵
文部科学省研究振興局ライフサイエンス課生命倫理・安全対策室

要  旨
 科学技術は,自由な研究活動により発展してきた.近年では,遺伝子組換えに関する法律や動物実験に関する指針,臨床研究に関する倫理指針など,基礎研究においても,さまざまな規則の中で行わなければならなくなってきた.
 ヒト胚性幹(ES)細胞の研究は,ヒト胚を使用することから倫理的に問題があるとして,我が国では,指針を策定したうえで研究を容認することとした.ヒト ES 細胞の研究を行うためには,樹立研究の場合も,使用研究の場合も,この指針に適合した研究であることについて,事前に文部科学大臣の確認を得なければならない.
 ここでは,新しくヒト ES 細胞の研究を計画されている研究者の皆様のために,文部科学大臣による確認の作業を行っている事務局の立場から,申請の方法などについて分かりやすく紹介したい.

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各界の取り組み
iPS細胞研究の知財戦略

山中 敦夫
先端医療振興財団臨床研究情報センター

要  旨
 2007 年 11 月の京都大学の山中らや Wisconsin 大学の Thomson らによるヒト誘導多能性幹細胞(iPS 細胞)樹立の発表以来,研究開発競争は激しさを増している.2008 年に関しては,山中教授自らが「日本は1勝 10 敗で負け」と,日本の研究の遅れを認めるまでに至った.この状況下,京都大学は iPS 細胞樹立の基本方法についての特許を成立させた.この特許で知財保護は万全か?今後も知財面で日本のリードを守るための知財戦略について考察する.

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