最新医学64巻4号 
特集 全ゲノム関連解析と多因子疾患


要  旨


アプローチ
全ゲノム関連解析 ―歴史的背景と現状―

鎌谷直之*1*2

*1 理化学研究所ゲノム医科学研究センター統計解析・技術開発グループグループディレクター
*2 情報解析研究所(スタージェン内)所長
要  旨
 2002 年,理化学研究所において世界で最初に報告された全ゲノム関連解析は,多因子疾患の遺伝的原因を網羅的に検索する画期的な手法であり,2007 年から世界各地で広く行われるようになっている.140 年の歴史を持つ遺伝統計学は,さまざまな歴史を経て洗練され,連鎖解析によりメンデル型遺伝病の多くの原因を明らかにしたが,今後多くの多因子病の遺伝的原因を明らかにするであろう.

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技術開発とデータベース
SNP 解析技術

久保充明*
* 理化学研究所ゲノム医科学研究センター多型解析技術開発チーム チームリーダー

要  旨
 2002年に理化学研究所心筋梗塞関連遺伝子研究チームが,世界で初めてSNPをマーカーとした全ゲノム関連解析(GWAS)による多因子疾患の関連遺伝子の同定に成功した.2005 年以降,Affymetrix 社,Illumina 社から GWAS 用 SNP チップが発売され,世界中で大規模な GWAS が行われている.本稿では,我々が使用している SNP 解析技術を紹介するとともに,SNP データの品質管理の重要性について述べる.

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技術開発とデータベース
ゲノムコピー数多型の意義とその解析法

油谷浩幸*
* 東京大学先端科学技術研究センターゲノムサイエンス分野 教授

要  旨
 ゲノム構造変異,とりわけゲノムコピー数多型(CNV)について,高密度マイクロアレイおよび高速シークエンサーを用いた解析によって全貌が次第に明らかにされつつあり,de novo に生ずる CNV も少なからず存在する.CNV を生み出すメカニズムは,遺伝子重複あるいは欠失を生じる基本的なプロセスと同様と考えられる.CNV と疾患との関連についての解析は専ら候補遺伝子領域に対して行われているが,ゲノムワイドな関連解析を実施するためには,包括的かつ定量的な CNV 測定法が樹立される必要がある.

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技術開発とデータベース
国際HapMap・JSNPデータベースとその利用法

角田達彦*1  田中敏博**1  中村祐輔*2***1
*1 理化学研究所ゲノム医科学研究センター チームリーダー **1 同グループディレクター
***1 同センター長
*2 東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター センター長

要  旨
 生活習慣病の原因の特定には,1塩基多型(SNP)を網羅的に調べることが大変強力な方法となる.それに着目し,日本独自に,遺伝子中心の精度の高い SNP データベースが構築され,また世界初のゲノムワイド関連解析や全染色体上の連鎖不平衡地図の構築の成果を当センターから発信した.これを遺伝子外にも展開すべく国際 HapMap プロジェクトが発足し,我々も参画し,全ゲノム上の代表(タグ)SNP を同定した.それに基づく全ゲノム関連解析は,今や爆発的発展を遂げつつある.

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技術開発とデータベース
ファーマコゲノミクスとオーダーメイド医療


莚田泰誠*
* 理化学研究所ゲノム医科学研究センター遺伝情報解析チーム チームリーダー

要  旨
 薬の作用とゲノム情報を結びつけることにより,個々の患者に合った薬を適切に使い分けようという研究分野がファーマコゲノミクスである.本稿では,遺伝子多型解析に基づくファーマコゲノミクスによって,@医薬品の副作用を回避する,A効果を予測する,B個々の患者に適切な用量を予測する例として,HIV 治療薬ネビラピン,乳癌治療薬タモキシフェン,抗凝固薬ワルファリンのオーダーメイド投薬を紹介する.

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各疾患領域における遺伝子解析
心筋梗塞感受性分子の同定・解析


尾崎浩一*   田中敏博**
* 理化学研究所ゲノム医科学研究センター循環器疾患研究チーム
** 同チームリーダー

要  旨
 2002年に筆者らが世界で初めて1塩基多型を用いた心筋梗塞の全ゲノム関連解析(GWAS)を報告して以来1),国際 HapMap プロジェクトによるハプロタイプ地図2)の構築やタイピング技術の進展に伴って多くの研究施設で GWAS が進められ,生活習慣病の遺伝的リスク多型が続々と報告されている.ここでは,我々が進めてきた心筋梗塞感受性分子の同定とその解析について概説する.

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各疾患領域における遺伝子解析
変形性関節症の全ゲノム関連解析

池川志郎*
* 理化学研究所ゲノム医科学研究センター骨関節疾患研究チーム チームリーダー

要  旨
 変形性関節症は,一般集団における罹患率の非常に高い疾患(common disease)である.変形性関節症は多因子遺伝病で,遺伝的要因(疾患感受性遺伝子)がその病因に関与する.我々のグループで同定した変形性関節症の疾患感受性遺伝子,CALM1 と DVWA の発見の過程とその機能解析について述べた.

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各疾患領域における遺伝子解析
関節リウマチの疾患関連遺伝子と全ゲノム関連解析

山本一彦*1*2

*1 東京大学医学部アレルギーリウマチ内科 教授
*2 理化学研究所ゲノム医科学研究センター チームリーダー

要  旨
 関節リウマチは代表的な自己免疫疾患であり,病因,病態がいまだに不明の難病である.免疫が関与する疾患の場合,ヒトの免疫学の解析方法が十分でなく,病因,病態の解析は容易ではない.モデル動物からの情報と実際のヒトの疾患との乖離も少なからずある.この点で疾患関連遺伝子の情報はヒトの疾患からの直接の情報であり,疾患の理解と今後のオーダーメイド医療に非常に有用である.

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各疾患領域における遺伝子解析
糖尿病関連遺伝子の全ゲノム関連解析

前田士郎*
* 理化学研究所ゲノム医科学研究センター内分泌代謝疾患研究チーム チームリーダー

要  旨
 2型糖尿病の成因として遺伝因子が関与することにはおそらく異論はないものと思われるが,多因子が関与することおよび肥満や生活習慣など種々の要因が複雑にかかわることから,その解明は困難な時期が長く続いてきた.最近になり,我が国も含め複数のグループから2型糖尿病を対象としたゲノムワイド関連解析の結果が相次いで報告され,KCNQ1,TCF7L2 領域など十数ヵ所の有力な2型糖尿病関連遺伝子領域が同定されている.

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各疾患領域における遺伝子解析
精神疾患関連遺伝子の全ゲノム関連解析

有波忠雄*
* 筑波大学大学院人間総合科学研究科生命システム医学専攻遺伝医学分野 教授

要  旨
 精神疾患のゲノム解析は,コピー数変異を使った全ゲノム関連解析により大きく進歩した.その結果,1q21,15q11.2,15q13.3,16p11.2,22q12 のコピー数変異をはじめとして,精神疾患のリスクを大きく高める変異が多く見つかってきている.まだそれらの変異が発見される患者の割合は少ないが,今後さらに増えることが期待される.一方,関連する疾患に特異性が乏しく,おのおのの精神疾患発症のメカニズムの解明が今後の課題である.

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各疾患領域における遺伝子解析
パーキンソン病関連遺伝子の全ゲノム関連解析

戸田達史*
* 神戸大学大学院医学研究科神経内科 教授

要  旨
 メンデル遺伝性パーキンソン病家系から6つの原因遺伝子が明らかにされ,それらを切り口にして孤発性パーキンソン病の病態解明が進んでいる.患者の大多数を占める孤発性パーキンソン病は多因子疾患であり,我々はαシヌクレインが孤発性パーキンソン病の確実な疾患感受性遺伝子として同定した.そのほか,まれな変異としてゴーシェ病遺伝子が重要である.現在パーキンソン病において SNP チップを用いた全ゲノム関連解析が進行している.

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各疾患領域における遺伝子解析
大腸癌関連遺伝子の全ゲノム関連解析

松田浩一*   中村祐輔**
* 東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター   ** 同センター長

要  旨
 ヒトゲノム全配列の決定以降,遺伝子多型に関するデータベース構築が急速に進み,現在さまざまな疾患で全ゲノム関連解析が行われている.大腸癌においても10ヵ所以上の疾患感受性領域がすでに同定されている.本稿では,我々が行った日本人における解析結果も含めて最近の知見を紹介する.今後これらの研究成果が大腸癌の発症予防や病態の解明につながると期待される.

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各疾患領域における遺伝子解析
胃癌関連遺伝子の全ゲノム関連解析

佐伯宣久*   坂本裕美**  吉田輝彦***
* 国立がんセンター研究所 腫瘍ゲノム解析・情報研究部   ** 同室長 *** 同部長

要  旨
 胃腺癌を intestinal 型と diffuse 型に分けた場合,後者の発症機構には未知の部分が多く,Helicobacter pylori 感染対策によっても劇的な減少は困難と考えられている.diffuse 型胃癌に対して全ゲノム関連解析を行い,PSCA 遺伝子多型を新規遺伝素因として同定した.この遺伝子は胃癌では発現が抑制されており,分化途上の正常胃上皮前駆細胞の負の増殖調節因子であることが示唆された.

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各疾患領域における遺伝子解析
アレルギー疾患関連遺伝子の全ゲノム関連解析

玉利真由美**  原田通成*   広田朝光*   人見祐基*
* 理化学研究所ゲノム医科学研究センター呼吸器疾患研究チーム   ** 同チームリーダー

要  旨
 高速大量タイピングや網羅的発現解析など,近年のゲノム解析技術の進歩は目覚ましく,アレルギー領域でも,気管支喘息や血清 IgE について全ゲノム関連解析(GWAS)が行われ,その結果が検証されつつある.今後アスピリン喘息やアナフィラキシーなど重篤な病態に関連する遺伝子,さらに薬剤応答性や重症化に関連する遺伝子の同定など,GWAS はアレルギー疾患の科学的病態解明に重要な位置を占めていくものと思われる.

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対談
血液および血液疾患を語る(第1回)
 造血の仕組みを明かす


ゲスト  小川 眞紀雄 先生(サウスカロライナ大学)
聞き手  齋藤 英彦 先生(名古屋セントラル病院)

 対談シリーズ「血液及び血液疾患を語る」は、司会を名古屋セントラル病院・齋藤英彦先生にお願いし、お招きするゲストの先生方にご自身の研究の内容や失敗談、成功談をお伺いしながら、本誌の対象読者である若手研究者へのアドバイスを頂き、日頃の臨床・研究活動に役立てていただくことを願って企画致しました。ゲストにはこの分野の基礎を築いて来られた方々、また現在も第一線で研究を続けておられる方々をお招きしています。

 記念すべき第一回のゲストには造血研究のフロンティアであるサウスカロライナ大学・小川 眞紀雄 先生をお迎えして「造血の仕組みを明かす」をタイトルにお話をお伺いしました。
 1964年に大阪大学を卒業された若き小川先生は横須賀の米海軍病院でインターンを経験され、統計に基づいた診断治療が行われている米国医療の現実を目にし、米国に渡航することを決意されました。
 阪大・山村教授と二年で戻ってくるとの約束で渡られた米国でしたがダートマス大学でのレジデント生活を皮切りにカナダ・トロント大学を経てダートマス大学時代の親友であるDr.Eureninusの薦めでサウスカロライナ大学に移られた頃には既に8年の月日が経過していました。
 サウスカロライナ大学に移られた理由の一つを「魚がおいしいから」とおっしゃる小川先生ですが、そこで臨床、研究、教育と八面六臂のご活躍をされ、assistant professorでNIHのグラントを獲得されたのは先生が大学で初めてだったそうです。
 その一方で、無名に近い大学にいる外国人が書いたグラントをアイデアと実績で通すアメリカ社会の懐の大きさとシステムの公平性には司会の齋藤先生も感心されていました。
 この他にもアメリカでの医学教育の現状や先生が顧問をされているサウスカロライナ州立軍事大学・剣道部のご様子についても伺いました。 
 是非お読み下さい。


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