最新医学64巻7号 
特集 抗NMDA受容体脳炎


要  旨


アプローチ
抗NMDA受容体脳炎 -新たな傍腫瘍性神経疾患の登場-

鈴木則宏*

* 慶應義塾大学医学部神経内科 教授
要  旨
 中枢神経細胞のNMDA受容体に対する細胞膜抗体の産生によって発症する辺縁系脳炎の存在が明らかになり,注目されている.若年女性に好発し,卵巣奇形腫を合併することが多く,統合失調症様の精神症状,発熱,痙攣,四肢・顔面に特有のジストニア様の不随意運動,中枢性低換気を特徴とし人工呼吸器装着を余儀なくされ,意識障害が遷延するが,MRI 画像所見,髄液所見に乏しいこと,さらに重度意識障害は長期に及ぶものの,症状には自然寛解が見られることが特徴である.

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若年女性に好発する急性非ヘルペス性脳炎(AJFNHE)と抗NMDA受容体脳炎との関連

亀井 聡*
* 日本大学医学部内科学系神経内科学分野 准教授

要  旨
 若年女性に好発する急性非ヘルペス性脳炎(AJFNHE)は,急性期に精神症状から意識障害,痙攣,中枢性低換気など極めて重篤な病像を呈し,遷延経過を示すも長期予後は比較的良好な経過を示し,抗グルタミン酸受容体 ε2 抗体が高頻度に検出される脳炎として知られていた.最近 Dalmau らは,卵巣奇形腫に合併した傍腫瘍性脳炎をまとめ,抗グルタミン酸受容体抗体であるNMDA受容体 NR1/NR2 ヘテロマー抗体が病因であることを明らかにした.本疾患は AJFNHE の臨床像と同一であり,その後 AJFNHE 患者にて卵巣奇形腫が高率に検出され,両者はほぼ同一疾患と考えられる.

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若年女性に好発する急性非ヘルペス性脳炎(AJFNHE)の我が国における疫学調査

亀井 聡*
* 日本大学医学部内科学系神経内科学分野 准教授

要  旨
 最近我々は,若年女性に好発する急性非ヘルペス性脳炎(AJFNHE)の全国調査を行い報告した.その概要を示す.集積例は,若年女性に好発し,極めて均一の臨床像を呈し,従来 AJFNHE として報告されたものと合致していた.今回の検討で,本症の年間発症率が人口 100 万当たり 0.33 であること,発症率に地域差がないこと,呼吸障害は入院時3割であるが,経過中に約7割に達し,人工呼吸器管理されていたこと,本邦における本症の治療や後遺症の実態,および腫瘍合併が約4割で確認され,卵巣奇形腫が多かったことを明らかにした.一方,少数例ながら男性例もあり,その臨床像は腫瘍の検出を除けばほぼ同一であった.

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抗NMDA受容体複合体抗体と抗グルタミン酸受容体ε2抗体

高橋幸利**1*2   高山留美子*1  向田壮一*1    池上真理子*1   
池田浩子*1   今井克美*1   久保田裕子*1

*1 国立病院機構静岡てんかん・神経医療センター **1 同臨床研究部長
*2 岐阜大学医学部小児病態学

要  旨
NMDA受容体に対する抗体には,複数のサブユニットからなるNMDA受容体複合体を抗原として検出するものと,個々のサブユニットを抗原として検出するものがある.前者には[GluRζ1(NR1)+GluRε2(NR2B)]を発現させた HEK 細胞を抗原とする抗体が,後者には GluRε2 全長分子を抗原とする抗体などがある.卵巣奇形腫を伴う傍腫瘍性辺縁系脳炎の 2/3 は,GluRε2 のN末端を認識する抗体を有している.

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抗NMDA受容体抗体からみた自己抗原の局在と意義


田中惠子*
* 金沢医科大学脳脊髄神経治療学(神経内科学) 教授

要  旨
 自己免疫性神経疾患において,細胞表面抗原に対する抗体を生じる群では血漿交換療法などに良好な反応を示すが,細胞質内・核内抗原に対する抗体を生じる群では抗体除去による神経症状の改善が乏しく,抗体での病態モデル作製が困難であるなど,抗原の存在様式が病態機序および治療反応性に関連すると考えられている.しかし,神経障害に及ぼす抗体の意義には不明の部分が多く,さらに基礎となる知見の集積が必要である.

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臨床症候からみた抗NMDA受容体脳炎の病態


飯塚高浩*
* 北里大学医学部神経内科学 講師

要  旨
 抗NMDA受容体脳炎は,主に卵巣奇形腫に関連して発症する若年女性に好発する急性脳炎であり,NMDA 受容体の細胞外成分に対する抗体を介して発症する.症候学的見地から,本抗体はNMDA受容体を抑制することによって神経症状が出現すると推測してきた.しかし,本抗体存在下で細胞培養するとNMDA受容体の数やクラスター形成が可逆的に減少することから,本抗体はシナプス後膜樹状突起におけるNMDA受容体のクラスター形成を抑制し,NMDA 受容体機能を低下させると推測する.

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抗NMDA受容体脳炎の臨床症状の特異性

嶋崎晴雄*
* 自治医科大学内科学講座神経内科学部門

要  旨
 最近確立された疾患である抗NMDA受容体脳炎は,症例の集積が進むにつれ,その特徴的な臨床像が浮き彫りとなってきた.その経過中に見られる特異な不随意運動や眼球運動障害,自律神経の不安定性,約半数あまりに合併する奇形腫などの腫瘍の存在,頭部 MRI や脳波所見などから,代表的なウイルス性脳炎である単純ヘルペス脳炎とは比較的容易に鑑別できると考えられた.本稿では,これまでの報告例と自験4例の臨床症状を検討し,その臨床像の特異性を紹介した.

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腫瘍非合併例における抗NMDA受容体脳炎

石浦浩之*   山本知孝*   辻 省次**

* 東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻神経内科学 ** 同教授

要  旨
 卵巣奇形腫に合併する脳炎として発見された抗NMDA受容体脳炎であるが,症例の蓄積につれ腫瘍非合併例の報告が増えている.腫瘍非合併例の予後は早期腫瘍切除例に比較すると悪く,脳炎が再発することも多い.長期経過後に卵巣腫瘍が明らかになる例も存在し,回復後も注意深く経過観察する必要がある.治療はステロイドなど免疫療法が施行され,有効な例が多いが,最適な治療法の確立に向けてなお一層の症例蓄積が望まれる.

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抗NMDA受容体脳炎の不随意運動

鈴木重明*
* 慶應義塾大学医学部神経内科 専任講師

要  旨
 抗NMDA受容体脳炎は,多彩な不随意運動が特徴的である.最も高頻度なのが口舌顔面筋の不随意運動であり,次いで四肢や体幹の舞踏病やアテトーゼ,ジストニア,筋強剛やトーヌスの亢進が認められる.これまで,グルタミン酸受容体に対する自己抗体が検出される疾患にはこのような不随意運動は認められない.抗NMDA受容体脳炎で特異的に観察される理由として,NMDA 受容体に対する抗体認識の違いが原因かもしれない.

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抗NMDA受容体脳炎の精神症状 -統合失調症との比較-

鈴木映二*
* 国際医療福祉大学熱海病院教授(心療・精神科)

要  旨
 抗NMDA受容体脳炎は,グルタミン酸受容体の1亜型であるNMDA受容体自己抗体による自己免疫性脳炎である.急性期には精神病症状を示すことから統合失調症と比較されることがある.しかし統合失調症の場合は,@てんかん患者にはほとんど発症しない(抗NMDA受容体脳炎は痙攣を伴う),A幻覚・妄想の内容に特徴がある,B長期にわたり特異な経過をたどるなど,必ずしも一致しない点もある.

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抗NMDA受容体脳炎のMR SpectroscopyとMR Perfusion

形岡博史*   上野 聡**
* 奈良県立医科大学神経内科 ** 同教授

要  旨
 抗NMDA受容体脳炎の MR spectroscopy は,可逆性の N-acetylaspartate(NAA)の低下を示す.MR perfusion は急性期で全脳の高灌流を示し,回復期にはその高灌流は軽減する.

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急性抗NMDA受容体脳炎の脳波

池田昭夫**1   人見健文*1*2 松本理器*1    井内盛遠*1
*1 京都大学大学院医学研究科臨床神経学(神経内科) **1 同准教授 *2 同呼吸管理睡眠制御学講座

要  旨
 急性抗NMDA受容体脳炎の脳波所見を,過去の文献および自験2例での結果に基づいて一般の急性脳炎での所見と比較して概説した.急性期にはびまん性の徐波化を示す以外に,速波が消失する病態ではなく,さらに自験2例では速波の burst が徐波と律動的な複合を形成する,burst and slow complex を呈し,burst 部と slow 部で大脳皮質の興奮性の相違が示唆された.脳炎の病態把握と診断上,さらに多数例での検討が待たれる.

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抗NMDA受容体脳炎の治療

関 守信*
* 慶應義塾大学医学部神経内科

要  旨
 抗NMDA受容体抗体は卵巣奇形種に随伴することが多く,傍腫瘍性神経障害の範疇に含まれる.従来,傍腫瘍性神経障害は治療抵抗性で予後不良と考えられてきたが,細胞膜抗原(NMDA 受容体)に対する抗体陽性の辺縁系脳炎は治療反応性があることが多い.抗NMDA受容体脳炎の治療は,腫瘍摘出術,免疫療法,支持療法の3つに大別される.本稿では 2008 年に Dalmau らにより報告された 100 例の抗NMDA受容体脳炎の解析結果を中心に,その治療について概説する.

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対談
血液および血液疾患を語る(第4回)
 血栓症をコントロールする


ゲスト  池田 康夫 先生(慶應義塾大学)
聞き手  齋藤 英彦 先生(名古屋セントラル病院)

 対談シリーズ「血液及び血液疾患を語る」は、司会を名古屋セントラル病院・齋藤英彦先生にお願いし、お招きするゲストの先生方にご自身の研究の内容や失敗談、成功談をお伺いしながら、本誌の対象読者である若手研究者へのアドバイスを頂き、日頃の臨床・研究活動に役立てていただくことを願って企画致しました。ゲストにはこの分野の基礎を築いて来られた方々、また現在も第一線で研究を続けておられる方々をお招きしています。
 第4回はゲストに慶應義塾大学教授・池田 康夫 先生をお迎えして「血栓症をコントロールする」をタイトルにお話をお伺いしました。
 外科では絶対治せない領域との理由から血液学に進まれた池田先生でしたが、留学先のブラウン大学でBaldini教授の研究室に留学されたことで診療から研究まで血小板について徹底的に学ばれたそうです。
 留学中、血小板の保存法についての実験では1回につき3Lもの血液が必要で、それを集める為に毎日のようにロードアイランドの刑務所まで通われたので顔馴染みになる受刑者もおり、町で偶然出会ってびっくりされたこともあったそうです。
 留学後は慶應義塾大学の輸血センターに専任講師として戻られ、様々なコラボレーションが可能であったことからご専門である血管内のずり応力について精力的に研究を進められ大きな成果を上げられました。
 この他にも人工血小板のお話や2011年に京都で開催され池田先生が大会長を務められる第23回 国際止血血栓学会についても興味深いお話を伺いました。 

 是非お読み下さい。


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