最新医学64巻8号
 
特集 心房細動の総合的マネージメント


要  旨


アプローチ
ガイドラインに基づいた心房細動治療

三田村秀雄*

* 東京都済生会中央病院 循環器科・副院長
要  旨
 心房細動に対する包括的アプローチが求められる中,本邦でも JAST,J-RHYTHM,J-BAF などのエビデンスが集積され,新しいガイドラインが示された.そこではまず抗血栓療法を重視し,孤立性発作性心房細動では Na チャネル遮断薬によるリズム治療を推奨した.一方,持続性心房細動や病的心に伴う心房細動にはレート治療を基本方針とするものの,ベプリジル,ソタロール,アミオダロンなどによる注意深いリズム治療も選択肢に含めた.

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疫学・分類・病態生理・予後
日本人の心房細動の疫学 ―年代・年齢・自然歴―

坂本 有*   井上 博**
* 富山大学医学部第二内科 ** 同教授

要  旨
 日本における心房細動の有病率は男女いずれも加齢とともに増加し,報告によって多少の差はあるものの,80 歳以上では男性が約4%,女性が約2%と男性のほうが多い.欧米の報告よりも有病率は低いが,新規発症率は特に男性において経年的に増えており,今後も患者数は増加し続けると思われる.抗不整脈薬を投与しても一定の割合で慢性心房細動に移行するため,危険因子の管理による予防医学が今後の重要課題になると思われる.

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疫学・分類・病態生理・予後
心房細動の分類と基礎疾患

新 博次*
* 日本医科大学多摩永山病院内科・循環器内科 教授

要  旨
 心房細動を初めて発症したものを初発性として,発症からの時間経過により発作性,持続性,永続性に分類される.背景にある病態により弁膜症性,非弁膜症性に分類され,明らかな病因を診断し得ない場合には孤立性(lone)心房細動と呼ばれている.今日までの研究成果により,家族性に発症する遺伝性心房細動には SCN5A の変異ないし異型が関連することが報告された.

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疫学・分類・病態生理・予後
心房細動の発生機序

山田優子*   鎌倉史郎**
* 国立循環器病センター心臓血管内科 ** 同部長

要  旨
 心房細動の発生機序は従来,心房内リエントリー説と異所性異常興奮説の2つが議論されてきた.最近では,多くは肺静脈で生じる期外収縮が心房細動開始のトリガーとなっていることが判明し,心房細動の開始機序と心房細動が維持される機序とに区別して議論されるようになっている.心房細動が持続すると心房筋に電気的リモデリングが生じ,さらに心房細動の発生を容易にし,またさらに心房細動が持続すると不可逆的な構造的リモデリングが出現し,心房細動は慢性化しやすくなる.

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疫学・分類・病態生理・予後
心房細動と炎症 ―心内膜リモデリング―


山下武志*
* (財)心臓血管研究所 研究本部長

要  旨
 心房細動を抗不整脈薬で治療するという狭い考え方からのパラダイムシフトが今生じている.これは,数多くの心房細動に関する大規模臨床試験が我々に教えてくれたこと,そしてすでに循環器ほかの領域で注目されてきた炎症のメカニズムが心房細動に応用され始めたことを考えると,当然の結果であろう.炎症性マーカーを用いた臨床報告,心房筋標本を用いた組織学的検討は,心房細動という不整脈にさまざまなメカニズムを介して炎症が関与することを明らかにしている.

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疫学・分類・病態生理・予後
心原性脳塞栓症の頻度と機能予後


目時典文*1  齊藤元太*1  萩井譲士*1
今田慶行**1  奥村 謙*2

*1 弘前脳卒中センター **1 同院長
*2 弘前大学大学院医学研究科循環呼吸腎臓内科 教授

要  旨
 脳卒中患者は現在,要介護人口の4割を占めると言われているが,特に心原性脳塞栓症は急激かつ広範な梗塞を来すため,他の病型に比して重症で,予後不良な病態である.高齢社会を迎えた我が国では心房細動の罹患者数が増加しているが,それと平行して心房細動を原因とする心原性脳塞栓症が急速に増えており,適切な予防策が必要と考えられる.

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薬物治療
Upstream Element と治療の意義

熊谷浩一郎*
* 福岡山王病院ハートリズムセンター センター長

要  旨
 心房ストレッチや炎症によるアンジオテンシンUの上昇は,Erk カスケードを活性化し,線維化を促進する.心筋の線維化は伝導障害を招き,多数のリエントリーが形成され心房細動は持続する.アンジオテンシン変換酵素阻害薬,アンジオテンシン受容体拮抗薬は短期的な電気的リモデリングを抑制するだけでなく,線維化のような長期的な構造的リモデリングに対しても抑制効果があるため,心房細動慢性化予防のアップストリーム治療になりうることが期待される.

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薬物治療
レートコントロールとリズムコントロール

相澤義泰*   小川 聡**

* 慶應義塾大学医学部循環器内科 ** 同教授

要  旨
 2008 年版に改訂された日本循環器学会(JCS)の心房細動治療ガイドラインでは,J-RHYTHM 試験の結果を踏まえ,孤立性・発作性心房細動の治療は第1選択として Na チャネル遮断薬を用いてリズムコントロールを行うことが推奨されている.一方,孤立性・持続性心房細動および器質的病的心に伴う心房細動に対しては,アップストリーム治療を優先したうえでレートコントロールをまず行い,必要があればリズムコントロールを行う.

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薬物治療
新規抗心房細動薬 ―方向性と開発状況―

中谷晴昭*
* 千葉大学大学院医学研究院薬理学 教授

要  旨
 日本における心房細動治療において,QOL の観点からリズムコントロールの意義が認められたが,ダウンストリームアプローチとして使用される現存の抗心房細動薬は過度の QT 延長や torsade de pointes を引き起こすことから,必ずしも理想的な治療薬とは言い難い.心房筋細胞活動電位に関与する膜電流の中で特徴的なものは,非常に速い活性化過程を示す遅延整流K+ 電流(IKur)とアセチルコリン感受性K+ 電流(IK.ACh)であり,これらに対する特異的遮断薬の探索が精力的に進められている.

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薬物治療
血栓塞栓の機序と抗凝固療法

是恒之宏*
* 独立行政法人国立病院機構大阪医療センター臨床研究センター センター長

要  旨
 心房細動における血栓形成と心原性脳塞栓を予防することは極めて重要である.血栓形成には心房内の血流うっ滞以外にも,Virchow の3要素である心房内膜,血液性状などが重要であることが分かってきた.脳塞栓のリスク評価として臨床的に用いられる CHADS2 スコアは比較的簡単にスコア化が可能であり,日本循環器学会ガイドライン 2008 年改訂版ではこの評価法が用いられている.スコアに応じた積極的な抗凝固療法が推奨される.

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非薬物治療
心房細動アブレーション ―原理と三次元マッピングの役割―

畔上幸司*1  沖重 薫*2
*1 横浜市立みなと赤十字病院心臓病センター内科 第2循環器科部長
*2 同 第1循環器科部長

要  旨
 心房細動は肺静脈内の異常興奮から発生すると考えられ,これを標的とした心房細動アブレーションが行われている.当初,肺静脈内の異常興奮部位に対する選択的アブレーションが行われていたが,まもなく肺静脈隔離アブレーション術が開発された.最近では難治例に対し,左房内の線状アブレーションや CFAE と呼ばれる異常電位に対するアブレーションも展開されている.心房細動アブレーションでは三次元マッピングが多用される.

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非薬物治療
ペースメーカーで細動は予防可能か

野呂眞人*   杉  薫**
* 東邦大学医療センター大橋病院循環器内科 講師 ** 同教授

要  旨
 ペースメーカーによる発作性心房細動の予防には,ペースメーカーモードの選択,発作性心房細動予防のアルゴリズム,心室ペーシング抑制アルゴリズム,心房・心室のペーシング部位などを考慮する必要がある.
 発作性心房細動が発症しこれが持続するためには,発症の引き金(トリガー)となる上室性期外収縮と,発作性心房細動が持続するための基質が必要である.このトリガーを抑制するのがペースメーカーの発作性心房細動抑制のアルゴリズムで,基質を抑制するのがペーシング部位に当たり,さらに,ペースメーカーモードや心室ペーシング抑制アルゴリズムはトリガーや基質を増悪させる心機能に関与すると考えられる.

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非薬物治療
外科用アブレーションデバイスを用いた新しい心房細動手術

石井庸介*1  新田 隆*2
*1 日本医科大学千葉北総病院胸部・心臓血管・呼吸器外科 講師
*2 日本医科大学心臓血管外科 教授

要  旨
 心房細動手術の基本は,伝導ブロックを作製し,マクロリエントリーや異常興奮の伝播を遮断することである.伝導ブロックは従来,切開・縫合や凍結凝固によって作製されてきたが,出血の危険性や時間がかかるといった問題があった.近年,高周波,マイクロ波などをエネルギー源とした新しい外科用アブレーションデバイスが開発され,心房細動治癒率は従来の切開・再縫合と同等であるうえに,より簡単かつ低侵襲に行うことができるようになった.

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対談
血液および血液疾患を語る(第5回)
 放射線と血液障害


ゲスト  朝長 万佐男  先生(長崎大学)
聞き手  齋藤 英彦 先生(名古屋セントラル病院)

 対談シリーズ「血液及び血液疾患を語る」は、司会を名古屋セントラル病院・齋藤英彦先生にお願いし、お招きするゲストの先生方にご自身の研究の内容や失敗談、成功談をお伺いしながら、本誌の対象読者である若手研究者へのアドバイスを頂き、日頃の臨床・研究活動に役立てていただくことを願って企画致しました。ゲストにはこの分野の基礎を築いて来られた方々、また現在も第一線で研究を続けておられる方々をお招きしています。
 第5回はゲストに長崎大学・朝長 万左男 先生をお迎えして「放射線と血液傷害」をタイトルにお話をお伺いしました。
 なぜ被爆者は白血病を起こすのか疑問をもたれ長崎大学医学部附属原爆障害医療研究施設(原研)に入局された朝長先生ですが、入局から2年半で長崎市内や広島で発生した白血病の標本全てを鏡検して、臨床データから血液所見、診断、分類まで全て英語で記録されたそうです。
 原爆の影響は爆心地から半径2km以内が致死的で、非常に強い骨髄障害と腸管の壊死、上皮の脱落が起こるそうで幹細胞を含めて細胞回転が速いものほど感受性が高く傷害を受け易いためです。
 更に、被爆の影響は長期にわたり、現在は高齢化した被爆者に骨髄異形成症候群(MDS)がらみの白血病のピークが出つつある(生涯持続性)そうで、現在その原因について研究を進められているそうです。
 またUCLA留学時代のお話や成人T細胞白血病(ALT)、チェルノブイリ事故における内部被爆と外部被爆の違いなどについてもお話を伺いました。
 この他にも日本の西洋医学の原点である長崎大学医学部の歴史など興味深いお話を伺いました。 
 是非お読み下さい。


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