最新医学64巻9号
 
特集 炎症性腸疾患 -最新知見-


要  旨


アプローチ
炎症性腸疾患研究・治療の最前線 ―劇的な変化の時代に求められるもの―

中村哲也*   渡辺 守**

* 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科消化器病態学講師 ** 同教授
要  旨
 我が国における潰瘍性大腸炎,クローン病患者数は増加しているのみならず,治療抵抗を示す難治例や重症例が多くなっていることが問題となっている.しかしながら,近年の基礎研究の急速な進歩と臨床研究から得られるエビデンスの蓄積により,炎症性腸疾患(IBD)の臨床を取り巻く環境も劇的な変貌を遂げつつある.本稿では,IBD の基礎と臨床に関する最近の変化を概説するとともに,厚生労働科学研究費補助金事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班の活動についても簡単に触れたい.我が国から世界へ発信する研究・臨床技術の開発や,国内における質の高い臨床試験の遂行が可能な IBD 治療の新時代が来ることが期待される.

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基礎から臨床へ
ゲノムワイド相関研究から明らかになった新しい治療標的

木内喜孝*1  高橋成一*2  角田洋一*2 下瀬川 徹**2
*1 東北大学保健管理センター准教授
*2 東北大学大学院医学系研究科消化器病態学分野 **2 同教授

要  旨
 ヒトゲノムプロジェクト,HapMap プロジェクト,SNP タイピング技術の進歩により,遂にゲノムワイド相関解析(GWAS)が可能となり,すでに十数件の報告がなされている.その結果,30ヵ所以上の相関領域が特定されるとともに,以前全く予想できなかった炎症性腸疾患(IBD)に関与する molecular pathway(オートファジー,IL-23R シグナル経路)を示してくれた.その示された molecular pathway は,IBD の治療標的になるものと考えられた.

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基礎から臨床へ
新しい免疫病態とターゲット療法

仲瀬裕志*   千葉 勉**
* 京都大学消化器内科内視鏡部 講師 ** 同教授

要  旨
 抗TNFα抗体の出現は,炎症性腸疾患(IBD),特にクローン病治療法の流れを大きく変えてきた.近年,IBDの病態にかかわる接着分子や IL-12 などの種々のサイトカインに対する抗体の開発,T細胞を制御する治療に関する臨床試験が欧米では行われている.5−アミノサリチル酸(5-ASA)やステロイド製剤のみの時代から biologics を用いた治療法の選択へ.時代は変わりつつある.今後は病態の解明が進むにつれて,個々の患者の免疫制御を目的とした biologics による治療が中心となる時代がやってくるかもしれない.

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基礎から臨床へ
腸管上皮研究の新展開と粘膜再生・修復療法への挑戦

土屋輝一郎*
* 東京医科歯科大学医学部消化器病態学 講師

要  旨
 腸管上皮細胞の研究は,再生医療に関して他臓器と比較して大きく遅れていたが,幹細胞の同定・培養やシグナルによる分化制御機構の解明など,再生医療の根本となる知見が相次いで発表されており,ブレークスルーとなっている分野である.本稿では,幹細胞同定,単細胞からの上皮構築の意義,さらに腸管上皮幹細胞に代わる骨髄由来細胞,iPS 細胞による修復療法への可能性を論じる.

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基礎から臨床へ
発症にかかわる腸内細菌と治療標的としての可能性


安藤 朗*   藤山佳秀**
* 滋賀医科大学消化器内科講師 ** 同教授

要  旨
 腸内細菌叢は,炎症性腸疾患(IBD)の病態形成において重要な役割を果たしている.腸内細菌の多くが難培養菌からなり,従来の培養法を用いた解析法ではその全容をとらえることは困難であった.16S リボソーム RNA(DNA)を標的とした分子生物学的解析法の進歩は,腸内細菌叢の全容解析につながる有用なアプローチである.ここでは,IBD の病因・病態における腸内細菌叢の役割と,腸内細菌叢を標的とした治療法について述べる.

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基礎から臨床へ
炎症を母地とする発がん機構解明とがんサーベイランス


渡邉聡明*
* 帝京大学外科 教授

要  旨
 潰瘍性大腸炎(UC)合併がんは,一般大腸がんとは異なった遺伝子学的特徴を有している.p53 遺伝子は腫瘍性変化の早期から異常が認められる.エピジェネティックな変化として,p16 や ER などのプロモーター領域の hypermethylation が UC 合併がんで報告されている.これらの遺伝子変化をサーベイランスに利用して,がん化の高リスク例を選別しようとする研究も行われている.

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潰瘍性大腸炎
潰瘍性大腸炎の治療指針・ガイドラインをいかに臨床に活かすか

上小鶴孝二*   松本誉之**
* 兵庫医科大学内科学下部消化管科 ** 同教授

要  旨
 潰瘍性大腸炎(UC)の発症メカニズムは現段階では解明されていない.ゆえに,治療法の選択に難渋することも多い.一般的な治療においては,研究班の治療指針と 2006 年に難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班プロジェクト研究グループが示した UC の診療ガイドラインが利用されている.これらにより,以前と比較して UC のフォローアップが行いやすくなってきているが,それを実際の臨床現場でどのように活かすか検討した.

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潰瘍性大腸炎
寛解を目指すための薬剤選択 ―5-ASA 製剤と免疫調整薬の使い方―

高津典孝*   松井敏幸**

* 福岡大学筑紫病院消化器科 ** 同教授

要  旨
 潰瘍性大腸炎(UC)の根本治療は確立していないため,治療目標は薬物療法による速やかな寛解導入と長期寛解維持である.2006 年6月にアザチオプリンが保険適応となり,ステロイド依存性 UC の寛解維持が可能となった.また,2008 年 12 月には 5−アミノサリチル酸(5-ASA)の高用量投与が可能となり,2009 年7月にはタクロリムスが難治性 UC に対して保険適応となった.今後は,これらの治療をどのように有効に組み立てるかという戦略の確立が急務である.

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潰瘍性大腸炎
症状増悪因子としての腸管感染症への対応

平田一郎**  藤田浩史*
* 藤田保健衛生大学消化管内科 ** 同教授

要  旨
 潰瘍性大腸炎(UC)に合併する腸管感染症は,UC 増悪因子であるとともに UC 難治化の原因でもある.このような腸管感染症として従来よりサイトメガロウイルス(CMV)腸炎や Clostridium difficile 腸炎がよく知られているが,それ以外の病原体(病原性大腸菌など)が関与する可能性も考えておくべきである.UC の再燃時やステロイド抵抗性の難治例においては,腸管感染症の関与も念頭に置き,便,腸液,病変部粘膜,血液などによる病原体の検索も併せて行うべきである.

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クローン病
新しい診断技術は実際の臨床に役立つのか

押谷伸英**  星 智子*   上田美和* 福永周生*   田淵真彦*  
田中史生* 青松和輝*   山形 知*        

* 泉大津市立病院消化器内科 ** 同副院長

要  旨
 クローン病(CD)の診断や病状把握に関して,欧米ではMRIやCTを用いた小腸造影検査(enteroclysis)により,腸管外病変の描出のみならず,腸管を描出する試みが行われている.本邦においては,内視鏡検査および消化管造影検査法が普及しており,MRIやCTによる小腸造影検査に関してはそれほど行われていない.一方,本邦においてダブルバルーン小腸内視鏡検査が開発され,深部小腸の観察が容易になったことから,CD の診断,治療における深部小腸病変の内視鏡的観察が重要視されるようになった.

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クローン病
クローン病における生物学的製剤,分子標的薬開発ラッシュの現況

筋野智久*   長沼 誠**  日比紀文***
* 慶應義塾大学医学部消化器内科 ** 同特別研究講師 *** 同教授

要  旨
 クローン病は原因不明で,外科処置を行っても再燃を繰り返す疾患である.これまで栄養療法を中心として,5−アミノサリチル酸,ステロイドなどが内科的治療の中心であった.近年インフリキシマブをはじめとした抗 TNFα抗体療法導入以来,新たな生物学的製剤,分子標的薬が次々と開発され,治療効果が期待される.

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クローン病
栄養療法と薬物療法をいかに併用していくか

小林清典**  迎 美幸*   福島 瞳* 春木聡美*   山縣 仁*
横山 薫* 佐田美和*   
* 北里大学東病院消化器内科 ** 同講師

要  旨
 クローン病(CD)に対する内科的治療法には,栄養療法と薬物療法がある.従来は栄養療法が第1選択とされてきたが,抗 TNFα 抗体製剤などの有力な薬物療法の登場により,治療法も変化してきている.現在問題になっているのは,栄養療法と薬物療法をいかに併用するかであるが,併用効果についての前向き研究は行われていない.したがって,現時点で両治療法の併用法を明確にすることは難しい.しかし CD の病変部位や重症度,腸管合併症の有無,治療への受容性などが,併用法を決定するうえで重要な指標になると考える.

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日本から世界へ
小腸内視鏡の診断法および治療への応用

矢田親一朗*1  松本主之**1  平井郁仁*2 松井敏幸**2  飯田三雄***1
*1 九州大学大学院医学研究院病態機能内科学 **1 同講師 ***1 同教授
*2 福岡大学筑紫病院消化器科 **2 同教授

要  旨
 バルーン内視鏡とカプセル内視鏡の実用化により,小腸疾患の診断と治療に変革がもたらされた.これらの手技は,炎症性腸疾患(IBD)の診断と治療に有用である.クローン病(CD)の診断におけるカプセル内視鏡の意義は主に欧米で検討されており,小病変の診断に有用であることが明らかとなっているものの,滞留が問題となる.一方,バルーン内視鏡は CD の診断のみならず,狭窄病変に関する拡張術が本邦の多施設で検討されており,その臨床的効果が世界に発信されつつある.今後,IBD の診断と治療における小腸内視鏡の役割に関するエビデンスの確立が急務である.

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日本から世界へ
日本から世界に発信する新しい治療

後 裕*
* 旭川医科大学内科学講座 消化器・血液腫瘍制御内科学分野 教授

要  旨
 我が国で開発された炎症性腸疾患の治療薬,治療機器の中で,世界に発信されたもの,今後発信される可能性のあるものについて述べる.アフェレーシス,タクロリムス,経口球形吸着炭細粒,抗 IL-6 受容体抗体,粘膜防御薬の局所療法,経口インテグリン阻害薬などがあり,前二者は我が国での保険適応になっており,今後の世界展開が待たれる.その他は臨床試験の結果が世界に発信されており,欧米での臨床試験結果が待たれる.

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対談
血液および血液疾患を語る(第6回)
 サイトカインと細胞の増殖・分化・死


ゲスト  朝長 万佐男  先生(長崎大学)
聞き手  齋藤 英彦 先生(名古屋セントラル病院)

 対談シリーズ「血液及び血液疾患を語る」は、司会を名古屋セントラル病院・齋藤英彦先生にお願いし、お招きするゲストの先生方にご自身の研究の内容や失敗談、成功談をお伺いしながら、本誌の対象読者である若手研究者へのアドバイスを頂き、日頃の臨床・研究活動に役立てていただくことを願って企画致しました。ゲストにはこの分野の基礎を築いて来られた方々、また現在も第一線で研究を続けておられる方々をお招きしています。
 第5回はゲストに長崎大学・朝長 万左男 先生をお迎えして「放射線と血液傷害」をタイトルにお話をお伺いしました。
 なぜ被爆者は白血病を起こすのか疑問をもたれ長崎大学医学部附属原爆障害医療研究施設(原研)に入局された朝長先生ですが、入局から2年半で長崎市内や広島で発生した白血病の標本全てを鏡検して、臨床データから血液所見、診断、分類まで全て英語で記録されたそうです。
 原爆の影響は爆心地から半径2km以内が致死的で、非常に強い骨髄障害と腸管の壊死、上皮の脱落が起こるそうで幹細胞を含めて細胞回転が速いものほど感受性が高く傷害を受け易いためです。
 更に、被爆の影響は長期にわたり、現在は高齢化した被爆者に骨髄異形成症候群(MDS)がらみの白血病のピークが出つつある(生涯持続性)そうで、現在その原因について研究を進められているそうです。
 またUCLA留学時代のお話や成人T細胞白血病(ALT)、チェルノブイリ事故における内部被爆と外部被爆の違いなどについてもお話を伺いました。
 この他にも日本の西洋医学の原点である長崎大学医学部の歴史など興味深いお話を伺いました。 
 是非お読み下さい。


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