最新医学64巻9月増刊号 
臨床遺伝子学'09 -がんの遺伝子学-


要  旨


アプローチ
基礎から臨床へと変化するがん研究

菅野 純夫

東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授
要  旨
 がん研究は,モデル系を使った基礎的研究から,ゲノムプロジェクトを契機に,臨床サンプルを使い,より臨床に密着した研究へと変化しつつある.その最新の動向をゲノムを軸に紹介していく.

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がん遺伝子学の最新動向
次世代シーケンシング技術によるがんゲノム解析

油谷 浩幸
東京大学先端科学技術研究センターゲノムサイエンス分野 教授

要  旨
 次世代シーケンシング技術の進歩によりがんゲノムの網羅的解析が現実化してきており,ゲノム配列解析がいずれは“臨床検査”となることが予想される.ゲノム・エピゲノム情報に基づいた個別化医療の実現が期待される一方で,医療関係者は膨大な情報処理のスキームについて十分な準備を進める必要がある.

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がん遺伝子学の最新動向
エピゲノムとがん

牛島 俊和
国立がんセンター研究所発がん研究部 部長

要  旨
 DNA メチル化とヒストン修飾によるエピジェネティック修飾の異常は,発がんに深く関与する.エピゲノム解析により,エピジェネティック異常は1つのがん細胞に多数存在すること,一見正常に見える組織でも特定の異常が多数の細胞に存在しうること,特定の誘発要因により特定の遺伝子に誘発されることなどが分かってきた.これらの特徴をいかして,がんの存在・病態・リスク診断に応用が試みられ,エピジェネティック薬剤の臨床導入も始まった.

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がん遺伝子学の最新動向
染色体構造異常とがん

稲澤 譲治
東京医科歯科大学難治疾患研究所ゲノム応用医学研究部門 教授

要  旨
 次世代型超高速 DNA シークエンサーの登場で,がんゲノム研究もパーソナルゲノムシークエンス時代に突入した.染色体レベルと塩基レベルで区別されていたがんゲノム解析のギャップは埋められつつある.細胞遺伝学の研究者が顕微鏡によってがん特異的染色体異常を見つけたように,今や,情報科学者によって大量シークエンス情報の中から,がん化のドライバー変異(driver mutation)が見つけ出される時代になってきている.

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がん遺伝子学の最新動向
マイクロRNAの機能異常とがん


土屋 直人
国立がんセンター研究所生化学部

要  旨
 機能性 non−coding RNA の1つであるマイクロ RNA(miRNA)は,遺伝子発現を転写後レベルで制御する.近年,miRNA の発現異常が多くのがんにおいて認められ,その機能異常と発がんとの関連が注目されている.miR−34a は,がん抑制因子 p53 が構築するがん抑制ネットワーク内で機能する miRNA であり,細胞周期調節因子の発現制御と p53 経路の活性化を介して,細胞増殖を抑制する.本稿では,miR−34a の機能を中心に,miRNA の発がん過程における役割について論じる.

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がん遺伝子学の最新動向
がん多発家系 -先天性疾患研究からの新展開-


水谷 修紀
東京医科歯科大学小児科 教授

要  旨
 がん/白血病はがん化に向けた複数のイベントが蓄積する結果起り,環境要因と遺伝要因の複雑な相互作用により決定づけられている.環境と遺伝の相互作用の中で特に遺伝要因のかかわりが明らかになりつつあるのは注目に値する.がんと先天性疾患という視点は,大人も含めたがん多発家系を理解するうえで大きなヒントを与える.

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がん遺伝子学の最新動向
ゲノム解析新時代における国際がんゲノム共同研究

柴田 龍弘
国立がんセンター研究所ゲノム構造解析プロジェクト プロジェクトリーダー

要  旨
 大量シークエンス技術によりがんゲノム解析研究は大きな変革期を迎え,がん研究機関どうしのネットワークを国際的に広げた大型プロジェクトが開始されている.これは,がんゲノム解析に関する標準的なルールを提唱し,解析結果を共通のデータベースで公開し,がんの予防・診断・治療・研究を加速することが目的である.こうした動きは,将来ゲノム情報に RNA やタンパク質の発現を加えたがん OMICS データベース構築にとっても重要である.

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がん遺伝子学の最新動向
コピー数異常とがん

小川 誠司

東京大学医学部附属病院がんゲノミクスプロジェクト 特任准教授

要  旨
 がんはゲノムの変異に起因して生ずる疾患であって,がんの病態解明,さらには有効な治療薬剤の開発という観点からは,発がんの過程に関与するゲノムの異常を明らかにすることが本質的に重要である.がんではさまざまなゲノムの変化が生じるが,近年のゲノム解析技術の革新によって,がんで生じているゲノムの変化を網羅的に解析することが可能となりつつある.本稿では,マイクロアレイを用いたがんにおけるゲノムのコピー数異常の解析について概説する.

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がんマーカーとゲノム解析
肺発がんリスクを決める遺伝子多型 -GWAS を中心に-

河野 隆志**  白石 航也*
*国立がんセンター研究所生物学部 **同室長

要  旨
 昨今の数千サンプル規模のゲノム網羅的関連解析(GWAS:genome−wide association study)により,肺発がんリスクと関連する遺伝子多型が同定されている.また,メタ解析により,以前より検討されてきた薬物代謝・DNA 修復遺伝子の多型と肺発がんリスクとの関連が示されている.今後,これらの遺伝子多型の組合わせによる肺発がん高危険度群の把握が期待される.

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がんマーカーとゲノム解析
肺癌の分子バイオマーカー:臨床応用に向けた探索戦略

醍醐 弥太郎*   中村 祐輔**
*東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター 准教授 **同教授,センター長

要  旨
 米国食品医薬品局(FDA)が薬剤開発におけるファーマコゲノミクスのデータの提出を推奨するガイダンスを公表したことで示されるとおり,医薬品開発の基盤資源となるバイオマーカーの重要性が認識され,その開発競争が熾烈となっている.一方で,産学官が一体となったコンソーシアムのもとで,迅速なバイオマーカーの探索・開発・実用化が試みられている.本稿では,臨床応用を念頭に置いた肺癌の分子バイオマーカー探索の試みを概説する.

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ガンマーカーとゲノム解析
マイクロアレイ解析から見えてきた未分化型胃癌の発生母地とびまん性浸潤・増殖の分子機構
-腹膜再発予測・抑制へ向けて-

佐々木 博己*1  青柳 一彦*1 深川 剛生*2  片井  均*2
*1国立がんセンター研究所腫瘍ゲノム解析・情報研究部
*2国立がんセンター中央病院胃外科

要  旨
 胃癌は,一般型として7種類(pap,tub1,tub2,por1,por2,sig,muc),特殊型として6種類に分類されており,極めて多様性に富むことで知られている.ここでは頻度の高い一般型のうち,intestinal type(pap,tub1,tub2,por1)と diffuse type(por2,sig)のマイクロアレイによる発現プロファイルを比較し,びまん性の浸潤・増殖をする後者に特徴的な信号伝達経路を中心に紹介する.

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がんマーカーとゲノム解析
プロテオーム解析による肝細胞癌のバイオマーカーの開発

近藤  格
国立がんセンター研究所プロテオーム・バイオインフォマティクス・プロジェクト

要  旨
 肝細胞癌の治療成績の向上を目指して,早期再発のためのバイオマーカー,早期肝内再発予測のためのバイオマーカーの開発がプロテオーム解析によって行われている.プロテオームとは発現するすべてのタンパク質の全体像を表す言葉であり,ゲノム,トランスクリプトームに対応している.プロテオーム解析はここ 10 年で著しく進展している.その成果を臨床に結びつけるには,基礎医学研究者,臨床医,企業の密接な連携が必要である.

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がんマーカーとゲノム解析
乳癌のトランスクリプトーム情報による抗がん剤の効果予測

三木 義男
東京医科歯科大学難治疾患研究所分子遺伝分野 教授

要  旨
 がんの遺伝子発現(トランスクリプトーム)情報や患者の遺伝子多型情報が,がんの発生や進展,さらに抗がん剤の治療効果や副作用に影響することが明らかとなり,個々の患者に最適な治療を提供する個別化医療の実現が期待されている.乳癌においても,遺伝子発現情報を駆使することによってがんの“個性”を明らかにし,抗がん剤治療の応答性や再発・予後など臨床経過を正確に予測するバイオマーカーの開発が進められている.

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がんマーカーとゲノム解析
急性白血病の遺伝子異常

南谷 泰仁*1  黒川 峰夫*2
*1東京大学医学部附属病院血液・腫瘍内科
*2東京大学大学院医学系研究科血液・腫瘍内科学 教授

要  旨
 急性白血病にみられる遺伝子異常の解析は染色体の核型によるものが中心であったが,解析技術の進歩によって塩基配列の変異・欠失・増幅や発現量の異常を併用することが可能になった.これによって,我々はさらにきめ細かい予後予測因子を手に入れたのみでなく,疾患の分子学的な病態解明と新規治療法開発への手がかりを得たことになる.ここでは,そのような観点から急性白血病にみられる遺伝子異常を概説する.

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がんマーカーとゲノム解析
成人T細胞白血病(ATL)の遺伝子発現解析

渡邉 俊樹
東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授

要  旨
 成人T細胞白血病(ATL)検体について2種類の発現プロファイル解析を行い,特異的に過剰発現する遺伝子群を明らかにした.ATL 検体での検証実験を経て,高頻度に過剰発現する遺伝子パネルを作成し 12 個の遺伝子を対象とした感受性と特異性と検証した.このパネルによる RT−PCR アレイのデータから“ATL 型発現スコア”を定義し,キャリア検体を対象に発症危険群同定への応用を検討中である.マイクロ RNA 発現解析では特異的発現低下を示すものについて機能解析を行っている.

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がんマーカーとゲノム解析
小児がんのゲノム解析と予後予測
-網羅的ゲノム異常ならびに遺伝子発現情報を用いた神経芽腫の予後予測システムの構築-

*1千葉県がんセンター研究所がんゲノム研究室 *2千葉県がんセンターセンター長
大平 美紀*1  中川原  章*2

要  旨
 マイクロアレイによる網羅的遺伝子解析が,がんの個別化医療実現に向けた新しい診断法として臨床で実用化される時代が到来した.代表的な小児がんの1つである神経芽腫についても,マイクロアレイを用いて得られた腫瘍のゲノム異常ならびに遺伝子発現プロファイルの両方を予後マーカーとして用いることで,従来リスク予測が困難であった症例についても精度の高いリスク分類システムの構築が可能であることが示された.

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ゲノムと薬物療法
がん治療薬選定とファーマコゲノミクス

西尾 和人
近畿大学医学部ゲノム生物学教室 教授

要  旨
 バイオマーカーによる治療法の選定は,がん分子標的治療を中心に進んでおり,個別化治療に直結する.多種のバイオマーカーのうち,がん組織における体細胞変異による治療法の選択による治療効果の結果が,大規模比較臨床試験で示されている.日常臨床で用いる場合に注意するべき点も整理されつつある.

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ゲノムと薬物療法
薬剤耐性とファーマコゲノミクス

東條 有伸
東京大学医科学研究所先端医療研究センター分子療法分野 教授

要  旨
 薬剤の作用点や代謝経路,細胞内外の輸送機序などの理解が進む一方で,これらを規定する遺伝子群における多型性の存在が薬剤の治療効果や副作用の発現を予測するうえで重要な因子となりつつあり,薬剤応答の個人差と遺伝子多型との関連を解析するファーマコゲノミクスによって,治療法の選択や副作用の回避など臨床上有用な知見が得られることが期待されている.特に,今後展開される分子標的治療における意義は大きい.

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ゲノムと薬物療法
抗がん剤の薬物体内動態・薬物毒性と薬理ゲノミクス

山本 武人*   鈴木 洋史**
*東京大学医学部附属病院薬剤部 **同部長

要  旨
 近年の薬理ゲノミクス研究の進展に伴い,医薬品添付文書などの中にも薬理ゲノミクス情報が記載されるようになってきている.また,最近ではイリノテカンの投与量調節を目的とした UGT1A1 遺伝子多型解析が保険診療として承認されるなど,薬理ゲノミクス情報の臨床応用はすでに現実のものとなっている.本稿では,イリノテカンの体内動態,副作用と UGT1A1 遺伝子多型の関係を例に,遺伝子多型頻度の人種差の問題にも触れつつ解説する.

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ゲノムと薬物療法
がん薬物療法における抗体医薬と薬理遺伝学

市川 度
防衛医科大学校腫瘍化学療法部 副部長

要  旨
 抗体医薬は一般に高価であり,薬理遺伝学的アプローチは医療経済的側面からも支持される.抗体医薬に対する薬理遺伝学的なバイオマーカーとしては種々の遺伝子多型が検討されているが,実際に臨床応用されているものは上皮増殖因子受容体(EGFR)抗体医薬に対する K−ras 遺伝子変異のみである.バイオマーカーとして臨床応用を目指すには前向き試験に加え測定法の標準化が必要であるが,一方で規制当局の対応における温度差が如実になっている.

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ゲノムと薬物療法
医薬品開発とファーマコゲノミクスの最新動向

玉起 美恵子
アステラス製薬株式会社研究本部研究推進部

要  旨
 各国は例外なく,ファーマコゲノミクスを活用すべきという立場に立ち,さまざまな活動を行っている.今後は,それに加えてグローバルに産官学が連携して科学・技術,規制,倫理面などについて調和を図っていくことが望まれる.医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)や倫理指針を遵守したうえで適正に医学研究や臨床試験を実施していくことにより,より医療や社会のニーズに合った医薬品の開発が進められるとともに,医薬品開発の成功確率の向上や効率化につながることを期待する.

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遺伝子を標的とした医薬品の開発
チロシンキナーゼ阻害薬の新規ターゲット

間野 博行
自治医科大学ゲノム機能研究部 教授


要  旨
 チロシンキナーゼは本来,細胞の正常増殖をつかさどる極めて重要なシグナル伝達分子である.同キナーゼの活性型点突然変異や融合キナーゼの産生がヒト悪性腫瘍細胞においてしばしば認められ,これらの腫瘍においては異常キナーゼこそが発がんの主たる原因であると考えられる.活性型チロシンキナーゼは悪性腫瘍の治療標的分子として最適であり,現在多くのチロシンキナーゼ阻害薬の実用化が試みられている.

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遺伝子を標的とした医薬品の開発
低酸素反応を標的とした医薬品の開発

江角 浩安
国立がんセンター東病院 院長


要  旨
 ヒトの腫瘍は予想以上に強い低酸素にさらされている.この低酸素は血液の供給不足による.発生の初期から血流不足の中で選択淘汰されたがん細胞の悪性化の過程は,低酸素と低栄養への適応の過程である.がん化にかかわるメカニズムは,細胞増殖の点から語られることが多いが,この環境への適応からとらえ直すことにより新しい分子メカニズムの発見につながるとともに,新らしい治療薬開発の端緒ともなる.治療薬の作用点も新しい視点からとらえ直すことができる.

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遺伝子を標的とした医薬品の開発
がんにおける小胞体ストレス -UPR を標的とした抗がん剤の開発

齋藤 さかえ*   冨田 章弘**
*財団法人癌研究会癌化学療法センターゲノム研究部 **同部長


要  旨
 小胞体ストレス応答(UPR)は,細胞のストレス適応応答の機構の1つであり,腫瘍内の低酸素や低グルコースなどの微小環境におけるがん細胞の生存に重要な役割を果たしている.UPR を標的とした治療は,固形癌の環境に選択性があり,抗がん剤耐性の改善を目指した新しい戦略である.遺伝子発現解析に基づいた UPR 阻害薬の探索も可能となり,ストレス下のがん細胞に選択的な毒性を示すリード化合物が多数同定されている.

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遺伝子を標的とした医薬品の開発
新しい抗がん剤の分子標的 NF−κB

鈴木 絵里子*1  梅澤 一夫*2
*1慶應義塾大学医学部泌尿器科特別研究教員 助教 *2慶應義塾大学理工学部応用化学科 教授


要  旨
 がん治療の標的としてがん細胞自身の持つがん遺伝子産物,がん抑制遺伝子産物などがあり,がん細胞の微小環境にある標的として,低酸素,血管新生,マクロファージ,ケモカインなどがある.NF−κB はがん細胞内在性および環境因子の両方に重要な分子標的である.我々が発見した阻害薬 DHMEQ はそのためがん抑制の作用点が多く,in vivo がんの増殖に強力な抑制効果を示した.

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遺伝子を標的とした医薬品の開発
TGF−β系

鯉沼 代造*   宮園 浩平**
*東京大学大学院医学系研究科病因・病理学専攻 分子病理学講座 **同教授


要  旨
 がん細胞ではしばしばトランスフォーミング増殖因子(TGF)−βファミリーシグナルの伝達・制御機構の破綻が認められる.TGF−βシグナルに対するさまざまな抗体・阻害薬が開発され,進行がんに対する治験が開始されている.一方,tumor initiating cell では骨形成タンパク質(BMP)シグナルの異常が指摘され,有望な創薬の対象として期待されている.今後,がんに有利な TGF−βファミリーの機能のみを選択的に制御する薬剤の開発が待たれる.

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遺伝子を標的とした医薬品の開発
VEGF−VEGFR系

渋谷 正史*1*2
*1東京医科歯科大学分子腫瘍医学 客員教授 *2上武大学副学長


要  旨
 固形癌の多くは栄養と酸素の供給を腫瘍血管に依存している.腫瘍血管の形成には種々のシグナル伝達系が関与するが,その中心は血管内皮増殖因子 VEGF とその受容体 VEGFR であることが明らかにされた.VEGF−VEGFR 系を標的とした薬剤はがん患者の生存期間を明らかに延長し,2009 年6月の時点で,6種類の固形癌の治療に承認されている.しかし,血管新生阻害療法は始まったばかりであり,研究すべき課題は多い.

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遺伝子を標的とした医薬品の開発
RNAi創薬

竹下 文隆*  落谷 孝広**
*国立がんセンター研究所がん転移研究室 **同室長


要  旨
 RNA 干渉(RNAi)は二本鎖 RNA が相補配列を持つ mRNA に結合し,分解を誘導する現象であるが,RNAi が発見されてから約 10 年の間に,RNAi による遺伝子抑制は,分子生物学における標準的な実験技術と成りつつある.さらに,特定の遺伝子の機能解析のみならず,創薬ターゲットになりうる遺伝子の探索,分子標的医薬への応用など,その研究・開発の速さ,注目度の高さは比類なきものであり,海外ではすでに臨床試験も行われている.本稿では RNAi を利用した創薬研究について,動物モデルから最近注目されている microRNA の研究についても概説する.

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遺伝子を標的とした医薬品の開発
がん治療標的としてのPI3K−PTEN−Akt 経路と JNK 経路

大西 啓介*   後藤 由季子**
*東京大学分子細胞生物学研究所情報伝達研究分野 **同教授


要  旨
 古くはがん治療において抗がん剤の主な作用点は微小管や核酸合成過程などであり,がん細胞のみならず正常細胞にも傷害性をもたらしうるものであった.しかし最近では,個々のがんの原因となる分子に標的を絞った特異性の高い分子標的治療薬の開発が進み,副作用の少ない抗がん剤による治療が期待されている.本稿では,非常に多くのがんで変異が発見されている PI3K−PTEN−Akt 経路と,ストレス応答性 MAPK である JNK 経路に焦点を当て,これらのシグナル伝達経路とがんとのかかわりについての現状と課題について述べる.

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