最新医学64巻11号 
特集 がんワクチンの展望


要  旨


アプローチ
がんワクチンのブレークスルーを目指して

珠玖 洋*

* 三重大学大学院医学系研究科がんワクチン治療学遺伝子・免疫細胞治療 教授
要  旨
 がんワクチンが医療現場におけるがん治療に用いられる時代がやって来つつある.海外では,すでに承認を受けたがんワクチンが出始めている.一方では,1990 年代から始まった免疫療法の開発経験と発展する基礎免疫学からの情報により,現在の単独のがんワクチン療法では担がん宿主の多様な免疫力を十分に活用していないことも明らかになってきた.
 がんワクチン,T細胞移入療法,がん局所免疫抑制解除を組み合わせた複合免疫療法の開発が課題となっている.また,その開発を可能とする産官学を合わせた日本での仕組み作りも合わせて考える必要がある.

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テーラーメイド型がんワクチンの開発

山田 亮*1*2
*1 久留米大学先端癌治療研究センター 所長
*2 同がんワクチン分子部門 教授

要  旨
 細胞傷害性T細胞によって認識されるがん抗原ペプチドが同定され,それらを用いたがんペプチドワクチン療法の開発が世界中で進められているが,必ずしも期待された効果が得られていない.筆者らは個々の患者の免疫記憶に対応して個別最適化したテーラーメイドペプチドワクチン療法を提唱し,研究開発を行っている.本稿では,テーラーメイドペプチドワクチン療法誕生の経緯と現状,そして今後の展望について述べる.

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多価性がんタンパク質ワクチン

中山睿一*1  和田 尚*2
*1 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科免疫学 教授
*2 大阪大学大学院医学研究科外科学講座消化器外科学

要  旨
 SEREX 法により同定されたがん抗原 NY-ESO-1 はがん精巣抗原の1つで,種々のがんに発現するが,正常組織では精巣以外には発現しない.我々は,コレステリル疎水化プルラン(CHP)と NY-ESO-1 タンパク質の複合体(CHP-NY-ESO-1)を用いて,がんワクチン臨床試験を行った.安全性および特異的免疫反応の誘導を第1目的とし,臨床効果の評価を第2目的とした.タンパク質は多価性がんワクチンとして,種々の HLA を持つあらゆる患者に投与可能である.食道がん,前立腺がん,悪性黒色腫患者 13 症例が参加した.NY-ESO-1 特異抗体,CD8 および CD4T細胞の誘導が認められ,抗腫瘍効果の明らかな症例も認められた.

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がん幹細胞抗原の検索とがんワクチンへの応用

廣橋良彦*   鳥越俊彦**  佐藤昇志***
* 札幌医科大学医学部病理学第一講座 ** 同准教授 *** 同教授

要  旨
 がん幹細胞は造腫瘍能の高い細胞群であり,自己複製能や多分化能を持っていると同時に,化学療法や放射線療法といった既存の治療法に抵抗性を示すことが知られており,治療後の再発や遠隔転移の原因になると考えられている.がんの根治を目指すうえでがん幹細胞の排除が必要になる.治療抵抗性のがん幹細胞を排除する方法として,免疫療法が有望かもしれない.in vitro の実験系では,がん幹細胞は腫瘍拒絶抗原分子を発現し,細胞障害性T細胞(CTL)をはじめとする免疫細胞により殺傷されることが明らかとなっている.がんの根っこに当たるがん幹細胞は,免疫療法により根絶し治療することが可能になることが示唆され,期待される.

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自然免疫から獲得免疫への橋渡し


清水佳奈子*1*2 藤井眞一郎**2
*1 理化学研究所免疫・アレルギー科学総合研究センター免疫治療モデル開発研究ユニット
*2 同免疫細胞移植戦略研究ユニット **2 同ユニットリーダー

要  旨
 自然免疫と獲得免疫の両者を賦活化させる免疫カスケードを利用して抗腫瘍免疫を誘導するには,生体内樹状細胞をコントロールする必要がある.樹状細胞による抗原の取り込み,プロセシング,抗原提示の過程と成熟化シグナルのタイミングの至適条件を決定することにより,生体内樹状細胞が自然免疫,獲得免疫の両者を橋渡しし,強力な抗腫瘍免疫を誘導することが可能となる.このような樹状細胞を標的とした新しい免疫療法を紹介する.

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樹状細胞パターン認識と関連分子のがんワクチンへの応用


瀬谷 司**  松本美佐子*
* 北海道大学大学院医学研究科免疫学分野 准教授 ** 同教授

要  旨
 樹状細胞(DC)は,抗原のみならず自然免疫のパターン分子(PAMP)も認識し,その複合刺激に特有の成熟化を起動する.最近,DC のサブセットがマーカーなどで細分化され,それらが異なったパターン分子に応答して種々のエフェクター誘導に至ることが判明してきた.本稿では宿主 DC サブセットのパターン認識分子を解説し,エフェクター細胞の誘導機構を概説する.さらに,最近明らかになった DC 依存性 NK 細胞活性化と抗がん NK 細胞の起動のメカニズムを解説する.

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熱ショックタンパク質のがんワクチンへの応用

奥谷浩一*1*2 田村保明**1  平田公一**2 佐藤昇志***1
*1 札幌医科大学医学部病理学第一講座 **1 同講師 ***1 同教授
*2 札幌医科大学医学部外科学第一講座 **2 同教授

要  旨
 新たながん治療法として,がんワクチン療法が少しずつ広がりを見せている.このがんワクチン療法は,がん細胞膜表面上に提示されるがん抗原を認識し攻撃する細胞障害性T細胞(CTL)を誘導することで抗腫瘍効果を発揮するため,臨床効果を増強するにはがん特異的 CTL を効率良く誘導するアジュバントを併用する必要がある.熱ショックタンパク質は自然免疫,時空間的制御を介した獲得免疫の両方を賦活することから,今後の臨床応用が期待される分子である.

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サイトカインの腫瘍免疫における役割とその利用

佐藤まりも*   田原秀晃**

* 東京大学医科学研究所先端医療研究センター外科・臓器細胞工学分野 助教 ** 同教授

要  旨
 これまでに新しいサイトカインが次々と同定されてきた.その中には,腫瘍増殖抑制,腫瘍の完全退縮や転移阻止などの抗腫瘍活性を持つことが示されているものがあり,がん免疫療法の有効な武器となりうることが示唆されている.代表的なものとしては IL-12 が挙げられ,さまざまな戦略による臨床応用が展開されてきている.その一方で,IL-12 ファミリーとして知られる新規サイトカインである IL-23 の抗腫瘍効果も明らかとなった.

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樹状細胞のがん免疫療法への応用

北脇年雄*1  門脇則光*2
*1 京都大学医学部附属病院血液・腫瘍内科 産官学連携研究員
*2 京都大学大学院医学研究科血液・腫瘍内科学 講師

要  旨
 がん免疫療法において治療効果を発揮する主要な細胞は,がん抗原に特異的なT細胞である.樹状細胞は専門的抗原提示細胞として,この抗原特異的T細胞を最も強力に活性化する能力を持つ.この樹状細胞の能力を利用したがん免疫療法として,体外で調製した樹状細胞に腫瘍抗原を添加して投与することが行われている.すでに臨床試験で安全性と proof-of-principle は確立され,さらに臨床効果を高める方法が探求されている.

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ヘルパーT細胞サブセットによる抗腫瘍免疫の制御とその臨床研究への応用

西村孝司**1**2 脇田大功*2 大栗敬幸*1 茶本健司*1
*1 北海道大学遺伝子病制御研究所免疫制御分野 **1 同教授
*2 同ROYCE’ 健康バイオ研究部門 **2 同教授

要  旨
 がん幹細胞や iPS 細胞の発見により,がん研究が新たな方向に動こうとしている.免疫学分野においても,Th1/Th2 に加えて Treg/Th17 が発見され,新しい免疫バランス制御の概念が提唱されている.本稿では,がん微小環境における免疫抑制,がんエスケープに関与する Treg や IL-17 産生T細胞についてまず紹介し,次に免疫抑制を打破してがん特異的免疫を誘導するために重要な Th1,Tc1 細胞の意義や Th1 細胞治療の臨床応用についても述べる.

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細胞移入療法とがんワクチン ―効果的な複合的免疫療法の開発―

池田裕明*
* 三重大学大学院医学系研究科遺伝子・免疫細胞治療学 准教授

要  旨
 がんに対する免疫応答の制限・抑制機序の解明に伴い,単純なペプチドワクチンや抗腫瘍性免疫細胞移入の限界が明らかとなり,免疫抑制機構解除や免疫細胞活性化を複合したアプローチが必須と考えられる.我々は,腫瘍特異的T細胞移入とがんワクチンの複合が移入細胞のマルチファンクション性を向上し,優れた効果を示すことを見いだした.その実用化を目指し,T細胞受容体(TCR)改変T細胞移入療法とがんワクチンを複合した臨床試験を開始した.

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腫瘍免疫抑制機構とその克服

河上 裕** 住本秀敏* 工藤千恵* 塚本信夫* 桜井敏晴* 植田 良*
谷口智憲* 川村 直* 梶原知子*
* 慶應義塾大学医学部先端医科学研究所細胞情報研究部門 ** 同教授

要  旨
 がん細胞の増殖過程では,免疫細胞や間質細胞との相互作用により,その後のがん細胞の免疫抑制性や抵抗性が規定される.がん細胞は多様な免疫抑制分子の産生や免疫抑制性細胞の誘導により,全身性および局所的な免疫抑制・抵抗性環境を構築し,免疫回避を起こす.効果的な免疫療法の開発においては,この分子・細胞機構を解明し,免疫抑制・抵抗性を改善する方法の開発が重要である.

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免疫調節機構のがん免疫療法への応用 −GITR と CTLA-4−

西川博嘉*
* 三重大学大学院医学系研究科病態解明医学講座がんワクチン治療学 准教授

要  旨
 多くの腫瘍抗原が自己抗原由来であることから,がんに対する免疫応答を十分に活性化するには,共刺激分子(co-stimulatory molecule)を介した共刺激が重要であると考えられる.共刺激分子の負の制御分子である CTLA-4 のシグナルを抗 CTLA-4 抗体でブロックすることと,CD4+CD25+ 制御性T細胞抑制機能をブロックすることが報告されている GITR シグナルを抗 GITR 抗体で活性化することを併用することで,質的・量的に抗腫瘍活性の増強が認められ,単独では認められない強い抗腫瘍効果が誘導され,今後の臨床応用が期待された.

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対談
血液および血液疾患を語る(第8回)
 輸血の科学


ゲスト 十字 猛夫 先生(日本赤十字社中央血液研究所・名誉所長)
聞き手  齋藤 英彦 先生(名古屋セントラル病院)

 対談シリーズ「血液及び血液疾患を語る」は、司会を名古屋セントラル病院・齋藤英彦先生にお願いし、お招きするゲストの先生方にご自身の研究の内容や失敗談、成功談をお伺いしながら、本誌の対象読者である若手研究者へのアドバイスを頂き、日頃の臨床・研究活動に役立てていただくことを願って企画致しました。ゲストにはこの分野の基礎を築いて来られた方々、また現在も第一線で研究を続けておられる方々をお招きしています。
 第8回はゲストに日本赤十字社中央血液研究所名誉所長・十字 猛夫 先生をお迎えして「輸血の科学」をタイトルにお話をお伺いしました。
 日本赤十字社の血液関連事業に尽力された十字先生ですが、東大の輸血部の助手時代には逆受身赤血球凝集反応法(RPHA)を用いたB型肝炎ウイルスの高感度検査法を開発され、国内だけでもこれまで約1億9千万人の献血者のスクリーニングに使用されてきたそうです。
 その後、ニューヨーク州立大学でヒト白血球抗原(HLA)の検査法を身につけられて東大に戻られてからはHLAと疾患の関連について多くの先生方と共同で研究されてきました。
 そして強直性脊椎炎とHLA-B27、ナルコレプシーとHLA-DQB1*0602、Graves病とHLA-DRB*0406との関連を解明するなど多くの成果を上げられてました。
 更にHLAを研究する上で欠かすことの出来ない骨髄移植後の移植片対宿主病(GVHD)についても、これまでの常識を覆してクラスU抗原よりもクラスT抗原の遺伝子レベルでの適合の方が重要である事を長期的な経過の追跡によって明らかにされました。
 この他にも若い研究者の先生方への仮題として妊娠と輸血の意外な関係などについてご提案頂きました。
 いずれも大変興味深いお話ばかりです。是非お読み下さい。


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