最新医学64巻12号 
特集 がんワクチンの展望


要  旨


アプローチ
多発性骨髄腫に関する最近の進歩

小澤 敬也*

* 自治医科大学医学部内科学講座血液学部門 教授
要  旨
 多発性骨髄腫に関する基礎研究や新規治療薬の開発が活発になっている.病態については,骨髄腫細胞と微小環境の間の複雑な相互作用が注目され,さらに骨髄腫幹細胞という視点も重要と考えられる.染色体異常に関する知見も増え,DNA マイクロアレイなどによる解析も進んでいる.治療面では,ボルテゾミブ,サリドマイド,レナリドマイドといった新規治療薬が登場し,治療成績の向上が得られている.それに伴って,自家末梢血幹細胞移植の再評価も必要になるものと思われる.

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病態
多発性骨髄腫の遺伝子異常と臨床的意義

谷脇 雅史**  松本 洋典*   黒田 純也*
* 京都府立医科大学大学院血液・腫瘍内科学 講師 ** 同教授

要  旨
 多発性骨髄腫は長寿命形質細胞の腫瘍性疾患である.B細胞分化や細胞周期を制御する遺伝子の免疫グロブリン遺伝子(IG)転座による恒常的活性化,第 13 番染色体欠失,高2倍体あるいは非高2倍体が腫瘍化における主な初期過程である.体細胞高頻度突然変異やクラススイッチ再構成の破綻が IG 転座の分子機構と考えられる.多発性骨髄腫の染色体遺伝子異常は治療反応性や予後に関連しており,間期核 FISH によって検出できる.

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病態
骨髄腫幹細胞とその増殖機構

河野 道生*
* 山口大学医学系研究科細胞シグナル解析学 教授

要  旨
 患者骨髄腫細胞は非常に不均一な細胞集団であり,未熟型,中間型および成熟型骨髄腫細胞がある.未熟型骨髄腫細胞,中でもCD45+ 未熟型骨髄腫細胞は,増殖因子 IL-6 に反応して in vivo で増殖している細胞集団であり,骨髄腫幹細胞の1つの候補と考えられる.しかしながら,骨髄腫細胞自体がB細胞系マスター遺伝子である PAX-5 遺伝子発現を欠失して,いわば幹細胞様性状を示している.今後,骨髄腫の治療の標的となる細胞集団は何かを明らかにしなければならない.

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病態
骨髄腫細胞と骨髄微小環境 ―骨病変を中心に―

安倍 正博*
* 徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部生体情報内科学 准教授

要  旨
 骨髄腫は進行性の広範な骨破壊性病変を呈する.骨髄腫骨病変は,骨髄腫細胞由来の MIP-1 などの骨吸収促進因子による RANKL を介する破骨細胞形成・機能の亢進に加え,骨髄腫骨病変部で産生が亢進している Wnt 阻害因子や TGFβなどによる骨芽細胞分化の抑制によりもたらされる.破骨細胞や骨芽細胞分化が抑制された骨髄間質細胞は骨髄腫細胞と密接な細胞間相互作用を営み,骨破壊を進行させつつ骨髄腫が進展するという悪循環を形成している.

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病態
病態骨髄腫細胞の薬剤耐性メカニズム


古川 雄祐**  菊池 次郎*
* 自治医科大学分子病態治療研究センター幹細胞制御研究部 講師 ** 同教授

要  旨
 骨髄腫の薬剤耐性は自然耐性と獲得耐性に大別され,前者は液性因子によるものと VLA4 を介する骨髄微小環境との接着によるものがある.メカニズムとして,細胞周期停止とアポトーシス抵抗性が重要である.後者は薬剤の長期暴露によって耐性が獲得される場合で,DNA 修復能や薬物代謝の亢進による.最近,ボルテゾミブ,抗 VLA4 抗体,低分子 CXCR4 阻害薬などが接着耐性を解除し,薬剤感受性を向上させることが報告されている.

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診断と治療
骨髄腫診断法の進歩と診断基準・病期分類


鈴木 憲史*
* 日本赤十字社医療センター血液内科 部長

要  旨
 治癒を目指した戦略を開発するためにも,免疫固定法でのMタンパク質消失(CR)に加えて血清免疫グロブリン遊離軽鎖(FLC)の κ/λ 比の正常化を認めた場合を stringent CR(sCR)と定義し,微小残存疾患(MRD)を評価.2003 年に,より治療開始時期を鮮明にする International Myeloma Working Group(IMWG)の診断基準が世界標準.2005 年β2 ミクログロブリン値で腫瘍量と腎臓障害の程度を,アルブミン値で全身状態を代表して2項目のみでの ISS 病期分類などを述べる.

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診断と治療
多発性骨髄腫の治療:総論

村上博和***1 半田 寛*1  斉藤貴之*2 小河原はつ江**1
*1 群馬大学医学部保健学科検査技術科学専攻 **1 同准教授  ***1 同教授
*2 群馬大学附属病院腫瘍センター

要  旨
 多発性骨髄腫は治癒が困難な疾患ではあるが,近年自家末梢血幹細胞移植の導入やサリドマイドやボルテゾミブなどの新規薬剤の開発により,治療成績は飛躍的に進歩した.また,新たな国際的診断基準や効果判定基準が International Myeloma Working Group により提唱された.本稿では,骨髄腫の治療アルゴリズムを示し,@初期治療,A維持療法,B再発・難治例治療に分けて概説する.

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診断と治療
多発性骨髄腫に対する支持療法
―骨障害対策,腎障害対策,骨髄不全対策,高粘稠度症候群対策,高アンモニア血症対策,造血幹細胞移植時の cryotherapy,NST などを中心に―

三輪 哲義*

* 国立国際医療センター高度先進医療部長・血液内科科長

要  旨
 多発性骨髄腫は,支持療法の面でも多面的な進歩を遂げている.頻度の高い骨障害に対しては破骨細胞抑制効果があるビスホスホネートがプラットフォームに位置づけられているが,原病による造骨細胞の抑制を解除する新規治療も臨床応用に入っている.若年者骨髄腫の標準的治療に位置づけられる造血幹細胞移植療法も,cryotherapy 導入が粘膜障害対策などに有用であることが明らかとなった.多様な支持療法の進歩を概説させていただきたい.

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診断と治療
多発性骨髄腫に対する化学療法

張 高明*
* 新潟県立がんセンター新潟病院 内科部長

要  旨
 多発性骨髄腫に対する化学療法は,1960 年代に導入されたメルファラン・プレドニゾロン(MP)療法以来さまざまな併用療法が実施されてきたが,治癒に至る症例は極めて限られていた.1980 年代における自己造血幹細胞移植併用メルファランの大量療法は治療効果の向上に寄与したが,21 世紀に入ってからの分子標的薬の導入は飛躍的な治療効果をもたらしてきており,これらの新規薬剤と従来の化学療法薬の併用療法は今後の多発性骨髄腫の治療戦略の1つとして大いに期待される.

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診断と治療
多発性骨髄腫に対するサリドマイドとレナリドマイド

上田 真寿*
* 自治医科大学内科学講座血液内科部門

要  旨
 新規薬剤の出現で多発性骨髄腫の治療法は現在めまぐるしく変化を遂げている.本邦承認済みのサリドマイド,承認待ちのレナリドマイドによる再発難治例への治療効果の改善が認められている.また欧米では,移植前後における投与,未治療例への有効性も示されている.今後これらの薬を本邦においてどのように位置づけし,使用していくのかが検討課題と考えられる.

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診断と治療
多発性骨髄腫に対するボルテゾミブ―最近の進歩―

花村 一朗*1  仁田 正和**1  飯田 真介*2
*1 愛知医科大学血液内科 講師 **1 同教授
*2 名古屋市立大学大学院医学研究科生体総合医療学講座腫瘍・免疫内科学 准教授

要  旨
 ボルテゾミブは,抗悪性腫瘍効果を有するプロテアソーム阻害薬と呼ばれる新しい薬剤で,再発難治性多発性骨髄腫の治療薬として米国では 2003 年に,本邦では 2006 年に認可され,さらに 2008 年6月には米国で未治療多発性骨髄腫の初回治療薬として認可された.ボルテゾミブは,現在盛んにその最適併用薬剤や投与方法,細胞遺伝学的因子と治療反応性との関連などが研究されており,初回治療においても極めて有効でより深い寛解が得られ生存期間の延長も認められること,t(4;14)など予後不良核型でより有効なこと,また特異な有害事象を有することなどが明らかとなりつつある.本稿ではボルテゾミブに関して,海外での代表的な臨床試験をもとに概説する.

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診断と治療
多発性骨髄腫に対する新規治療薬の開発動向

畑 裕之*
* 熊本大学医学部附属病院血液内科 講師

要  旨
 プロテアソーム阻害薬であるサリドマイドは本邦でも認可され,サリドマイド誘導体であるレナリドマイドは現在承認申請中である.これら以外にも,多くの細胞内オルガネラ,サイトカインやその受容体などを標的とする薬剤が開発中である.欧米で第T相臨床試験以降遂行中の薬剤のうち,ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬,IL-6 阻害薬,プロテアソーム阻害薬,熱ショックタンパク質阻害薬,RANKL 阻害薬について解説する.

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診断と治療
多発性骨髄腫に対する造血幹細胞移植

和泉 透*
* 栃木県立がんセンター血液内科

要  旨
 多発性骨髄腫に対する造血幹細胞移植,特に前処置にメルファラン大量を用いた自家末梢血幹細胞移植は,若年者例に対して標準的治療法の1つである.しかし新規治療薬の導入が,多発性骨髄腫治療における造血幹細胞移植の位置づけを変える可能性がある.現時点においては移植前の状態(VGPR 以上)が予後を占ううえで重要であり,移植前治療の工夫が大切である.また自家移植例では再発が多く,維持療法の検討も望まれる.

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診断と治療
POEMS 症候群(Crow-Fukase 症候群)に対する移植療法

中世古 知昭*
* 千葉大学医学部附属病院血液内科

要  旨
 POEMS 症候群(Crow-Fukase 症候群)は plasma cell dyscrasia を基盤に,多発神経炎,浮腫・胸腹水,皮膚症状,Mタンパク血症などを呈する全身性疾患であり,特に多発神経炎が日常生活動作(ADL)を著しく障害し,末期には四肢麻痺に至る.近年,骨髄腫に準じた自家末梢血幹細胞移植が,生命予後のみならず多発神経炎を劇的に改善させることが示されている.さらにサリドマイドや抗 VEGF 抗体などの新規治療の有効性が報告され,これらによる集学的治療が治療成績を向上させうる.

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対談
血液および血液疾患を語る(第9回)
 ATLの発症機序と病態


ゲスト  内山 卓 先生 (北野病院)
聞き手  齋藤 英彦 先生(名古屋セントラル病院)

 対談シリーズ「血液及び血液疾患を語る」は、司会を名古屋セントラル病院・齋藤英彦先生にお願いし、お招きするゲストの先生方にご自身の研究の内容や失敗談、成功談をお伺いしながら、本誌の対象読者である若手研究者へのアドバイスを頂き、日頃の臨床・研究活動に役立てていただくことを願って企画致しました。ゲストにはこの分野の基礎を築いて来られた方々、また現在も第一線で研究を続けておられる方々をお招きしています。
 第9回はゲストに北野病院病院長・内山 卓 先生をお迎えして「ATLの発症機序と病態」をタイトルにお話をお伺いしました。
 形態学がお得意ではなかった為に血液学に対してあまり良い印象をお持ちでなかった内山先生が血液・免疫学に進まれたきっかけは、研修で一番最初に受け持たれた多発性骨髄腫と原発性免疫不全症の患者さんたちの印象が強烈だったからだそうです。
 その後、関連病院に出向された後、大学院に戻られた頃はPHA(フィトヘマグルチニン)付加によるリンパ球分裂実験が可能となり、液性免疫から細胞性免疫へと研究分野が拡がる時期で、ヒトリンパ球増殖性疾患をT細胞、B細胞の観点から改めて見直す事から始められました。
 ATL(成人T細胞白血病)が本来、患者が多いとされる九州や南四国ではなく京都大学で発見された理由については大変示唆に富むお話です。是非本誌を取ってじっくりお読み下さい。
 更にATLの特徴、感染経路、発症機構やHIV研究についても詳しくお話頂きました。
 また若い研究者に向けてオリジナリティのある技術を持つ重要性や工夫をするためにはハングリーであることが必要などたくさんのご助言を頂いています。
 いずれも大変興味深いお話ばかりです。是非お読み下さい。


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