最新医学65巻1号 
特集 インフルエンザ

要  旨


アプローチ
インフルエンザの昨今と求められる対応

関 雅文*   河野 茂**

* 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科感染免疫学講座(第二内科)
** 同教授
要  旨
 インフルエンザは呼吸器感染症の中で最も重要な疾患の1つであり,肺炎や脳炎・脳症の合併による重症化に対して特に注意が必要である.これまで,スペインかぜや今日の新型インフルエンザなど数回のパンデミック(パンデミー)を引き起こしているが,近年は疫学レベルのみならず遺伝子レベルでもその病態の解析が進んでいる.臨床面においても,迅速診断キットや画期的な抗インフルエンザ薬の登場が進み,新たな展開が期待される.

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総説
鳥,ブタ,そしてパンデミックインフルエンザ
―季節性インフルエンザ対策の改善こそが課題―

喜田 宏*1*2
*1 北海道大学大学院獣医学研究科教授
*2 同人獣共通感染症リサーチセンターセンター長

要  旨
「鳥インフルエンザ」,「ブタインフルエンザ」および「新型インフルエンザ」はいずれも,ヒトの病名として適切ではない.すべて「インフルエンザ」であることを前提に,対策を講ずるべきである.さらに,日本だけで毎年数千人を死亡させ,少なくとも数百人に脳症,多臓器不全を起こしている季節性インフルエンザの克服こそが,パンデミックインフルエンザ対策の基盤である.

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総説
高病原性鳥インフルエンザ

岸田典子*
国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター

要  旨
 H1N1 亜型の新型インフルエンザの流行で忘れられかけているが,H5N1 高病原性鳥インフルエンザは今もなお世界各地で発生している.本来,鳥の病気である H5N1 高病原性鳥インフルエンザの原因ウイルスがヒトに感染し,多数の死亡者が出ている.現時点では容易にヒトからヒトへと感染しうるような H5N1 ウイルスは出現していないが,ヒトからヒトへと効率良く伝播しうるウイルスの出現が危惧されている.

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総説
新型インフルエンザの出現と世界的現状

玉記雷太*   神垣太郎*   押谷 仁**
* 東北大学大学院医学系研究科微生物学分野 ** 同教授

要  旨
 2009 年に発生した新型インフルエンザは,WHO が警戒レベルを最高の6に上げて世界大流行を宣言して以来,11 月で約6ヵ月経過した.世界各国で感染拡大が続く中,その疫学像が明らかになってきている.主要各国の疫学状況や被害想定,ワクチンの世界的現状を update し,ウイルス(インフルエンザ A/H1N1)の病原性や感染伝播力のレビューを行った.

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診断・病態
インフルエンザの診断


三田村敬子*
* (財)ライフ・エクステンション研究所付属永寿総合病院小児科

要  旨
 臨床症状からのインフルエンザの診断は必ずしも容易でなく,疫学情報が重要である.検査診断では,ウイルス分離や血清検査に加えて PCR などの遺伝子検出法が広く行われるようになったが,診療においてはインフルエンザウイルス抗原を検出する迅速診断キットが大きな役割を果たしている.キットによる検出率はウイルス量を左右するさまざまな条件によって左右されるため,確実な検体採取を心がけ,偽陰性があることに注意する必要がある.新型インフルエンザA H1 については,重症化や高リスクの場合は検査の陽性結果の確認にこだわらずに治療を開始することが推奨されている.

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診断・病態
インフルエンザの臨床的特徴


池松秀之*
* 原土井病院臨床研究部

要  旨
 インフルエンザ迅速診断キットの発達によって,高齢者では高熱が見られない例がかなりあることなど,症状の多様性が明らかとなってきた.抗インフルエンザ薬は発熱期間を短縮するが,ウイルスの型や耐性ウイルスの出現によりその効果に違いが見られる.また,異常言動はオセルタミビル投与がされない例にも見られる.肺炎の合併率の高さはインフルエンザの特徴であり,高齢者や高リスク者においては,抗インフルエンザ薬の投与後にも起こることを念頭に置いて,診療に当たることが重要である.

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診断・病態
インフルエンザ脳症の発症原因
―ミトコンドリア脂肪酸代謝障害と血管内皮細胞の膜透過性の亢進―

木戸 博**  Dengbing Yao*  千田淳司*   Youssouf Ciss■* Min Yao*
* 徳島大学疾患酵素学研究センター応用酵素・疾患代謝研究部門 ** 同教授

要  旨
 インフルエンザ脳症の浮腫を「エネルギー代謝障害の結果生じた血管内皮細胞の膜透過性の亢進」として,その原因を日本人種に多い遺伝子多型,小児に特有な代謝,炎症を伴わない浮腫,インフルエンザウイルスとそれ以外の病原体,の視点から解析を試みた.これらを説明する原因の1つとして,脳症患者から見つかってきたミトコンドリアの長鎖脂肪酸代謝酵素 carnitine palmitoyl transferaseUの熱不安定性遺伝子多型が浮かび上がってきた.

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診断・病態
インフルエンザ肺炎



大谷哲史*   時松一成*   門田淳一**
* 大分大学医学部総合内科学第二講座 ** 同教授

要  旨
 インフルエンザの診断・治療は,インフルエンザ迅速診断キットとノイラミニダーゼ阻害薬の導入により飛躍的に進歩した.しかし高齢者や基礎疾患のある高リスク群が罹患すると重篤となりやすく,合併症としてインフルエンザ肺炎は頻度も高く重要である.本稿では,インフルエンザ肺炎について臨床的検討を行った本邦や海外での報告を参考にして,その病態や診断について概説する.

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治療
現在の抗インフルエンザ薬と耐性状況

藤村 茂*   渡辺 彰**
* 東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発研究部門 准教授 ** 同教授

要  旨
 2010 年に新たな抗インフルエンザ薬が2〜3剤発売予定されているが,現在のところ我々が使用できる抗インフルエンザ薬は,ノイラミニダーゼ(NA)阻害薬のオセルタミビル,ザナミビルと M2 イオンチャネル阻害薬のアマンタジンの3剤のみである.このうちアマンタジンは季節性および新型インフルエンザウイルスに耐性を示しており,オセルタミビルも季節性インフルエンザウイルスA(H1N1)に耐性化が進んできている.ただし,現時点では NA 阻害薬耐性の新型インフルエンザの報告はほとんどない.

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治療
開発途上の抗インフルエンザ薬

小林 治*
* 杏林大学医学部総合医療学 講師

要  旨
 抗インフルエンザ薬ラニナミビル,ペラミビル,ファビピラビルの市販が待たれている.インフルエンザは冬季に流行するほか,散発的に報告される重症 H5N1 感染症やブタインフルエンザウイルス(2009 influenza H1N1)の世界的なパンデミックなどの新規出現,さらにウイルスの耐性化などの問題を含む疾患である.ここでは,開発途上の3つの抗インフルエンザ薬について概説する.

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予防と対策
ワクチンとその有用性

新庄正宜*1*2
*1 慶應義塾大学医学部小児科
*2 慶應義塾大学病院感染対策室

要  旨
 現行の季節性不活化インフルエンザワクチンは,年齢,流行年,ウイルスの型,流行株とワクチン株との違い,基礎疾患の有無などによって効果に差はあるものの,発症予防効果・重症化防止効果が認められている.また,免疫不全者や妊婦などへの接種が制限されるが,より効果の持続する経鼻生ワクチンの導入が国内でも検討されている.

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予防と対策
家庭・職場での感染対策

安岡 彰*
* 長崎大学病院感染制御教育センター センター長

要  旨
 インフルエンザの感染対策は,飛沫感染対策と間接接触感染対策の2つが挙げられる.飛沫対策としては,@飛沫を発生させないよう,感染者がマスクを着用し咳エチケットを励行する,A他人との近接した接触を減らすとともに,濃厚接触時にはサージカルマスクを着用する,などがある.間接接触対策としては,@頻回の手指消毒(手洗い),A外出中に口や鼻・眼に触れないようにすること,Bよく触れる環境の清掃・消毒,などが挙げられる.

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予防と対策
病院・医療施設における感染対策

柳原克紀*
* 長崎大学病院検査部 講師

要  旨
 新型インフルエンザは国内でまん延しており,これからの本格的な流行シーズンには患者数の急増が予想される.医療機関は多くの患者に適切な医療を提供しながら,施設内感染や職業感染も予防していくことが求められる.外来部門や入院部門において,個人防護具や消毒薬を活用して,重症化が懸念される高リスク患者のケアには特に注意する.抗インフルエンザ薬の予防投与については,必要性を十分考慮する.

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対談
血液および血液疾患を語る(第10回)
 染色体を読む


ゲスト  阿部 達生 先生 (京都府立大学)
聞き手  齋藤 英彦 先生(名古屋セントラル病院)

 対談シリーズ「血液及び血液疾患を語る」は、司会を名古屋セントラル病院・齋藤英彦先生にお願いし、お招きするゲストの先生方にご自身の研究の内容や失敗談、成功談をお伺いしながら、本誌の対象読者である若手研究者へのアドバイスを頂き、日頃の臨床・研究活動に役立てていただくことを願って企画致しました。ゲストにはこの分野の基礎を築いて来られた方々、また現在も第一線で研究を続けておられる方々をお招きしています。
 第10回はゲストに京都府立大学名誉教授・阿部 達生 先生をお迎えして「染色体を読む」をタイトルにお話をお伺いしました。
 1981年に染色体研究者のバイブルである「染色体異常アトラス」を編集された阿部先生は高校時代から生物学にご興味を持たれており、京都府立大学第三内科に入局の頃には既に染色体を中心に研究をされていました。
 しかし当時の染色法では染色体の異常を見つけることは難しく、染色体異常を詳細に解析できるようになるには1970年代に開発されたトリプシンを用いた染色体分染法の確立を待たなければなりませんでした。
 その後、様々な染色体分染法の発達により染色体の構造異常を次々と見つけることが出来るようになり、染色体の研究は飛躍的な発展を遂げるようになりました。
 一方、ドイツへ留学後、大学に戻られた阿部先生は公衆衛生学教室で講師、助教授をされた後、第三内科の助教授を経て改めて公衆衛生学教室の教授に就任されました。その頃には後に世界に飛躍される先生方の多くが阿部先生の元にお集まりになりました。
 例えば、この時期に講師になられた稲澤譲治・現東京医科歯科大学教授は遺伝子マッピングと言う分子生物学の中でも染色体の技術がないと出来ない領域を独自に開発されました。当時、稲澤先生は600枚もの染色体写真から遺伝子マッピングをされていたそうです。
 この他にも染色体異常のメカニズムや赤血球Glucose-6-phophate dehydrogenase(G6PD)活性が低下した遺伝性溶血性貧血の症例などについてもお話なども伺いました。
 いずれも大変興味深いお話ばかりです。是非お読み下さい。



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