最新医学65巻3号 
特集 肺癌の分子標的治療薬の新展開と個別化治療の可能性

要  旨


アプローチ
肺癌の分子標的薬と個別化治療への新展開

福岡正博*

*1 近畿大学医学部堺病院顧問・特任教授

要  旨
 分子標的薬の開発により,腫瘍の分子情報に基づいた「個別化治療」が現実化している.肺癌では EGFR チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)のゲフィチニブやエルロチニブが EGFR 遺伝子変異の有無によって選択されるようになった.最近発見された EML4-ALK 融合遺伝子も,非小細胞肺癌(NSCLC)の約5%に発現し,その阻害薬での有効性が認められている.このように NSCLC ではバイオマーカーに基づく個別化治療が始まり,大きな進歩が期待される.

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基礎医学
非小細胞肺癌個別化治療に向けたバイオマーカー開発

西尾和人*

* 近畿大学医学部ゲノム生物学講座 教授

要  旨
 EGFR 遺伝子変異陽性肺癌に対する EGFR 特異的チロシンキナーゼの有効性が臨床試験で証明され,EGFR 遺伝子変異検査を用いた個別化治療が一般化されつつある.EGFR 遺伝子変異検査については,さまざまな実地上の問題も議論され克服されつつある.二次的変異による耐性とその克服に向けたアプローチ,EML4-ALK,K-RAS などの肺癌体細胞変異による個別化が始まっている.より包括的に体細胞変異を解析し,治療アルゴリズムを確立するアプローチ,1塩基多型解析などによる血管新生阻害薬の個別化への探索的なアプローチが始まっている.

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EGFR阻害薬
EGFR-TKI による非小細胞肺癌の個別化治療

井上 彰*

* 東北大学病院呼吸器内科

要  旨
 EGFR-TKI による非小細胞肺癌の治療に際しては,組織型や喫煙歴,性別などの臨床的効果予測因子にとらわれず,EGFR 遺伝子変異に基づいて適応を判断することが強く推奨される.変異陽性例に対しては,全身状態を問わず初回ゲフィチニブ療法が有用とのエビデンスが確立している.一方,変異陰性例では EGFR-TKI を早期に用いるメリットは乏しく,リスク&ベネフィットを踏まえた治療選択が重要である.

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EGFR阻害薬
非小細胞肺癌における抗 EGFR 抗体治療-現状とバイオマーカーに基づく今後の可能性-

米阪仁雄*   岡本 勇**

* 近畿大学医学部腫瘍内科 講師    ** 同准教授

要  旨
 抗 EGFR 抗体治療は,大腸癌,頭頸部癌においてすでに実臨床で用いられている.さらに非小細胞肺癌においても,セツキシマブについて2つの大規模な臨床試験が実施された.この結果,セツキシマブの非小細胞肺癌における効果が証明されたものの,その効果は限定的なものであった.このためセツキシマブの効果を治療前に予想しうるバイオマーカーが必要となり,現在幾つかのマーカーが検討されている.

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EGFR阻害薬
EGFR 遺伝子変異非小細胞肺癌とEGFR-TKI 耐性克服の戦略


矢野聖二*
* 金沢大学がん研究所腫瘍内科 教授

要  旨
 EGFR チロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)であるゲフィチニブおよびエルロチニブは,EGFR 遺伝子変異を有する非小細胞肺癌患者に対し奏効性が高い.しかし,奏効例もほぼ例外なく耐性を獲得し再燃することや,EGFR 遺伝子変異を有するにもかかわらず自然耐性を示す症例があることが問題となっている.獲得耐性の機序としては EGFR の T790M 変異や MET の遺伝子増幅,MET のリガンドである HGF などが知られている.さらに,1つの腫瘍が複数の耐性因子により獲得耐性となるケースも報告されている.耐性の克服には,有効な耐性克服薬の開発と耐性機構の正確な診断が今後の課題である.

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EGFR阻害薬
遺伝子変異に基づく非小細胞肺癌治療-EGFR 遺伝子と K-Ras 遺伝子の役割-


衣斐寛倫*1  光冨徹哉*2
*1 マサチューセッツ総合病院がんセンター
*2 愛知県がんセンター中央病院研究所副院長

要  旨
 チロシンキナーゼの活性部位において特異的に ATP と競合し活性を阻害する分子標的薬の登場により,癌治療は大きく変化した.肺癌では EGFR チロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)の効果と EGFR 遺伝子変異が相関することが示され,広く臨床応用されている.一方 K-Ras 遺伝子変異は EGFR 阻害薬の耐性因子としての役割が注目されてきたが,変異症例をターゲットとした治療法の開発も新たな展開を見せている.

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VEGF阻害薬M
抗 VEGF 抗体(ベバシズマブ)による肺癌治療の展望

堀池 篤*   西尾誠人**
* 岡山大学大学院脳神経外科    ** 同教授

要  旨
 ベバシズマブは,抗 VEGF モノクローナル抗体で,未治療進行非扁平非小細胞肺癌に対する欧米の2つの第V相臨床試験や,我が国で実施した無作為化第U相臨床試験にてプラチナ併用療法への追加効果が示され,2009 年 11 月,未治療進行非扁平非小細胞肺癌に対し適応追加承認された.一方,既存の抗癌剤にはない新たな毒性(高血圧,タンパク尿,肺出血)が見られ,肺出血のリスクから扁平上皮癌,喀血の既往症例は禁忌となっており,注意が必要である.

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VEGF阻害薬
VEGFR-targeted TKI の開発と肺癌個別化治療



関 好孝*   田村友秀**
* 国立がんセンター中央病院肺内科   ** 同総合病棟部長

要  旨
 肺癌の分子標的治療では,近年 EGFR に対するチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)の臨床導入と効果予測因子の解明において大きな進歩が見られた.また,抗 VEGFミA 抗体による効果増強が肺癌領域でも報告された1).さらに,VEGFR を中心に複数の受容体に対する TKI の開発も進んでいる2).本稿では期待されている VEGFRミTKI について,薬剤の特徴と臨床開発状況について述べる.

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VEGF阻害薬
肺癌に対するマルチターゲット阻害薬の開発状況

朝比奈 肇*   山本 昇**
* 国立がんセンター中央病院内科   ** 同医長

要  旨
 肺癌の増殖・進展は多種多様な分子機構により調節されており,単一分子を標的とする薬剤と比較し,マルチターゲット阻害薬は相加的あるいは相乗的な臨床効果を期待できる可能性がある.VEGF 受容体を標的の中心とするマルチターゲット阻害薬は,すでに腎癌,肝臓癌,消化管間質腫瘍(GIST)で臨床導入されているが,肺癌ではさらに EGF 受容体などの標的分子を含むマルチターゲット阻害薬の臨床開発が進行中である.

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新規分子標的薬
IGF-1R 阻害薬を用いた肺癌治療の展望

綾部悦里好*   山本信之**
* 静岡県立静岡がんセンター呼吸器内科   ** 同部長

要  旨
 IGF シグナル伝達経路は,正常組織の発達や代謝に関連している一方で,癌細胞の増殖・生存・転移を制御している.特に IGF-1R は主要な役割を担っており,近年この受容体を標的とする分子標的薬が注目されている.本稿では,IGF-1R 阻害薬の概要と肺癌領域における臨床試験の進行状況を解説する.

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新規分子標的薬
EML4-ALK 融合型癌遺伝子と肺癌個別化治療

間野博行*1*2
*1 東京大学医学部ゲノム医学講座 教授
*2 自治医科大学ゲノム機能研究部 教授

要  旨
 我々は,非小細胞肺癌の5%前後の症例において第2染色体短腕内に微小な逆位が生じ,その結果受容体型チロシンキナーゼ ALK の細胞内領域が微小管会合タンパク質 EML4 と融合した新しい活性型融合キナーゼ EML4-ALK が生じることを発見した.上記キナーゼ陽性肺癌症例に対して,ALK 酵素活性阻害薬は全く新しい分子標的療法をもたらすと期待され,実際著明な効果が第T相臨床試験で報告されている.

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新規分子標的薬
新規分子標的薬の開発と肺癌個別化治療の可能性

中川和彦***  武田真幸**  岡本 勇*
* 近畿大学医学部内科学腫瘍内科部門   ** 同准教授 *** 同教授

要  旨
 肺癌に対する EGFR-TKI,血管新生阻害薬,ALK 阻害薬など分子標的薬の開発は,分子標的薬単剤で,もしくは殺細胞性抗癌剤との併用での治療により,特定のバイオマーカーにより個別化された癌患者に対して著効を示したり,上乗せ効果を示す薬剤も出てきている.今後の肺癌治療の方向性は,適切で臨床応用可能なバイオマーカーによる肺癌の細分化であり,生物学的特性に応じた個別化治療である.

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新規分子標的薬
肺癌免疫療法の新展開

河上 裕*
* 慶應義塾大学医学部先端医科学研究所細胞情報研究部門 教授

要  旨
 近年のヒト腫瘍免疫学と免疫療法開発の進歩は,肺癌も含めて主要な癌に対する免疫療法の可能性を示している.肺癌でも多数の腫瘍抗原が同定され,免疫療法開発が最も進んでいる悪性黒色腫と同様な手法を用いた免疫療法が期待されている.最近の肺癌免疫療法の臨床試験では一部抗腫瘍効果が示されており,今後重要ポイントの改良により,肺癌においても免疫療法が集学的治療の一翼を担える可能性がある.

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殺細胞性抗癌剤
新しい薬物療法(ペメトレキセド)の動向

山根由紀*   後藤功一**
* 国立がんセンター東病院呼吸器内科   ** 同医長

要  旨
 ペメトレキセドは,複数の葉酸代謝酵素を同時に阻害することにより抗腫瘍効果を発揮する新規の代謝拮抗薬であり,悪性胸膜中皮腫と非小細胞肺癌に対して承認されている.ペメトレキセドは進行非小細胞肺癌に対する初回化学療法,二次化学療法,維持療法での有効性が第V相臨床試験で示されており,サブセット解析では扁平上皮癌と非扁平上皮癌で治療効果が異なり,非扁平上皮癌に有効な薬剤であることが報告されている.

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将来展望
肺癌個別化治療の将来展望

西條長宏*
* 近畿大学医学部腫瘍内科 特任教授

要  旨
 薬理遺伝学の進歩により,個別化治療の試みが具体化しつつある.肺癌の分野では EGFR 変異が治療効果予測因子と同定されたが,それ以外にも組織型やバイオマーカーに基づくさまざまな個別化の意義が検討されている.このような成果をべースに今後肺癌の治療戦略を論じるうえでの問題点を整理した.

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対談
血液および血液疾患を語る(第12回)
 遺伝子治療はどこまで進んでいるか


ゲスト  浅野 茂隆  先生(早稲田大学)
聞き手  齋藤 英彦 先生(名古屋セントラル病院)

 対談シリーズ「血液及び血液疾患を語る」は、司会を名古屋セントラル病院・齋藤英彦先生にお願いし、お招きするゲストの先生方にご自身の研究の内容や失敗談、成功談をお伺いしながら、本誌の対象読者である若手研究者へのアドバイスを頂き、日頃の臨床・研究活動に役立てていただくことを願って企画致しました。ゲストにはこの分野の基礎を築いて来られた方々、また現在も第一線で研究を続けておられる方々をお招きしています。
 第12回はゲストに早稲田大学教授・浅野 茂隆 先生をお迎えして「遺伝子治療はどこまで進んでいるか」をタイトルにお話をお伺いしました。
 G-CSF研究の大家である浅野先生は小学校4年生の時に既に医者になって血液の勉強をしようと志されていたそうです。
 東大第三内科に入局後、血液内科医として勤務される傍らで、浅野先生は白血病の白血球表面膜の研究を皮切りに次第に造血の分野へと研究対象を広げられました。
 そして顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)産生腫瘍を発見された事でオーストラリア留学を挟んでG-CSFの精製、G-CSFcDNAのクローニングと次々と大きな成果を上げられました。
 G-CSFの精製をされていた頃は本当に研究費がなくて苦労されたそうですが、熱意とアイディアで克服されたそうです。
 一方、白血病を治したいとの想いから、浅野先生は血球系を使った遺伝子治療をやろうと考えられました。
 ベクターや研究予算の問題などもあり順調とは言い難い分野であり現在も大変ご苦労されています。
 その他にもトランスレーショナルリサーチのお話や日本血液学会と臨床血液学会を統合されたお話、若い研究者へのアドバイスなどもお話頂きました。
 いずれも大変興味深いお話ばかりです。是非お読み下さい。


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