最新医学65巻4号 
特集 パーキンソン病 -最近の進歩-

要  旨


アプローチ
変貌する疾患概念と治療ガイドライン改訂版の取り組み

伊東秀文*   高橋良輔**

* 京都大学大学院医学研究科臨床神経学 講師    ** 同教授

要  旨
 パーキンソン病の疾患概念は,Braak 仮説やプリオン仮説の登場によって大きく変貌しつつある.パーキンソン病はα-synuclein が脳内に広範に蓄積する多系統変性疾患であり,精神症状や自律神経症状などの非運動症状を高頻度に合併する.患者の QOL には運動症状のみならず非運動症状が強く関与している.現在改訂中の治療ガイドラインは QOL の改善を重要視し,エビデンスに基づいた,独立性と透明性の高い手法を用いて作成されている.

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病因・病態の解明
パーキンソン病原因遺伝子研究の進展

今居 譲*

* 東北大学加齢医学研究所 准教授

要  旨
 複数のパーキンソン病原因遺伝子が同定され,それら遺伝子変異を導入したモデル生物による研究が急速に進んできた.その結果,遺伝子間の関係,病理経路においての位置づけが明らかになりつつある.現在までの知見から「タンパク質分解の異常」,「ミトコンドリアと酸化ストレス」というキーワードで結びつけられる共通の病理経路の存在が示唆されている.モデル生物によるさらなる研究が,効果的な治療法・予防法の開発を可能にする.

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病因・病態の解明
孤発性パーキンソン病のリスク遺伝子

戸田達史**  佐竹 渉*

* 神戸大学大学院医学研究科神経内科学/分子脳科学    ** 同教授

要  旨
 患者の 95% を占める孤発性パーキンソン病は多因子疾患である.孤発性パーキンソン病のリスク遺伝子を同定するため,ゲノムワイド関連解析を行い,パーキンソン病発症にかかわる2つの新しい遺伝子座 PARK16,BST1 を同定した.また,常染色体優性遺伝性パーキンソン病の原因遺伝子 SNCA,LRRK2 の孤発性パーキンソン病への関与を証明した.一方ゴーシェ病変異も,頻度は低いが発症への effect size が大きい rare variant として重要である.さらなる遺伝子の解明が期待される.

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病因・病態の解明
Braak 脳幹上行仮説の検証

村山繁雄**1 初田裕幸*1  足立 正*1 舟辺さやか*1  
杉山美紀子*1  齊籐祐子*2

*1 東京都健康長寿医療センター高齢者ブレインバンク   **1 同リーダー
*2 国立精神・神経センター臨床検査部病理・生化学検査室 医長

要  旨
 Braak のレビー小体病理脳幹上行仮説は,レビー小体病理の初期に迷走神経背側核と孤束核周囲が侵されることが,プリオン病の伝播経路と類似することを根拠としている.パーキンソン病の病因が,外部から腸管ないし扁桃より迷走・舌咽神経を逆行し,中枢神経系に到達する,α-synuclein プリオン説,神経回路網伝播説は極めて魅力的であるが,前提として多くの除外設定を設けており,高齢者ブレインバンク例には適用できない.

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注目される症候
運動症候の病態生理


中川朋一*1   木下真幸子*2   文室知之*1 高橋良輔***1  池田昭夫**1
*1 京都大学大学院医学研究科脳病態生理学講座臨床神経学
**1 同准教授 ***1 同教授
*2 国立病院機構宇多野病院神経内科

要  旨
 パーキンソン病には,振戦,固縮,無動,姿勢反射障害の4大症状がある.静止時振戦は古典的な症状であるが,随意運動で抑制される機構が注目され,また近年, Jankovic らが re-emergent tremor という状態を記載している.静止時振戦の起源は視床など大脳基底核ループ内に想定され,無動の原因は大脳基底核神経活動の過剰な同期化に由来する仮説も見られる.運動症候に対し,脳深部刺激療法(DBS)以外の非薬物治療も検討されている.

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注目される症候
治療上問題となる運動症状


岡本智子*   村田美穂**
* 国立精神・神経センター病院神経内科医長 ** 同科長

要  旨
 進行期パーキンソン病では,長期治療中に対応に苦慮するさまざまな運動症状が出現する.wearing-off 現象,no-on/delayed on 現象,on-off 現象といった運動症状の日内変動(motor fluctuation),ジスキネジア,すくみ足,腰曲がり(camptocormia)などの姿勢異常,嚥下障害などがある.それぞれの症状の抗パーキンソン病薬との関連を見極めることが治療の第1歩である.これらの運動症状への対応について述べる.

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注目される症候
最近注目される非運動症状

馬場 徹*   武田 篤**
* 東北大学大学院医学系研究科神経内科  ** 同准教授

要  旨
 パーキンソン病において嗅球は最も初期に病理変化が出現する部位の1つであるが,最近の病理研究の進歩により,扁桃体などの中枢の嗅覚伝導路でも早期から病理変化を認めることが明らかになってきた.これらの脳領域の機能障害により,パーキンソン病では特徴的な運動症状の出現以前から嗅覚障害や表情認知障害といった臨床症状を呈するものと考えられている.これらの非運動症状の把握は,パーキンソン病の発症前診断に応用できるものと期待される.

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注目される症候
ドパミン調節異常症候群



柏原健一*
* 岡山旭東病院神経内科 主任医長

要  旨
 ドパミン調節異常症候群は,パーキンソン病患者へのドパミン補充療法と関連して生じる行動障害である.L-ドーパへの必要量を超えた渇望とともに,病的賭博,性欲亢進などの衝動制御障害や常同的な動作の反復(punding)を呈する.危険因子には若年発症,男性,新奇性追求性格,ドパミンアゴニスト服用などが挙げられる.治療にはアゴニストの減量,中止が奏効することがある.危険因子を持つ患者では,予防のため早期から薬剤の選択や用量に配慮する.


診断と臨床評価の進歩
脳機能画像を用いた早期診断

澤本伸克*
* 京都大学大学院医学研究科附属高次脳機能総合研究センター

要  旨
 特発性パーキンソン病は,ドパミン神経伝達機能画像で特徴的な所見を示す.ドパミンシナプス前細胞神経終末は被殻尾側で早期から強く障害されるが,線条体吻側は進行期でも比較的保たれる.一方,ドパミンシナプス後細胞は早期には保たれている.ドパミン神経伝達機能画像は特発性パーキンソン病と他疾患との鑑別に役立てることができ,その臨床診断,特に早期診断の精度を高めることができる.

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診断と臨床評価の進歩
New MDS-UPDRS

近藤智善*
* 和歌山県立医科大学神経内科 教授

要  旨
 Movement Disorder Society-sponsored revision of the Unified Parkinson’s Disease Rating Scale(MDS-UPDRS)が 2008 年に発表された.このスケールは従来の UPDRS と比べて,非運動症状評価項目の増加など現在のパーキンソン病診療のニーズを満たすための改訂と,尺度使用に関する注意書が詳しく記載されるなどの改良が見られる.今後,普遍的な症状評価尺度になると考えられる.

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治療
パーキンソン病治療の動向

長谷川一子*
* 国立相模原病院神経内科 医長

要  旨
 近代のパーキンソン病治療の端緒となった L-ドーパ治療の開始から最近の動向まで触れた.パーキンソン病の治療は徒弟制様の経験則に基づいた治療法であったが,米国で 2001 年,アルゴリズムが発表されてから,ある程度の普遍性を持った治療法に変換した.今後もエビデンスが更新されていき,そのエビデンスによってシステムレビューや治療ガイドラインが改訂され,それに沿った治療法が実践されていくものと思われる.

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治療
定位脳手術の適応と限界

橋本隆男*
* 慈泉会相澤病院神経疾患研究センター センター長

要  旨
 定位脳手術には破壊術と刺激術とがあり,刺激術は両側手術の安全性が高く,刺激調節が可能である.視床手術は振戦に有効である.視床下核刺激術と淡蒼球内節手術はパーキンソン症状のすべての主要運動症状を改善させる.視床下核刺激術は淡蒼球内節手術と比較して,ジスキネジア以外は有効性が優れる傾向があり,術後の薬剤減量効果が高い.脚橋核刺激は歩行障害や平衡障害を改善させるが,有効性はまだ確立されていない.

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治療
パーキンソン病の遺伝子治療と再生医療の可能性

北村英二*   望月秀樹**
* 北里大学医学部神経内科学 ** 同教授

要  旨
 パーキンソン病は,アルツハイマー病に次いで2番目に多い神経変性疾患である.パーキンソン病の治療は対症療法が中心であり,病気の進行を遅らせ,停止させることができる治療法は確立していない.そのため神経細胞死を抑制し,治療に伴う運動合併症を軽減する治療法の開発が求められている.遺伝子治療や再生医療の分野では臨床治験を含めた活発な研究が行われており,パーキンソン病に対する新しい治療法として期待されている.

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治療
パーキンソン病における自律神経症状の治療

服部信孝*
* 順天堂大学医学部脳神経内科 教授

要  旨
 パーキンソン病の非運動症状は,自律神経症状,認知症,うつ,嗅覚異常,睡眠障害など多岐にわたっている.α-synuclein 染色によるレビー小体やレビー神経突起の分布により,病理学的変化も我々の予想以上に広がりを見せている.自律神経症状に関しては排尿障害,便秘の頻度は高い.また起立性低血圧,勃起機能不全も無視できない症状である.これらの症状は QOL に大きく影響を与えるので,充分コントロールすることが重要である.

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治療
パーキンソン病のリハビリテーション治療

林 明人*
* 順天堂大学医学部附属浦安病院リハビリテーション科 教授

要  旨
 リハビリテーション治療は,内科的かつ外科的な治療に加えて行うことで,症状だけでなく QOL の面からもさらなる改善が期待できる治療法である.患者本人自らが参加できるので,患者やその家族の関心が高く,患者の積極性を引き出すことにも繋がる.初期段階での stigma に対するケアが必要で,進行に伴うステージごとの治療目標や介入方法を適切に行う.外部リズム刺激など,音楽療法を取り入れたリハビリテーションが近年注目される.

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対談
血液および血液疾患を語る(第13回)
 マスト細胞を科学する


ゲスト  北村 幸彦 先生(塩野義製薬)
聞き手  齋藤 英彦 先生(名古屋セントラル病院)

 対談シリーズ「血液及び血液疾患を語る」は、司会を名古屋セントラル病院・齋藤英彦先生にお願いし、お招きするゲストの先生方にご自身の研究の内容や失敗談、成功談をお伺いしながら、本誌の対象読者である若手研究者へのアドバイスを頂き、日頃の臨床・研究活動に役立てていただくことを願って企画致しました。ゲストにはこの分野の基礎を築いて来られた方々、また現在も第一線で研究を続けておられる方々をお招きしています。
 第13回はゲストに塩野義製薬顧問・北村 幸彦 先生をお迎えして「マスト細胞を科学する」をタイトルにお話をお伺いしました。
 マスト細胞研究の権威である北村先生ですが病理学に進まれたのは当時のインターン抗争の影響があったそうです。
 北村先生が大阪大学病理学教室に入局された当時は教室に動物実験をしている人が居らず、動物の扱い方を塩野義製薬の研究所で学ばれに行かれたそうです。そして当時の塩野義の研究所で内分泌実験の手段として用いられていた「パラビオーゼ(マウスを2匹結合する実験手技)」に興味を持たれ、パラビオーゼ中毒(移植片対宿主反応)について詳しく調べられ、その血液所見や組織所見について論文をまとまられました。
 その後イギリス留学を経てマスト細胞の研究を進められる訳ですが、当初、マスト細胞はGVHR研究のマーカーとして利用する予定で特に興味があった訳ではなかったそうです。
 マスト細胞が骨髄由来であることを証明した実験やKIT、SCF(幹細胞因子)へと研究が発展していく過程についても詳しくお話頂きました。
 更にGIST(gastrointestinal stromal tumor:消化管間質腫瘍)にまつわるお話では日本では考えられないような国際シンポジウムについてもお話いただいています。
 また若い研究者に向けては「人と同じことをするのではなく、反対のことをするほうが成功のチャンスは大きい」とアドバイスを頂きました。
 いずれも大変興味深いお話ばかりです。是非お読み下さい。


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