最新医学65巻6号 
特集 血栓症 

要  旨


総説
日本人の血栓症

松原由美子*   村田 満**

* 慶應義塾大学医学部臨床検査医学 特別研究講師 ** 同教授

要  旨
 血栓症の発症や進展には多くの環境因子や遺伝的な因子が関与している.血栓症研究に対する国内外の関心の高さと研究技術の進歩に伴い,血栓症の遺伝的素因や抗血栓療法に対する反応性には個体差や民族差を有するものが存在することが分かってきた.これまで欧米人を対象に行われた血栓症の臨床研究結果をもとに日本の血栓症予防・治療ガイドラインが論じられてきたことが疑問視され,日本人でのエビデンスに基づいた血栓症の危険因子の解析や抗血栓療法の有用性に関する研究の重要性が唱えられている.

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種々の病態と血栓症:最近の進歩
深部静脈血栓症・肺血栓塞栓症

中村真潮*

* 三重大学大学院医学系研究科循環器・腎臓内科学 講師

要  旨
 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症は我が国でも少なくないことが明らかとなり,手術後の突然死や旅行者血栓症で注目を集め,まれな疾患から普通の疾患へと認識が変化してきた.予防ガイドラインなどの診療指針も公開され,「肺血栓塞栓症予防管理料」が保険収載されるに至っている.しかし,診断率はいまだに低く,日本人に関するエビデンスも非常に少ない.今後一層の啓蒙やエビデンスの集積を進め,その病態解明や診断治療の向上を図る必要がある.

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種々の病態と血栓症:最近の進歩
急性冠症候群

坂田飛鳥*   苅尾七臣**

* 自治医科大学循環器内科 ** 同教授

要  旨
 急性冠症候群における血栓形成は,粥腫破綻部での血小板活性化が引き金となる.ステント治療後は低用量アスピリンとチエノピリジン系薬を用いた2剤併用抗血小板療法により,ステント内血栓症を劇的に減少せしめることに成功している.しかしながら,抗血小板療法のみではステント内血栓症を完全に抑制するには至らず,一方では重篤な出血性合併症も引き起こしている.抗血小板療法下の病態を的確に反映するモニタリングの開発が期待される.

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種々の病態と血栓症:最近の進歩
メタボリックシンドロームと血栓症

山本晃士*

* 名古屋大学医学部附属病院輸血部 講師

要  旨
 メタボリックシンドロームの終末像として血栓症が発症する背景には,線溶阻害因子 PAI-1 の発現亢進が存在すると考えられる.PAI-1 は血管内皮細胞や脂肪細胞で産生,分泌されるが,インスリンやグルココルチコイド,アンジオテンシンUなどによってその発現は促進される.すなわち,肥満や糖尿病(インスリン抵抗性),高血圧や心因性ストレスによって増加する PAI-1 が,血栓症発症の引き金になると考えられる.

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種々の病態と血栓症:最近の進歩
悪性腫瘍と血栓症


窓岩清治*1*2
*1 自治医科大学分子病態治療研究センター分子病態研究部 講師
*2 自治医科大学附属病院血液科 講師

要  旨
 Trousseau A により潜伏がんに伴う移行性血栓性静脈炎が報告されて以来,がんと血栓症との関連性が注目されている.担がん患者における血栓症の発症には,臥床や腫瘍圧迫による血流うっ滞のみならず,腫瘍細胞の産生する凝固惹起物質や活性化白血球などから産生される炎症性サイトカイン,抗腫瘍薬や血管内留置カテーテルなどによる血管内皮障害などさまざまな因子が複雑に関与する.近年,がんの浸潤や転移にかかわる MET がん遺伝子が PAI-1 や COX-2 の発現誘導を介して血栓症の発症にかかわることや,血管内膜がん症に見られるように腫瘍細胞がアネキシン2の高発現などにより血栓形成反応から回避しながら発育・進展する病態など,がんと血栓症との関連が分子レベルで解き明かされつつある.悪性腫瘍を有する入院および周術期患者に対して,静脈血栓塞栓症の予防法に関してヘパリンや第 Xa 因子阻害薬などによる抗凝固療法が推奨されている.一方,外来患者における予防的抗凝固療法の適応は,化学療法施行中の多発性骨髄腫患者などに限定すべきであると思われる.

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種々の病態と血栓症:最近の進歩
骨髄増殖性疾患と血栓症


松下 正*
* 名古屋大学医学部附属病院輸血部 教授

要  旨
 血栓症は,多血症や本態性血小板血症ではしばしば予後を規定する重要な合併症となる.これらの疾患に発生する血栓症は微小血管塞栓症状,動脈血栓症,静脈血栓症などさまざまであり,またしばしば疾患の診断に先行して発現する.近年,骨髄増殖性疾患(MPD)に特異的な Janus kinase 2(JAK2)の変異,V617F が注目されており,MPD を合併した血栓症における位置づけが注目されている.

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種々の病態と血栓症:最近の進歩
抗リン脂質抗体症候群

渥美達也*
* 北海道大学大学院医学研究科内科学講座第二内科 准教授

要  旨
 抗リン脂質抗体症候群(APS)の血栓形成機序の研究は,当初は抗リン脂質抗体の対応抗原である β2−グリコプロテインIやプロトロンビンの機能解析と抗体によるその修飾が中心であった.しかし近年は,研究者の興味が抗原と抗リン脂質抗体による向血栓細胞活性化とその分子レベルでの解析へとシフトしてきた.補体活性化の重要性がそれに加わり,APS 患者が血栓傾向に至る多彩なメカニズムが次第に明らかになってきている.

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種々の病態と血栓症:最近の進歩
ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)



宮田茂樹*
* 国立循環器病研究センター臨床検査科輸血管理室 医長

要  旨
 抗凝固薬ヘパリンが皮肉にも凝固薬として作用し,出血ではなく血栓塞栓症を引き起こす病態が,ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)として近年急速に解明されてきた.ヘパリン投与が血小板第4因子(PF4)の構造変化を引き起こし,抗 PF4/ヘパリン抗体の産生を誘導する.その一部に強い血小板,血管内皮活性化能を持つもの(HIT 抗体)があり,トロンビン産生を誘導する.その結果,血小板減少,動静脈血栓症を高い頻度で誘発することとなる.


種々の病態と血栓症:最近の進歩
播種性血管内凝固症候群(DIC)

朝倉英策*1  林 朋恵*2
*1 金沢大学附属病院高密度無菌治療部 准教授 *2 同血液内科

要  旨
 DIC は,線溶抑制型,線溶亢進型,線溶均衡型に病型分類され,病態も多様である.治療としては,重要性の高い順に,基礎疾患治療,抗凝固療法,補充療法,抗線溶療法がある.病態に適した治療法を選択することが肝要である.抗凝固療法の治療薬としては,アンチトロンビン(AT)濃縮製剤とともに,近年開発された遺伝子組換えトロンボモデュリン製剤が期待されている.急性前骨髄球性白血病(APL)では,オールトランスレチノイン酸(ATRA)治療が DIC 治療を兼ねている.

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種々の病態と血栓症:最近の進歩
血栓性微小血管障害症(TMA)

松本雅則*
* 奈良県立医科大学輸血部 准教授

要  旨
 血栓性微小血管障害症(TMA)に含まれる代表的疾患として,血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)と溶血性尿毒症症候群(HUS)がある.この2つの疾患は,臨床的に区別することが困難な場合があるが,フォン・ビルブランド因子切断酵素(ADAMTS13)によって鑑別できるとの報告もある.現時点では,ADAMTS13 活性が著減する症例は TTP,病原性大腸菌 O157 感染に合併したものは HUS,それ以外は臨床症状をもとに診断するが,両者を区別せず TMA と診断するという考えもある.

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抗血小板薬:最新情報
抗血小板薬の最近の進歩

冨山佳昭*
* 大阪大学医学部附属病院輸血部 部長

要  旨
 動脈硬化と血栓症は互いに密接に関連して病態を形成しており,これらの病態は全身性疾患であるアテローム血栓症(atherothrombosis)として理解されている.血栓形成には,種々の接着タンパク質[フォン・ビルブランド因子(VWF),コラーゲンなど],血小板膜糖タンパク質(GPTb-\,αUbβ3 など)および血小板アゴニスト受容体(P2Y12,GPY,PAR1 など)が関与している.本稿では,血栓形成機構および新規抗血小板薬を中心にその作用機序を概説する.

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抗血栓薬:最新情報
注射・経口抗凝固薬

小嶋哲人*
* 名古屋大学医学部保健学科 教授

要  旨
 我が国では,高齢化社会を迎え,脳血管障害や心筋梗塞など血栓性疾患の治療や予防対策が非常に重要な課題である.古くから使われ,現在でも汎用される抗凝固薬にワルファリンとヘパリンがあるが,出血性副作用が問題となるため,一般にモニタリングのもとに使用される.現在,出血性副作用を低減し,安全かつ有効な抗凝固薬を目指したさまざまな薬剤開発が行われており,本稿では抗凝固薬の現況と新しい抗凝固薬の開発状況を概説する.

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抗血栓薬:最新情報
トロンボモデュリン

丸山征郎*
* 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科血管代謝病態解析学 教授

要  旨
 血管内皮細胞上のトロンボモデュリン(TM)は,閉鎖循環系内部を抗凝固,抗炎症に保つ膜タンパク質である.この遺伝子組み換え体(rTM)は基礎実験で優れた抗血栓作用,抗播種性血管内凝固(DIC)作用を持つことが証明されていたが,2008 年春に DIC の薬として認可され,3,000 例の全例調査も終了し,DPC にも採択された.これまでの臨床に使用されたデータでは,敗血症や腫瘍に伴った DIC に優れた効果を示すことが判明しつつある.現在,rTM の使用法(他の薬剤との併用)や使用のタイミングなどが模索されつつある.

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対談
血液および血液疾患を語る(第15回)
 中高年に多い骨髄異形成症候群


ゲスト  吉田 彌太郎 先生(医仁会武田総合病院)
聞き手  齋藤 英彦 先生(名古屋セントラル病院)

 対談シリーズ「血液及び血液疾患を語る」は、司会を名古屋セントラル病院・齋藤英彦先生にお願いし、お招きするゲストの先生方にご自身の研究の内容や失敗談、成功談をお伺いしながら、本誌の対象読者である若手研究者へのアドバイスを頂き、日頃の臨床・研究活動に役立てていただくことを願って企画致しました。ゲストにはこの分野の基礎を築いて来られた方々、また現在も第一線で研究を続けておられる方々をお招きしています。
 第15回はゲストに医仁会武田総合病院顧問・吉田 彌太郎 先生をお迎えして「中高年に多い骨髄異形成症候群」をタイトルにお話をお伺いしました。
 臨床講義で聴講したアイソトープを用いた赤血球の代謝研究に深い感銘を受けた吉田先生は大学院時代には巨赤芽球性貧血の研究を精力的に進められました。
 その後、大学院、カナダ留学を経て金沢医科大学に移られた頃には血液学研究の主軸がリンパ球へと移行しつつあり、金沢時代にはアイソトープを用いてB細胞の研究を進められてました。
 5年間金沢医大に在籍された後、京都大学に戻ってこられると、内野治久先生と骨髄異形成症候群(MDS)の研究を始められました。
 MDSの臨床症状から概念の変遷、分類について吉田先生にご説明頂きながら、「特発性造血障害班」として臨床研究を進められた当時のお話やMDSの病因、最新の治療法についても詳しくご紹介頂きました。
 この他にも日本血液学会誌の英文誌「International Journal of Hematology」の編集長を務められた頃の苦労話や若い研究者へ向けたアドバイスなども伺いました。
 いずれも大変興味深いお話ばかりです。是非お読み下さい。


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