最新医学65巻7号 
特集 神経変性疾患におけるTDP‐43 

要  旨


総説
前頭側頭葉変性症と筋萎縮性側索硬化症 ―TDP-43 が変えた疾患概念―

岡本幸市*

* 群馬大学大学院医学系研究科脳神経内科学 教授

要  旨
 前頭側頭葉変性症(FTLD)は,行動異常や言語機能異常が見られる非アルツハイマー型の変性疾患を指す臨床的概念であり,その背景病理は多彩である.その中で,ユビキチン陽性・タウ陰性の封入体を有する群は,FTLD-U と呼ばれてきた.FTLD-U と筋萎縮性側索硬化症(ALS)で見られるユビキチン陽性封入体の主な構成成分が TDP-43 からなることが明らかになり,FTLD-U と ALS とは同一線上にある multisystem disorder と理解されるようになっている.本稿では,FTLD の疾患概念,分類,ALS との関連などについて述べた.

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基礎
TDP-43 蓄積症の発見

長谷川成人*1  新井哲明*2

*1 東京都精神医学総合研究所分子神経生物学研究チームチームリーダー
*2 筑波大学大学院人間総合科学研究科

要  旨
 前頭側頭葉変性症(FTLD)のユビキチン陽性構造物の成分を同定するため,患者および対照脳不溶性画分のプロテオミクス解析を行った.患者脳の 25kD 付近に TDP-43 が頻度高く検出され,抗体による免疫染色とウエスタンブロット解析の結果,構成成分として同定された.TDP-43 は孤発性の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の特徴的構造物の成分であることも判明し,その後 ALS 患者に TDP-43 遺伝子の変異が発見されたことから,ALS 病態形成の中心分子となった.タウ,α-シヌクレインに次ぐ第3の神経変性関連タンパク質 TDP-43 が同定され,細胞内異常タンパク質を介した神経変性疾患の共通の分子機構の解明,治療法の開発が期待される.

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基礎
TDP-43 の生理機能

若林朋子*   岩坪 威**

* 東京大学大学院医学系研究科神経病理学分野助教 ** 同教授

要  旨
 TDP-43 は RNA 認識モチーフ(RRM)を有する RNA/DNA 結合タンパク質である.その生理機能として,DNA の転写制御,pre-mRNA のスプライシングの制御,mRNA の安定化,miRNA のプロセシングへの関与が報告されている.ノックアウトマウスは胚発生初期に致死となるが,ショウジョウバエもしくはゼブラフィッシュにおける TDP-43 の欠損は運動ニューロンの機能異常を示し,神経系で重要な機能を担っていることが示されている.

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基礎
細胞内 TDP-43 蓄積のメカニズム

野中 隆*   長谷川成人**

* 東京都精神医学総合研究所分子神経生物学研究チーム ** 同チームリーダー

要  旨
 神経変性疾患の発症に関与すると考えられるタウやα−シヌクレインに次ぐ細胞内のキープレーヤータンパク質として TDP-43 が同定され,注目を集めている.筆者らは,患者脳に蓄積する TDP-43 の特徴を培養細胞に再現させることにより,細胞内 TDP-43 蓄積モデルの構築に成功した.このモデルを用いることで,筋萎縮性側索硬化症や前頭側頭葉変性症などに対する新たな治療薬の開発が期待できる.

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基礎
TDP-43 タンパク質新規アイソフォームの同定と 35-kDa 封入体特性の検討


西本祥仁*   伊東大介**  鈴木則宏***
* 慶應義塾大学病院神経内科助教 ** 同講師 *** 同教授

要  旨
 我々は,アポトーシス条件下に加えて,非アポトーシス条件下においてもカスパーゼ3には依存せず下流開始コドンから翻訳されて,新規アイソフォーム(35-kDa と 25-kDa)が産生されていることを見いだした.また,35-kDa アイソフォームが stress granule と aggresome という2種類の封入体を形成することを確認し,TDP-43 タンパク質の RNA 調節因子としての新たな機能が示唆された.

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基礎
TDP-43 の異所性局在機構


漆谷 真*
* 滋賀医科大学分子神経科学研究センター神経難病治療学分野 准教授

要  旨
 TDP-43 は,それまで全く不明であった孤発性筋萎縮性側索硬化症(ALS)の細胞質内ユビキチン化封入体やスケイン様封入体の本体として,本邦と欧米の研究チームから同時に報告された核タンパク質である.ALS の病巣における TDP-43 の核染色性低下と細胞質への染色性の移行は極めて特徴的であり,その異所性局在と病態生理の関連について多くの研究がなされている.本稿では TDP-43 の異所性局在の分子機構とその病的意義について,我々の知見を交えて概説する.

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基礎
TDP-43 凝集体形成阻害化合物の検索

山下万貴子*   野中 隆*   長谷川成人**
* 東京都精神医学総合研究所分子神経生物学研究チーム ** 同チームリーダー

要  旨
 TDP-43 は,筋萎縮性側索硬化症および前頭側頭葉変性症などにおいて出現するタウ陰性ユビキチン陽性細胞内凝集体の主要構成成分として同定され,タウ,α−シヌクレインに次ぐ第3の細胞内異常蓄積タンパク質として注目されている.本稿では,TDP-43 蓄積を伴う各種神経変性疾患の新規治療薬開発を目指し,細胞モデルを用いた TDP-43 凝集体形成阻害化合物の検索を行った結果について簡単に紹介する.

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基礎
TDP-43 プロテイノパチーの動物モデル



永井義隆**  藤掛伸宏*
* 国立精神・神経医療研究センター神経研究所疾病研究第四部
** 同室長

要  旨
 近年,多くの神経変性疾患においてミスフォールドタンパク質の凝集・蓄積がかかわる共通の発症メカニズムが考えられるようになった.最近,タウ陰性の前頭側頭葉変性症(FTLD)と孤発性筋萎縮性側索硬化症(ALS)における凝集・蓄積タンパク質として TDP-43 が同定され,さらに TDP-43 の遺伝子変異が家族性 ALS の原因となることが明らかにされ,これらは TDP-43 プロテイノパチーと総称されている.そして,マウス,ラットのみならずショウジョウバエなど,さまざまな動物モデルが開発されつつあり,TDP-43 の異常が引き起こす神経変性メカニズムの解明,治療法開発を目指した研究が進行中である.


基礎
TDP-43 の神経病理

吉田眞理*
* 愛知医科大学加齢医科学研究所 教授

要  旨
 筋萎縮性側索硬化症の下位運動ニューロンの封入体および前頭側頭葉変性症の神経細胞内封入体は,タウやシヌクレインには陰性でユビキチンにのみ陽性を示し,その主要な構成タンパク質が TDP-43 であると同定されて,病理学的診断の指標となっている.TDP-43 陽性封入体は神経細胞の胞体,神経突起,核内,グリア細胞にも形成され,封入体の形態と臨床病理像にはサブグループが存在する.

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臨床応用
アルツハイマー病およびレビー小体型認知症におけるリン酸化 TDP-43

秋山治彦*1  新井哲明*2  長谷川成人*1
*1 東京都精神医学総合研究所チームリーダー
*2 筑波大学医学部精神医学教室

要  旨
 リン酸化 TDP-43 異常蓄積が,アルツハイマー病およびレビー小体型認知症の約 30〜50% に認められる.タウおよびα−シヌクレインの蓄積が高度な症例,海馬硬化を伴う症例に出現しやすいとされている.両疾患における TDP-43 異常蓄積の病理組織学的および生化学的特徴は,前頭側頭葉変性症における異常蓄積の type 3 に類似する.両疾患とも TDP-43 蓄積を伴う症例に特徴的な臨床像は見いだされていないが,高齢の患者が多いとの報告がある.

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臨床応用
グアム島の筋萎縮性側索硬化症(ALS)
―TDP-43 と神経原線維変化から見るパーキンソン認知症,古典型 ALS,前頭側頭葉変性症との異同―     

小蜷エ光*1*2 橋本智代*3  山崎峰雄*4
*1 信州大学医学部神経難病学講座(キッセイ薬品寄附講座) 教授
*2 東京都神経科学総合研究所運動・感覚システム研究分野
*3 東京ガス人事部安全健康・福利室 *4 日本医科大学神経内科 准教授

要  旨
 グアム島の ALS(G-ALS),パーキンソン認知症(PDC)と日本人孤発性 ALS,前頭側頭葉変性症,およびそれぞれ対照を神経原線維変化と異常 TDP-43 から比較した.G-ALS の神経原線維変化の数は PDC より少なく,グアム人対照と同様であった.異常 TDP-43 蓄積は,前頭葉と歯状回で前頭側頭葉変性症が PDC より著明で,G-ALS は日本人 ALS と同様であり,PDC とは局在が異なっていた.

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臨床応用
脳脊髄液および血液中の TDP-43 定量とその臨床的有用性

徳田隆彦**  笠井高士*   中川正法***
* 京都府立医科大学大学院医学研究科神経内科学 ** 同 講師 *** 同 教授

要  旨
 髄液および血液中の TDP-43 は,前頭側頭葉変性症および筋萎縮性側索硬化症(ALS)のバイオマーカーとして有用である可能性がある.我々は髄液中 TDP-43 の定量が可能な ELISA 系を開発し,ALS 患者,特に発症早期の患者では対照患者と比較して髄液中 TDP-43 濃度が有意に増加していることを世界で初めて報告した.ヒトの血液・髄液中の TDP-43 を定量した報告はまだ少数であり,TDP-43 のバイオマーカーとしての有用性を検証するためには今後さらに大規模な検討が必要である.

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臨床応用
家族性筋萎縮性側索硬化症と TDP-43

石原智彦*1*2 横関明男*1  西澤正豊**1
高橋 均*3  小野寺 理**2
*1 新潟大学脳研究所神経内科 **1 同教授 *2 同生命科学リソース研究センター **2 同准教授
*3 同病理学分野教授

要  旨
 筋萎縮性側索硬化症(ALS)の病態機序において,TDP-43 の異常が一義的な役割を果たすとされ注目されている.TDP-43 遺伝子変異を有する ALS は ALS-10 と分類され,その臨床・病理像は孤発性 ALS と全く同じである.近年見いだされた遺伝性に運動神経細胞死を引き起こす遺伝子群は,TDP-43 をはじめとして RNA 代謝に関与するという共通の機能を持つ.今後の ALS 研究では,これらの遺伝子異常による RNA 代謝障害が重要な意義を持つ.

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臨床応用
前頭側頭葉変性症と TDP-43

本井ゆみ子*   服部信孝**
* 順天堂大学医学部脳神経内科 准教授 ** 同主任教授

要  旨
 TDP-43 の遺伝子変異は約 30 の報告があるが,それはほとんど筋萎縮性側索硬化症であり,運動ニューロン症状を持たない前頭側頭葉変性症(FTLD)での報告は非常に少ない.一方,FTLD の原因遺伝子はタウとプログラニュリン(PGRN)遺伝子の頻度が高いが,PGRN 遺伝子異常を持つ FTLD には TDP-43 タンパク質の蓄積が見られる.PGRN の機能喪失が TDP-43 の代謝・修飾に影響を及ぼし,FTLD に寄与する機序が想定されている.

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対談
血液および血液疾患を語る(第16回)
 白血病を薬で治す


ゲスト  大野 竜三 先生(愛知県がんセンター)
聞き手  齋藤 英彦 先生(名古屋セントラル病院)

 対談シリーズ「血液及び血液疾患を語る」は、司会を名古屋セントラル病院・齋藤英彦先生にお願いし、お招きするゲストの先生方にご自身の研究の内容や失敗談、成功談をお伺いしながら、本誌の対象読者である若手研究者へのアドバイスを頂き、日頃の臨床・研究活動に役立てていただくことを願って企画致しました。ゲストにはこの分野の基礎を築いて来られた方々、また現在も第一線で研究を続けておられる方々をお招きしています。
 第16回はゲストに愛知県がんセンター名誉総長・大野 竜三 先生をお迎えして「白血病を薬で治す」をタイトルにお話をお伺いしました。
 医学部を卒業後、聖路加国際病院でインターンをされた大野先生は内科医長としてバリバリ仕事をされていた日野原重明先生(現理事長)の臨床家としての姿勢に大きな影響を受けられたそうです。
 またインターンを終わられ名古屋大学の大学院に入学された1965年頃は白血病に5年生存者がいること自体が大きな話題になる時代でもありました。
 その後、治療薬の開発とともに白血病の治療成績は良くなっていきますが、再発を抑える事はまだまだ難しく、大野先生も大変ご苦労され、マウスを用いてimmune RNA療法の研究を進める一方で、新しい薬剤を加えた化学療法(BHAC-DMP療法)も考案され治療成績の向上を図られました。
 この他にもJALSG(Japan Adult Leukemia Study Group)を立ち上げられた当時のお話や最近の分子標的療法などについても先生のお考えを伺いました。
 大野先生から若い先生方へのアドバイスも頂きました。
 いずれも大変興味深いお話ばかりです。是非お読み下さい。


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